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サイクリンD1
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サイクリンD1(英: cyclin D1)は、ヒトではCCND1遺伝子にコードされるタンパク質である[5][6]。
→「サイクリンD」も参照
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遺伝子発現
CCND1遺伝子はサイクリンD1タンパク質をコードする。ヒトのCCND1遺伝子は11番染色体の長腕(バンド11q13)に位置する。長さは13,388塩基対であり、295アミノ酸からなるタンパク質へと翻訳される[7]。ヒトの成体では、サイクリンD1は骨髄幹細胞に由来する細胞(リンパ球や骨髄など)を除く全ての組織で発現している[8][9]。
タンパク質構造
サイクリンD1は次に挙げるドメインやモチーフが含まれる[10][11]。
- Rbタンパク質(pRb)結合モチーフ
- サイクリン依存性キナーゼ(CDK)とCDK阻害因子が結合するサイクリンボックスドメイン
- コアクチベーターをリクルートするLxxLL結合モチーフ
- タンパク質分解のための標識が付加されるPEST配列
- 核外輸送とタンパク質安定性を制御するスレオニン残基(Thr286)
機能
要約
視点
CCND1遺伝子にコードされるサイクリンD1タンパク質は、サイクリンファミリーと呼ばれる高度に保存されたタンパク質ファミリーに属する。このファミリーのメンバーは、細胞周期を通じてタンパク質の存在量に劇的かつ周期的な変化が生じることで特徴づけられる。サイクリンはサイクリン依存性キナーゼ(CDK)の調節因子として機能する。さまざまなサイクリンはそれぞれ異なる発現と分解のパターンを示し、有糸分裂の各イベントの時間的調整に寄与する。サイクリンD1はCDK4またはCDK6と複合体を形成し、これらの調節サブユニットとして機能する。CDK4やCDK6の活性は、G1期からS期への移行に必要である。サイクリンD1はがん抑制タンパク質Rbと相互作用することが示されており、サイクリンD1の発現はRbによる正の調節を受ける。CCND1遺伝子の変異、増幅、過剰発現は細胞周期の進行に影響を与え、さまざまな腫瘍で高頻度で観察されるため、腫瘍形成に寄与している可能性がある[12]。

抗サイクリンD1抗体による免疫染色はマントル細胞リンパ腫の診断に利用される。
サイクリンD1は乳癌で過剰発現していることが判明しており、バイオマーカーとしての利用の可能性が提案されている[13]。
正常な機能
サイクリンD1は副甲状腺腺腫で切断再構成が生じている遺伝子としてクローニングされ[14]、細胞遊走[15]、血管新生[16]、ワールブルク効果を誘導することが示された[17]。サイクリンD1は、細胞周期のG1期の進行に必要なタンパク質である[18]。サイクリンD1はG1期に迅速に合成されて核内に蓄積し、細胞がS期へ移行すると分解される[18]。サイクリンD1はサイクリン依存性キナーゼCDK4とCDK6の調節サブユニットである。サイクリンD1はCDK4/6と二量体を形成し、G1/S期の移行を調節する。
CDK依存的な機能
サイクリンD1-CDK4複合体は、pRbを阻害することでG1期の進行を促進する[19]。サイクリンD1-CDK4はpRBをリン酸化によって阻害し、S期への移行に必要な遺伝子のE2F転写因子による転写を可能にする。pRbの不活性化は細胞周期のG1/S期の移行とDNA合成を可能にする。また、サイクリンD1-CDK4は、Cip/KipファミリーのCDK阻害因子p21とp27を隔離することでサイクリンE-CDK2複合体を活性化することでも、S期への移行を可能にする[20]。
サイクリンD1-CDK4はいくつかの転写因子や転写コレギュレーターとも結合する[10]。
CDK非依存的な機能
サイクリンD1はCDKとは無関係に核内受容体(エストロゲン受容体α[21]、甲状腺ホルモン受容体、PPARγ[22][23]、アンドロゲン受容体[24]など)と結合して細胞の増殖、成長、分化を調節する。また、サイクリンD1はG1期の序盤から中盤にかけてヒストンアセチルトランスフェラーゼやヒストンデアセチラーゼにも結合し、細胞の増殖と分化に関係する遺伝子を調節する[24][25][26][27]。
合成と分解
G1期におけるサイクリンD1レベルの上昇は、分裂促進性成長因子によって主にRasを介した経路で[28][29][30][31]、またホルモンによっても誘導される[25]。Rasを介した経路はサイクリンD1の転写を増加させ、タンパク質分解と核外搬出を抑制する[32]。サイクリンD1は、G1期の終わりにCRL4-Ambra1 E3ユビキチンリガーゼを介して分解される。サイクリンD1のスレオニン残基T286がリン酸化されるとCRL4-Ambra1の基質受容サブユニットであるAmbra1が結合し、サイクリンD1のユビキチン化が促進されてプロテアソームによる分解が行われる[33]。
臨床的意義
要約
視点
がんにおける調節異常
サイクリンD1の過剰発現はがんの早期発症や腫瘍の進行と相関することが示されており[20]、足場非依存性増殖やVEGF産生を介した血管新生を増加させることで発がんをもたらす[34]。また、サイクリンD1の過剰発現はFasの発現をダウンレギュレーションし、化学療法抵抗性の増大とアポトーシスからの保護をもたらす[34]。
サイクリンD1レベルの上昇は、さまざまなタイプの調節異常によって引き起こされる。
- CCND1遺伝子の増幅/サイクリンD1の過剰発現
- CCND1遺伝子の染色体転座
- CRL4-Ambra1によって認識される分解モチーフの変異
- サイクリンD1の核外輸送やタンパク質分解の異常[35][36]
- 発がん性因子Ras、Src、ErbB2、STATによる転写誘導[37][38][39][40]
サイクリンD1の過剰発現は、がん患者の生存期間の短さや転移の増加と相関している[41][42]。CCND1遺伝子の増幅は次のような頻度でみられる。
- 非小細胞性肺癌(30–46%) [43][44]
- 頭頸部扁平上皮癌(30–50%) [45][46][47]
- 膵癌(25%)[48]
- 膀胱癌(15%) [49]
- 下垂体腺腫(49–54%) [50][51]
- 乳癌(13%)[52][53][54]
サイクリンD1の過剰発現はER陽性乳癌と強く相関しており[54]、サイクリンD1の調節異常は乳癌のホルモン療法抵抗性と関係している[33][55][56]。サイクリンD1bアイソフォームの過剰発現は乳癌と前立腺癌でみられる[11]。
サイクリンD1の遺伝子座周辺での染色体転座は、マントル細胞リンパ腫で高頻度でみられる。マントル細胞リンパ腫では、サイクリンD1の遺伝子はIgHプロモーターの制御下に転座し[57]、サイクリンD1の過剰発現がもたらされる。サイクリンD1の遺伝子座の転座は、多発性骨髄腫の15–20%でも観察される[58][59]。
がんの治療標的
サイクリンD1とその調節機構は、抗がん剤の治療標的としての可能性がある。
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相互作用
サイクリンD1は次に挙げる因子と相互作用することが示されている。
出典
関連文献
関連項目
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