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神経特異エノラーゼ
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神経特異エノラーゼ(しんけいとくいエノラーゼ、英語: neuron-specific enolase:NSE、γ-エノラーゼ(gamma-enolase) )とは、解糖系酵素エノラーゼのアイソザイムの一つで、神経細胞や神経内分泌細胞に分布している。肺小細胞癌、神経芽腫などの腫瘍マーカーとして用いられる[1]。





生理的意義
要約
視点
エノラーゼ
エノラーゼ(ホスホピルビン酸ヒドラターゼともいう、EC 4.2.1.11)はグルコースをピルビン酸に変換してアデノシン三リン酸(ATP)を産生する解糖系を構成する酵素の一つであり、2-ホスホグリセリン酸がホスホエノールピルビン酸に変換される反応、および、その逆反応(糖新生時)を触媒する。 エノラーゼは、多くの細胞種で豊富に発現されるタンパク質の一つであり、かつ、進化的に高度に保存されたアミノ酸配列をもっている。 また、エノラーゼは本来の酵素作用以外に、アイソフォームごとに異なる多様な非酵素的機能を持つことが知られている[2]。
エノラーゼのアイソザイム
ヒトのエノラーゼには、エノラーゼ1(α)、エノラーゼ2(γ)、エノラーゼ3(β)の3つのサブユニット(アイソフォーム)があり、それぞれ、ENO1、ENO2、ENO3遺伝子にコードされている(この他にもエノラーゼ様遺伝子ENO4などが報告されているが、それらの機能は十分解明されていない)[2]。
NSEに特徴的なサブユニットはエノラーゼ2(ENO2)であり、ヒトでは、通常、433アミノ酸残基とされる[3]。
エノラーゼが酵素活性をもちうるのはダイマーを形成したときであり、ホモダイマーの αα、ββ、γγ、ヘテロダイマーの αβ、αγ の5つ(βγ はヒト体内では存在しない)の形態があり、それぞれ、エノラーゼのアイソザイムと位置づけられる。(なお、ダイマーにさらにマグネシウムイオンがサブユニットごとに2個、合計4個結合して、最終的に酵素活性をもつエノラーゼとなる)[2]。
アイソザイム αα はα-エノラーゼと呼ばれ、胎児の全組織に分布しているが、成熟に従って、骨格筋や心筋では αβ および ββ のアイソザイム(併せてβ-エノラーゼと呼ばれる)に、 神経細胞および神経内分泌細胞においては、αγ および γγ のアイソザイム(併せてγ-エノラーゼ=神経特異エノラーゼとよばれる)に置換されていく。その他の組織(成人の組織の大部分)ではα-エノラーゼのままである[3] [4][2]。
神経特異エノラーゼ
神経特異エノラーゼ(Neuron Specific Enolase:NSE、エノラーゼ2、γ-エノラーゼ)はエノラーゼのαγ および γγ のアイソザイムを意味し、中枢神経系に広く分布している[4]。NSEは脳の部位により異なるが、脳の可溶性タンパク質の0.4から2.2 %を占めている[4](胎生期には中枢神経系にはα-エノラーゼが発現しているが、脳の成熟に従い、γ-エノラーゼ(NSE)に移行していく)。 NSEのγγ アイソザイムはほとんどが成熟した神経細胞にみられ、神経系の成熟と分化のマーカーとしても用いられる。 NSEのαγ アイソザイムは神経系以外の細胞に多くみられる[3]。
NSEは神経細胞(ニューロン)、および、神経内分泌細胞のマーカーとして利用されているが、神経細胞・神経内分泌細胞以外にも、赤血球、血小板、乳腺組織、前立腺、子宮、などで少量の発現がみられる[3]。
NSEは酵素作用以外にも多彩な生理活性をもっており、神経細胞の形成、神経保護作用、神経成長促進作用、などが報告されており、 これらの活性はNSEのC末端部分で担われているとされる[2][3]。
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臨床検査としての神経特異エノラーゼ
要約
視点
血清神経エノラーゼは、主に神経細胞系・神経内分泌細胞系の腫瘍の腫瘍マーカーとして用いられる。 また、中枢神経系の損傷を反映することが知られている[3][2]。
腫瘍マーカー
NSEは神経細胞系の腫瘍(神経芽腫(神経芽細胞腫)、網膜芽腫)、および神経内分泌細胞系の腫瘍(肺小細胞癌、甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、ガストリノーマ、インスリノーマ、カルチノイド、など)で上昇する。 NSEは上記の腫瘍の診断の補助、治療経過のモニター、などに利用される[1]。 肺小細胞癌では、限局型[※ 1]で感度20-40 %、進展型[※ 1]で感度62-81 %である[1]。 一般に、治療前のNSE高値は予後不良を示唆する。治療後のNSE低下は治療の有効性(予後良好)、逆に上昇は治療無効ないし再発・転移を示唆する[3]。 無症状の人のスクリーニングには不適である[1][5]。
また、上記以外の非小細胞性肺癌、および、乳癌、卵巣癌、食道癌、胃癌、膵癌、大腸癌、悪性黒色腫、などでも上昇することがある[1][3]。
なお、脳腫瘍では、通常、血中NSEの上昇はみられないが、脳脊髄液中のNSEは上昇していることがある[3]。
悪性腫瘍以外では、良性の肺疾患、腎不全、後述の各種脳損傷、重症低血糖、良性の肝疾患、全身性硬化症、など、 種々の良性疾患で血中NSEが上昇しうることが報告されている[3]。
- 関連する腫瘍マーカー
肺小細胞癌の腫瘍マーカーとしては、NSEの他に、ガストリン放出ペプチド前駆体(ProGRP)がある。 ProGRPはNSEと比較して上昇率が高く、早期から陽性になるとされる[1]。
→「ガストリン放出ペプチド前駆体」も参照
- 腫瘍マーカーとしての基準値
腫瘍マーカーとしてのカットオフ値は検査試薬により異なる。ECLIA法(電気化学発光免疫測定法)試薬については、16.3 ng/mLとの文献がある[6][7]。
中枢神経系の損傷のマーカー
NSEは、中枢神経系の損傷に伴い血中濃度が上昇する。 脳梗塞、脳出血、外傷性脳損傷、無酸素性脳障害、痙攣重積、 脊髄損傷、敗血症に合併する脳障害、等での 上昇が報告されている。 NSEはアメリカ心臓協会の「心肺蘇生と救急心血管治療のAHAガイドライン2025」で心肺蘇生後の神経機能予後評価に用いうる血清バイオマーカーの一つとして言及されているが、 NSE単独ではなく、他の予後指標と併せて判断することが求められている[8]。 NSEの問題として、溶血による偽高値や、 血中半減期が約30 時間と長く変化が遅いため即時的な指標として使いにくいこと[3]、などが指摘されており、 一般的な中枢神経系の損傷のバイオマーカーとして広く採用されるには至っていない[2][3]。
検査の方法
NSEは、通常、静脈血血清を材料として、ECLIA法(電気化学発光免疫測定法)、CLEIA法(化学発光酵素免疫測定法)などの免疫学的検査法により測定される[1]。 なお、採血後、血球内のNSEが徐々に血清に移行するため、採血後1時間以内の血清分離が推奨されている[3]。
留意事項
NSEはモノクローナル抗体を用いた免疫学的検査法で定量されるが、 この抗体はNSEのγγアイソフォームのみならず、αγアイソフォームとも交差反応する。 αγアイソフォームは赤血球や血小板中にも含まれており、肉眼的に認められないほどの僅かな溶血でもNSEの測定に影響を与えて偽高値をもたらすので注意を要する[4]。
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脚注
関連項目
外部リンク
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