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ボルスク・ウラムの定理
トポロジーの定理 ウィキペディアから
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ボルスク・ウラムの定理(ボルスク・ウラムのていり、英: Borsuk–Ulam theorem)とは、スタニスワフ・ウラムが定式化し、カロル・ボルスクが最初に証明したトポロジーの定理の一つである。
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定理

n = 1の場合は地球を考えることで説明することができる。則ち地球の赤道上には正反対に位置していて気温が等しいようなある2点が存在している。同様の説明はどのような円周においても成立する。ただし空間において気温が連続的であることを仮定している[1]。
n = 2の場合は連続写像として気温と気圧の組を採用して、地球上には正反対に位置していて気温と気圧の両方がそれぞれ一致するある2点が存在すると説明される。
同値な主張
奇写像
定義域の任意のxに対してg(−x) = −g(x)が成立する写像gを奇写像[2]という。ボルスク・ウラムの定理は次の各命題と同値である[3]。
- 連続な奇写像Sn → Rnは零点を持つ。
- Sn → Sn − 1に対して連続な奇写像は存在しない。
命題1との同値性は次のようにして証明される。
(⇒)ボルスク・ウラムの定理が奇写像gについて成り立つとする。g(−x) = g(x)となるのはg(x) = 0となるときに限る。したがって任意の連続な奇写像は零点を持つ。
(⇐)任意の連続写像f : Sn → Rnについて、写像g(x) = f(x) − f(−x)は連続な奇写像である。命題1より任意の奇写像は零点を持つのでg(x) = 0となるxが存在してf(x) = f(− x)。
1と2の同値性の証明には奇写像的性質を持つ次の連続写像を考える。
- 包含写像i : Sn − 1 → Rn\{0}
- x → x/|x|によって与えられる射影 p : Rn\{0} → Sn − 1
(1 ⇒ 2)連続な奇写像f : Sn → Sn − 1が存在するならば、i∘f : Sn → Rn\{0}は零点を持たない連続な奇写像となる。対偶が真なのでもとの命題も真である。
(1 ⇐ 2) 同じく対偶を証明する。零点を持たない連続な奇写像f : Sn → Rn\{0}が存在するならば、p∘f : Sn → Sn − 1は連続な奇写像となる。
タッカーの補題
後述するようにタッカーの補題を用いて定理を証明することができるが、その逆、つまりボルスク・ウラムの定理からタッカーの補題を導くこともできる。不動点定理には代数的位相幾何学、組合せ論、集合被覆論による同値な表現が存在するものがある。各形式で全く異なる証明ができる。更に、各列の下の命題から同じ列の上の行の命題を演繹することができる[4]。
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証明
要約
視点
1次元
円周上でg(x) = f(x) − f(−x)として定義され、実数値をとる連続な奇写像gを考える。点xについて、g(x) = 0ならばそのまま定理が満たされる。そうでないならば、gが奇写像であることよりg(x) > 0としても一般性を失わず、このときg(x) > 0 > g(−x)と中間値の定理よりある点yでg(y) = 0。よって点yでf(y) = f(−y)。
n = 2のときは被覆の理論を使うことで処理できる。
一般の場合
代数的位相幾何学的証明
n > 2の場合において、連続な奇写像h : Sn → Sn − 1の存在を仮定する。対蹠点に写す作用の軌道を通じて、実射影空間間における誘導された連続写像h' : RPn → RPn − 1を得る。この写像は基本群上で同型写像を誘導する。フレヴィッチの定理より、二元体F2を係数に持つコホモロジー上で、誘導された環準同型写像
はbをaに写す。しかしbn = 0はan ≠ 0に写されるので矛盾が生じた。これは仮定が誤っている、すなわち命題2が真であることを意味し、したがってボルスク・ウラムの定理も真である[5]。
より強く、任意の奇写像Sn − 1 → Sn − 1の写像度は奇数であるという主張も成立し、この主張から定理を導くこともできる[6]。
組合せ論的証明
タッカーの補題からボルスク・ウラムの定理を証明することができる[3][7][8]。
連続な奇写像g : Sn → Rnをとる。gはコンパクト領域上で連続なので、一様連続である。したがって任意のε > 0 についてあるδ > 0が存在して、Sn上で距離がδ以下である任意の2点u, vに対して、g(u), g(v)の距離はε以下である。
辺長がδ以下となるようなSnの三角形分割を定める。次の方法でラベルl(v) ∈ ±1, ±2 ,..., ±nを頂点vに付す。
- ラベルの絶対値は、g(v)の座標成分のうち絶対値が最大である成分の列番号とする:|l(v)| = arg (|g(v)k|).
- ラベルの符号は上の条件で選ばれた成分の符号に一致する:l(v) = sgn(g(v)|l(v)|)|l(v)|.
gは奇写像であったのでラベリングは奇写像となる、つまりl(−v) = −l(v)。ここでタッカーの補題より、絶対値は等しいが異符号であるラベルの付された隣接する2点u, vが存在する。たとえばl(u) = 1, l(v) = −1の場合を考える。lの定義よりg(u), g(v)の両方において1番目の成分の絶対値が最も大きいことを意味する。ただしg(u)の1番目の成分は正、g(v)の1番目の成分は負である。三角形分割の構成方法より、g(u), g(v)の距離はε以下であるから|g(u)1 − g(v)1| = |g(u)1| + |g(v)1| ≤ εが成立し、|g(u)1| ≤ ε。しかし、g(u)の最も大きい成分は1番目であったから、1 ≤ k ≤ nにおいて|g(u)k| ≤ εである。したがって|g(u)| ≤ cnε。ここでcnはnとノルム|⋅|に依存する定数。
この事実が任意のε > 0で成立する。一方Snはコンパクトであるので、|g(u)| = 0となるuが存在せねばならない。
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応用
要約
視点
ハムサンドイッチの定理
→詳細は「ハムサンドイッチの定理 § ボルスク・ウラムの定理への転化」を参照
「どのようなサンドイッチでも1回切るだけでハムとチーズ、パンを均等に半分にできる」というのがハムサンドイッチの定理だが、これをボルスク・ウラムの定理を使って証明する。簡単のため、パンとハムだけのサンドイッチを考える。このサンドイッチはxy平面にあるとしよう。サンドイッチを1回切るということは平面のある直線で2つの部分に分けるということに値する。ここで、平面のax + by ≥ c部分にあるハムの量をu(a, b, c)、パンの量をv(a, b, c)とする。(a, b, c) ≠ (0, 0, 0)から、a2 + b2 + c2 = 1としても任意の切り方を対応させることができる。なので、単位球面上の点(a, b, c)に数の組(u(a, b, c), v(a, b, c))を対応させることができる。ボルスク・ウラムの定理から、球面上のある点(a0, b0, c0)で、 となる点が存在する。各式の右辺は−a0x − b0y ≥ −c0 ⇔ a0x + b0y ≤ c0 内にあるハムとパンの量なので、直線a0x + b0y = c0はサンドイッチを均等に分けることができる[9]。
ネックレス問題

ネックレスを奪う泥棒が2人いる。ネックレスは4つの種類の宝石のビーズで出来ている。各種類の宝石が偶数個あったとする。2人で均等に分けたい時、なるべくネックレスを少ない切断で均等に分けたい。4つの種類の宝石がある場合、それは最低で4つの切断で均等に分けることができる。そして、切った物を上と下に分けて泥棒1は上にある均等に分けられた宝石を、泥棒2は下の均等に分けられた宝石をもらう。ここで、n種類の宝石があり、n回の切断をしても公平に分けることができるのか。
これがネックレス問題であるが、この節ではボルスク・ウラムの定理で証明する。ネックレス問題は離散的、ボルスク・ウラムの定理は連続的であるので、一見するとネックレス問題とボルスク・ウラムの定理には関係がないと思える。そのためにまずはネックレス問題の連続的なバージョンを考える。そして、連続の場合を調整することで離散の問題を解決できる。
簡単のために2種類の宝石があるネックレスを考える。そしてそれらを長さ1の線分として考え、3つの切断で公平に分けられるとき、分けられた宝石群の1つ目をa、2つ目をb、3つ目をcとする場合、それらはa + b + c = 1を満たす正の数でなければならない。また、a, b, cについてそれぞれ泥棒1と泥棒2のどちらの取り分になるかを選ばないといけない。ここで話を変え、単位球面x2 + y2 + z2 = 1にある点の座標を考える。x2, y2, z2の平方根の正負と、泥棒1と泥棒2の取り分を対応させる。泥棒1が受け取る宝石の種類別の個数を出力する写像をfとする。ボルスク・ウラムの定理を使って、ある(x, y, z)でf(x, y, z) = f(−x, −y, −z)となるはずなので、泥棒1と泥棒2の取り分を入れ替えても取り分の変わらない分け方が存在する。なので、公平に分ける方法は必ずあるということになる[10]。
球の被覆

→「ルステルニク-シュニレルマンの定理」および「ボルスク問題」も参照
右図のように2次元球面を3つの閉集合で覆うとき、対蹠点の組を含むような集合が存在する。一般にn次元球面をn + 1個の集合で覆うとき、対蹠点の組を含むような集合が存在する[11]。
2次元球面を3つの集合A, B, Cで覆う。x ∈ S2について集合Aと点xの距離をdA(x)のように表し、写像fをf(x) = (dA(x), dB(x))と定める。ボルスク・ウラムの定理より f(x) = f(−x) となる点xが存在する。dA(x), dB(x)のうちいずれかが0を取るとき、x, −xは0となる方の集合に属する。dA(x), dB(x)のいずれも0でないときはCに属する。したがって対蹠の位置にある2点を含む集合の存在が証明される。
n + 2個の集合で覆う場合、対蹠の位置にある2点を含む集合が必ず存在するとは限らない。たとえばn = 2の場合を考える。球に正四面体を外接させる。正四面体の面上の点と球の中心を結ぶ線分と球面の交点について、正四面体の4つの面に即して4つの集合に分ける。すると、いずれの集合も対蹠点の組は含まれていない。
ボルスクはどの集合の直径も球の直径より小さくなるようにn次元球体を分割するとき、n個の集合では不可能だがn + 1個の集合では分割が実現できることを示した。また、一般に任意のEnの有界部分集合について同様に分割するとき、集合はn + 1個で十分かという問題を提起した[12]。これはボルスク問題と呼ばれ、n ≥ 64では誤りであると証明されている。nの最小値を求める問題は未解決である。
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一般化
- 元の定理では、写像fの定義域はn次元単位球面であった。一般にfの定義域がRnの原点を含む任意の開有界対称部分集合の境界であっても成立する(ここで対称とは、部分集合の中にxが存在するとき、対蹠点−xも存在することを指す)[13]。
- より一般にMをコンパクトn次元リーマン多様体、f : M → Rnを連続写像としたとき、f(x) = f(y)かつx, yが距離δ > 0(δは任意に定められる)で結べるような2点x, yが存在する[14][15]。
- 点をその対蹠点に移す写像A(x) = −xは、対合 (A(A(x)) = x) のような性質を持つ。元の定理はf(A(x)) = f(x)となる点xの存在を主張しているが、より一般に A(A(x)) = xを満たすAについて同様の定理が成立する[16]。一方で、A(A(x)) ≠ xとなるAでは成立しない[17]。
歴史
Matoušek (2003, p. 25) によればボルスク・ウラムの定理の主張の最初の歴史的言及は Lyusternik & Shnirel'man (1930) で見られる。最初の証明は Karol Borsuk (1933) によってなされ、定理の定式化はスタニスワフ・ウラムに帰される。それ以来様々な別証明が発見され、Steinlein (1985) にまとめられている。
脚注
参考文献
関連項目
外部リンク
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