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レビー小体型認知症
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レビー小体型認知症(レビーしょうたいがたにんちしょう、英: Dementia with Lewy Bodies; DLB)は1995年の第1回国際ワークショップで提案された新しい変性性認知症のひとつである。日本の小阪憲司らが提唱したびまん性レビー小体病を基本としている。日本ではアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症と並び三大認知症と呼ばれている。進行性の認知機能障害に加えて、幻視症状、レム睡眠行動障害とパーキンソン症候群を特徴とする変性性認知症である。
DLBはレビー小体という点でパーキンソン病と基本的には同じ疾患であり、運動症状が主であればパーキンソン病と診断され、認知症症状が主として出現すればレビー小体型認知症と診断されるが、原因が基本的に同一であるため両者を併せもつ症例も多い(後述のPDD参照)。 DLBでは運動のスロー化、手足の震え、幻視、睡眠障害、失神、バランス失調、転倒などを経験する[1]。覚醒状態は日々変化し、はっきりしているときもあれば、短期記憶が失われている日もある。65歳以下が罹患することはまれである[1]。
アルツハイマー型認知症(AD)と同様、DLBに根治方法はないが、理学療法などで症状を改善することはできる[1]。長く治療薬がなかったが、2014年、ドネペジルが進行抑制作用を認められ、世界初の適応薬として認可された[2]。
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歴史
要約
視点
ジェームズ・パーキンソンがパーキンソン病では認知機能は障害されないと記載したこともありパーキンソン病の精神症状、認知機能が注目されるようになったのは1970年代からである。レビー小体とはドイツの神経学者フレデリック・レビーによってパーキンソン病変の脳幹で発見され名付けられた封入体である。当時はレビー小体は大脳皮質には出現しないか、出現しても稀で少数であるというのが通説であった。1970年代後半でもパーキンソン病の認知症の大部分はアルツハイマー型認知症の合併であると報告されている。
しかし小阪憲司が1976年以降に認知症とパーキンソン症候群を主症状とし、レビー小体が脳幹の他に大脳皮質や扁桃核にも多数出現する症例を相次いて報告した[3][4][5]。その後同様の報告が日本で次々と報告されたが欧米ではあまり報告されなかった。小坂は1980年に20剖検例を用いてレビー小体病(Lewy body disease)を提唱した[6]。また1984年に11剖検例を用いてびまん性レビー小体病(diffuse Lewy body disease)を提唱した[7]。この時に欧米ではびまん性レビー小体病が見逃されている可能性を強調していた。1985年以降、欧米でもびまん性レビー小体病の報告が相次いで認められるようになった。小坂はレビー小体病をレビー小体の分布から脳幹型、移行型、びまん型に分類し、脳幹型がパーキンソン病であり、びまん型がびまん性レビー小体病とした。またびまん性レビー小体病を種々の程度アルツハイマー型認知症の病理所見を伴う通常型と伴わない純粋型に分類するべきであり両者は発症年齢も臨床像も異なると述べた[8]。
1995年にイギリスのニューカッスル・アポン・タインで第1回国際ワークショップが開催され、名称をレビー小体型認知症と総称することとし、臨床診断基準と病理診断基準が提唱された。その結果は1996年のNeurology誌に掲載された[9]。この臨床診断基準により臨床診断が可能になり欧米ではアルツハイマー型認知症に次ぐ2番目に多い認知症であることがわかった。またレビー小体の主な構成成分がαシヌクレイン蛋白であることがあきらかになり免疫染色で病理診断が容易になった。1998年にオランダで第2回国際ワークショプ[10]、2003年にイギリスで第3回国際ワークショップ[11]が開かれそれぞれで臨床診断基準や病理診断基準の改訂が行われた。2003年のワークショップの結果は2006年のNeurology誌に掲載された[11]。この新しい病理基準ではレビー病理やAD病理の相対的割合を考慮したものであり、これらの病理が臨床症候群にどの程度関与するかのlikelihoodという考え方を提案した。2006年には第4回国際ワークショップを日本で行った。2013年に発行したDSM-5ではNCDLBとNCDPDというレビー小体型認知症(DLB)と認知症を伴うパーキンソン病(PDD)に相当する病名が誕生した。2015年のフォートローダデールで開催された国際DLBカンファレンスで診断基準の改定が議論された[12]。
DLBとPDDの関係に関しては第1回国際ワークショップから言及されている[9]。臨床的にはパーキンソン症候群から認知症発現まで1年未満ならばDLBと診断するが1年以上であればPDDと診断するone-year-ruleが記載された。2006年の改定された臨床・病理診断基準ガイドラインではDLBとPDDは臨床経過の相違とlevodopaの反応性の相違の他は認知機能障害のプロフィール、注意障害、精神症状、睡眠障害、自律神経症状、抗精神病薬に対する感受性の亢進、パーキンソン症候群のタイプと重症度、コリンエステラーゼ阻害薬の効果などの臨床症状の多くの部分で共通していることを指摘している。病理学的にもDLBとPDDではレビー病理の分布と程度、AD病理の程度においては差が認められるもののPD、PDD、DLBには連続性がみられ、剖検からはDLBとPDDはほとんど同じで区別できない。
PDDとDLBの間には本質的な違いは見いだせず、Lewy小体病(LBD)のうち、運動障害が先行したものはPDD、認知障害が先行したものはDLBであると考えられる。
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病理
要約
視点
レビー小体、レビーニューロライト、海綿状変化、アルツハイマー病理がレビー小体型認知症の病理学的な特徴である。
- レビー小体
レビー小体は脳幹型レビー小体と皮質型レビー小体が知られている。神経細胞質内に認められる。どちらもα-シヌクレインの免疫染色で明瞭になる。脳幹型レビー小体はメラニン含有神経細胞の脱落を認める黒質や青斑核、迷走神経背側核などの脳幹諸核、視床下部、マイネルト基底核などの間脳諸核に好発する。脳幹や間脳以外では脊髄中間質外側核、末梢交感神経節、内蔵自律神経系、副腎髄質にも認められる。皮質型レビー小体は大脳辺縁系(側頭葉内側部、帯状回、島回、扁桃核など)に好発する。皮質型レビー小体の多くは皮質深層の小型ないし中型の錐体神経細胞に認められる。
- レビーニューロライト
レビー小体の形成は神経細胞内だけではなく、軸索や樹状突起などの神経突起にもおよびレビーニューロライトと呼ばれている。
- 海綿状変化
Hansenらは海馬傍回につながる経嗅内野皮質のⅡ-Ⅲ層に海綿状変化が認められることを報告した[13]。 この海綿状変化は扁桃核や大脳皮質にも広範囲に認められ、皮質Ⅲ層およびⅤ層の大型錐体細胞の反回および投射軸索の末端の変性によると考えられている[14]。
- アルツハイマー病理
レビー小体型認知症の剖検脳では、ほとんどの症例において、様々な程度のアルツハイマー病理を伴う。小阪らはアルツハイマー病理の有無によってレビー小体型認知症を純粋型、通常型に分類した[7][8]。後に井関らによってAD型が追加された。レビー小体やレビーニューロライトなどレビー病理の分布と合併するアルツハイマー病理、すなわち老人斑や神経原線維変化の分布によって複数の病理的亜型と異なる臨床像を示すと考えられている[15]。レビー小体病においてレビー小体と神経原線維変化の神経細胞内共存の報告もあり[16]、
レビー病理とアルツハイマー病理に直接の関連がある可能性もある。老人斑の性状でアルツハイマー病とレビー小体型認知症を区別できるという意見もある。Dicksonらはレビー小体型認知症の剖検脳37例の全例で新皮質に老人斑が認められた一方で6例のみで神経原線維変化を認めたことを報告した[17]。
レビー小体型認知症における神経原線維変化は分布が海馬や辺縁系に限られていることが多いが、老人斑は大脳皮質広範に認められる。老人斑はアルツハイマー病で認められるアミロイド密度が高い核やその周囲の腫大した軸索を伴う神経突起斑 (neuritic plaques)ではなく、アミロイド密度の低いびまん性老人斑(diffuse plaques)である。しかしレビー小体型認知症でもアルツハイマー病の合併としてよいほどの神経突起斑を認める症例も存在する。
レビー関連病理
レビー小体の発見
ドイツのベルリン出身のユダヤ系神経学者のフレデリック・レビーは1912年に、パーキンソン病患者脳の大脳基底核の無名質および延髄の迷走神経背側核にみられる神経細胞内封入体を発見し詳細に記載した。その後、1919年にロシアの神経病理学者コンスタンティン・トレティアコフが博士論文の中でパーキンソン病の中脳黒質の神経細胞内にレビーが発見した細胞内封入体と同様の構造物を見出し、発見者の名にちなんでレビー小体と記載して以來同名称が用いられるようになった。中脳黒質や青斑核など脳幹部にみられるレビー小体は光学顕微鏡で2ないし3層の同心円状にみえ、HE染色では好酸性のcoreと周囲に明瞭なhaloからなる封入体として観察される。一方で大脳皮質神経細胞に形成されるレビー小体は細胞質全体に占めるなど比較的大きく、かつHE染色で淡く染色され皮質型レビー小体とよばれる。レビー小体は神経細胞の核周囲の細胞体に存在するが、一部は神経突起に認められレビーニューライトと呼称される。
レビー小体の構成成分
レビー小体の周辺部であるhaloの部分には電子顕微鏡で直径10nm前後の線維構造がみられるが、その主たる構成成分についての詳細は不明であった。岩坪威らはレビー小体型認知症の患者脳を出発材料としてレビー小体を分離精製した。そして、これを抗原として得られた抗体の一部がαシヌクレインを認識すること、さらに抗αシヌクレイン抗体を用いた免疫電顕にてレビー小体内部の線維状構造を認識することを示し、凝集・線維化したαシヌクレインがレビー小体の主要構成成分であることを明らかにした[18]。ほぼ時を同じくして、常染色体優性遺伝を示す家族性パーキンソン病であるPARK1の原因としてαシヌクレイン遺伝子(SNCA)の点変異(A53T、A30P)が同定され、さらにその後SNCAの遺伝子重複によっても家族性パーキンソン病が発症する(PARK4)ことが証明され、αシヌクレインはパーキンソン病病態におけるkey moleculeとして広く認識されるようになった。抗αシヌクレイン抗体の登場によりHE染色では確認できないpale bodyと呼ばれる形成途上のレビー小体も確認できるようになった。さらに多系統萎縮症脳のグリア細胞内封入体もαシヌクレイン陽性であることが判明し、αシヌクレイン凝集・蓄積を共通の病態背景とする疾患を総称するシヌクレイノパチーという概念が提唱されるようになった。レビー小体とレビーニューライトなど関連する病理所見をレビー関連病理とよぶ。
レビー小体病の分類
小阪らは中枢神経系にレビー小体をもつ剖検例からレビー小体病を提唱し、レビー小体の広がりから脳幹型、移行型、びまん型に分類した。脳幹型がパーキンソン病である。その後、脳幹優位型、辺縁系(移行)型、新皮質型の分類に改訂された[19]。Per Borghammerらは2020年にBrain誌でbrain-first型とbody-first型という概念を提唱した[20]。レビー小体病の病態進展においてαシヌクレイン病理の初発部位が脳(嗅球や扁桃体)、すなわちbrain-first型か腸管神経系や自律神経系、すなわちbody-first型かによって臨床症状や画像所見、病理分布が異なるという考え方である。body-first型は非運動症状が先行しやすく、brain-first型は運動症状が主導する傾向がある。レム睡眠行動障害はbody-first型の臨床マーカーとされている。brain-first型とbody-first型の二分法で分類できない例も報告されている[21][22]。その後Per Borghammerらはレビー小体病の病理が腸管神経系や嗅神経系など単一部位から始まり、神経ネットワークを介して順次拡大するというSOCモデル(Synuclein Origin and Connectome model)を提唱した[23]。SOCモデルは、従来のBraak仮説やUnified Staging System for Lewy Body Disorders(USSLB)[24]と比較され、臨床像や画像・病理学的データとの整合性が高いと考えられている。さらにパーキンソン病とレビー小体型認知症と認知症を伴うパーキンソン病はαシヌクレイン病理を基盤とするスペクトラム障害と捉えるべきという意見もある[25]。
病理診断
レビー小体型認知症の第3回国際ワークショップで病理診断に関してのコンセンサスが得られた[11]。脳幹、前脳基底核/辺縁系、大脳新皮質の脳内部位別にレビー病理について半定量的評価法が採用され、αシヌクレインに対する免疫染色を用いることが推奨された。これに基づいてレビー病理の分布と病変の程度を考慮して、脳幹型、移行型(辺縁型)、新皮質型(びまん型)に分類された。
レビー小体型認知症と認知症を伴うパーキンソン病の臨床・病理学的異同やアルツハイマー病の扁桃核にαシヌクレイン陽性レビー小体が高頻度に認められること、明らかな臨床症状のみられない偶発的レビー小体を有する症例の存在などの知見が蓄積され、臨床症状と病理所見をどのように結びつけるかに関心が向けられた。このような背景から第3回国際ワークショップでは、レビー小体型認知症臨床症候群を呈する病理学的背景としてLikelihoodの概念が導入された[11][26]。すなわち、レビー病理の脳内分布とアルツハイマー病理の程度を考慮し、レビー小体型認知症臨床症候群を呈する病理所見をHigh-likelihood、Intermediate-likelihood、Low-likelihoodに分類する方法である。この病理診断基準ではレビー病理の脳内分布が広範囲になるにつれてレビー小体型認知症臨床症候群(DLBらしさ)を呈する一方、アルツハイマー病理の程度が強くなればレビー小体型認知症らしさが目立たなくなることを意味している。久山町疫学研究における剖検例を用いた研究ではHigh-likelihoodあるいはIntermediate-likelihoodではレビー小体型認知症の臨床的特徴の数がLow-likelihoodより多かった[27]。メイヨークリニックにおける臨床・病理学的研究では生前の臨床診断がレビー小体型認知症あるいはアルツハイマー病であった76例の病理学的な背景を検討し、この診断基準の妥当性を評価している[28]。
病期分類
パーキンソン病やレビー小体病の病期分類としてBraak分類の他、高齢者ブレインバンク分類、Beachらの分類、Attemsらの分類が知られている。
Braak分類
Braak分類はパーキンソン病の病期分類であり、レビー小体病全体の病期分類ではない。1953年にGreenfieldらが中脳黒質の神経細胞脱落とレビー小体の出現がパーキンソン病の主病変であることを確立した。その後、パーキンソン病は黒質に始まると考えられてきた。しかし2003年にBraakらがパーキンソン病ではαシヌクレインの蓄積は迷走神経背側核と嗅球に最初に起こり、その後、脳幹では延髄から中脳へと上行し、大脳皮質では側頭葉の前内側部から側頭葉外側皮質、島回、帯状回、前頭前野や広がっていくことを明らかにした[29]。これをBraak仮説という。Braak仮説に基づいたBraak分類ではパーキンソン病はStage1〜Stage6の6つの病期に分類される。Stage1ではαシヌクレインの蓄積は迷走神経背側核または嗅球に限局している。Stage2では青斑核、Stage3では黒質におよぶ。Stage4では中間皮質、Stage5では高次感覚連合野と前頭前野、Stage6では前頭前野、運動野、体性感覚野が侵される。その後の検証によってパーキンソン病は80〜90%の症例でBraak仮説に一致する進展様式を呈することが確認された。Braak分類はパーキンソン病の病期分類として国際的にも用いられている。しかし、中枢神経系にレビー小体の出現を認める例をすべて含めるとBraak仮説に一致する例は約半数程度である。これは嗅球に限局する例、脳幹に病変がなく辺縁系や大脳皮質優位の病変を呈する例が多く含まれるためである。
高齢者ブレインバンク分類
高齢者ブレインバンク分類は東京都健康長寿医療センター高齢者ブレインバンクの分類であり、レビー小体病全体をカバーする病期分類である[30]。Stage I〜Stage Vまでの5段階の分類である。Stage Iは神経細胞脱落がなく、αシヌクレインの蓄積がわずかに認められる状態である。Stage IIは臨床的にパーキンソン症候群や認知症も欠くが、黒質と青斑核に色素脱失が認められ、多数のレビー小体が出現している状態である。Stage IIIは認知症を伴わないパーキンソン病、Stage IVは辺縁型のDLB、Stage Vは新皮質型のDLBに相当する。
Beachらの分類
Beachらの分類ではStage I〜Stage IVの4段階に分類される[31]。Stage Iではαシヌクレイン蓄積は嗅球に限局する。Stage IIでは脳幹優位(Stage IIa)または大脳辺縁系優位(Stage IIb)に分けられる。Stage IIIではαシヌクレイン蓄積は脳幹と大脳辺縁系にほぼ同等認められる。Stage IVでは大脳新皮質に広がっている。この病期分類ではILBD(incidental Lewy body disease)の多くはStage IIaに分類される。パーキンソン病やレビー小体型認知症はStage IIIまたはStage IVに分類される。レビー小体を伴うアルツハイマー病はStage IまたはStage IIbに分類される。
Attemsらの分類
Attemsらはレビー小体病をレビー小体の広がりによって5つに分類した[32]。嗅球のみ、扁桃核優位型、脳幹優位型、辺縁系型、新皮質型の5病型である。この5病型に末梢型(レビー小体の出現を伴う純粋自律神経不全症)を加えておけばほとんどのレビー小体病は分類可能である。
合併病変
パーキンソン病またはレビー小体型認知症とアルツハイマー病の合併例は非常に多い[33][34][35]。臨床診断がアルツハイマー病であった症例の32〜40%で病理診断はアルツハイマー病とレビー小体型認知症の合併であったという報告がある。また臨床診断でレビー小体型認知症であった症例の32〜52%で病理診断はアルツハイマー病とレビー小体型認知症の合併であった。また病理診断でアルツハイマー病とレビー小体型認知症の合併と診断された例の61%は臨床診断がアルツハイマー病であった。類似した報告もある[36][37]。また臨床診断がレビー小体病でも病理学的にレビー小体病とアルツハイマー病に合併となる例は50%程度である[37][38]。
レビー小体などのレビー病理はアルツハイマー病理である神経原線維変化や老人斑とともに高齢者剖検脳において認められる加齢性病理変化である。パーキンソニズム、認知症、神経変性疾患を認めなかった235例の剖検脳を用いた検討で34例(14.5%)にαシヌクレイン陽性レビー病理を認め、加齢とともにその頻度が増加することが明らかになった[39]。その分布様式は脳幹部に病変が限局する上行型、脳幹部・皮質に病変をみとめるびまん型とその両者の中間である中間型の3群に分類された。脳幹部病変の程度はびまん型、中間型、上行型の順序で強かった。しかしびまん型のいずれの症例も新皮質型レビー小体型認知症の病理診断基準を満たさなかった。一方、上行型は脳幹型レビー小体型認知症の病理診断基準を満たしていた。レビー小体型認知症の臨床症候群を呈していない症例は病理診断基準を満たさないか、あるいはLow-likelihoodに分類されることになりlikelihoodの概念を支持していた。その他の神経変性疾患でのレビー病理の陽性率は4〜16%と報告されている[40]。
NIA-RI診断基準[41]のHigh-likelihoodを満たすアルツハイマー病347例を同様に検討すると149例(43%)にレビー病理が認められ、87例(25%)がDLBの病理診断の基準の3亜型に分類された[42]。脳幹型(3例)よりも移行型(32例)、新皮質型(52例)の基準を満たす症例が多数認められたことは、レビー病理がアルツハイマー病理に関連が深いことを示唆している[43]。
病理と病態の対応
レビー小体型認知症の臨床症状や検査所見と病理所見との対応に関してまとめる。
- 認知機能障害
マイネルト基底核はレビー小体の好発部位であり、大脳皮質の広範囲な領域にコリン作動性神経線維を投射し、認知機能に関与している。新皮質型レビー小体型認知症ではアルツハイマー病と同等のマイネルト基底核の神経細胞脱落が認められ、大脳皮質におけるコリンエステラーゼ活性の低下はアルツハイマー病よりも高度であることが報告されている。新皮質型のレビー小体型認知症における臨床・病理学的な検討では皮質型レビー小体の個数は認知機能障害の程度と相関することが報告されている。同様の検討はパーキンソン病症例において多数報告されており、皮質型レビー小体の個数やPDのBraakステージと認知機能障害の程度が相関することが明らかになっている。パーキンソン病症例では認知機能障害の程度と最も相関を示すのは嗅内野と帯状回におけるLewy body scoreであると報告するものや海馬CA2におけるレビーニューロライト密度などが報告されている。このようにレビー小体型認知症では様々なアルツハイマー病理を伴い、認知機能障害の程度に影響を与える可能性があるが、レビー病理はレビー小体型認知症における認知機能障害の病理学的背景として重要である。レビー小体型認知症でもアルツハイマー病と同様に認知機能障害の主体は記憶障害であるが、記憶障害の背景にある海馬のperforant pathwayの編成にレビー病理が関連することが明らかになっている[44]。
- 認知機能の動揺
マイネルト基底核のコリン系神経細胞が注意機能と関連があることが知られている。レビー小体型認知症ではアルツハイマー病に比較してコリン系神経細胞脱落の程度が目立つことから、注意や覚醒レベルの変動におけるコリン系神経の関与が示唆されている。
- 幻視
扁桃核はレビー小体型認知症の初期からレビー病理を認める部位であり幻視を含めて視覚認知障害との関連が想定されている。扁桃核は認知・感情面から視覚情報を統合していると考えられる。また病理学的な検討では海馬傍回や下側頭回や視覚連合野のレビー病理の関連が疑われている。FDG-PETでの検討では幻視を伴うレビー小体型認知症では後頭葉一次視覚野で強い糖代謝低下を示すことがあるという報告がある。
- パーキンソニズム
パーキンソニズムの四大徴候である振戦・固縮・寡動・姿勢保持障害の発現は主に中脳黒質緻密部ドパミン神経の変性が関与している。
- レム睡眠行動障害
ネコやラットを対象とした動物実験ではレム睡眠をコントロールする部位は脳幹と考えられている。延髄から脳幹部を上行性にレビー病理進展するPD Braak仮説とパーキンソン病の一群においてパーキンソニズムの発現前にレム睡眠行動障害が先行する事実に整合性があることから、特発性レム睡眠行動障害がパーキンソン病の前駆状態として注目されている。特発性レム睡眠行動障害の剖検例では病理学的に脳幹にレビー小体を認め、レビー小体病の脳幹型に分類され、上記の仮説を支持している。
- 抗精神病薬に対する感受性の亢進
抗精神病薬に対する感受性の亢進はレビー小体型認知症の約半数に認められるがその病態は不明である。中脳黒質緻密層からドパミン神経の投射を密に受けている扁桃核中心亜核は海綿状変性とともにスフェロイドを数多く認め、神経変性が比較的急速に生じたことが示唆される。この所見はパーキンソン病やアルツハイマー病では目立たない。レビー小体型認知症では黒質-扁桃核路の障害がドパミン分泌の異常や不安定を生じ、抗精神病薬に対する過敏性を惹起するという仮説がある[45]。
- 基底核ドパミントランスポーター取り込みの低下
レビー小体型認知症の黒質の変性部位では神経細胞内にレビー小体を認め、神経細胞脱落を呈する。アルツハイマー病でも黒質神経細胞内に神経原線維変化を認めるものの、神経細胞脱落の程度は軽度である。黒質の神経細胞脱落によって基底核ドパミントランスポーター取り込みの低下が認められる。
- 自律神経障害
交感神経系では胸髄中間質外側核、交感神経節にレビー小体が認められる。胸部および腹部内臓器の大部分に副交感神経系の節前線維を供給している迷走神経背側核はPD BraakステージⅠにおいてレビー病理が出現する部位である。さらに仙髄副交感神経系、消化管神経叢や心臓神経叢においてもレビー小体が出現することが明らかになっている。これらの所見は、レビー小体型認知症の病初期から自律神経症状を認める事実と整合性があると考えられる。末梢神経にレビー病理が認められることから、生検などによる病理診断の試みが報告されている顎下腺や大腸粘膜の生検組織での報告例がある[46][47]。
- 体系化された妄想
レビー小体型認知症では物盗られ妄想、被害妄想、嫉妬妄想など様々な妄想が認められる。
- 抑うつ
前駆状態も含めたレビー小体型認知症の経過中にしばしば抑うつが認められる。
- 比較的保持された内側側頭葉
レビー小体型認知症はアルツハイマー病に比べると内側側頭葉が保たれる。
- 後頭葉の機能低下
脳血流シンチグラフィーでは後頭葉の血流低下が認められる。
PD Braak stageと臨床症状
レビー病理の進展過程を示すPD Braak stage[48]では延髄の迷走神経背側核からレビー病理が出現し(stage Ⅰ)、脳幹部を上行性に橋被蓋(stage Ⅱ)、黒質(stage Ⅲ)を経由して大脳辺縁系、新皮質に至る。また迷走神経背側核と同時期から嗅球の全嗅核にレビー病理が出現する(stage Ⅰ)。この進展過程はパーキンソン病を想定して作成されており、黒質のドパミン神経細胞脱落が50%に達してパーキンソニズムを呈する時期がパーキンソン病の発症に相当し(stage Ⅳ)、大脳辺縁系、新皮質の進展に伴って認知機能障害や幻覚などの精神症状が出現すると考えられている(stage Ⅴ-Ⅵ)。レビー病理が脳幹部から大脳へ上行するPD Braak stageの進展過程がパーキンソン病や認知症を伴うパーキンソン病に相当するのに対し、レビー小体型認知症ではレビー病理が大脳優位に脳幹部に広がる異なった進展過程の可能性が示されている[49]。
パーキンソン病とレビー小体型認知症の早期診断の観点から、発症の前駆症状に関心が高まり、嗅覚異常、便秘などの自律神経症状、レム睡眠行動障害などが注目されている。病理学的進展様式の解明は前駆症状を考える上で重要である。パーキンソン病やレビー小体型認知症の前駆状態と考えられる特発性レム睡眠行動障害患者の剖検例で偶発的レビー小体病(incidental Lexy body disease、iLBD)の報告がある[50][51]。生前にパーキンソニズムや認知機能障害を認めない剖検例においてiLBDが嗅覚異常、便秘、抑うつの程度に相関することが明らかになっている。またPD Braak stageは脳内のレビー病理の進展様式を示している一方で、脳外レビー病理については言及されていない。レビー小体型認知症でも心臓交感神経、副腎髄質、皮膚真皮内にレビー病理を認め、これらの部位で比較的早期にレビー病理が出現することが明らかになっている。
加齢性変化や他の神経変性疾患のレビー病理
レビー小体などのレビー病理はアルツハイマー病理である神経原線維変化や老人斑とともに高齢者剖検脳において認められる加齢性病理変化である。パーキンソニズム、認知症、神経変性疾患を認めなかった235例の剖検脳を用いた検討で34例(14.5%)にαシヌクレイン陽性レビー病理を認め、加齢とともにその頻度が増加することが明らかになった[39]。その分布様式は脳幹部に病変が限局する上行型、脳幹部・皮質に病変をみとめるびまん型とその両者の中間である中間型の3群に分類された。脳幹部病変の程度はびまん型、中間型、上行型の順序で強かった。しかしびまん型のいずれの症例も新皮質型レビー小体型認知症の病理診断基準を満たさなかった。一方、上行型は脳幹型レビー小体型認知症の病理診断基準を満たしていた。レビー小体型認知症の臨床症候群を呈していない症例は病理診断基準を満たさないか、あるいはLow-likelihoodに分類されることになりlikelihoodの概念を支持していた。その他の神経変性疾患でのレビー病理の陽性率は4〜16%と報告されている[40]。
NIA-RI診断基準[41]のHigh-likelihoodを満たすアルツハイマー病347例を同様に検討すると149例(43%)にレビー病理が認められ、87例(25%)がDLBの病理診断の基準の3亜型に分類された[42]。脳幹型(3例)よりも移行型(32例)、新皮質型(52例)の基準を満たす症例が多数認められたことは、レビー病理がアルツハイマー病理に関連が深いことを示唆している[43]。
レビー小体病とアミロイド
レビー小体型認知症と認知症を伴うパーキンソン病の区別に関して論争がある[52][53]。レビー小体型認知症29例と認知症を伴うパーキンソン病28例の剖検例で臨床・病理学的な検討が行われた[54]。レビー小体型認知症と認知症を伴うパーキンソン病ではレビー病理と神経原線維変化の程度に有意差が認められなかった一方で、CERAD分類を用いた大脳内アミロイド沈着の程度に相違がある。認知症を伴うパーキンソン病では57%にアミロイド沈着を認めないかscarceに分類されたのに対して、レビー小体型認知症では87%でmoderateあるいはabundantに分類された。レビー小体型認知症は認知症を伴うパーキンソン病と比較して脳幹部、小脳におけるアミロイド沈着の程度が高く、脳内アミロイド沈着の総量が多い[55]。レビー小体型認知症か認知症を伴うパーキンソン病を決定する過程で脳内アミロイド沈着が関与しているという仮説がある。認知症を伴うパーキンソン病はパーキンソン病と比較して大脳皮質のレビー病理が広範囲に及び、レビー病理が認知機能障害と関連していることが報告されている。さらに大脳皮質のアミロイド沈着の量と辺縁系皮質におけるαシヌクレインの量はパーキンソン病に比較して認知症を伴うパーキンソン病で有意に多くアミロイドとαシヌクレインの蓄積量の間に相関関係が報告されている[56]。大脳皮質のアミロイド沈着のうちびまん性老人斑が特にαシヌクレインの蓄積に関与することが報告されている[57]。これらの結果はアミロイド沈着をみとめられる症例では大脳皮質におけるαシヌクレインの蓄積量が増大するという促進効果に関する既報告を支持している[58]。パーキンソン病では病期を通じて脳内アミロイド沈着は少なく大脳皮質へのレビー病理の広がりが限定されるのに対して、認知症を伴うパーキンソン病では黒質ドパミン神経細胞の脱落がパーキンソニズムを呈する閾値に達した後に大脳皮質にアミロイド沈着が生じ、レビー病理が進行して認知機能障害をきたすことが推察される。一方、レビー小体型認知症では黒質ドパミン神経細胞の脱落が閾値に達する前に大脳皮質にアミロイド沈着が生じ、レビー病理が促進されて認知機能障害をきたすと考えられる。発症前のレビー病理の広がりの多様性に加えて、アミロイド沈着の有無により病変の進展が修飾されることによりレビー小体型認知症と認知症を伴うパーキンソン病の臨床亜型が生じるという仮説がある。
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疫学
レビー小体型認知症の発症年齢は60〜80歳代の初老期と老年期に多い。性差は少ないがやや男性に多い。多くは孤発性であり家族歴を持つものは稀である。60歳代以上では認知機能障害が先行ないしパーキンソン症候群と同時に発症する狭義のDLBの形をとることが多いがPDDも少なくない。40歳以下の発症では原則としてはPDDの形をとる。頻度は不明であるが認知症の中では10〜30%という報告が多い。精神神経学雑誌では有病率は0 - 5%、認知症に占める割合は 0 - 30.5%と報告されている[59]。久山研究では全剖検例の22.5%、認知症剖検例では41.4%がレビー小体型認知症であった[60]。
アメリカの高齢者を対象とした疫学研究では65歳以上の高齢者の34%にパーキンソニズムが認められ、加齢とともに頻度が増加していく[61]。85歳以上では52.4%にパーキンソニズムが認められた。
臨床症状
要約
視点
2017年の第4回レビー小体型認知症コンソーシアムによるレビー小体型認知症の臨床診断基準[12]に記載された必須症状と中核的特徴、支持的特徴を中心に述べる。
必須症状
DLBの必須症状は社会、日常生活機能に障害をもたらす程度に進行する認知機能障害と定義される。認知機能障害は記憶障害で始まることが多いが、DLBでは注意障害や視空間障害、実行機能障害なども生じやすい[62][63]。
- 記憶障害
DLBの記憶障害は初期には記銘や保持に比べて想起の障害が目立つとされている[11]。記憶障害はADと比べると軽度とされている。しかし進行するとADと同様に記憶障害や見当識障害、健忘失語などが出現し両者の区別は難しくなる[64]。
- 他の認知機能障害
DLBの認知機能障害は記憶障害の他に、初期から注意障害、視空間障害、構成障害、実行機能障害などの前頭葉・頭頂葉機能障害に由来する症状を伴うのが特徴である[62][65]。
初期で記憶障害が軽度の場合は長谷川式認知症スケール(HDS-R)やMMSEでは比較的高い点数をしめすがウェクスラー成人知能検査など詳細な検査を行うと認知機能障害が明らかになる。簡便な検査ではTrail Making TestやStroop Testなどでも初期から成績が不良になるという報告もある。
中核的特徴
注意や覚醒レベルの顕著な変化を伴う認知機能の変動、具体的で詳細な内容の繰り返し出現する幻視、レム睡眠行動障害、特発性パーキンソニズム(寡動、安静時振戦、筋強剛のうち1つ以上)がDLBの中核的特徴とされている。特に幻視やパーキンソニズムはADの初期には認められないため鑑別に有効である。
- 注意や覚醒レベルの顕著な変化を伴う認知機能の変動
認知機能の動揺(fluctuationg cognition)のことである。認知機能の動揺はDLBでは高い頻度で認められる[66][67]。認知機能の動揺は初期に目立つことが多く、比較的急性に起こり、数分から数時間の日内変動あるいは数週から数か月におよぶ変動が見られることもある。これは注意、覚醒レベルの変動と関連していると考えられる[68]。
- 具体的で詳細な内容の繰り返し出現する幻視
繰り返し現れる幻視はDLBの臨床症状の中で最も特徴的である。典型的には反復性で、具体的で詳細な内容のものであり人物や小動物が家の中に入ってくると表現されることが多い[11]。DLBの幻視がパレイドリア(木が人間に見えたり、壁の染みが顔に見えたりと、対象物が別のものに見える現象である。対象物が木や染みであり、それぞれ人間や顔ではないと理解しているが一度そう思うと、どうしても人間や顔に思えてしまう)と連続性があるという仮説もある。
- レム睡眠行動障害
DLBではレム睡眠行動障害がかなりの頻度でみられ中核的特徴のひとつである[69]。レム睡眠期に出現するべき骨格筋緊張の抑制を欠くために異常なレム睡眠が生じる。その結果、生々しくぞっとするような夢とともに夢内容に伴う精神活動が行動面に表出され、寝言、大声で叫ぶ、寝具をまさぐるなど夢幻様行動やベッドから飛び出す、暴力などの異常行動を示す。本人には睡眠中におこったようなエピソードの記憶はない。確定診断にはポリソムノグラフィーが必要である。
- 特発性パーキンソニズム(寡動、安静時振戦、筋強剛のうち1つ以上)
特発性パーキンソニズムはDLBの中核症状のひとつであり診断の時点で25 - 50%に認められるとされている[11]。DLBに必須ではなくほとんどみられない場合もある[70]。パーキンソニズムが初発のDLBの場合はPDと同様に初期から安静時振戦が認められる典型的な経過をとることが多い。寡動や対称性の筋固縮が主体で、振戦がみられても安静時振戦は目立たず動作時振戦やミオクローヌスが時に認められるような例もある[71]。進行すると姿勢反射障害や歩行障害が出現し、注意障害とあいまって転倒事故などの危険性が増加する[72]。末期になって四肢、体幹の筋固縮が急速に進行する例や垂直性の眼球運動障害を認めることがあり進行性核上性麻痺との鑑別が問題になることもある[73][74]。認知機能障害が先行する新皮質型では初期は下肢の脱力と易転倒性がみられる程度で進行しても寡動と筋固縮のみで安静時振戦は末期まで認められないことも多い。
支持的特徴
抗精神病薬に対する過敏性、姿勢の不安定さ、繰り返す転倒、失神、原因不明の意識障害、高度な自律神経障害(便秘、起立性低血圧、尿失禁など)、過眠、嗅覚低下、幻視以外の幻覚、系統化された妄想、アパシー、不安、抑うつがDLBの支持的特徴とされている。
- 抗精神病薬に対する過敏性
DLB患者は少量の抗精神病薬投与に対してもパーキンソニズムの急激な出現や増悪、嚥下障害、過鎮静、意識障害、悪性症候群などの過敏性を示す[11][75]。このような過敏性を示すのは30 - 50%程度とされている[76][77]。
- 姿勢の不安定さ、繰り返す転倒、失神、原因不明の意識障害
繰り返される転倒は姿勢、歩行、バランスの困難や注意障害、視覚認知障害などによって生じ、特にパーキンソン症候群の強いDLB患者で起こりやすい。失神に関しては脳幹部や自律神経系の機能異常によって生じる迷走神経反射障害によって生じる可能性も示唆されている。いずれにせよこれらの症状はDLBの支持症状であるが、他の認知症でも起こりえる。
- 高度な自律神経障害(便秘、起立性低血圧、尿失禁など)
- 抑うつ
DLBにおける抑うつはADよりも頻度が高い。DLBと診断される前の前駆段階からうつ状態が高率に認められる。当初うつ病と診断されたものの、その後の病気の進行などに伴いDLBに特徴的な症状が現れ、うつ病が実はDLBであったという例もみられる。特に初期のDLBでは注意すべき症状である。
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検査
要約
視点
2017年の第4回レビー小体型認知症コンソーシアムによるレビー小体型認知症の臨床診断基準[12]に記載された指標的バイオマーカー、支持的バイオマーカーを中心に述べる。
- 指標的バイオマーカー
大脳基底核でのドパミントランスポーター取り込み低下、MIBG心筋シンチグラフィーにおける取り込み低下、睡眠ポリグラフ検査(PSG)で筋活動低下を伴わないレム睡眠を確認がDLBの指標的バイオマーカーとされる。
- 支持的バイオマーカー
CT/MRIで内側側頭葉が比較的保たれている、PET/SPECTにおける後頭葉を含む全般的脳血流代謝の低下、FDG-PETでの帯状回島兆候(cingulate island sign)、脳波での後部領域徐波化がDLBの支持的バイオマーカーである。
神経心理学的検査
DLBでは記憶障害がアルツハイマー型認知症に比較して目立たない一方で注意障害、視空間機能障害、構成障害がアルツハイマー型認知症より目立ち、より多くの介助が必要となる。
- SDI-DLB
- the Subjective Difficulty Inventory in the daily living of people with DLB == SDI-DLB は20項目からなる質問で検査をする。Cut-off値 15/16点で感度 0.88, 特異度 0.79, AUC=0.86 とDLBの診断に有用と考えられている[78]。
- HDS-R、MMSE
- 長谷川式認知症スケールやMMSEの他により簡便な検査としてRDST-Jなども開発されている。RDST-Jはスーパーマーケット課題と数字変換課題で構成されている。
- MMSEでは
- (注意と計算)- 5/3×(遅延再生) + 5×(構成) < 5 であれば DLB が疑われる。(感度 82%, 特異度 81%[79])
- COGNISTAT
- COGNISTAT(コグニスタット)は記憶課題の難易度がHDS-RやMMSEよりも高いほか、言語や構成、計算などに関する課題も設けられており各得点をプロフィールで示すことができる
- ADAS
- ADASはADに対する認知機能検査として世界的に用いられている。記憶課題の難易度も比較的高くCOGNISTATと同様に初期の認知症で有効な検査である。日本語版はADAS-Jである。
- WMS-R
- ウェクスラー記憶検査(WMS-R)は記憶検査の中で最も詳細で難易度も最も高い。WMS-Rは記憶を言語性記憶と視覚性記憶に分けて検討するため、DLBは言語性記憶に比べて視覚性記憶がより低得点になりやすい傾向がある。そのためCOGNISTATやADASよりも負担が大きいものの、MCIにおける軽度の記憶障害でもより的確に評価することができる。
- FAB
- 実行機能検査としてFABの他に、TMT(Trail Making Test)やStroop Testなどが用いられることが多い。
- 時計描画試験
- 時計描画試験ではADでは見本をみながら書けば書けるがDLBでは見本をみても書けないことが多い。
- ベンダーゲシュタルトテスト
- ベンダーゲシュタルトテスト(BGT)を用いるとDLBはADや健常者よりも有意に不良な点数となる。
- MoCA(Montreal Cognitive Assessment)
- MoCAはMCIをスクリーニングする検査である[80][81]。視空間・遂行機能、命名、記憶、注意力、復唱、語想起、抽象概念、遅延再生、見当識からなる検査である。日本語版はMoCA-Jという。レビー小体型認知症の検出にも有効と言われている[82]。
画像検査
- 頭部MRI
- DLBの頭部MRI所見はADと比べて内側側頭葉領域の萎縮が軽度であること、他の認知症と比較して全体の萎縮程度に有意差がないことが特徴とされている。
- FDG-PETとSPECT
- D LBでは後頭葉特に一次視覚野の代謝低下や血流低下が特徴的な所見と報告されている。PETではDLBとADの鑑別の感度・特異度ともに80 - 90%であるが、SPECTでは感度・特異度ともに65 - 85%とFDG-PETに比べて低い。
- DATイメージング
- イオフルパン(123I)(商品名:ダットスキャン静注)を用いたシナプス前ドパミントランスポーター(presynaptic dopamine transporter、DAT)のSPECTイメージングでは、線条体の取り込みの低下が認められる。
- MIBGシンチグラフィー
- ヨード123標識MIBG(メタヨードベンジルグアニジン)はguanethidineのアナログでアドレナリン性前シナプス後神経終末より取り込まれ交感神経イメージングに用いる物質として確立している[83]。レビー小体型認知症・パーキンソン病では、神経の活性低下を示し、H/M比の低下やwashout rateの亢進で評価される。MIBGシンチグラフィーのレビー小体病に対する感度、特異度が報告されている[84]。earlyのH/M比は感度70.0%で特異度96.2%でありdelayのH/M比は感度80.0%で特異度92.3%であった。WRは感度80.0%で特異度は86.4%であった。
生理学的検査
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診断
2017年の第4回レビー小体型認知症コンソーシアムによるレビー小体型認知症の臨床診断基準がよく用いられる[12]。 この診断基準では必須症状と中核的特徴、支持的特徴、指標的バイオマーカー、支持的バイオマーカーがある。必須症状を認めたうえで、中核的臨床特徴のうち2つ、あるいは中核的臨床特徴1つと指標的バイオマーカー1つ以上が確認されればprobable レビー小体型認知症(ほぼ確実にDLB)と診断される。中核的臨床特徴1つのみ、あるいは指標的バイオマーカー1つ以上のみ(中核的臨床特徴なし)の場合はpossible レビー小体型認知症(DLB疑い)と診断する。レビー小体型認知症らしくない特徴として、局所性神経症状や脳画像で脳血管障害が明らかに存在するとき、臨床像を部分的・全体的に説明しうる他の身体疾患、脳疾患が存在するとき、認知症の進行期にはじめてパーキンソニズムが出現したときの3項目があげられている[11]。
病理診断をゴールドスタンダードとすると2005年度の臨床診断基準のprobable DLB[11]では感度73%、特異度93%と報告されている[86]。
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経過
要約
視点
レビー小体型認知症の臨床経過や予後はアルツハイマー型認知症に比べて多様である。PDやPDDではなく狭義のDLBの臨床経過は典型的には前駆期、初期、中期、後期に分かれる。早期診断を行うには器質障害があきらかではない腰痛、大腿筋肉痛、頻回の失神、就寝中の叫び声、高齢初発のうつ、幻視などの訴えがあった場合にDLBを疑い検査をすることが重要である。
- 前駆期
前駆期に抑うつ、嗅覚異常、便秘などの自律神経症状、レム睡眠行動障害などの非運動症状が出現するのはパーキンソン病と同様である[87][88]。特に老年期にうつ病が遷延する場合はDLBへの移行を考える必要がある。これらの既往がある認知症ではDLBを想定する。またせん妄もDLBを疑うエピソードである(DLBの25%、ADの7%でせん妄のエピソードがある)。前駆症状を早期に見出すことが早期診断では重要となる。
- 初期
初期には必須症状である認知機能障害が出現する。患者は忘れっぽくなったという自覚はあるがMMSEやHDS-Rなどのスクリーニング検査の結果は保たれている。時に記憶障害よりも注意障害や構成障害、視空間障害や実行機能障害が目立つことがあるのも特徴的である。幻視、認知機能の動揺、パーキンソニズムなどがこの時期から現れる場合もある。
- 中期
認知機能障害はAD病理が通常型もしくはAD型の場合は進行が速いが純粋型の場合は緩徐に進行する。認知機能の動揺は初期に比べて目立たなくなる。認知機能障害の進行に伴って幻視の自覚が失われ幻視から妄想などに反転し行動化しやすくなる。
- 後期
後期になると認知機能障害はDLBとADで大きな差はなくなる[64]。しかしパーキンソニズムの影響でDLBの方が実際よりも高度に見えることが多い。最終的には寝たきりとなり様々な合併症を併発するようになり呼吸器疾患や循環器疾患などで死亡する。
予後
DLBの経過や予後は不明な点が多い[89]。DLBの平均死亡年齢は68〜92歳[90][91][92][93][94][95]であり平均罹病期間は3.3〜7.3年の幅でありばらつきが多い[91][93][95][96]。全体としては平均罹病期間はADよりも短い[64][96]。発症から1、2年のうちに急速に症状が悪化して死に至る例もある[97]。
臨床亜系
レビー小体型認知症の臨床亜型はクラスター分析の研究で下記の3つに分類される[98]。認知症優位型、精神症状優位型、パーキンソニズム優位型である。また稀であるが急速進行性認知症として発症することがある[97]。
- 認知症優位型
認知症優位型は初期症状として認知機能障害が目立ち、診断までの期間が長い傾向がある。精神症状優位型やパーキンソニズム優位型より進行も緩除である。
- 精神症状優位型
幻視や妄想などの精神症状が早期から顕著で発症年齢が高い傾向がある。
- パーキンソニズム優位型
パーキンソニズムが早期から現れ、認知症の発症も比較的早い。
- 急速進行性認知症
レビー小体型認知症では急速進行性認知症(rapidly progressive dementia、RPD)を引き起こすことがある。レビー小体型認知症は緩徐な経過をたどることが多いが、一部の症例では数カ月から数年以内に急速な認知機能低下や精神症状の進行を認め、臨床的にクロイツフェルト・ヤコブ病など他の急速進行性認知症と鑑別が必要になる場合がある[99][100][101][102]。レビー小体型認知症で急速進行性認知症の病型をとるものに特徴的な病理所見は現時点では明らかになっていない[103]。しかし広範なレビー小体病理(特に新皮質で目立つ)やアルツハイマー病理の合併が多く見られる傾向がある。また神経炎症との関連も報告されている[104]。急速進行性びまん性レビー小体病とよぶこともある[105]。
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治療
要約
視点
認知機能障害への治療
認知機能障害に対してはコリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬が用いられる。DLB脳ではアセチルコリン神経の起始核であるマイネルト基底核で神経脱落がADよりも高度であり、病態生理上もコリンエステラーゼ阻害薬はDLBの認知機能障害への効果が期待できる。コリンエステラーゼ阻害薬では徐脈、嘔気、食思不振などの副作用が報告されているがパーキンソニズムの増悪はほとんど認められない。DLBではコリンエステラーゼ阻害薬に対しても錐体外路症状や自律神経症状、精神症状の増悪など過敏性が生じる例もあるが、このような例は少なくADと同様の投与方法で問題はないと考えられている。またNMDA受容体拮抗薬もメマンチンでRCTが行われており有効という結果が出ている。
BPSDの治療
- 抗認知症薬
- コリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬いずれもBPSDに有効である。2014年、ドネペジルが効能・効果の承認を受けた[2]。
- 非定型抗精神病薬
- 糖尿病がない場合はクエチアピンを用いることが多い。クエチアピンは糖尿病では禁忌のため併用注意となるアリピプラゾールやリスペリドンがしばしば用いられる。
- 漢方薬
- 抑肝散などの漢方薬の有効性も報告されている[106]。
- 抗てんかん薬
- レム睡眠行動異常症に対してはクロナゼパムが使用される。過鎮静のリスクからコリンエステラーゼ阻害薬が使用されることもある。
- その他
予防的観点から、記憶力や注力などの認知機能を維持する成分(DHA、イチョウ葉エキス、エルゴチオネインなど)を含んだ機能性表示食品の研究も活発に行われている[107]。
便秘の治療
起立性低血圧の治療
起立性低血圧に対して、弾性ストッキング、姿勢指導、塩分負荷食、交感神経刺激薬、塩分保持性ステロイドなどを用いる。
パーキンソン症候群の治療
パーキンソン病の治療に準ずる。
levodopaなどを用いる。ドパミンアゴニストやレボドパは日中過眠を悪化させる。
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トピックス
要約
視点
鑑別疾患
病理診断ではレビー小体型認知症であるが臨床診断がそれ以外となる場合が報告されている[26]。アルツハイマー病、進行性核上性麻痺[73]、大脳脳皮質基底症候群[108]、多系統萎縮症[109]、前頭側頭葉変性症[110]、クロイツフェルト・ヤコブ病[111][112][113][114]、脳血管障害、本態性振戦などが鑑別疾患となる。垂直注視麻痺を認め進行性核上性麻痺と臨床診断されたが病理診断がレビー小体型認知症であった報告例では中脳被蓋にレビー小体が認められた[115][73]。眼球運動制限を伴うレビー小体型認知症は多数報告されている[116][115][117][118][119][73][120][121]。
レビー小体病との関連
ジェームズ・パーキンソンがパーキンソン病では認知機能は障害されないと記載したこともあり1970年代までパーキンソン病の認知機能障害にはあまり注目されなかった。1970年代の後半にはパーキンソン病患者の認知症大部分はアルツハイマー病の合併と考えられてきた[122][123]。しかし実際にはパーキンソン病は経過中にしばしば認知症を伴い、多くはパーキンソニズムの発症後10年以上してから認知症を示すことが明らかになった[124][125]。
パーキンソン病における認知症の頻度は、臨床的にはメタ解析で約30%から40%とされ[126][127]剖検例の報告では約50%とされている。高齢のパーキンソン病患者が増えてさらに多くなり、発症から10年以上経過したパーキンソン病患者の約70%が認知症を発症するという報告もある。
1996年のレビー小体型認知症の臨床・病理診断基準ガイドライン[9]では、臨床的にはパーキンソニズムから認知症発現まで1年未満ではレビー小体型認知症と診断するが、1年以上であればパーキンソン病認知症(Parkinson's disease with dementia、PDD、認知症を伴うパーキンソン病と記載されることもある)と診断しておくのがよいと記載されている。これをone-year ruleという。レビー小体型認知症とパーキンソン病認知症は臨床経過の相違とおそらくL-DOPA反応性の相違の他は、認知機能障害のプロフィール、注意障害、精神症状、睡眠障害、自律神経症状、抗精神病薬に対する感受性の亢進、パーキンソニズムのタイプや重症度、コリンエステラーゼ阻害薬の効果などの臨床症状の多くの部分で共通している[11]。
病理学的にはレビー小体型認知症とパーキンソン病認知症ではレビー病理の分布と程度、アルツハイマー病理の程度において差がみられるという報告が多いものの、パーキンソン病、パーキンソン病認知症、レビー小体型認知症の間には連続性がみられ、剖検からはレビー小体型認知症とパーキンソン病認知症はほとんど同じで区別できないとしている。このことからパーキンソン病、パーキンソン病認知症、レビー小体型認知症を含めてレビー小体病と総称することを推奨している。パーキンソン病認知症の臨床診断基準としてEmreらにより作成されたもの[128]が使われることが多いが、基本的にはレビー小体型認知症の診断基準[12]と共通している。
免疫治療の可能性
レビー小体型認知症に免疫治療が有効な可能性がある。レビー小体病に橋本脳症を合併し、免疫治療で歩行障害や認知機能障害が改善した例が報告されている[129][130]。これらの例では抗NAE抗体が陽性であった。
脚注
参考文献
関連項目
外部リンク
Wikiwand - on
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