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羊飼いの礼拝 (エル・グレコ、1570年ごろ)

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羊飼いの礼拝 (エル・グレコ、1570年ごろ)
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羊飼いの礼拝』(ひつじかいのれいはい、西: Adoración de los pastores: The Adoration of the Shepherds) は、ギリシャクレタ島出身で主にマニエリスム期のスペインで活動した画家エル・グレコキャンバス上に油彩で制作した絵画である。制作年代については1570年以前[1]、または1570-1572年ごろ[2]という見方がある。「羊飼いの礼拝」を主題とした作品は画家が繰り返し何度も描いてきたが、本作は『モデナの三連祭壇画エステンセ美術館モデナ) の左翼パネルに描かれている同主題の場面に次ぐ初期の作例である[1]。かつてジョヴァンニ・ランフランコ[2]、次いでヤコポ・バッサーノに帰属されていた[1][2]が、1951年以来、エル・グレコの真作であることが一致して認められている[2]。現在、ケタリング (イングランド) のバクルー公爵家のコレクションに所蔵されている[1][2]

概要 作者, 製作年 ...
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主題

本作の主題である「羊飼いの礼拝」は「キリスト降誕」に代わる意味を持っていた。『新約聖書』では、キリスト降誕に関しては「マタイによる福音書」と「ルカによる福音書」にわずかな記述があるにすぎない[3][4]。前者には「マリアは子を生んだ」(1章25) とのみ記され、後者では「そこユダヤダビデの町ベツレヘムにいる間に、マリアは産気満ちて初子を生んだので、まぐさおけに子を横たえた、それは旅籠に部屋がなかったからである」 (2章6-7) とわずかに状況描写を交えて描かれている。ルカは続いて、「羊飼いたちへのお告げ」と「羊飼いの礼拝」について語り[1]マタイは「東方三博士の礼拝」の様子を記述している[3][4]。このように、「キリストの降誕」と「羊飼いの礼拝」、「東方三博士の礼拝」はすべて救い主キリストの降誕に関するものであるが、本来は異なった主題なのである。にもかかわらず、エル・グレコの時代には明確な区別はなく、画家の遺産目録でも「羊飼いの礼拝」はすべて「降誕図」とされている[3]

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作品

本作では、「羊飼いの礼拝」を表現するのにきわめて一般的な方法が用いられている[1]。破れた屋根の下、飼葉桶の上には裸のイエスが眠り、イエスから発せられる光によって、手を合わせて祈る聖母マリアと、畏敬と驚きの仕草を見せる3人の羊飼いの姿が照らし出されている。聖ヨセフは、白髪の老人としてマリアの後方に目立たぬように描かれている。場面が厩舎であることを示すため、飼葉桶の背後の薄闇の中には1頭の牛と1頭のラバが描かれている。画面の遠方には、「ルカによる福音書」の記述に従い、3人の羊飼いと白馬に乗った天の軍勢が降り注ぐ光の中に小さく表されている。画面手前には草花が丹念に描かれているが、これはエル・グレコのスペイン時代によく見られるモティーフである[1]

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エル・グレコ『盲人の治癒』(1567-1570年頃)、アルテ・マイスター絵画館ドレスデン

本作に描かれた3人の羊飼いとヨセフの姿は、衣装と顔の表情こそ異なるものの、基本的な姿勢において『モデナの三連祭壇画』中の「羊飼いの礼拝」と一致する。しかし、『モデナの三連祭壇画』は色調が朱色と黄色が主で、筆致も細かく、衣服のハイライトや襞の描写にはビザンチン美術形式主義が感じられる[1]。それに対し、ヴェネツィア派のヤコポ・バッサーノ風の夜景を描いた[1][2]本作は、マリアの赤色の衣と青色の外套、羊飼いの青、黄、緑色の衣服などがある程度バッサーノに共通しているとはいえ、エル・グレコらしい色調を示し、ハイライトをつける筆致も自然なものとなっている。その色調と筆致は、ドレスデンアルテ・マイスター絵画館にある『盲人の治癒』にかなり類似している。また、羊飼いたちの顔立ちにもエル・グレコの特徴がよく現れ、特に巻き毛の青年はドレスデンの作品にも登場する[1]

本作は『モデナの三連祭壇画』を出発点としながらもビザンチン的様式を脱却し、ヴェネツィア派の色彩と空間表現を習得しつつあった当時のエル・グレコの状況を明瞭に示している。同時に、すでにエル・グレコ独自の様式をも示しているが、ローマ的な要素は見られない。画家がクレタ島からヴェネツィアに渡ったのは早くとも1567年であり、またローマに移ったのは1570年11月であることから、本作品の制作年代をローマへ移る直前の1570年以前とする見解の根拠となっている[1]

なお、X線調査によれば、画面上部は完全に描きなおされており、最上部は切断されている[2]

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エル・グレコの「羊飼いの礼拝」

脚注

参考文献

外部リンク

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