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トレボウクシア藻綱

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トレボウクシア藻綱
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トレボウクシア藻綱[1][2](トレボウクシアそうこう)またはトレボウキシア藻綱[3]トレボキシア藻綱[4][5]学名: Trebouxiophyceae)は、緑藻植物門に属する綱の1つ。2020年現在900種ほどが知られ、クロレラ属、トレボウクシア属、ボトリオコックス属のような単細胞や群体性の微細藻がほとんどであるが、カワノリのような大型藻もわずかに知られる。

概要 トレボウクシア藻綱, 分類 ...

核分裂は閉鎖型(核分裂中も核膜が維持される)、中間紡錘体は比較的早い時期に消失する。細胞質分裂は、ファイコプラスト(分裂面に平行な微小管群)が関与した細胞膜の環状収縮による。鞭毛細胞の鞭毛装置は交差型、2個の基底小体は反時計回りにずれて配置する。多くは淡水域または陸上に生育し、地衣類繊毛虫などに共生するものも少なくない。クロレラは実験生物や健康食品として利用され、またボトリオコックスなどはバイオ燃料など応用を目的とした研究に用いられている。

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特徴

要約
視点

体制

トレボウクシア藻の多くは単細胞性、または群体性である[1][4][6][7][8](下図2a, b)。細胞形態は球形、楕円形、円筒形、紡錘形など。群体の様式は多様であり、パルメラ状群体(多数の細胞が共通の寒天質外被に包まれた群体)、サルシナ状群体(複数の細胞が三次元的に密着したもの)、定数群体(決まった数の細胞が決まった配列で配置した群体)などがある[1][4][7][8][9]。無分枝または分枝糸状体を形成する種もいる(例: ゲミネラ属 Geminella, ミクロタムニオン属 Microthamnion)(下図2c)。またフィロシフォン属(Phyllosiphon)は多核嚢状性であり、隔壁のない分枝糸状体を形成する[10][11](下図2e)。ほとんどの種は微細藻であるが、カワノリ属(Prasiola)は肉眼で見える大きさの葉状の藻体を形成する[7][12](下図2d)。多細胞性の種でも、原形質連絡をもつものはいない。

トレボウクシア藻の体制
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2a. 単細胞性の Lobosphaera(ロボスファエラ系統群)
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2b. 群体を形成する Nephrocytium(クロレラ目)
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2c. 糸状性の Leptosira(レプトシラ系統群)
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2d. 葉状のカワノリ属(カワノリ目)

細胞構造

栄養体(通常の状態の体)は全て細胞壁で囲まれた不動性であり、栄養体が鞭毛をもつものは知られていない[7][8](図3)。細胞壁組成が調べられた例は少ないが、セルロースを含むものやβ-ガラクトフラナンを含むもの(トレボウクシア属)、 細胞壁表層に難分解性のアルジナンをもつものなど多様性がある[13]。細胞は単核または多核性[7][8](図3)。核分裂は閉鎖型(核膜が維持される)、中間紡錘体は早期崩壊型で娘核は接近する。細胞質分裂は、ファイコプラスト(分裂面に平行な微小管群)が関与した細胞膜の環状収縮による[1][4][7]。核分裂時に、中心小体が分裂面近くに位置すること(メタセントリック紡錘体 metacentric spindle)が特徴とされたこともあるが[14]、中心小体が存在しない例や、中心小体が極に位置する例も知られている[15]

トレボウクシア藻の生態
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3a. エレモスファエラ属(Eremosphaera; クロレラ目)は多数の葉緑体・核を有する。
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3b. クロレラ(クロレラ目)の透過型電子顕微鏡像

葉緑体はふつう1個、ときに多数(例: Eremosphaera; 図3a)[7][8]。葉緑体はふつうピレノイドをもつが(図3b)、これを欠くか光学顕微鏡下では不明瞭なことも少なくない。ピレノイド基質にはふつうチラコイドが貫入する。カロテノイドとしてルテインネオキサンチンビオラキサンチンβ-カロテンをもち、ロロキサンチンをもつものも報告されている[16]。従属栄養性のプロトテカ属(Prototheca)やヘリコスポリディウム属(Helicosporidium)では、光合成能を欠く色素体が存在する[17][18]

鞭毛細胞は、遊走子(鞭毛をもつ胞子)や配偶子など生活環の一時期に限られており、鞭毛細胞を欠く(または見つかっていない)種も多い[7][8]。鞭毛細胞は裸であり、細胞壁や鱗片をもつ例は知られていない[7][8]。2本の等長・等運動性の鞭毛が細胞頂端から反対向きに伸びている。鞭毛装置は回転対象の交差型であり、向かい合う基底小体の基部は上から見て反時計方向にずれて配置している(counterclockwise, CCW; 11/5時型, 11/5 o’clock)[1][4][7]

生殖

トレボウクシア藻の多くは、遊走子や不動胞子、自生胞子による無性生殖を行う[7][8]。少ないながら二分裂や出芽様分裂によって増殖するものも知られている[19]。また群体性や糸状性の種では、藻体の分断化による栄養繁殖も見られる。有性生殖の報告例は非常に少ないが、カワノリ属やラフィドネマ属(Raphidonema)、エレモスファエラ属(Eremosphaera)、ミクラクチニウム属(Micractinium)などで卵生殖が報告されている[6][8][20][21]。またクロレラなどでは、現象としては見つかっていないものの、ゲノム情報から有性生殖能をもつことが示唆されている[22][23]。核相交代についての報告はほとんどないが、カワノリ属では栄養体が複相染色体を2セットもつ)で減数分裂によって配偶子を形成するとする報告と、栄養体は単相(染色体を1セットもつ)で接合子の発芽時に減数分裂を行うとする報告がある[6][7][20]

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生態

要約
視点

トレボウクシア藻の多くは淡水域または陸上に生育している[7][8]。ミクラクチニウム属(Micractinium)や アクティナストゥルム属(Actinastrum)、ディクティオスファエリウム属(Dictyosphaerium)、オオキスティス属(Oocystis)、ラゲルヘイミア属(Lagerheimia)などは一般的な淡水湖沼の植物プランクトンとして普遍的に見られ、またエレモスファエラ属(Eremosphaera)のように高層湿原に多い種もいる[24][25]。ミクロタムニオン属(Microthamnion)など淡水域の底生藻も存在する。またアパトコックス属(Apatococcus)やスティココックス属(Stichococcus)、ヘテロクロレラ属(Heterochlorella)、クロロイディウム属(Chloroidium)など壁や樹皮、土壌など陸上域に生育するものも多く、気生藻として最も普遍的な藻群はトレボウクシア藻綱である[26][27]。トレボウクシア藻綱の中には、南極の土壌や岩石内に生育するものもいる[28][29]。ピコクロルム属(Picochlorum)やマリニクロレラ属(Marinichlorella)など海洋の微小なプランクトンであるものも知られており[30]、また環境DNA研究(水などから直接抽出したDNAに基づく研究であり、培養できない生物の情報を得ることができる)から、海には未知のトレボウクシア藻が多いことが示唆されている[31]。カワノリ属の中には、沿岸域の潮上帯(飛沫帯)に着生して生きるものもいる[12](下図4a)。またコッコミクサ属の1種(Coccomyxa actinabiotis)は極めて特異な環境である使用済み核燃料を含む原子炉の冷却プールから報告されたトレボウクシア藻であり、極めて高い線量のガンマ線に耐えることができる[32]。また本種は、細胞内にを蓄積することが知られている[33]

トレボウクシア藻の生態
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4a. Prasiola stipitata(カワノリ目)は海岸の潮上帯(飛沫帯)に生育し、海藻として扱われることがある。
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4b. ウメノキゴケなど地衣類の共生藻はトレボウクシア属(トレボウクシア目)であるものが多い。
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4c. ミドリゾウリムシ繊毛虫門)の共生藻は、多くの場合トレボウクシア藻である。
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4d. Elliptochloris(ボトリオコックス系統群)が共生しているイソギンチャク
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3e. サトイモ科の葉 (A) に寄生する Phyllosiphon(フィロシフォン目)(B, C)

トレボウクシア藻の中には、他の生物に共生して共生藻となる例が比較的多く知られている。トレボウクシア属(Trebouxia)は地衣の共生藻(photobiont, phycobiont)として最も普遍的な存在であり、他にもアステロクロリス属(Astreochloris)、コッコミクサ属(Coccomyxa)、エリプトクロリス属(Elliptochloris)、シンビオクロリス属(Symbiochloris)、ディプロスファエラ属(Diplosphaera)などが地衣共生藻として報告されている[34][35][36](上図4b)。

ミドリゾウリムシなどさまざまな繊毛虫太陽虫アメーバ海綿ヒドライソギンチャクには緑藻が共生していることがあり、その共生藻の多くはトレボウクシア藻綱に属する[37][38][39][40](上図4c, d)。このような共生藻は、ズークロレラ(zoochlorella)と総称されることがある。またコッコミクサ属(Coccomyxa)の1種は、イガイ類の軟体部に寄生することが知られている[41]イチョウ花粉、幼体の細胞内からも、コッコミクサ属の1種が報告されている[42]。フィロシフォン属(Phyllosiphon)はサトイモ科植物の葉の内部に寄生する[10](上図4e)。

従属栄養性プロトテカ属(Prototheca)は樹液や排水中などに自由生活しているが、ヒトなどの脊椎動物の皮膚に日和見感染することもある[43](下図5)。これに近縁のヘリコスポリディウム属(Helicosporidium)は昆虫など節足動物消化管寄生する絶対寄生性(寄生しなければ生きられない)の生物であり、以前は原生動物胞子虫類に分類されていた[44]

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人間との関わり

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5. ヒトに寄生したプロトテカ(紫色の部分; クロレラ目)

クロレラクロレラ目)は培養が容易で増殖が速いことから、様々な用途で用いられている。実験生物としてしばしば利用され、古くは光合成のカルビン回路(光合成において二酸化炭素を固定する回路)の発見などに材料として用いられた[45]。現在ではゲノム情報が明らかとなっており、また形質転換も可能である[22][46][47]健康食品としても利用され、大規模な屋外培養が行われている[48]。また養殖魚介類の初期餌料とされるシオミズツボワムシの培養用に用いられている[49]

ボトリオコックス・ブラウニーBotryococcus braunii)は多量の炭化水素(他の藻類ではトリアシルグリセロールが一般的であり炭化水素は例外的)を細胞外に産生する(他の藻類ではふつう細胞内に蓄積) ことから注目され、バイオ燃料の研究に広く用いられている[50][51]。またこの藻類が生成する炭化水素の1種(ボトリオコッセン)を用いたハンドクリームが、市販されている[52]

上記のように、プロトテカ属はヒトを含む脊椎動物の皮膚に日和見感染し、プロトテカ症(protothecosis)を引き起こすことがある[3][43](図5)。

系統と分類

要約
視点

古典的な分類では、トレボウクシア藻綱に属する緑藻は、その体制(大まかな体のつくり)に基づいて緑藻綱(旧義)のさまざまな分類群に分類されていた(古典的な意味でのクロロコックム目やカエトフォラ目など)。やがて1960年代以降の微細構造学的研究により、細胞質分裂時にファイコプラスト(分裂面に平行な微小管群)が出現する点では狭義の緑藻綱に類似するが、それとは異なり鞭毛細胞が反時計回りの基底小体をもつ一群が存在することが明らかとなった。この藻群は、当初は現在クロロデンドロン藻綱に分類される藻類とともにプレウラストルム藻綱Pleurastrophyceae)に分類されていた[14]。しかしプレウラストルム藻綱のタイプ属である Pleurastrum のタイプ種(Pleurastrum insigne)が狭義の緑藻綱に属することが判明したため、プレウラストルム藻綱の名は棄却された。そのため、この藻群に対して新たにトレボウクシア藻綱Trebouxiohyceae)が提唱され、現在に至っている[53][54]。2020年現在では、トレボウクシア藻綱への所属は主に分子形質によって判断されており、クロレラ属などトレボウクシア藻綱の形態的特徴が見られない緑藻もトレボウクシア藻綱に分類されている[8]

トレボウクシア藻綱は緑藻植物門に属し、その中で緑藻綱アオサ藻綱と共通する特徴が多く(例: 鞭毛細胞は頂端から対向して伸びる鞭毛をもち、鞭毛装置は細胞前後軸に対して回転対称)、系統的にも3綱は単系統群を形成していると考えられることが多い(この系統群は各綱の頭文字からUTC系統群とよばれる)[7][55][56]

2020年現在、およそ900種がトレボウクシア藻綱に分類されているが、詳細な研究がされずに暫定的に分類されているものもある[57]。一方で、未記載のものや緑藻綱などからトレボウクシア藻綱へ移すべきものも少なくないと考えられている[8]分子系統解析からは、トレボウクシア藻綱の中にいくつかの大きな系統群と、多数の小さな系統群が存在することが示唆されている(下図6、下表1)。ただしその分類学的整理はいまだ十分ではなく、正式な分類群名をもたない系統群も多い[4][7][8][55]。また各系統群に共通する形態形質はほとんど見つかっておらず、トレボウクシア藻綱内の形質進化に関しても分かっていない。

トレボウクシア藻綱

クロレラ目[注釈 1]

プレウラストロサルシナ系統群

ネオキスティス系統群

カワノリ目

パリエトクロリス系統群

レプトシラ系統群

ディクティオクロロプシス系統群

ミクロタムニオン目

トレボウクシア目

ロボスファエラ系統群

フィロシフォン目

ボトリオコックス系統群

6. トレボウクシア藻綱の系統仮説の1例[56][58](いくつかの系統群を除く)

表1. トレボウクシア藻綱の目までの分類体系の1例と代表属[2][8][57][59][58][60][61](2020年現在)

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ギャラリー

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脚注

外部リンク

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