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Web Content Accessibility Guidelines

ウェブのコンテンツの国際的なガイドライン ウィキペディアから

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Web Content Accessibility Guidelinesウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン、略称:WCAG)は、ウェブのコンテンツを障害者や高齢者を含む全てのユーザーにとって利用しやすくするためのウェブアクセシビリティに関する国際的なガイドラインである。インターネットのための主要な国際標準化機構であるWorld Wide Web Consortium(W3C)のWeb Accessibility Initiative(WAI)によって公開されている。

WCAGの目指すところは主要な障害者に配慮することであり、その結果ほとんどの利用者にとっても使いやすい内容となる。また、技術にも依存しない内容となっている。従って、携帯電話のような非常に機能の限られたデバイスでも、アクセシブルなコンテンツとなる。

2025年現在のバージョンは、2023年10月にWCAG 2.2して公開されている。また、2つ前のバージョンであるWCAG 2.0は、2012年10月に「ISO/IEC 40500:2012」としてISO標準となった。

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概要

ウェブ誕生の黎明期からウェブアクセシビリティに関する議論は行われていた。ウェブの創始者であるティム・バーナーズ=リーは、「Webの力はその普遍性にある。障害の有無にかかわらず、誰もがアクセスできることが不可欠な要素である」と述べている[1]

最初のウェブアクセシビリティ・ガイドラインはグレッグ・ヴァンダーヘイデン(Gregg Vanderheiden)によって編纂され、1994年シカゴでの第2回World Wide Web国際会議の直後(そこでティム・バーナーズ=リーは、Mike Paciello主導のアクセシビリティに関する会議前ワークショップを見て、基調講演で最初に障害者のアクセスについて述べた)、1995年1月に公開された。

そこから数年で、38種類を超えるウェブアクセス・ガイドラインが様々な執筆者および団体から後追い製作された[2]。これらはウィスコンシン大学マディソン校で編纂されて「統一ウェブサイト・アクセシビリティ・ガイドライン(Unified Web Site Accessibility Guidelines)」にまとめられた[3]。1998年に公開された統一ウェブサイト・アクセシビリティ・ガイドラインの第8版は、W3CのWCAG 1.0の出発点として役立つことになった[4]

WCAGの設計思想の根底には、「障害の社会モデル(Social Model of Disability)」がある。これは、障害を個人の身体的・精神的な機能不全として捉えるのではなく、個人の機能特性と社会環境(物理的な段差、情報の提示方法など)との間の相互作用によって生じる「社会的障壁(バリア)」こそが障害であるとする考え方である[5]

例えば、全盲のユーザーがウェブサイトを利用できない場合、それはユーザーの視力がないことが問題なのではなく、ウェブサイトが視覚情報のみに依存し、スクリーンリーダー(音声読み上げソフト)で解釈可能な代替情報(テキストデータやセマンティックマークアップ)を提供していないという「環境の不備」に原因があるとする。したがって、ウェブアクセシビリティの向上とは、特定のユーザー層への慈善事業ではなく、社会インフラとしてのウェブ環境を整備し、障壁を除去するという公共的な責務となる。

日本では、2024年4月の改正障害者差別解消法の施行により、この「社会的障壁の除去」が民間事業者に対しても強く求められるようになった。個別の申し出に応じて対応する「合理的配慮」と、不特定多数に向けてあらかじめバリアを取り除いておく「環境の整備」への対応として、WCAGへの準拠が求められている[6]

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WCAG 1.0

WCAG 1.0は公開されると1999年5月5日にW3C勧告となった。1.0は(既に古い基準で)WCAG 2.0にその座を奪われている。

WCAG 1.0は14のガイドラインで構成されている。各ガイドラインにはアクセス設計の一般原則が書かれている。各ガイドラインはウェブアクセシビリティの基本テーマを網羅しており、それを特定ウェブページの機能にどうやって適用すればいいのかを説明する1つ以上のチェックポイントと関連付けられている。

  • ガイドライン1: 聴覚的かつ視覚的コンテンツと同等の代替手段を提供する
  • ガイドライン2: 色だけに頼らない
  • ガイドライン3: マークアップとスタイルシートを使い、かつ適切に使用する
  • ガイドライン4: 明確な自然言語の用法
  • ガイドライン5: 円滑に変換するテーブルを作成する
  • ガイドライン6: 新技術を特徴とするページが円滑に動くようにする
  • ガイドライン7: 時間に敏感なコンテンツ変更のユーザー制御を確保する
  • ガイドライン8: 組み込みユーザーインターフェースの直接的なアクセシビリティを確保する
  • ガイドライン9: 独立したデバイス設計
  • ガイドライン10: ユーザー暫定ソリューション
  • ガイドライン11: W3Cの技術およびガイドラインの使用
  • ガイドライン12: コンテキストとオリエンテーション情報の提供
  • ガイドライン13: 明快なナビゲーション機構の提供
  • ガイドライン14: 文章が明快かつ簡潔であること

合計65の各WCAG 1.0チェックポイントには、アクセシビリティにおける同チェックポイントの影響度に基づき、割り当てられた「優先度(priority level)」がある。

  • 優先度1: ウェブ開発者はこれらの要件を「満たさなければならず(must)」、さもないと、1ないし複数のグループはウェブコンテンツへアクセスするのが不可能であるかもしれない。このレベルへの適合は「A」と記される。
  • 優先度2: ウェブ開発者はこれらの要件を「満たすべき(should)」であり、さもないと、一部のグループはウェブコンテンツへのアクセスが困難になるかもしれない。このレベルへの適合は「AA」または「ダブルA」と記される。
  • 優先度3:ウェブ開発者がこれらの要件を「満たすようである(may)」なら、一部グループにとってもウェブコンテンツへのアクセスが容易になる。このレベルへの適合は「AAA」または「トリプルA」と記される。

WCAG Samurai

2008年2月、ジョー・クラーク(Joe Clark)率いるW3Cと独立した開発者グループのWCAG Samuraiが、WCAG 1.0の修正と拡張を公開した[7]

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WCAG 2.0

要約
視点

WCAG 2.0は、2008年12月11日にW3C勧告として公開された[8][9]。それは4つの原則(ウェブサイトは、「知覚可能」で「操作可能」で「理解可能」で「堅牢」でなくてはならない)に基づいて構築された12のガイドラインからなる。これらの4つの原則は、それぞれの頭文字をとってPOURと呼ばれる。各ガイドラインは、検査可能な達成基準(全部で61)を有している[10]。これらは、ユーザーがコンテンツを利用する際の認知・操作のプロセスを分解したものであり、どの技術(HTML, PDF, iOSアプリ, VR空間など)が使われていようとも適用可能な概念である。

WCAG 2.0達成方法集(Techniques for WCAG 2.0)は[11]、制作者がガイドラインと達成基準に適合するの手助けするテクニックのリストである。方法集は定期的に更新されるが、原則とガイドラインおよび達成基準は安定しており、変わることはない[12]

原則

知覚可能

情報およびユーザインタフェース コンポーネントは、利用者が知覚できる(perceivable)方法で利用者に提示可能でなければならない。

  • ガイドライン 1.1: すべての非テキストコンテンツには、拡大印刷、点字、音声、シンボル、平易な言葉などの利用者が必要とする形式に変換できるように、テキストによる代替を提供すること。
  • ガイドライン 1.2: 時間依存メディアには代替コンテンツを提供すること。
  • ガイドライン 1.3: 情報、および構造を損なうことなく、様々な方法(例えば、よりシンプルなレイアウト)で提供できるようにコンテンツを制作すること。
  • ガイドライン 1.4: コンテンツを、利用者にとって見やすく、聞きやすいものにすること。これには、前景と背景を区別することも含む

操作可能

ユーザインタフェース コンポーネントおよびナビゲーションは操作可能(operable)でなければならない。

  • ガイドライン 2.1: すべての機能をキーボードから利用できるようにすること。
  • ガイドライン 2.2: 利用者がコンテンツを読み、使用するために十分な時間を提供すること。
  • ガイドライン 2.3: 発作を引き起こすようなコンテンツを設計しないこと。具体的には、光感受性発作を引き起こす可能性のある、激しい点滅コンテンツを含めてはならない。
  • ガイドライン 2.4: 利用者がナビゲートしたり、コンテンツを探し出したり、現在位置を確認したりすることを手助けする手段を提供すること。

理解可能

情報およびユーザインタフェースの操作は理解可能(understandable)でなければならない。

  • ガイドライン 3.1: テキストのコンテンツを読みやすく理解可能にすること。
  • ガイドライン 3.2: ウェブページの表示や挙動が一貫しており、予測可能にすること。
  • ガイドライン 3.3: 利用者の間違いを防ぎ、修正方法を提供すること。

堅牢

コンテンツは、支援技術を含む様々なユーザーエージェント(ブラウザ、支援技術)が確実に解釈できるように十分に堅牢(robust)でなければならない。

  • ガイドライン 4.1: 現在および将来の、支援技術を含むユーザエージェントとの互換性を最大化すること。具体的には、HTML等のマークアップ言語の仕様に準拠し、WAI-ARIAを用いて役割や状態を支援技術に正しく伝える。

WCAG 2.0はWCAG 1.0と同じ3つの適合レベル(A、AA、AAA)を使用しているが、それらを再定義している。WCAGワーキンググループは、WCAG 2.0のウェブアクセシビリティ技術と一般的な失敗例の広範なリストを管理している[13]

文書の経緯

最初のWCAG 2.0の概念提案は2001年1月25日に公開された。その翌年に、アクセシビリティの専門家や障害者コミュニティのメンバーからのフィードバックを求めることを目的とした新バージョンが公開された。2006年4月27日に「最終草案(Last Call Working Draft)」が公開された[14]。多くの修正が必要とされたため、2007年5月17日にWCAG 2.0は再び概念提案として公表され、続いて2007年12月11日に2回目の「最終草案」が公開された[15][16]。2008年4月にこのガイドラインは「勧告候補」となり[17]、 2008年11月3日に同ガイドラインが「勧告案(Proposed Recommendation)」となった。WCAG 2.0は2008年12月11日にW3C勧告として公開された。

WCAG 1.0チェックポイントとWCAG 2.0達成基準の比較は利用可能である[18]

2012年10月、WCAG 2.0は「ISO/IEC 40500:2012」のISO標準として国際標準化機構に承認された[19][20][21]

2014年初頭に、WCAG 2.0のレベルAおよびレベルAAの達成基準が、ETSIによって公開されたヨーロッパ規格EN 301 549の9.2項(「ウェブコンテンツ要件」)に参照として組み込まれた[22]。EN 301 549は、欧州委員会が欧州の標準化3団体(CENCENELEC、ETSI)に与えた命令に対応して作られたもので、ICT製品およびサービスに関する最初のヨーロッパ規格である[23][24]

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規格の変遷

WCAGは固定されたルールブックではなく、技術の進歩とユーザーニーズの多様化に合わせて進化を続けている。

WCAG 2.1

2018年に勧告されたWCAG 2.1は、スマートフォンの普及に伴うタッチスクリーン操作や、ロービジョン(弱視)、認知・学習障害を持つユーザーへの配慮を強化するために策定された[25]。WCAG 2.0との後方互換性を維持しつつ、17の新しい達成基準(リフロー、非テキストのコントラスト、ポインタのジェスチャなど)が追加された。

WCAG 2.2

2023年10月に勧告されたWCAG 2.2は、認知機能障害運動機能障害ロービジョンユーザーに対するさらなる配慮を追加したバージョンである。9つの新規達成基準(フォーカスの隠蔽、ドラッグ動作の代替、認証における認知負荷の軽減など)が追加され、一方で現代のブラウザ性能の向上に伴い「4.1.1 構文解析」が削除された[26][27]

WCAG 3.0

2025年現在、W3Cは次世代ガイドラインWCAG 3.0(W3C Accessibility Guidelines)の策定を進めている。Webに限らずVR/ARやIoTも対象とし、評価モデルも「A/AA/AAA」からスコアリングベースへの移行が検討されている[28]。キャプションなどの言語選択 、メディアの代替コンテンツの見つけやすさ、非言語的な手がかり (声のトーン、顔の表情、身振りなど) への代替コンテンツの提供などが、案として検討されている。また、生成系AIが自動生成した代替テキストを編集できることや、代替テキストが自動生成である旨の識別ができることいった案も検討されている。

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実装と評価

適合レベル

WCAGおよびJISには3つの適合レベルがある[29]

  • レベルA(必須): 最低限のアクセシビリティ。満たさないと一部ユーザーは全くアクセスできない。
  • レベルAA(標準): 世界的な標準ライン。日本の公的機関や多くの企業が目標とする。
  • レベルAAA(高度): 最高レベル。全てのコンテンツで満たすことは困難なため、部分的な目標とされることが多い。

試験プロセス

日本のにおいては、JIS X 8341-3に基づく試験が推奨される。JIS X 8341-3は、対象ページの選定(代表ページ、ランダム選択、複合選択)、検証方法の特定(自動チェック、人間による確認)、試験の実施、結果の公開というプロセスで行われる[30]総務省が提供する「miChecker」や「axe DevTools」などのツールや、スクリーンリーダー(NVDA, VoiceOver等)による実地確認も推奨される[31]

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法的義務

要約
視点

オンライン・プレゼンス[注釈 1]を有する企業は、障害者ユーザーにアクセシビリティを提供する必要がある。 ウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドラインを実装する理由には倫理的かつ商業的な正当性のみならず[33]、一部の国や地域では法的な理由もある。イギリスの法律では、企業のウェブサイトがアクセシブルでない場合、差別との理由でウェブサイト所有者が訴えられる可能性がある[34]

日本

日本は国家規格であるJIS X 8341-3を策定している。JIS X 8341-3は、ISO/IEC 40500:2012(WCAG 2.0)と技術的に一致規格となっており、JISへの準拠は国際的なWCAG 2.0への準拠と同義である[35]。2025年現在、JIS X 8341-3はWCAG 2.0ベースであるが、実務的にはWCAG 2.1/2.2の基準を「推奨事項」として取り入れることが求められている[36]。JIS規格は国際規格(ISO)との整合性を保つため、WCAGのアップデートから反映までタイムラグが生じる。WCAG 2.2の内容を反映したJIS改正は2026年頃と見込まれている[37]。企業は改正を待たず、将来的なコスト抑制のためにWCAG 2.2レベルを意識した実装を進めることが推奨される。

2024年4月1日の改正障害者差別解消法施行により、事業者に対し、法的義務である「合理的配慮の提供」と努力義務である「環境の整備」が示された。法的リスクやレピュテーションリスクに直結するため、コンプライアンスの観点から実質的な対応が求められることが多くなっている[38]

  • 合理的配慮: 障害のある個人から申し出があった際に、過重な負担のない範囲で個別に対応すること(法的義務)。
  • 環境の整備: 不特定多数が利用できるよう、事前の改善措置を行うこと(努力義務)。

アメリカ合衆国

2017年1月、米国アクセス委員会は1973年のリハビリテーション法第508条を更新する最終規則を承認した。新規則は17個のWCAG 2.0達成基準を採用しているが、既存のAレベルおよびAAレベル基準38個のうち22個は既存の第508条ガイドラインで既に適用されている。同規則は、連邦官報に掲載された日から12ヶ月で新基準を順守するよう求めている[39] [40]

2017年、フロリダ州の連邦裁判所はWCAGガイドラインをウェブサイト・アクセシビリティの「業界標準」として認定し、Winn Dixie Store, Inc.[注釈 2]は自社ウェブサイトに視覚障害者へのアクセス手段を与えなかったことで障害を持つアメリカ人法に違反しているとの評決を下した[41]

欧州連合

2016年10月、欧州議会は公的機関のウェブサイトとモバイルアプリケーションがWCAG 2.0のAAレベルに適合するよう求める指令2016/2102を承認した[42]。新しいウェブサイトは2019年9月23日以降、古いウェブサイトは2020年9月23日以降、モバイルアプリケーションは2021年6月23日以降に適合している必要がある[43]

イギリス

2012年1月、英国王立盲人協会(RNIB)は「盲目および部分的晴眼な顧客のためのウェブアクセスを確保できていなかった」ことで、格安航空会社Bmibabyに対する訴訟手続きに踏み切ったとのプレスリリースを出した[44]。2011年10月時点で、ウェブサイトに対する少なくとも2つの訴訟がRNIBによって開始され、その案件は裁判所で審理されることなく解決された[34]

プロジェクトマネジメント協会(PMI)に対する労働裁判所の評決は2006年10月に結審され、同社は差別に対して3000ポンドの補償金を支払うよう命じられた[45]

カナダ

2010年/2012年のJodhan決定[46]により、外部および内部で利用可能なカナダ連邦政府の全オンラインウェブページと文書とビデオは、WCAG 2.0のアクセシビリティ要件を満たすよう求められることになった[47]

オーストラリア

オーストラリア政府もまた、1992年障害者差別法英語版を経て、全てのオーストラリア政府のウェブサイトがWCAGのアクセシビリティ要件を満たすよう義務付けている[48]

イスラエル

イスラエルの法務省は2014年初頭、インターネットのウェブサイトがW3Cのウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン2.0に基づいたイスラエル規格5568に適合するよう義務付ける規制を発表した。

イスラエル規格とW3C標準の主な違いは、オーディオやビデオメディアに対してキャプションとテキストを提供する要件に関するものである。ヘブライ語でそうしたキャプションやテキストを提供することへの現時点の技術的困難を反映して、イスラエル規格はいくらか寛容である[49]

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脚注

関連項目

脚注

外部リンク

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