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無断学習
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無断学習(むだんがくしゅう)とは、著作権者など、通常、権利者とみなされる者に対して、無断で人工知能にコンテンツを機械学習させることを指す。著作権等の権利侵害の可能性があり、訴訟や抗議活動の対象となっている。
日本においては、2018年の改正で新たに著作権法30条の4の例外規定が設けられ、文化庁はこの条文を根拠に、一部の例外を除き、著作物を人工知能に無断学習させることが原則として認められるとしている。「著作権者の利益を不当に害する」場合は例外とされるが、その基準は不透明で、日本新聞協会などは、同法を改正し、機械学習を著作権者が拒否できたり、学習時に著作権者の許諾を得たりする制度の創設を訴えている[1]。
概要
要約
視点
2018年の法改正で設けられた著作権法30条の4は、「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」は「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」を除き、原則として無許諾でコンテンツを利用できるとしている。
→詳細は「機械学習 § 訓練データの著作権」、および「著作権」を参照
文化庁の2023年12月での見解では、著作権者が自分のコンテンツから収益を得る機会が減ったり、潜在的なコンテンツの売り先が減ったりする可能性があるかに注目し、その可能性がある場合は、権利者の許諾を要するとする考え方を示している。報道機関等が有償提供するデータベースを無断利用したり、著作権者がAI学習拒否の意思表示の意味で複製防止措置を講じている場合や、許諾が必要になるという考えを示している[2]。
この法改正にあたっては、2015年11月から、AIやビッグデータなど「第4次産業革命」を念頭に、学者や弁護士らで構成するワーキングチームが、産業界からの意見を踏まえ、議論を開始した。2016年に権利者側へのヒアリングを実施したが、権利侵害の恐れは明示しなかった。日本音楽著作権協会(JASRAC)などの権利者団体から、権利侵害を前提としたビジネスの進展に懸念が示されたが、当時は権利侵害のリスクはゼロか軽微と説明されていた[3]。
委員であった弁護士の龍村全は、「生成AIは視野に入っていたが、ここまで急速に発展するとは想定していなかった」とし、神戸大学の前田健教授は「ChatGPTのような対話型AIの出現は、予想よりもだいぶ早かった」と述べ、弁護士の牧野和夫も、「法改正時は生成AIの飛躍的な進歩は想定されていなかった」としている。一連の法改正について、読売新聞は、「国内のIT技術の興隆を優先させ、著作権の保護」を弱めたい政府の姿勢が表れていると批判している[3]
法改正にも関わった早稲田大学の上野達弘教授は、著作権法30条の4を、著作物の学習をほぼ無制限に認めるものとして、「この規定を活用し、AI技術を向上させるべきだ」とし、法改正により「機械学習パラダイス」となった日本の現状を生かし、海外のIT企業を誘致すべきとの見解を示している[4]。
イラストや漫画などの創作者でつくる「クリエイターとAIの未来を考える会」は、「AIによる著作物の無断学習が創作活動に悪影響を与えている」と訴えている。現行の著作権法に、機械学習の前提として、権利者から事前に許可を得る仕組みになっていない問題を挙げた。自身の作品が海外の画像生成AIの学習に無断で使われていた漫画家は「AI企業の利益のために汗水流しているようで、釈然としない」と苦言を呈している[4]。
著作権法を専門とする一橋大学の長塚真琴教授は、現行の著作権法30条の4について、海外の専門家から過度に「AI開発を優遇」していると疑問を呈されるほど、先進国の法制で特異な規定であるとし、商用と非商用を分けていないなどの問題点を指摘し、今後の法改正で、オプトアウトを取り入れるなど、権利者保護を強化すべきであると提言している[4]。
弁護士の河瀬季は、robots.txtなどの技術的措置に法的な効力を持たせられるような制度・仕組みが整備が望ましく、企業の自主規制では不十分であり、国主導の制度設計が必要であるとしている。原則として、AI企業と著作権者がライセンス契約を締結することで、学習データ提供者に対価を還元できるような仕組みが構築されることが望ましいとし、日本音楽著作権協会(JASRAC)のような著作権管理団体により、ライセンス料の支払いを管理することも選択肢としてあり得るとしている[5]。
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対応
要約
視点
日本新聞協会の対応
日本新聞協会は、AIの学習に著作権者の許諾を必要にするなどの法改正を求めているが、 政府は否定的である。文化庁の見解では、現行の著作権法の下、AI学習対応からの除外は、著作権者の意思表示だけでは困難であるとされる。読売新聞グループ本社は2025年8月、パープレキシティを東京地裁に提訴、日経新聞社と朝日新聞社も同月、記事の無断学習や無断利用により、それぞれ22億円の損害賠償請求訴訟を起こしている[6]。
小学館、講談社など
2025年10月にリリースされた動画生成AIのSora2で、「ポケットモンスター」など著名作品に酷似した動画が生成されたことについて、スタジオジブリ、小学館、講談社、集英社、KADOKAWA、東映や民放各社などが加盟するコンテンツ海外流通促進機構(CODA)は、合同で抗議声明を開発元のOpenAIに提出した[7]。
主に「コンテンツを無許諾で学習対象としないこと」「生成物に関連する著作権侵害についての申立て・相談に真摯に対応する」ことなどを求めた[8]。CODAは、日本のコンテンツを学習データとして取り込んだことにより、キャラクターが生成されているとして、学習の過程で著作物を複製しており、著作権侵害に該当し得ると指摘している[7]。
CODAの代表理事の後藤健郎は、日本のアニメキャラクターが無断使用され、10月末時点でも、キャラクター名など固有名詞を入力しても生成されなくなったものの、作品に特徴に関する用語を入れることで、キャラクターや服装、背景、音声まで原作に酷似した動画が生成されてしまう現状であると指摘した。OpenAIの「オプトアウト」による対応についても、全ての作品データを送ることは不可能であり、具体的な手続きも明示しておらず、日本の著作権法にも適合していないと批判した。さらにOpenAIがディズニーに対しては事前に打診をして、断られていることを指摘し、日本のIPに対するリスペクトを欠いていると批判する[9]。
集英社は単独でも声明を発表し、「生成 AI サービスを提供する側が、その責任のもと、早急に「オプトアウト方式」以上の実効的な侵害対策、権利者に対する救済策を打ち出さない限り、 コンテンツ産業の基盤を揺るがし続ける生成 AI サービスを利用した侵害のスパイラルは止まらない段階にきています。法整備を含め、コンテンツ保護に向けた国家レベルでの対応も不可欠です」と訴えている[10]。
与党の対応
自民党の塩崎彰久は、OpenAIが公開した動画生成AIのSora2が日本のアニメキャラクターに類似したコンテンツを生成できることについて、明らかに著作権侵害であることを指摘した。一部で見られるAI生成と二次創作を同一視する意見についても、AIで大量にアニメを生成する行為と同人誌をコミケで売るのでは重大性が違う」と述べている。クリエイター側から多く寄せられる、開発時の無断学習を規制すべきという意見については、政府の方針として「原則学習はOK、アウトプットはダメ」と結論づけたとして否定的な見解を示した。自国で制御できる国産AIの開発についても、「すぐ時代遅れになる可能性が高い。AIを使えるルートを複数確保するやり方でもAI主権は守れる」と主張した。[11]。
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脚注
関連項目
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