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エンテ型は、主翼の前方に前翼(カナード)を持つ固定翼機の設計である。先尾翼機[1]あるいはカナード機とも言う。
エンテ (Ente) とはドイツ語で鴨のことで、鴨が飛ぶ姿に似ていることからこう呼ばれる。
ちなみに、前翼と通常の水平尾翼を共に持つ航空機は三翼機と言い、主翼が前後に2枚ある航空機はタンデム翼機と言う。エンテをフランス語に直訳したのがカナール (canard) で、これを英語読みしたのがカナードである。このようにエンテとカナードは同じ語源であるが、カナードは通常、(三翼機のものも含め)前翼自体を意味する。
固定翼機のピッチ(機首)の上下方向のバランスの取り方には、以下の方法がある。
このうち1.が一般的なのは理由がある。これは、風見安定を得るために、風圧を受ける中心(力点)が重心より後ろにあることが必要だからである。1.の方式であれば主翼・尾翼ともに重心より後方に位置する。それに対して4.の場合は、むしろ風圧中心が重心より前に位置するため、機体は極めて不安定となり、一般的ではない。
本項で解説しているエンテ型も、風圧中心は総合的に重心より後方である。ただし主翼は重心より後方だが水平尾翼が重心より前方となり、主翼・水平尾翼ともに重心より後方に位置する通常形式よりも安定性は低くなる(後述)。
また1.と5.の併用、つまり通常の水平尾翼とカナードの双方を持つ機体もある(三翼式)。あるいは2.と5.の併用、つまり主翼自体でバランスを取りながらカナードを付加する場合もある。
ただし、20世紀末以降カナードつきデルタ翼の場合は、前翼は揚力を発生しない、あるいは前翼の揚力によるバランスは副次的である場合が多い。これはデルタ翼は上記2の無尾翼機に適した翼形であり、無尾翼機にカナードを付加した場合が多いからである。また最近の趨勢である運動能力向上機 (CCV) の場合はピッチ方向の安定性を下げる設計を行っているため、カナードが発生する揚力を下げるか無くす(主翼の位置を重心に近づける)設計を行っているからである。このようにニュートラルな状態では揚力を生まず、主に姿勢制御に使われる前翼を制御カナードという。特に、元来はカナードを持たない設計の機体に、後から改設計でカナードを付加した場合、制御カナードとなるのは自明である。ただし、揚力や風圧中心は速度によって変化するため、あらゆる速度領域で揚力を生まない前翼は存在しない。つまり、制御カナードは揚力を得ることを主目的としているのではないだけであって、全く揚力を生まないというわけではないということである。それに対して従来の揚力を発生するカナードは、揚力カナードと呼ばれる。
制御カナードは、全体が昇降舵のように可動するオールフライング方式も多く、水平尾翼の代替というより、無尾翼機において主翼に取付けられるべき昇降舵を独立させたものとも言える。JAS39のように、カナードを地面に垂直に近く立てることによってエアブレーキを兼ねる設計のものもある。無尾翼機においての昇降舵は主翼の揚力を減じる効果があり、これが欠点のひとつとされるが、昇降舵を主翼から切り離す事でこの欠点が回避できる。
前尾翼・カナード翼は、上述の通り通常の水平尾翼を主翼の前方に配置したものである(揚力の向きは逆であるが)。一方、垂直尾翼は、エンテ型でも通常どおり機体尾部にあることが多い。もちろんこれは、ヨー方向の風見安定のためには、垂直尾翼は必ず重心よりも後方に配置すべきだからである。ただし、CCV実験機の中には、垂直尾翼に加えて重心の前にも垂直カナードを持つ機もある。サイドワインダー (ミサイル)やR-8 (ミサイル)等のミサイルは、航空力学的には垂直カナードを持つ(飛行姿勢によってはX字カナードの)エンテ型飛行機である。
エンテ型は飛行機の形態としてあまり一般的ではないものの、黎明期の航空機には前翼を持つ機体も多く、ライト兄弟のフライヤーは機首に小翼を持ち、サントス・デュモンの14bis型機 (en:Santos-Dumont 14-bis) にも前翼があった。
ジェット機時代の到来後には西ヨーロッパの戦闘機を中心としてカナード翼を持つ機体がいくつも開発されており、近年のホームビルト機では比較的普及している形態である。
エンテ型は胴体後部に水平尾翼を持った通常形式の航空機に比べると以下のような幾つかの利点と欠点がある。これらの一部はタンデム翼機とも共通している。
エンテ型の単発プロペラ機は推進式(プッシュ式)がほとんどである。これは重量配分によるもので機首にエンジンを乗せると重心が合わないからであり、エンテ型の利点を活かすためには牽引式(プル式)よりも推進式が有利だからである。
このためにエンテ型と推進式が混同されることがあるが、両者はもともと別概念であり、それに当てはまらない例として牽引式の双発機リベルーラ(en:Miles Libellula)、牽引式と推進式を折衷した方式(プッシュプル方式)のボイジャーなどがある。
1970年代以降、超音速ジェット戦闘機においてカナードは広く普及する。
その嚆矢となったのはスウェーデンのサーブ 37 ビゲン戦闘機である。それまでの超音速戦闘機に採用例が多かった無尾翼デルタ翼は、離着陸性能に劣るのが最大の欠点であった。尾翼つきデルタ翼とすればその短所は回避できるが、空気抵抗が小さく翼面積が大きく取れるという無尾翼デルタ翼形式のメリットも無くなる。そこでエンテ型の利点のひとつである、高迎え角での揚力増大効果が着目された。かなり小型のカナード翼であれば空気抵抗の増加は僅かで、それでもなお揚力増大効果が大きく、翼面積も無尾翼デルタ翼形式と同等に取れ、離着陸性能が大幅に改善された。
またエンテ型の安定性の低下という欠点は同時に運動性の向上をも意味し、戦闘機においてはメリットとなる。特にCCV技術の確立により、安定性を意識的に低下させても運動性を優先させるのが現代戦闘機(特に第4世代ジェット戦闘機以降)の趨勢となっている。かくて70年代以降の新型戦闘機はカナード機が全盛となった。
ただしサーブ 37 ビゲンは揚力カナードであるのに対し、それ以降の機体は制御カナードが中心である。また、サーブ 39 グリペンのように、着陸時にはカナードを急角度に立てることでエアブレーキとしての機能を持たせる機体もある。これらの機体は従来のエンテ型とは若干性格が異なるため、嚆矢となったビゲンも含めてエンテ型とは呼称せず、カナード付きデルタ翼、あるいはクロースカップルドデルタと呼称する場合が多い。
Su-27戦闘機の発展型であるSu-27M(Su-35)のように、通常の水平尾翼にさらにカナードを追加して運動性能を向上させた機体も多い。ただしSu-27のカナードは、大型の機首レーダーの重量を支えるためでもあり、もともとレーダーが軽いSu-30MK系の一部機種には備わっていない。さらに、2007年型式以降のSu-35であるSu-35BMおよびSu-35の実質上のロシア国内仕様であるSu-27SMでは改良によりレーダーが小型化したため、カナードが廃されている。
CCV技術の実験機においても通常の尾翼にさらにカナード翼を追加した形式が採用され、各国で研究が行われた。日本でも、結局は導入されなかったもののF-2戦闘機でもカナードが検討されており、コンピューター技術の進歩もあいまって、80年代~20世紀末にはカナード付きデルタ翼機が世界の主流となるかのように見えた。
しかし、21世紀以降に設計・製造される新型のマルチロール戦闘機では、運動性と同時に高度なステルス性も重視されるようになる。カナード翼(先尾翼)はバードストライク対策のために小型ながら強度を確保する必要があり、全金属製とすることが主流であるが、前縁部などに電波吸収材の内蔵が困難な全金属製の全遊動式カナードは、ステルス性を損なうとして避けられることがある。たとえば、米国のF-22戦闘機ではカナードも検討されたがステルス性が問題となり通常の水平尾翼が採用されるなど、アメリカ空軍では2015年現在、実用量産機としてはカナード翼を持った機体は運用されていない。逆に、中国において開発中で2011年に初飛行を実施したJ-20は、ステルス機であるがカナードを装備している。
狭義のエンテ型のほか、通常の尾翼を併せ持つタイプを含む。
プロペラ機 | ジェット機 | 無動力機 |
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