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SCF複合体

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SCF複合体
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SCF複合体(SCFふくごうたい、: SCF complex [Skp, Cullin, F-box containing complex])は複数のタンパク質からなるE3ユビキチンリガーゼ複合体で、タンパク質を26Sプロテアソームによる分解の標的とするためのユビキチン化を触媒する[2]後期促進複合体とともに、SCF複合体は細胞周期に関与するタンパク質のユビキチン化に重要な役割を果たす。また、SCF複合体は他のさまざまなタンパク質も分解の標的とする[3]

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(a) SCF複合体を構成する3つのコアサブユニットの模式図。(b)  ヒトのSCF複合体のモデル。ヒトのRbx1–Cul1–Skp1–Skp2複合体とE2酵素Ubc7のX線結晶構造から合成したもの。このモデルではユビキチンは示されていないが、E2酵素の活性部位のシステインが青で示されている[1]。PDB: 1fbv1ldk1fqr
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構成要素

SCF複合体はさまざまなF-boxタンパク質と3つのコアサブユニットが含まれる。

  • F-boxタンパク質(FBP)– FBPは、まずSCF複合体非依存的に標的タンパク質に結合し、SCF複合体の基質特異性に寄与する。各FBP(Skp2など)はそれぞれいくつかの異なる基質を認識するが、認識はリン酸化グリコシル化などの翻訳後修飾に依存している。その後、FBPはF-boxモチーフを利用してSCF複合体のSkp1に結合し、標的タンパク質を機能的なE2ユビキチン結合酵素の近傍へと運ぶ。また、FBPは細胞周期の各段階におけるSCFの活性の調節にも必要不可欠である。SCF複合体のタンパク質レベルは細胞周期を通じて一定であるが、FBPのタンパク質基質に対する親和性はサイクリン-CDKを介した標的タンパク質のリン酸化によって調節されている[4]
  • Skp1英語版– Skp1はF-boxタンパク質の認識と結合に必要不可欠なアダプタータンパク質である。
  • CullinCUL1英語版)– CullinはSCF複合体の主要な構造的足場を形成し、Skp1とRbx1を連結させる。CullinとFBPのさまざまな組み合わせによって、さまざまな基質を標的とする約100種類のE3ユビキチンリガーゼが形成される[5]
  • Rbx1英語版– Rbx1は亜鉛を結合する小さなRINGフィンガードメインを含んでおり、E2ユビキチン結合酵素を結合する。この結合によって、E2酵素から標的タンパク質のリジン残基へユビキチンの転移が行われる。
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発見

SCF複合体の発見を導く最初の手がかりは、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの遺伝的スクリーニングから得られた。cdc4cdc34cdc53などの細胞周期の進行に異常がみられる温度感受性変異体は、DNA複製が起こっていない状態でG1に細胞周期が停止し、複数の出芽がみられる[6][7]。この表現型はS期サイクリン-CDK複合体の阻害因子であるSic1英語版を分解できないことが原因であった[6]。これらの発見から、G1/S期の移行にタンパク質分解が重要であることが示された。

続いて、生化学的研究によりCdc34英語版がE2酵素であり、Cdc34はSkp1、Cdc4英語版といくつかのタンパク質が含まれるE3ユビキチンリガーゼ複合体と物理的に相互作用することが明らかにされた[6]。Skp1の既知の結合パートナー、具体的にはSkp2、サイクリンF、Cdc4は約40残基からなる共通したモチーフを持つことが判明し、F-boxモチーフと名付けられた。これらの発見に続いて提唱されたF-box仮説[8]では、F-boxタンパク質が分解標的となる基質をリクルートし、Skp1がF-boxタンパク質とコアユビキチン化複合体を関連付けているとされた。

その後の線虫Caenorhabditis elegansでの遺伝学的研究により、他のSCF複合体の構成要素が解明された[8]

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細胞周期の調節

要約
視点

真核生物の細胞周期[9]は、調節タンパク質の合成、分解、結合による相互作用、翻訳後修飾によって調節されている。こうした調節タンパク質の中で、2つのユビキチンリガーゼが細胞周期チェックポイントの通過に重要である。後期促進複合体(APC)は中期から後期への移行を制御し、一方SCF複合体はG1/S期とG2/M期の移行を制御する。具体的には、SCFは終期の終わりからG1/S期の移行にかけての中心小体の分裂を制御することが示されている[2]

SCFの活性は翻訳後修飾によって大きく制御されている。例えば、ユビキチンを介したFBPの自己触媒分解はSCFの活性を低下させる機構の1つである。

SCF複合体の基質となる細胞周期関連タンパク質としてよく特徴づけられているものには次のようなものがある。

ヒトには約70種類のFBPが存在し、そのいくつかはSCF複合体の構成要素として細胞周期の制御に関与している[11]

Skp2はp27Kip1やp21などのCKIに結合するFBPである。p27Kip1サイクリンA/E-CDK2によってリン酸化されており、Cks1に結合しているときにのみ、Skp2はp27Kip1を結合する。Skp2の結合によって、p27Kip1はG1期の終盤とS期の序盤にユビキチン化されて分解の標的となる[4]。SCF-Skp2は、p130もリン酸化依存的に分解標的とする。

βTrCP(β-transducin repeat-containing protein)は、有糸分裂初期にWee1と、APC-Cdh1英語版の阻害因子であるEmi1英語版を分解の標的とするFBPである[10]。βTrCPは、これらがPlk1またはサイクリンB-CDK1によってリン酸化された後に基質として認識を行う。

Fbw7英語版は酵母Cdc4のヒトホモログであり、サイクリンE、Myc、Notchc-Junを分解の標的とするFBPである[4]。Fbw7は細胞周期を通じて安定であり[12]核局在化配列が存在するために局在している[13]。SCF-Fbw7はSwi5とSic1(p27Kip1、9つのリン酸化部位のうち少なくとも6つがリン酸化されている場合)を分解の標的とする[14]。Sic1は通常サイクリンB-CDK1を阻害することでS期への移行を防いでおり、Sic1が分解の標的となることでS期への移行が促進される。Fbw7はいくつかの散発性の癌腫においてハプロ不全英語版型のがん抑制因子であることが示唆されており、すなわち野生型の表現型の破壊には1つのアレルの変異で十分である[15]

Fbxo4英語版は、ヒトの癌腫においてがん抑制因子であることが示唆されている他のFBPである。SCF-Fbxo4はサイクリンD1を分解標的とすることで細胞周期の制御に関与している[4]

サイクリンFは筋萎縮性側索硬化症(ALS)と前頭側頭型認知症(FTD)と関係しているFBPである[16][17]。サイクリンFのリン酸化を阻害する変異はSCF-サイクリンFの活性を変化させ、ALSとFTDでの神経細胞変性と関係した下流の過程に影響を与えている可能性が高い[17]。通常、サイクリンFはE2f1を分解の標的とする。

がん

SCF複合体はヒトの一部のがんでアップレギュレーションされており、また生化学的に明確な活性部位を持つため、魅力的な抗がん剤標的となっている[18]。上述したFBPの多くはがんへの関与が示唆されているが、細胞毒性が薬剤開発の障害となっている[19]

Skp2を標的としたアンチセンスオリゴヌクレオチドsiRNAが創薬パイプラインにあり、予備的研究ではSkp2のダウンレギュレーションによってメラノーマ肺がん細胞、口腔がん細胞、膠芽腫細胞の増殖を阻害できることが示されている[19]

βTrCPを標的としたsiRNAは、乳がん細胞と子宮頸がん細胞に対し既存の化学療法への感受性を高めることが示されている[19]

植物ホルモンシグナル伝達

植物ホルモンオーキシンはTir1(Transport Inhibitor Response 1)タンパク質に結合する。Tir1はAFB(Auxin Signaling F-box Protein)であり、オーキシン受容体として機能する。オーキシンが結合したTir1はSCF-Tir1のAUX/IAAリプレッサーへの結合を促進する。その後のリプレッサーの分解によって、AUX/IAA遺伝子(オーキシン応答性遺伝子)が活性化される[20]

植物ホルモンのジャスモン酸は、FBPであるCoi1タンパク質に結合する。SCF-Coi1はJAZ転写因子に結合し、分解標的とする。JAZ転写因子の分解によってジャスモン酸応答性遺伝子の転写が行われる[21]

出典

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