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羊飼いの礼拝 (エル・グレコ、バレンシア)
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『羊飼いの礼拝』(ひつじかいのれいはい、西: Adoración de los pastores、英: Adoration of the Shepherds) は、ギリシア・クレタ島出身で主にマニエリスム期のスペインで活動した画家エル・グレコが1602年に制作したキャンバス上の油彩画である。研究者ハロルド・エドウィン・ウェゼイによれば、エル・グレコと工房は「羊飼いの礼拝」の主題で9点の絵画を制作した。本作は現在、バレンシアのパトリアルカ美術館 (Museo del Patriarca) に所蔵されている[1][2]。ウェゼイのカタログ・レゾネ (作品総目録) では作品番号26、ティツィアーナ・フラーティ (Tiziana Frati) のカタログ・レゾネでは作品番号133-aとして記載されている[3]。
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主題
本作の主題である「羊飼いの礼拝」は「キリスト降誕」に代わる意味を持っていた。『新約聖書』では、キリスト降誕に関しては「マタイによる福音書」と「ルカによる福音書」にわずかな記述があるにすぎない[4][5]。前者には「マリアは子を生んだ」(1章25) とのみ記され、後者では「そこユダヤのダビデの町ベツレヘムにいる間に、マリアは産気満ちて初子を生んだので、まぐさおけに子を横たえた、それは旅籠に部屋がなかったからである」 (2章6-7) とわずかに状況描写を交えて描かれている。ルカは続いて、「羊飼いたちへのお告げ」と「羊飼いの礼拝」について語り、マタイは「東方三博士の礼拝」の様子を記述している[4][5]。このように、「キリストの降誕」と「羊飼いの礼拝」、「東方三博士の礼拝」はすべて救い主キリストの降誕に関するものであるが、本来は異なった主題なのである。にもかかわらず、エル・グレコの時代には明確な区別はなく、画家の遺産目録でも「羊飼いの礼拝」はすべて「降誕図」とされている[4]。
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作品
「羊飼いの礼拝」の主題は、エル・グレコが生涯にわたって取り組んだものである[1]。この主題における様式は、マドリードにあったエンカルナシオン学院(通称ドーニャ・マリア・デ・アラゴン学院)のための祭壇衝立の一部であった『羊飼いの礼拝』(ルーマニア国立美術館、ブカレスト) において完成する。それは図像学的にはやや特異であるが、イエス・キリストから発する光によって幻想的な雰囲気が生まれ、聖母マリアがイエスを羊飼いたちに示すという点で、それ以降にエル・グレコが描いた同主題作の原点ともいえる作品である[1]。
ブカレストの作品以降、エル・グレコが「羊飼いの礼拝」を描いた作品は4点が現存する[1]。本作にもとづくディエゴ・デ・アストールの版画が1605年に制作されていることから、本作はそれら4点の中で最も早い時期の1600-1605年の間に描かれたと考えられる。ブカレストの作品との共通点も多く、画面中央のイエスの体と白い布が輝き、それにより赤い衣服を纏ったマリアの姿は鮮やかに照らし出され、羊飼いたちの姿も逆光の中に浮かび上がっている。近景の2人の羊飼いの姿は、その1人が左右反転しているものの、ブカレストの作品のモティーフと同じである。また、背景を覆うアーチ型構造の廃墟、および左後方の樹木もブカレストの作品のモティーフをそのまま踏襲している。厩舎にまでこのような建築物を用いたことは、建築に関する画家の深い関心を示している[1]。
イエスの傍らには牛の頭、飼い葉おけの下にはイエスを象徴する犠牲の子羊、左端には1頭のラバが描かれている。また、右側遠方には、羊飼いたちがイエスの誕生を天から告げられる光景が小さく表されている[1]。なお、ニューヨークのメトロポリタン美術館には、本作と同じ構図を持つが、激しい筆致が見られる最晩年の『羊飼いの礼拝』が所蔵されている[1]。
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歴史
本作は、現在パトリアルカ美術館となっているコルプス・クリスティ学院にずっと所蔵されてきた。しかし、その設立者フアン・デ・リベラの死後に収蔵されたのか、もっと後になって収蔵されたのかは不明である。エル・グレコの作品を収集していたドン・ペドロ・ラソ・デ・ラ・ベガ (Don Pedro Laso de la Vega, 1559–1637年) から寄贈されたのかもしれない。彼の妻はフアン・デ・リベラと親戚であった。また、バレンシア大司教フアン・デ・リベラの後継者であり、トレド大司教区とも非常につながりのあったイシドロ・アリアーガ・マルティネス修道士から寄贈されたのかもしれない[6]。
エル・グレコの同主題作
脚注
参考文献
外部リンク
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