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CHESS法
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CHESS法(チェスほう、英: chemical shift selective imaging)は、磁気共鳴画像法(MRI)における代表的な脂肪抑制技術であり、水と脂肪のわずかな共鳴周波数差を利用して脂肪信号を選択的に抑制する手法である。脂肪信号を効果的に除去することで、腫瘍や炎症、神経変性疾患などの診断能を高める役割を果たす。特に頭頸部や整形外科領域で広く用いられる脂肪抑制法の一つである。一方で磁場不均一に弱く、撮像部位によっては抑制不良やアーチファクトが生じるため、STIR法やDixon法といった他の技術と使い分けられることも多い。
定義と物理原理
CHESS法(chemical shift selective imaging)は、磁気共鳴画像法(MRI)における代表的な脂肪抑制技術であり、脂肪と水のプロトンが持つ化学シフトの差を利用して選択的に脂肪信号を抑制するものである[1]。脂肪分子に含まれるプロトンは水分子に比べ電子による遮蔽効果が大きいため、外部磁場中でわずかに低い共鳴周波数を示す。この周波数差(化学シフト)は磁場強度に比例し、1.5テスラでは約220–224 Hz、3テスラでは約440–448 Hzに相当する[2]。
CHESS法はこの周波数差を利用して、脂肪共鳴に一致する狭帯域の高周波パルスを照射し、脂肪信号を選択的に飽和させる。その後クラッシャー勾配によって横磁化成分を消去することで、脂肪由来の信号を抑制し、水由来の信号のみを取得可能にする[1]。この手法は空間的な位置に依存せず周波数のみで脂肪と水を識別するため、パルスシーケンスに容易に組み込むことができ、多くのT1強調像やT2強調像で利用されている[3]。
また、CHESS法の物理的基盤は、水と脂肪のラーモア周波数の差をRFパルスの選択に反映させる点にあり、この特徴は「周波数選択的脂肪抑制」と呼ばれる。他の方法(STIRなど)がT1緩和時間差を利用するのに対し、CHESSは共鳴周波数差に基づく点で区別される[4]。このようにCHESS法は、MRIにおける脂肪抑制技術の中で広く用いられる基礎的かつ汎用的な位置づけを占めている。
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実装と撮像条件
CHESS法の実装は、化学シフトに基づく周波数選択的飽和パルスを用いる点に特徴がある。水と脂肪の共鳴周波数にはおよそ3.5 ppmの差が存在し、磁場強度に依存して数百Hzの周波数差となる。この差を利用し、脂肪プロトンに同調した狭帯域の90°パルスを印加して縦磁化を消失させ、その後の励起パルスで水由来の信号のみを取得することで脂肪信号を抑制する[5][6]。
シーケンスとしてはT1強調像やT2強調像など幅広い撮像に追加可能であり、周波数選択的な飽和パルスは励起直前に付加される。撮像条件の設定においては、共鳴周波数の正確な調整(シミング)が重要であり、静磁場の均一性が不足すると抑制ムラや不完全な脂肪抑制を生じやすい。1.5Tでは約220–224 Hz、3.0Tでは約440–448 Hzの周波数差が得られるため、磁場強度に応じた最適化が求められる[7]。
臨床応用では、頭頸部や体幹部の撮像に際してCHESS法が広く利用されているが、磁場の不均一や空気を多く含む部位では脂肪抑制不良が生じることがある。そのため、プロトコル上ではFOVの大きさや撮像位置に応じてシミング範囲を調整し、抑制効果を均一化する工夫が行われている[8]。また、CHESS法は造影検査の前後で用いられることがあるが、目的に応じて他法と使い分けられる。
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臨床応用
CHESS法は、磁場均一性が比較的良好に保たれる領域において高い脂肪抑制効果を発揮し、頭頸部や四肢など多様な臨床領域で利用されている。頭頸部MRIでは腫瘍性病変やリンパ節の評価において脂肪信号を効果的に抑制し、腫瘍の境界や周囲組織とのコントラストを改善する役割を果たす[9]。特に3T装置を用いた場合には、CHESSの限界を補うためにIDEAL法などとの比較が行われており、一定の条件下ではアーチファクトを低減しつつ診断能を高められることが示されている[10]。
神経領域では、黒質や青斑核の評価を目的とする神経メラニン画像にも応用されている。CHESSパルスを追加することで短時間撮像が可能となり、従来長時間を要した神経メラニン画像の臨床利用を支援する役割が報告されている[11]。
整形外科領域では、関節炎の診断においてCHESS法が用いられる。特に手関節や手指のMRIで炎症性病変の描出に寄与し、骨髄浮腫や滑膜炎の評価に有効である。ただし近年ではDixon法との比較で再現性やコントラストの点で優位性が議論されている[12]。
日本国内の臨床研究では、四肢関節や脊椎の評価においてCHESS法とSTIR法の比較が行われており、特定の条件では脂肪抑制の均一性や関節液の描出に有用性が示された報告がある[13]。
利点・限界とアーチファクト
CHESS法は、化学シフト差を利用した選択的脂肪抑制法として広く臨床で用いられており、高い脂肪抑制効果と撮像効率の良さが利点とされる。水と脂肪の信号を明瞭に分離できるため、腫瘍の周囲評価や炎症性変化の検出に有効であり、造影剤投与前後でも使用可能であることから診断価値を高める役割を果たしている[14]。
一方で、CHESS法は磁場均一性に強く依存するため、B0の不均一が大きい部位や大きな視野(FOV)での撮像時には脂肪抑制不良やムラが生じやすいという欠点を持つ[15]。特に頭頸部の空気を多く含む領域では磁化率の差による局所的な抑制失敗が生じ、これが病変と誤認される危険性が報告されている[16]。
さらに、人工関節や手術後の金属インプラント周囲では磁場不均一が強調され、CHESS法のみでは抑制不良や著しいアーチファクトが残存することがある[17]。そのため、このような環境ではSEMACやMAVRICの併用が有用な選択肢となる。
また、拡散強調画像(DWI)においては、CHESS法が均一な脂肪抑制を提供する一方で、SNRやCNRが低下しやすい点も指摘されている[18]。これにより定量指標であるADC値の計測に影響が及ぶ可能性があり、臨床応用時には留意が必要である。
総じて、CHESS法は高速かつ選択的な脂肪抑制を可能とする優れた技術であるが、磁場環境や撮像対象により限界が存在し、場合によってはSTIR法やDixon法など他の手法との補完的利用が望ましいとされる。
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他法との比較
CHESS法は脂肪と水の共鳴周波数差を利用した周波数選択的抑制であり、脂肪信号を効率的に低減できる点が特徴である。しかし、他の脂肪抑制法と比較した場合、その特性には明確な違いが存在する。特にSTIR法は脂肪のT1特性を利用するため磁場不均一に強く、均一性の高い抑制が可能であるが、信号対雑音比(SNR)の低下や撮像時間の増加といった制約を伴う[19]。
一方で、Dixon法は複数のエコータイムを利用し、水と脂肪の位相差を解析することで分離する手法であり、磁場不均一に強く脂肪定量等への応用も報告されている[20]。近年ではMultipoint Dixon法やIDEAL法といった改良型が開発され、頭頸部や腹部における高精度な脂肪抑制に寄与している[21]。
臨床応用においては、頭頸部MRIでの比較研究により、CHESS法は高速かつ高コントラストの画像を得やすい一方、磁場不均一による脂肪抑制不良が課題となることが示されている。これに対してSTIRやMultipoint Dixon法はより安定した脂肪抑制を提供し、診断精度向上に寄与する場合がある[22][23]。したがって、CHESS法は短時間での撮像や均一磁場下では有用だが、強い磁場不均一が存在する部位ではSTIRやDixon法の方が臨床的に適しているとされる。
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脚注
関連項目
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