Mi-8(ミル8;ロシア語: Ми-8ミー・ヴォースィェミ)は、ソビエト連邦のミル設計局で開発されたヘリコプターである。北大西洋条約機構(NATO)の使用したNATOコードネームでは「ヒップ」(Hip)と呼ばれた。
1961年にMi-4を改造した原型機が初飛行した。
単純で頑丈な構造と汎用性の高さが特徴で、軍用、民間含めて12,000機以上が生産されている。ロシア国内のメーカーでMi-38やKa-60などといった後継機が開発された現在も製造・販売が行われており、旧東側諸国、アフリカ諸国だけでなくドイツの警察、アメリカの航空会社でも使用され、コミューター機としての使用や個人、企業の所有機も存在する。
軍用型は特に旧共産圏やアフリカ諸国に輸出され、第一線機として使用されている。
日本では朝日航洋が特注の改装仕様であるMi-8PAを一機(登録番号:JA9549)を購入、重量物の空輸や木材搬出のために使用したが、設計基準の違いで旅客輸送は認可されていなかった(機内に座席は設置されていた)。この機体は10年間の飛行中、機材上の不具合がほとんどなく、この間の整備費は1時間あたりに換算して500円という安さで機外の騒音に対する苦情も少なかった。この機体は引退後、所沢航空発祥記念館に寄贈されている[1]。
2020年10月2日、ロシアのMi-8が、知床岬冲を領空侵犯した[2]。航空自衛隊の戦闘機がスクランブルし、機体には医療・保健機関を示す赤色の十字が施されていた[2]。
Mi-8T後方扉座席のアップ
座席やや右上に見えるハッチにはドイツ語で「非常出口」と標示されている
試作機
- V-8 ヒップA
- Mi-4を改造した原型機。1961年6月24日に初飛行。動力源はAI-24Vガスタービンエンジンを1基搭載。
- B-8A/Mi-8 ヒップB
- TV2-117ガスタービンエンジンを2基に増設した試作機。
- V-8AT
- 試作3号機。
- V-8AP
- 試作4号機。
- Mi-8TG
- LPGで稼働するエンジンを搭載した試作機。
量産機
軍用型
- Mi-8T ヒップC
- 軍用輸送型。キャビンに兵士を多数搭乗できるほか、パイロンにUV-16-57無誘導ロケットポッドを合計4基、機体側面にPK機関銃を1ないし2挺装備可能。ロシア(旧ソ連)以外にもポーランド、ルーマニア、ハンガリー、メキシコ、チェコ、ボスニア、フィンランド、エストニア、ユーゴスラビア、シエラレオネ、アゼルバイジャン、セルビア、アルバニア、インド、リトアニア、スーダン、ウクライナ、ボスニア、カンボジア、ラオス、モンゴル、ブルガリア、クロアチア、東ドイツ、イラク,
- ペルー、モンテネグロ、中国、リビアでも運用された。
- Mi-8TS
- シリア空軍向けのMi-8Tで乾燥した気象条件でも運用可能。
- Mi-8TV ヒップC
- Mi-8Tの後期生産型。9M14マリュートカ対戦車ミサイル発射器4基、12.7mm機関銃、AT-2を装備。操縦席とエンジンなどを装甲で覆ったもの。初期はMi-8TBと呼ばれていた。ロシア以外にもキューバで運用。
- Mi-8TVK ヒップE
- ガンシップまたは直接支援型機体。ハードポイントが6基に増え、機首にKV-4・12.7 mm旋回機関銃、両側にUV-32-57ロケット弾ポッド 6 基(57mm S-5ロケット弾装備)、250kg爆弾、AT-2スワッターATGM発射器4 基を装備可能。旧称Mi-8TB。ロシア、東ドイツ、エストニア、ペルー、キューバ、ボスニアで運用された。
- Mi-8TBK ヒップF
- 東ドイツ向けのTVK型。9M14マリュートカ対戦車ミサイル発射器6基を装備可能。
- Mi-8IV ヒップG
- 機上アンテナと尾部のドップラーレーダーが特徴のイヴォルガシステムを装備した空挺指揮型。ロシア軍で運用。
- Mi-8PPA ヒップK
- 無線通信妨害装置であるポーレシステムを備えた攪乱型。1980 年からアカーツィヤシステムが搭載された。機体後部の両側に 6 つの「X」字型アンテナを搭載。戦闘時は兵員輸送型を護衛し、敵の対空自走砲のレーダーを妨害する。導入当初はMi-8PPと呼ばれていた。ロシアとウクライナ、スロバキア、ベラルーシ、チェコで運用。
- Mi-8PD
- ポーランド軍向けの空中指揮型。
- Mi-8SMV ヒップJ
- 「スマルタV」システムを搭載した無線通信妨害型。機体の両側に装置の収納箱を搭載しており、敵の防空手段から味方の地上攻撃機を保護するために使用。ロシアとベラルーシで運用された。
- Mi-8VKP ヒップD
- 両脇に長方形にされた通信装置のキャニスターと、胴体後部にフレーム型アンテナを装備した空中通信型。別の名称はMi-8VzPU。ロシア、ウクライナ、東ドイツで運用。
- Mi-8AD
- VSM-1ディスペンサー4基を装備した地雷敷設型。
- Mi-8AV
- VMP-1またはVMP-2地雷敷設機を搭載した型式。64発~200発まで敷設可能。
- Mi-8BT
- 地雷処理型。
- Mi-8MBビセクトリサ
- 負傷者輸送用。
- Mi-8R
- Grebeshok-5エリントシステムを搭載した戦術偵察型。一部からはMi-8GRとも呼ばれている。
- Mi-8K
- 砲兵観測または偵察型。
- Mi-8SMT
- R-832無線機とR-111無線機を装備した指揮所輸送型だが試作で終わった。
- Mi-8SKA
- 写真偵察型。
- Mi-8SP
- 宇宙船の追跡並びに搭乗員を回収する特殊用途型。
- Mi-8T(K)
- Mi-8Tを元にした写真偵察型。
- Mi-8TZ
- 燃料輸送型。
- Mi-8MTYu
- 1機製造されたウクライナ空軍向けの特殊任務型。地上に帰還した宇宙船などの小さな地上目標を捜索するために、機首にレーダーを装備。
- Mi-8MTO
- 夜間任務型。
- Mi-8MTKO
- 暗視装置と照明装置を装備した型式。
- Mi-8VZPU/VPK
- 空中指揮通信機。
- Mi-8SMV ヒップJ
- 電子戦機。胴体両側面に大型アンテナを搭載。センサー類も追加装備している。
- Mi-8PPA ヒップK
- 電子戦機。SMVの輸出用。
- Mi-8PD
- 空中指揮管制機。ポーランドが運用。
- Mi-8MB
- 救急救難仕様機で負傷者の輸送可能。ロシア国内で運用。
- Mi-8-8AMTSh
- 夜間攻撃機。9M120 アターカV(英語版)を装備している。
- Mi-8MSB(ウクライナ語版、ロシア語版)(Мі-8МСБ)
- ウクライナのモトール・シーチが開発した改良型。エンジンはMi-8MT/Mi-17と同じ系列のTV3-117VMA-SB1MV 4Eを搭載しているが、テイルローターはそれ以前のMi-8系列機と同様に右舷側に配置されている。
民間向け
- Mi-8TL
- 森林火災用の消防ヘリコプター型。
- Mi-8MA
- 極地調査機
- Mi-8MTV
- MT型の民間向け。与圧式客室を採用。輸出用はMi-17M/Vと呼ばれる。
- Mi-8MSB
- 民間航空向けに製造された旅客輸送型。
- Mi-8P
- 民間向け。貨物・旅客輸送用。客室用に正方形の窓を設けて最大32人の乗客を輸送可能。後部クラムシェルドアの合わせ目にランプドアを追加。2 基の 1,700 馬力 (1,300 kW) クリモフ TV2-117A ターボシャフト エンジンを搭載。
- Mi-8Sサロン
- 旅客、VIP輸送用で9~11名の座席と調理場、トイレを装備している。
- Mi-8MPS
- マレーシアの消防救難局で運用されている捜索救難機型。
- Mi-8MA
- 北極などの極地探査用。
- Mi-8MTフライングクレーン
- 重量物クレーンを装備した吊り上げ用。
- Mi-8AT ヒップC
- TV2-117AGターボシャフトエンジンを搭載した民間輸送用。
- Mi-8ATS
- ホッパーと散布装置を装備した農作業向け。
- Mi-8TL
- 航空事故調査型。
- Mi-8TM
- 気象レーダーを装備した民間輸送型。
- Mi-8TS
- 熱帯や沙漠地帯での運用を想定した輸送型。
- Mi-8VIP
- 宿泊施設を搭載したVIP輸送型。
- Mi-8PA
- 日本の朝日航空が運用した、日本国内規制に適合する型式。1機のみが作られた。
- 初飛行:1961年
- 主回転翼直径:21.29m
- 全長:18.17m
- 全幅:5.65m
- 全高:5.65m
- 自重:7,260kg
- 通常離陸重量:9,800kg
- 最大離陸重量:10,800kg
- 発動機:クリーモフTV2-117A(ロシア語版)ターボシャフト×2
- 出力:1,700hp×2
- 超過禁止速度:260km/h
- 巡航速度:180km/h
- 航続距離:445-500km
- 上昇率:549m/min
- 実用上昇限度:4,500m
- 乗員:2名
- 武装:(軍用型のみ)
出典
The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2023-02-15) (英語). The Military Balance 2023. Routledge. p. 181. ISBN 978-1-032-50895-5
The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2023-02-15) (英語). The Military Balance 2023. Routledge. p. 199. ISBN 978-1-032-50895-5
The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2023-02-15) (英語). The Military Balance 2023. Routledge. p. 182. ISBN 978-1-032-50895-5