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細胞膜ナノチューブ

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細胞膜ナノチューブ
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細胞膜ナノチューブ(Membrane nanotube)は、細胞膜から突出する長くて細い管で、異なる動物細胞を接続する。トンネルナノチューブ(Tunneling nanotube、TNT)とも呼ばれる。この構造は非常に長くなることがあり、100 μm以上離れたT細胞間の接続を行うこともある[2][3][4]。2種類のタイプの構造がナノチューブと呼ばれている。1つは直径が 0.7 μm以下のものでアクチンのみを含み、細胞間で細胞膜の一部を双方向に輸送する。もう1つは直径 0.7 μm以上のものでアクチンと微小管の双方を含み、小胞ミトコンドリアを含む細胞小器官など、細胞質の構成要素が細胞間で輸送されることもある[5][6]。これらの構造は、細胞間コミュニケーション[7]核酸の移動[8]HIV[3]プリオン[9]のような病原体の拡散に関わっていると考えられている。こうした構造の持続時間は数分から数時間であることが観察されており[10]、いくつかのタンパク質が形成と阻害に関与している。

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A ヒト初代中皮細胞を連結しているTNT。コラーゲンIで覆われたカバーガラスに播種1時間後の高分解能3D生細胞蛍光イメージング。検出のため、細胞膜がWGA Alexa Fluor 488によって染色されている。スケールバー:20 μm。
B 播種1時間後に2つ細胞間に形成されたTNT。走査型電子顕微鏡像。スケールバー:10 μm。
C 蛍光ラベルされたファロイジン英語版によるアクチン繊維の染色。スケールバー:20 μm。
D TNTの前駆体となる可能性のある、フィロポディア英語版様の伸長構造(黒い矢じり)の走査型電子顕微鏡像。インサート部分では、近隣細胞へ接近しているフィロポディア様突起(白い矢じり)の蛍光顕微鏡像が示されている。スケールバー:2 μm。[1]
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歴史

この構造に初めて言及したのは1999年にセル誌に掲載された論文で、キイロショウジョウバエの羽の成虫原基の発生について研究したものであった[11]。また、2004年にサイエンス誌に掲載された論文では、さまざまな種類の免疫細胞や、培養組織中の細胞どうしを連結している構造について記載された[6][12]。それ以降、さまざまなレベルのアクチン繊維、微小管や他の構成要素を含むTNT類似構造が多く記録されているが、組成という観点からは比較的均質である[10]

形成

要約
視点

ナノチューブの形成には、分子的制御や細胞間相互作用など、いくつかの機構が関与している可能性がある。

TNTの形成には2つの主要な機構が提唱されている。1つは、細胞質の突起が一方の細胞から伸長し、標的細胞の膜と融合するというものである[6]。もう1つは、2つの連結された細胞が互いに離れて移動し、TNTが2つの細胞間のブリッジとして残るというものである[3][13]

誘導

一部の樹状細胞とTHP-1単球では、トンネルナノチューブによる連結が存在すること、そして細菌や機械的な刺激にさらされた際に細胞間でカルシウムの流れが生じることが示されている。樹状細胞が細菌産物にさらされた際に形成されるラメリポディア英語版と同様に、TNTを介したシグナル伝達によって標的細胞へシグナルが拡散されることが示されている。この研究では、TNTは 35 μm/sの初速で伝播を行うこと、THP-1単球は最大 100 μmの長さのナノチューブで連結されていることが示された[14]

サイトネーム英語版(サイトニーム、 cytoneme)はBnL-FGFの勾配に従って形成されることが観察されており、走化性による制御がTNT様構造の形成を誘導している可能性が示唆されている[11]ホスファチジルセリンの露出が間葉系幹細胞から損傷細胞集団へのTNTの成長方向のガイドとなることも、このことを支持している[15]。タンパク質S100A4英語版とその受容体はTNTの成長方向のガイドとなることが示されている。p53カスパーゼ-3を活性化してS100A4を切断し、標的細胞でタンパク質が多く存在するような勾配を形成する[16]

ある研究では、T細胞間のナノチューブの形成には細胞間の接触が必要であることが発見されている[3]。p53の活性化もTNTの形成に必要な機構であることが示唆されており、p53によってアップレギュレーションされる下流遺伝子(すなわちEGFRAktPI3KmTOR)は過酸化水素処理と血清枯渇後のナノチューブの形成に関与することが判明している[17]コネキシン43骨髄由来間質細胞と肺胞上皮細胞間の連結を促進し、ナノチューブの形成をもたらすことが示されている[18]

ロテノンによる細胞ストレスやTNF-αも上皮細胞間のTNTの形成を誘導することが示されている[19]リポ多糖インターフェロンγによる炎症は、TNT形成に関連するタンパク質の発現を上昇させることが示されている[20]

阻害

Streamerと呼ばれるTNT様構造は、F-アクチン脱重合化合物であるサイトカラシンD英語版存在下で培養されたときには形成されず[21]、また他の研究ではサイトカラシンBは既存のTNTを破壊することなく、TNTの形成に影響を与えることが示されている[22]。他のF-アクチン脱重合化合物であるラトランクリンB英語版は、TNTの形成を完全に防ぐことが示されている[6]アストロサイトによるミトコンドリアの移行への関与が示唆されているCD38[23]をノックダウンすることで、TNTの形成は大きく減少する[24]

TNFAIP2はM-Secとも呼ばれ、TNTの形成を媒介することが知られている。このタンパク質をshRNAでノックダウンすることにより、上皮細胞におけるTNTの発生は約1/3に減少する[20]

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ミトコンドリアの移行における役割

トンネルナノチューブは、ミトコンドリアが細胞間を移行する機構の1つとして示唆されている[6]ミトコンドリアDNAの損傷がミトコンドリアの移行のためのTNT形成の主なトリガーであるようであるが[25]、TNTの形成の誘導に必要な損傷の正確な閾値は未解明である。ミトコンドリアがTNTを移動する最大速度は約 80 nm/sであり、ミトコンドリアの軸索輸送時の 100–1400 nm/sよりも低い。これはTNTの小さな直径がミトコンドリアの移動を妨げているためである可能性がある[26]

ある研究では、異なる表現型のRhoファミリーGTPアーゼMiro1を発現する4つの間葉系幹細胞株を用いることで、Miro1の発現レベルの高さがTNTを介したミトコンドリア移行の効率の高さと関係していることが示された[19]。TNTの形成を選択的に防ぐ実験からは、TNTが異なる細胞種間でのミトコンドリア移動の主要な機構であることが示されている[27][28][29]

類似の構造

サイトネームと呼ばれる構造はショウジョウバエの羽の成虫原基の交換を可能にする。しかし、サイトネームは常に2つの細胞を連結しているわけではなく、環境のセンサーとしてのみ機能している場合もある[21]

似たような構造で、原形質連絡と呼ばれるものは植物細胞[30]ストロミュール色素体[31]の連結を行っている。

Myopodiaは、ショウジョウバエの胚で観察される、アクチンに富む細胞質の突起である。類似した構造はツメガエルXenopusとマウスでも観察されている[10]。Streamerと呼ばれるアクチンを含む細胞突起が培養B細胞で観察される[21]

また、細胞膜ナノチューブによる小胞輸送が量子ドットによりモデル化されている[32]。環状ペプチドや他の環状分子のスタッキングによる、さまざまな合成ナノチューブの研究が行われている[33]

出典

関連文献

関連項目

外部リンク

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