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ファブレス

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ファブレス(fabless)とは、その名の通りfab(fabrication facility、つまり「工場」)を持たない会社のこと[1]工場を所有せずに製造業としての活動を行う企業を指す造語およびビジネスモデルである。

概要

要約
視点

具体的には、製品企画設計開発は行うが、製品製造のための自社工場は所有せず、製造自体はEMSに全てか大半を委託し[1]、製品はOEM供給を受ける形で調達し、自社ブランドの製品として販売する。ファブレスの形態でも自社工場を所有しているメーカーは存在するが、この場合は修理工場としての機能(アフターサービス)に特化していたり、製造機能を持っていたとしてもEMSに委託しにくい特殊な少量受注生産品など、極小規模な生産機能に限定される。

ファブレス業態の企業は、古典的にはアパレル産業が、1980年代以降はコンピュータ食品玩具ホビー)などさまざまな業種で見られるようになっている。

ファブレスが主流となっている業種の一つに半導体産業がある。主に半導体関連企業は従来、半導体設計とその製造は同じ企業内で行うのが主流であった[2]。しかし、半導体製造装置や無塵環境が必要な周辺設備の投資には莫大な費用がかかることや、シリコンサイクルと呼ばれる、半導体製造企業各社が約4年に一度一斉に行う製造プロセス更新のため減価償却期間が短いこと、また半導体産業の競争が熾烈であり、他社新製品の投入時に市場シェアが劇的に変化することがあり、市場競争に一度負け工場稼働率が低下すれば製造装置(固定資産)の償却によって一気に倒産に追い込まれる構造があるため、継続事業として成り立たせるための資金調達が難しくなる傾向がある。

このため製造設備を持たず、研究開発のみに従事する企業とすることでこれらを回避し、比較的安定した事業を行うことができる。設計した半導体は、一般的な半導体総合企業やシリコンファウンドリとよばれる半導体製造専業企業に製造を委託する。これを開発設計から製造まで一貫して行う垂直統合に対して、水平統合という。ファウンドリの側は、市場シェアの変化により受託先が変化することはあっても製造数量それ自体は確保できるため、事業継続性を高めることが出来るという構造である。

ファブレスという業態は製造業として分類されるものの基準はあいまいで、海外から買い入れた製品に自社のEANコード(JANコード)を添付しただけの卸業者がファブレス企業として製造業を称することも可能である[3]。ファブレス企業であるメルコは工場を有していないという理由から店頭市場公開時に製造業ではなく商社として分類されかけたが、社長の説明の末製造業コードを得ることができた[4]。のちに証券コード協議会が制定した「業種別分類に関する取扱要項」[5]においては、自社で研究開発を行った商品について製造委託を行う場合や、仕入先となる工場への出資(製造部門を子会社に分離)・生産設備の貸与などを行っている場合には、原則として製造業とみなされる。

総務省日本標準産業分類では『(2) 製造問屋(自らは製造を行わないで、自己の所有に属する原材料を下請工場などに支給して製品をつくらせ、これを自己の名称で卸売するもの)』という業種は卸売業に分類される[6]日本銀行調査統計局は『ファブレスメーカー(卸売りを主にするもの)』を卸売業かその他サービスとして分類している[7][8]

歴史

1916年、ジョン・T・トンプソントンプソン・サブマシンガン開発のためオート・オードナンス英語版を設立したが、社員は技術者のみで社屋や工場を有しておらず、実際の製造は他社に委託していた。

ファブレスという語が定着する以前から、製品の企画やブランディングは自社で行い、下請け工場に製造を外注したのち商品を引き取り、自社の店頭で販売するなり別の流通小売企業に出荷するという形態じたいは古くから存在しており、とりわけアパレルブランドは紡績や染色、織機や縫製の大半の工程を複数の職人や企業に分割して外注するのが一般的で、最終製品を自社に納品させる形態を採ることが多かった。伊藤園のように販売専業として事業を拡大していく中で、当初はファブレスであったものの企画や研究開発に進出するなかで、従来の外注先だけでなく自社でも製造設備を持つようになるケースもあり、これは厳密な意味ではファブレス経営とは呼べない。一方で任天堂のようにかつては自社工場を保有していたが、経営効率化のなかで現在は全て外注化したファブレス企業もある。

ファブレス企業の比較的古い事例としては、1970年代にアメリカで急速に業績を拡大していたGapナイキが良く知られている。また半導体業態においては1980年代カリフォルニア州にあるシリコンバレーで、半導体設計に特化した企業が製品生産を外部工場となる日本企業に委託し始めたのが始まりとされる[1]。現在はエヌビディアクアルコムブロードコムAMDメディアテックアップルなどが著名なファブレス企業である。またマイクロソフトのようなソフトウェア企業は製品の量産化(パッケージング等)は外部企業に完全に委託しておりファブレス企業と見なせよう。もっともここ数年はマイクロソフトやグーグルといったソフトウェア企業もAIデータセンター設置に多額の固定資本投資が迫られており、経営の側面で「ファブレス経営」と見なせるかどうかは微妙となっている。

日本ではダイドードリンコが完全なファブレス企業として比較的古くから知られており、無印良品エレコムキーエンスなども歴史は比較的古い。

バブル崩壊以降、製造業の在り方の見直しが行われる中で、固定資本を軽くする一方で経営資源を企画販売に注力するファブレス経営が注目されるようになった。中堅企業のなかにも自動車用タイヤホイールメーカーのカービングなど、ファブレス経営を採用する企業も登場した。大手流通企業(イオン、コンビニ各社など)は自社ブランド製品(プライベートブランド)の開発は自社で行い、実際の製造は他社(OEM企業)に委託しているため一種のファブレス経営と見なすことが出来る。

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脚注

参考文献

関連項目

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