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日本の法律 ウィキペディアから
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(こようのぶんやにおけるだんじょのきんとうなきかいおよびたいぐうのかくほとうにかんするほうりつ、昭和47年法律第113号)は、男女の雇用の均等および待遇の確保等を目標とする日本の法律。1972年(昭和47年)に施行された「勤労婦人福祉法」が1986年(昭和61年)に題名を含めて改正され[1]、その後の何度かの改正を経て現在の題名となった。所管官庁は厚生労働省である。通称は男女雇用機会均等法(だんじょこようきかいきんとうほう)。
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
この法律は、法の下の平等を保障する日本国憲法の理念にのっとり雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るとともに、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することを目的とする(第1条)。この法律においては、労働者が性別により差別されることなく、また、女性労働者にあっては母性を尊重されつつ、充実した職業生活を営むことができるようにすることをその基本的理念とする(第2条)。そのために、事業主並びに国及び地方公共団体は、この基本的理念に従って、労働者の職業生活の充実が図られるように努めなければならない(第2条)。
国及び地方公共団体は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等について国民の関心と理解を深めるとともに、特に、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を妨げている諸要因の解消を図るため、必要な啓発活動を行うものとする(第3条)。厚生労働省では毎年6月を「男女雇用機会均等月間」と定め、職場において男女がともに能力を発揮できる社会の実現を目指して、男女雇用機会均等法等への社会一般の認識を深める機会としている[2]。
厚生労働大臣は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する施策の基本となるべき方針(男女雇用機会均等対策基本方針)を定めるものとされ(第4条1項)、現在、運営期間を2017年度からおおむね5年間とする「第3次男女雇用機会均等対策基本方針」が制定されている(平成29年厚生労働省告示第72号)。男女雇用機会均等対策基本方針は、男性労働者及び女性労働者のそれぞれの労働条件、意識及び就業の実態等を考慮して定められなければならず、厚生労働大臣は、男女雇用機会均等対策基本方針を定めるに当たっては、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴くほか、都道府県知事の意見を求めるものとする(第4条3項、4項)。
男女の雇用機会の均等については、本法が制定される以前から裁判所による政策形成によって「どのようなケースが男女の雇用機会均等に反するか」といった体系ができあがっていて[注 1]、本法は、施行当時はこの裁判所が作り上げた体系を越える内容は盛り込まれなかった。例えば、裁判所は定年、解雇に対しては積極的に新たな判断基準を示していった一方で、採用などの男女間の差に対しては、特にアプローチをしていなかったが、本法も定年や解雇については男女間の差別を禁止する一方で、採用などで努力規定しか盛り込んでいない[3]。
厚生労働大臣は、第5条~第7条及び第9条1項~3項の規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するために必要な指針を定めるものとする(第10条1項)。現在「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(平成18年厚生労働省告示第614号)が告示されている。厚生労働大臣は、指針を定めるに当たっては、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴くものとする(第10条2項)。
事業主は、労働者の募集・採用、配置・昇進・降格・教育訓練、福利厚生、職種・雇用形態の変更、退職の勧奨・定年・解雇・労働契約の更新について、性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない(第5条、第6条)。指針によれば、たとえば、募集・採用において以下のような措置は違法となる[4]。
事業主は、以下の措置については、当該業務の遂行上特に必要である場合、事業の運営の状況に照らして当該措置の実施が雇用管理上特に必要である場合その他の合理的な理由がある場合でなければ、これを講じてはならない(間接差別の禁止、第7条、施行規則第2条)。なお、本法で法違反として指導の対象となる間接差別はこの3例に限られ、争いのあるすべての事例が指導の対象となるわけではないが、これら以外の措置が一般法理としての間接差別法理の対象にならないとしたものではなく、司法判断において、民法等の適用に当たり間接差別法理に照らして違法と判断されることはあり得るものである(平成18年10月11日雇児発1011第2号)。
第5条、第6条、第7条にあたる差別的取り扱いについては不利に取扱う場合だけでなく有利に取扱う場合も含むが、事業主が、職場における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置(ポジティブ・アクション)を講ずることは認められる(第8条)。
事業主は、本法に定める措置等並びに職場における男女の均等な機会及び待遇の確保が図られるようにするために講ずべきその他の措置の適切かつ有効な実施を図るための業務を担当する者(男女雇用機会均等推進者)を選任するように努めなければならない(第13条の2)。事業主は、この業務を遂行するために必要な知識及び経験を有していると認められる者のうちから当該業務を自己の判断に基づき責任をもって行える地位にある者を、1企業につき1人、自主的に男女雇用機会均等推進者として選任するものとする(施行規則第2条の5、令和2年2月10日雇均発0210第2号)。従来、ポジティブ・アクションの推進を図るため、人事労務管理の方針の決定に携わる者を「機会均等推進責任者」として選任するよう行政指導が行われてきたが(平成12年5月31日女発175号)、令和2年6月の改正法施行により法本則に位置づけられた。男女雇用機会均等推進責任者の職務は以下の通りである(令和2年2月10日雇均発0210第2号)。
ただし、下記に掲げる場合において、募集、採用、配置、昇進において掲げる措置を講ずることは、性別にかかわりなく均等な機会を与えていない、又は性別を理由とする差別的取扱いをしているとは解されず、第5条及び第6条の規定に違反することとはならない。
事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならず、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない(第9条1項、2項)。また事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法上の産前産後休業を請求し、又は産前産後休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない(第9条3項)。第9条3項は強行規定であるので、これに違反する行為は無効となる(広島中央保健生協事件、最判平成26年10月23日)。なお、「厚生労働省令で定めるもの」としては、以下の通り挙げられている(施行規則第2条の2)。
妊娠・出産等の事由を契機として不利益取扱いが行われた場合は、原則として妊娠・出産等を理由として不利益取扱いがなされたと解される(平成27年1月23日雇児発0123第1号)。「契機として」とは、「時間的に近接して(原則として、妊娠・出産・育休等の事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合)当該不利益取扱いが行われたか否かをもって判断すること」とされる。事由の終了から1年を超えている場合であっても、実施時期が事前に決まっている、又はある程度定期的になされる措置(人事異動(不利益な配置変更等)、人事考課(不利益な評価や降格等)、雇い止め(契約更新がされない)など)については、事由の終了後の最初のタイミングまでの間に不利益取扱いがなされた場合は「契機として」いると判断される。平成29年1月1日より、これらの不利益取扱いがあったことにより離職した者は、雇用保険の基本手当の受給に際して「特定受給資格者」として扱われ、一般の受給資格者よりも所定給付日数が多くなる。
妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は無効となる(第9条4項)。すなわち、妊娠中及び出産後1年以内に行われた解雇を、裁判で争うまでもなく無効にするとともに、解雇が妊娠、出産等を理由とするものではないことについての証明責任を事業主に負わせる効果がある。このような解雇がなされた場合には、事業主が当該解雇が妊娠・出産等を理由とする解雇ではないことを証明しない限り無効となり、労働契約が存続することとなるものである(平成18年10月11日雇児発1011第2号)。
事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない(セクハラ防止措置、第11条)。セクハラは異性に対してのみならず、同性に対するものも含まれる。
事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者の妊娠・出産等に関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない(マタハラ防止措置、第11条の2)。平成29年1月よりマタハラについてもセクハラと同様の雇用管理上の措置が求められることっとなった。
事業主がこれらの事実を把握しながら必要な措置を講じなかったために離職した者は、基本手当の受給に際して「特定受給資格者」として扱われ、一般の受給資格者よりも所定給付日数が多くなる。厚生労働大臣は、これらの規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定めるものとする。
これらの措置の対象となるのは、正社員のみならず契約社員・パートタイム労働者等の非正規労働者を含むすべての労働者とされる。また派遣労働者に対する適用については、派遣元・派遣先双方を事業主とみなすこととされる(派遣元のみならず派遣先も事業主としての責任を負う)。
事業主は、その雇用する女性労働者が母子保健法上の保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない(第12条)。
事業主は、その雇用する女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない(第13条1項)。厚生労働大臣は、この規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定めるものとし(第13条2項)、現在「妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることかできるようにするために事業主か講ずべき措置に関する指針」(平成9年労働省告示第105号)が告示されている。厚生労働大臣は、指針を定めるに当たっては、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴くものとする(第13条3項)。
母性健康管理指導事項連絡カードは、多くの母子手帳にその様式が記載され、医師が病名や必要な対応策を記し、従業員が署名して事業主に提出する。事業主は記載された事項を守るよう求められるが、実際には「(カードの存在が)妊婦、企業双方に十分に知られていない。医療用語が多く、企業の担当者は困惑しているのでは」「(カードの)法律上の根拠を明確にして普及させていかないと、妊婦を守る仕組みがうまく機能しない」[5]として、カードの周知がなされていないことが問題となっている。
厚生労働大臣(厚生労働大臣が全国的に重要であると認めた事案に係るものを除き、事業主の事業場の所在地を管轄する都道府県労働局長に権限委任)は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告を行い(第29条、規則第14条)、勧告を受けた事業者が「募集及び採用(第5条)、配置、昇進、降格及び教育訓練(第6条1号)、福利厚生(第6条2号)、退職勧奨、定年、解雇及び労働契約の更新(第6条3号)、性別以外の事由を要件とする措置(第7条)における差別的取扱い禁止項目」に違反した、または「セクハラ防止措置(第11条)、マタハラ防止措置(第11条の2)、妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(第12条、第13条1項)」を怠ったことによる勧告に従わなかった場合は、その旨を公表することができる(第30条)。第29条の報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、20万円以下の過料に処する(第33条)。これらが違反者に対する実質上の社会的制裁として、一定の拘束力は有しているとされる。第30条に基づく公表としては2015年(平成27年)に1件の公表事案がある[6]。
厚生労働省「平成29年度都道府県労働局雇用均等室での法施行状況」によれば、第29条に基づき雇用管理の実態把握を行った事業所は8,222事業所。そのうち、何らかの男女雇用機会均等法違反が確認されたのが6,912事業所(84.1%)であり、これに対し、14,595件の是正指導を実施している。指導事項は、「妊娠・出産等に関するハラスメント」(第11条の2関係)が5,764件(39.5%)と最も多く、次いで「セクシュアルハラスメント」(第11条関係)の4,458 件(30.5%)、「母性健康管理」(第12条、第13条関係)に関する指導が4,248件(29.1%)となっている。
年月日は、施行日。
元は1972年に「勤労婦人福祉法」として制定・施行されたが、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(女子差別撤廃条約)批准のため、1985年の改正により「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」となる。同時に、労働基準法も妊産婦などの育児時間や出産前後の休みの規定など65条以下があわせて改正された(労働基準法第6章の2)。当時の労働法制では賃金についてのみ男女差別を禁じていた(労働基準法第4条)ので、新たな立法が必要となった。
この法律は当時の国会が男女の差別を無くすために制定したというよりは、女子差別撤廃条約によって1985年(これは、「女性の10年」の最後の年に当たる)までに法律を整備する必要に迫られていたため、制定した、という意見がある[3]。とはいえ、まずは女性に対する包括的な差別禁止を宣言した立法としての意義を持っている。
1999年4月1日の改正により、募集・採用、配置・昇進、教育訓練、福利厚生、定年・退職・解雇において、男女差をつけることが禁止された。制定当初、募集・採用、配置・昇進については「努力目標」とするにとどまっていたが、この改正で禁止規定とした。
また、労働基準法の改正(1997年)とも連動するが、女性に対する深夜労働・残業や休日労働の制限(女子保護規定)が撤廃されている。この改正以降、主なものに鉄道(列車)と路線バスの乗務員・工事業者のトラック運転手など、深夜勤務が必然的に伴う職業への女性の就業が増加している。
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