放射性炭素年代測定
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放射性炭素年代測定(ほうしゃせいたんそねんだいそくてい、英: radiocarbon dating)とは、炭素の放射性同位体の一つである14Cの性質を利用して有機物を含む物体の年代測定を行う手法である。1940年代の後半にシカゴ大学のウィラード・リビーによって研究開発され、それによってリビーは1960年のノーベル化学賞を受賞した。日本語では炭素14法[1]、炭素年代測定法[2]、C14法[3]、C14年代測定法[4]とも言われる。
地球大気中に豊富に存在する窒素(14N)に宇宙線が作用することで14Cが恒常的に作られていることを利用した方法である。発生した14Cは大気中の酸素と結合して放射性二酸化炭素となり、光合成によって植物に取り込まれ、さらに植物を食べた動物に取り込まれる。個々の14Cはやがて放射性崩壊を起こして別の核種に変わるが、外部からの供給が続けば体内の14C量はある平衡値に落ち着くことになる。しかしそれらの動物や植物が死ぬと、環境との炭素交換が止まるため14Cは減る一方となる。すなわち、木切れや骨片など生体に由来する試料に含まれる14Cの量を測定すれば、元となった生物がいつ死んだかを知ることができる。14Cの半減期(ある核種について存在量の半数が崩壊するのにかかる時間)は約5730年であり、試料が古いほど検出すべき14Cの量は低下していくので、信頼性のある年代測定が行えるのは最大で約5万年前までに限られる。ただし特殊な試料調製法によってそれより古い年代を測定できる場合もある。
大気中での14Cの存在比は生体内14Cの量を決定づけるため、その値の変化を過去5000年にわたって調べる研究が1960年代から現在まで続いている。それを元にして較正曲線が作られ、試料の放射性炭素残存量から年代への換算を行う際に用いられている。ほかにも有機体の種類(分別効果(英語版))や生息域(リザーバー効果(英語版))の違いで14Cの存在比が異なることを考慮した較正も必要である。また、石炭や石油のような化石燃料の人為的利用も問題を複雑にしている。生体物質が化石燃料に変わるには長い時間がかかり、その間に元々含まれていた14Cは検出不可能なレベルに減少する。化石燃料の燃焼によって放出される二酸化炭素には14Cがほとんど含まれないことになる。このため大気中の14C存在比は19世紀末から顕著に低下し始めた。その逆に、1950年代から60年代にかけて行われた地上核実験は大気中の14Cを増加させた。この効果がピークを迎えた1965年ごろには14C量が核実験以前の2倍近くに上った。
当初、放射性炭素量の測定は試料中で14Cが崩壊するときに発生するベータ線をベータ線計数器で検出することで行われていた。近年ではより上位の手法として加速器質量分析(英語版)(AMS) がある。AMSでは測定中に崩壊を起こした数ではなく14Cの全数をカウントしているため、微小な試料(植物種子など)の分析が可能で、はるかに短い時間で結果が得られる。
放射性炭素年代測定の発展は考古学に甚大な影響を与えた。遺跡の年代決定が従来の方法より正確に行えるようになったのに加え、距離的に隔絶した出来事の年代を比較することも可能になった。考古学史でその影響はよく「放射性炭素革命」といわれる。最終氷期の終結や、地域ごとの新石器時代・青銅器時代の始まりなど、有史以前の重大な移行が起きた年代が放射性炭素年代測定によって決定されてきた。