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古英語の文法
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語形変化
要約
視点
動詞
古英語の動詞には、強変化動詞と弱変化動詞の二種がある。
強変化動詞
強変化動詞の活用は、語幹の母音交替(アプラウト)を伴う。現代英語ではsing/sang/sung, swim/swam/swumなどの不規則変化動詞に相当する。活用の形は7種あり、それぞれに変化のパターンが存在する。
7種の語幹にはそれぞれ以下のような特徴がある:
- I. ī + 1子音
- II. ēo または ū + 1子音
- III. e + 2子音
- IV. e + 1子音 (通常 l あるいは r、加えて 動詞 brecan 'break')
- V. e + 1子音 (通常閉鎖音あるいは摩擦音)
- VI. a + 1子音
- VII. 上記の特徴に当てはまらないもの - 第一語幹と第二語幹で同一の語幹を持ち (ē または ēo)、不定詞と過去分詞で同じ語幹を持つ
第一過去語幹は、一人称と三人称単数の過去時制で用いられる。第二過去語幹は二人称単数および全人称複数の過去時制で用いられる(仮定法過去時制の場合も同様)。また、強変化動詞は二人称および三人称単数現在において「i-母音変異(i-mutation)」を起こす。
第III種変化は多くの音変化を経ているため、独立して語幹変化を記述する必要がある。第III種内の変化をさらに5種類の副種に分けることができる。
- e + 2子音
- eo + r, h + その他の子音
- e + l + その他の子音
- g, c, sc + ie + 2子音
- i + 鼻音 + その他の子音
通常の強変化動詞は種の特徴に沿って活用をしていく。stelan 'steal'の活用を以下に示す。
弱変化動詞
弱変化動詞は過去形と分詞に接尾辞を付する。現代英語ではwalk/walkedやlook/lookedなどのいわゆる規則変化動詞に相当する。弱変化には変化が3種ある。
ちなみに、以前は強変化動詞だったものが、弱変化動詞の形成の容易さ(語幹変化ではなく語尾変化)によって現代英語では規則変化動詞になったものが多くある。さらに、名詞からの派生語や他言語から借入された動詞も同様に語尾変化を付するのみとしたことから、現代英語では規則変化動詞は多数を占める状況となった。
弱変化動詞には変化が3種あるが、第1種では語根部において「i-母音変異」を起こす。第2種はそれがない。第3種については後述する。
第1種では、語末の子音において二重子音化(gemination)を起こす。<r>が含まれる動詞においては<ri> または <rg>となり、そこでは <i> と <g> は[j]と発音される。<f>が二重子音化した場合は<bb>となり、<g>の場合は<cg>となる。
第1種では二重子音化するが、第2種では<i> または <ig>となり、これは別音節[i]として発音される。
以下に弱変化動詞3種類の活用を示す。
弱変化動詞第3種に属するものは以下の4語である。
habban 'have', libban 'live', secgan 'say', hycgan 'think'
変則動詞
さらに、変則動詞と呼ばれるものが4語ある。"will", "do", "go", "be"である。これらはそれぞれ独自の活用を持っている。使用の頻度が高いため、様々な語や変化形が混成されてこのような形に至ったのだと思われる。
dōn 'do', gān 'go',willan 'will' の活用は似通っている:
be動詞は3種の語幹を持っている:
現在形のwesanはほとんど使われない。bēonの形は、未来に言及するときにしばしば用いられる。現代英語のbe動詞は直説法現在の形をsindon形から、直説法過去の形をwesan形から、仮定法現在の形をbēon形から、仮定法過去の形をwesan形から、命令法の形をbēon形から取っている。
名詞
古英語の名詞は、文の中での語の役割を語尾の形で表すために屈折をする。主格・属格・対格・与格・具格の5つの格が存在する。
- 主格は文の主語を表すほか、直接の呼びかけにも使われる。
- 属格は所有を表すほか、部分詞としての役割も果たす。
- 対格は文中における直接目的語を表す。例:Æþelbald lufode þone cyning(Aethelbald loved the king). この例では、Æþelbaldが主語でcyningが直接目的語にあたる。対格は主格との同一語形化が始まり、複数変化と中性名詞においては二者は同一の形となっている。
- 与格は文中における間接目的語を表す。例:hringas þæm cyninge(rings for the king/rings to the king). 与格を直接目的語として要求する動詞も存在する。
- 具格は、何らかの動作に用いられる場合に現れる。例:he lifde sweorde(he lived by the sword).この例では、sweordeが具格であり、現代英語の前置詞byの役割を屈折語尾が担っている。しかしながら古英語期の間に具格は徐々に消滅し、与格に同化していった。代名詞と強変化形容詞にのみ具格の独立した形が残っている。
また、名詞が単数であるか複数であるかによっても、屈折をする。
同時に、名詞は文法上の性で分類できる。男性・女性・中性が存在する。男性名詞と中性名詞は、だいたい語尾が同じである。
さらに、名詞は強変化名詞と弱変化名詞が存在する。一般に、弱変化名詞の方が屈折度が軽い。また、強変化名詞の中には母音で語が終わっているなどの理由から、下表に当てはまらない屈折をするものもあり、その場合は語尾変化だけでなく語根の母音変化を起こしたり(例:dæg>dagas)、主母音がウムラウトを起こしたりする(例:fot>fet)。これらを不規則強変化名詞と呼ぶ。
強変化名詞
強変化名詞の性に対応した屈折語尾の例を挙げる。:
弱変化名詞
弱変化名詞の屈折語尾と性に対応した例を挙げる:
その他特殊な変化をする名詞
- 親族を表す名詞
- 複数形の語幹が -r で終わる中性名詞
形容詞
古英語の形容詞は名詞と同様の格・性・数に対応して語形変化をし、さらに強変化をする場合と弱変化をする場合がある。弱変化をする場合は名詞の前に置かれるような限定用法で用いられ、強変化は叙述用法など、その他の場合に用いられる。
代名詞
代名詞もまた、数、格、性により語形変化をする。古英語の代名詞には単数、複数の他に両数があった。"we two"「我々二人」や"you two"「あなた方二人」、"they two"「あれとこれの二つ」のように、2人あるいは2つの事物をまとめて表現できる。ただ、両数はあまり使われなくなっていた。
単数で使われていたþūは現代英語ではthouとなるが、もはや聖書などの中で古語的に使われるのみになっている。現代英語の'you'は、複数しかも対格・与格の形が元になっている。これは、'lykes eow'(it pleases you)のような非人称構文において、主語を持たない非人称動詞(lykes)が目的語として与格を取っていたが、本来与格であったeowが主格のように認識された結果、与格であったeow>youがあらゆる構文において主語として使われるようになったからである。単数ではなく複数が好まれたのは、ドイツ語やフランス語に現代でもある「敬称複数」つまり相手が単数であっても敬意を表すために複数を用いる用法の影響を受けたと思われる。ちなみに、現代英語の'like'「〜を好む」はこの現象の道連れになってlyke「〜を喜ばせる」の本来の意味が変化したものである。本来の複数主格であったyeは、thouと同じく現代では古語的に用いられる。
単数男性/女性対格のhine/hieは与格に同化したため現代では残っていない。単数女性主格のheoは、別系統の語(指示詞)であったsheに取って代わられている。単数中性の属格/与格(his/him)は男性と同形である。複数は、現代では古ノルド語から借用した'they'がどの性でも使われるようになったため、英語本来の三人称複数代名詞はなくなってしまった。
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統語論
要約
視点
古英語の文法は概ね現代英語に似ているが、いくつかの重要な違いがある。例えば名詞、動詞が活用するため語順はより自由であった。またそれ以外にも基本的な語順や否定、疑問、関係節、従属節の構成にも差異が存在する。
- 通常の語順はV2語順であり、現代英語よりも現代ドイツ語に近い。
- 疑問や否定に助動詞"do"を用いない。
- 文章中に複数の否定語を用いて否定の意を強調した。
- 現代英語における"When X, Y"のような従属節は wh-で始まる語を用いず、th-で始まる語を用いる。(例えば "When X, Y"はþā X, þā Y)
語順
古英語の語順は比較的柔軟性があり、名詞や形容詞、動詞の活用によって文における関係性を示した。文中の句が位置を変えることはよくあり、また句中においてその要素の位置がかわることすらあった。 例えば『ベーオウルフ』の708行にはwrāþum on andanとあるが:
wrāþum | on | andan |
敵対的な.DAT.SG | 〜を持って | 悪意.DAT.SG |
"敵意を持って" |
となっている。 長い文中における外位置の句は散文においてもよく見られる。Cynewulf and Cyneheardの冒頭では、
- Hēr Cynewulf benam Sigebryht his rīces ond Westseaxna wiotan for unryhtum dǣdum, būton Hamtūnscīre; ...
- (逐語訳) "Here Cynewulf deprived Sigebryht of his kingdom and West Saxons' counselors for unright deeds, except Hampshire"
- (意訳) "Here Cynewulf and the West Saxon counselors deprived Sigebryht of his kingdom, other than Hampshire, for unjust actions"
となっている。ここではond Westseaxna wiotan ("and the West Saxon counselors")が文中からはずれ外位置に置かれている。格を見ることでこの識別をすることが可能であり、語形から“wiotan”(“counselors”)が主格か対格であり、属格であるrīces("kingdom")及び属格を支配する”benam(“deprived”)に続くのではないということがわかる。
古英語における主節はV2語順を持つ傾向があり、動詞は文の第一要素によらずに第二要素におかれる。このことは現代英語にも反映されており、"Hardly did he arrive when ...", "Never can it be said that ...", "Over went the boat", "Ever onward marched the weary soldiers ...", "Then came a loud sound from the sky above" などの句がその例である。一方で古英語においてはこの傾向がより強く、現代ドイツ語に匹敵する。仮に主語が最初に置かれるとSVO語順となるが、他にもOVSやVSOと言った語順もありえる。
一方で従属節における語順はまったく異なっており、動詞は文の最後に置かれることが規範であり、やはり現代ドイツ語に近い。しかし詩においてはこれらの規則は破られることが頻繁に起こる。例えば『ベーオウルフ』においては主節において動詞が文の最初や最後に置かれ、従属節では動詞が第二要素となるといったことがよく見られる。(ただし “〜の時” や “その後〜” を表すþāで始まる節では通常の語順がほぼ常に守られる。)
ノーム・チョムスキーの変形文法の枠組みの中で研究している言語学者は古英語(及びその他のゲルマン語族)の基礎にSOV語順が存在し、この現代ドイツ語のような語順パターンでそれらの言語を表現することがより正確であるとしている。この理論によると、全ての文はまずこの語順で生成され、主節においては動詞がV2位置に移動されるのである。この理論は古英語において主語と動詞が入れ替えられることで疑問文を形成することができることを説明しているとされている。(現代英語ではこの機能が助動詞のみに限定され、他の動詞は“do”を使う必要がある。)
疑問
古ノルド語との類似性から、古英語において疑問文を形成するためには基本的に語順をSVOからVSOに変化させたのだと一般的に考えられている。一方で古英語の語順はより自由であったという主張も多く、節の主語、目的語、動詞の位置に対する慣例も存在する。
- "I am..." が "Am I..."となり、
- "Ic eom..." が "Eom ic..."となる。
関係節と従属節
古英語では関係節及び従属節を表すために“Who, When, Where” に相当する語は使用されなかった。例:関係節 (as in "The man whom I saw"), 従属節 ("When I got home, I went to sleep").
その代わりに関係詞としては以下のようなものが使用された。
- 不変化補文標識 þe
- 指示代名詞 se, sēo, þat
- 上記2つの複合 se þe
前置詞を関係詞の前に置くようなことは通常起こらない。例:("The man with whom I spoke")
従属節は相関接続詞によって表現する。
- Þā ic hām ēode, þā slēp ic.
- (逐語訳) "Then I home went, then slept I."
- (意訳) "When I went home, I slept."
通常、語順によって従属節(V2語順)と主節(動詞が文の最後)を区別する。
現代英語の"who, when, where" に相当する語はギリシャ語やサンスクリットと同様に疑問代名詞及び不定代名詞としてのみ使用される。
従属節は þā ... þā ... に加え、その他の相関接続詞によっても表され、普通は同じ接続詞が繰り返される。
- þǣr X, þǣr Y: "Where X, Y"
- þanon X, þanon Y: "Whence (from where) X, Y"
- þider X, þider Y: "Whither (to where) X, Y"
- þēah (þe) X, þēah Y: "Although X, Y"
- þenden X, þenden Y: "While X, Y"
- þonne X, þonne Y: "Whenever X, Y"
- þæs X, þæs Y: "As/after/since X, Y"
- þȳ X, þȳ Y: "The more X, the more Y"
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関連項目
参考文献
- Brunner, Karl (1965). Altenglische Grammatik (nach der angelsächsischen Grammatik von Eduard Sievers neubearbeitet) (3rd ed.). Tübingen: Max Niemeyer.
- Campbell, A. (1959). Old English Grammar. Oxford: Clarendon Press.
- Mitchell, Bruce & Robinson, Fred (2001) A Guide to Old English; 6th ed. Oxford: Blackwell Publishing ISBN 0-631-22636-2
- Quirk, Randolph; & Wrenn, C. L. (1957). An Old English Grammar (2nd ed.) London: Methuen.
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