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ヨードアメーバ

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ヨードアメーバ
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ヨードアメーバ学名: Iodamoeba buetschlii, Iodamoeba bütschlii)は、アーケアメーバ綱ペロミクサ目マスチゴアメーバ科に分類される嫌気性アメーバの1種である。ヒトなどの大腸内に生育するが、病原性は示さない。アメーバ細胞(栄養体、トロフォゾイト)は幅広い仮足を形成し、ゆっくりと運動、細菌などを捕食する(図1)。は1個、大きく明瞭な核小体が中央に位置する(図1)。典型的なミトコンドリアを欠く。耐久細胞であるシスト(嚢子)はやや不定形、ヨウ素で染色される大きなグリコーゲン塊をもつ(図1)。ヨードアメーバの属名である IodamoebaIod- は、「ヨウ素 (Iodium)」 を意味する[10]

概要 ヨードアメーバ, 分類 ...
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形態

アメーバ細胞(栄養体、トロフォゾイト trophozoite)は直径 6–25 µm(ふつう 9–14 µm)ほどであるが、連続的な滑走時には 10–40 µm になる[11][4][12][8]仮足(偽足)は透明な鈍円形、ゆっくりとした噴出状に形成される[11][8]。外質と内質の区分は不明瞭[11]ウロイドを欠く[11]

は1個、球形、大型で明瞭な核小体(直径2–3.5 µm)が中央に位置する[5][11][12][8]リボソームRNA遺伝子が、おそらくゲノム内多型を示す[10]。典型的なミトコンドリアを欠くが、これに由来すると考えられる構造(MRO, mitochondrion-related organelle) をもつ[13]細菌などを含む食胞が形成されるが、宿主の赤血球を含む食胞は見られない[4][12]収縮胞や結晶状顆粒は存在しない[11]

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2a. アメーバ細胞(染色試料)
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2b. シスト(染色試料)

シスト(嚢子、cyst)はやや不規則な形状で、直径 5-18 µm[4][12]。シストは細胞壁で囲まれ、はふつう1個、核小体は核膜に接して遍在することが多い[5][4][12][8]ヨウ素溶液によって染色される大きなグリコーゲン塊がふつう1個、ときに2個存在する[4][12]

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生活環

シスト(嚢子)が経口感染し(図3②)、宿主の小腸[注 1]で脱シストしてアメーバ細胞(栄養体、トロフォゾイト)が生じる[14][15](図3③)。アメーバ細胞は大腸に定着し、二分裂によって増殖する[4][14][15]。大腸下部でシストを形成し、糞便と共に排出される[4][14](図3①)。栄養体も排出されるが、栄養体は外界ではすぐに死滅する[14]

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3. ヨードアメーバ(黄色枠)の生活環: シストが経口感染し(②)、小腸で脱シスト(③)、大腸(オレンジ色)で増殖する。シストや栄養体は糞便と共に排出される(①)。

宿主

ヨードアメーバの宿主は基本的にヒトであるが、他の霊長類からも見つかっている。チンパンジーゴリラオマキザルなどから報告されており[10]、また日本において実験動物とされていたアカゲザルで58.3%、ニホンザルで42.9%の感染率が報告されている(1978年)[16]ロバブタヒトコブラクダダマジカヤギからも見つかっており、さらにウシやヒツジにも共生する可能性がある[10]。ただし、分子系統学的研究からヨードアメーバ属内には系統的多様性が存在し、ヒトに共生するものとブタ、ヒトコブラクダ、ダマジカ、ヤギなどに共生するものは遺伝的に異なることが示されている[10]下記参照)。

人間との関わり

ヨードアメーバはヒトの大腸内に生育するが、組織内には侵入せず病原性は示さず、その関係は片利共生であると考えられている[5][10][14][15]。感染率は一般的に0.1%から2.0%程度であるが、熱帯域では高く、ボリビアでは7.5%から16%であったことが報告されている(1988年時点)[10]

系統と分類

要約
視点

分類史

ヨードアメーバが初めて分類学的に扱われたのは Prowazek (1911) によってであり、サバイイ島で得られた標本を基に Entamoeba williamsi が記載された[6]。ただし、この標本にはヨードアメーバと大腸アメーバEntamoeba coli)が混在していた[17]。Prowazek は、翌1912年にサイパン島の子供由来の標本を基に、Entamoeba buetschlii を記載した[2]。これらの経緯は、ヨードアメーバの学名に混乱をもたらした(下記参照)。

Wenyon (1915) はヨウ素で染色される特徴的なシストを報告し、これを "iodine cyst" と呼んだ[8][18]。その後、Brug (1919)[7]Dobell (1919)[3] は独立に、このシストが Prowazek が報告したアメーバ(上記)によって形成されたものである可能性が高いことを指摘した[8]。さらに Dobell (1919) は、このアメーバに対して新属 Iodamoeba を提唱した[8]。また、"Pseudolimax" の仮称が用いられたこともあるが、この名は正式に記載されたものではない[5][8]

Prowazek (1911) が記載の基とした標本には、ヨードアメーバと大腸アメーバが混在していたため、このとき命名された Entamoeba williamsi がどちらの生物を指しているのかが問題となる。大腸アメーバを指しているのであれば、この学名は大腸アメーバのシノニムとなり、したがって翌年に命名された Entamoeba buetschlii に由来する Iodamoeba buetschlii がヨードアメーバの学名となる[5][8]。逆に Entamoeba williamsi がヨードアメーバを指しているのであれば、先に命名されたこの種名に由来する Iodamoeba williamsi がヨードアメーバの学名となる[5][8]。1920年代にはどちらにすべきについて論争となり、イギリスの学者は前者、アメリカ合衆国の学者は後者の立場が多かった[8]。その後は、ヨードアメーバの学名としては Iodamoeba buetschlii (Iodamoeba bütschlii) が一般的となっている[5][11][4][12][14][10]Iodamoeba buetschlii は、ヨードアメーバ属のタイプ種(模式種)とされる[5]

高次分類

古典的には、ヨードアメーバは肉質虫亜門葉状仮足綱無殻アメーバ亜綱アメーバ目管形亜目エントアメーバ科などに分類されていた[19][20]。エントアメーバ科には、ヨードアメーバ属の他にエントアメーバ属Entamoeba)やエンドリマックス属Endolimax)など動物の腸管内に生育する嫌気性アメーバ類が分類されていた[21]

分子系統学的研究が行われるようになると、エントアメーバ科に分類されていた嫌気性アメーバ類はアメーバ属ツブリネア綱)などとはやや系統的に異なることが示され、マスチゴアメーバ属Mastigamoeba)やペロミクサ属Pelomyxa)とともにアーケアメーバ綱に分類されるようになった[22]。またアーケアメーバ綱内において、ヨードアメーバ属やエンドリマックス属はエントアメーバ属よりもマスチゴアメーバ属に近縁であることが示されたため、エントアメーバ科からは除かれ、マスチゴアメーバ科に移された[22][23]。ヨードアメーバ属の姉妹群はエンドリマックス属であることが示されている[22][23]

系統的多様性

リボソームRNA遺伝子を用いた分子系統学的研究から、ヨードアメーバ属には2つのグループ(RL1, RL2)が存在すること、さらに前者は2つ (RL1a, RL1b)、後者は3つ (RL2a, RL2b, RL2c) のサブグループからなることが報告されている[10]。これらのグループ、サブグループは別種に相当する可能性がある[10]。これらの系統群はある程度の宿主特異性を示し、ヒトから得られた配列はほぼ全てRL1に属することが報告されている[10]。一方で、ブタヤギダマジカヒトコブラクダから得られた配列は全てRL2に属していた[10]

ブタから得られた標本を基に記載された種として、Iodamoeba suis O'Connor, 1920 がある[5]。また、カニクイザル から得られて Endolimax kueneni Brug, 1920 として記載されたは、ヨードアメーバ属に移すことが提唱されている(Iodamoeba kueneni (Brug, 1920) Wenyon, 1926[5]。これらの種について、DNAを用いた検討はなされていない[10]

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脚注

外部リンク

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