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中野富士見中学いじめ自殺事件

1986年に日本の東京都中野区で発生した、いじめを発端とする中学生の自殺事件 ウィキペディアから

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中野富士見中学いじめ自殺事件(なかのふじみちゅうがくいじめじさつじけん)は、1986年昭和61年)に東京都中野区で起きた男子中学生の自殺事件。俗に「葬式ごっこ事件」とも言われ、学級担任いじめに加担するなど日本で初めていじめ自殺事件として社会的に注目された事件でもあった。

事件の概要

要約
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盛岡駅ビル「フェザン」地下1階の男子トイレ(2023年撮影、リニューアル後)

1986年昭和61年)2月1日深夜、中野区立中野富士見中学校(2009年3月閉校、2009年4月より第一中学校と共に南中野中学校へ統合・再編)2年の男子生徒が、父の故郷である岩手県盛岡市盛岡駅ビルのショッピングセンターフェザン」地下の公衆便所(レストラン側)で、首吊り自殺で亡くなっていたところを、巡回中の警備員に発見された。床には、「このままじゃ生きジゴクになっちゃうよ[注釈 1]」と記載された遺書が残されていた[1]

被害者生徒はクラスの人気者なところがあり、授業中もうろうろしたり、音楽テープをかけて授業妨害したこともあった[2]。また、一部の報道で、父が担任にいじめについて相談したことが何度かあったと報じられたが、直接面談でいじめについて話したことはなかった[3]。被害者生徒について知っている教諭は「遅刻が多いからと電話をお父さんにかけたらカーとなって「ウチの子を学校にやらない」となる」と語った[3]。生徒指導のメモに被害者生徒は「お母さんは男にだまされている。お母さんが可哀想だ」と記されてあった[4]。また、顔にあざをつくり父親に殴られたと言ってとうこうすることがあった[5]。また、屈辱的な仕打ちを受けてもニヤニヤ笑っていたという[6]

男子生徒は、2年生に進級した後に級友グループから使い走りをやらされるようになった。後に、被害者と関わりがあった少年に話を聞いたところ、自分からお使いに出て、自然に便利なやつに変わったと話した[7]。 生徒は祖母に使い走りのことをもらした。それに対して生徒の祖母は、使い走りをきっぱり断るように言ったという[8] 。やがていじめに遭うようになり、それが徐々にエスカレートし、日常的に暴行を受けるまでになった。さらに、そのいじめグループらの主催によって学校でその男子生徒の「葬式ごっこ[注釈 2]」が開かれることとなる。その「葬式ごっこ」には担任教師を含む4人が加担し、寄せ書きを添えていた[9][11]。被害者は「葬式ごっこ」を受け「オレが来たら、こんなの飾ってやんのー」と笑っていた[12]。このことを父に話すと「一度死んで出直せということだろう。頑張れよ」と励ました[13]。教員らが加担の理由として「どっきりだから」といじめていたグループに説明されたから記載したと釈明した。生徒は担任には「ドッキリに使うから」と説明し、他の3人には「劇に使うから」と説明した[14]

当時、学校は荒れていて、挨拶のように「死ね」といった言葉が使われていた。また後に担任教諭[注釈 3]は仲間意識を持ってもらって、授業を成り立たせようといつも心の中にあったと語った[16]

後に生徒は「先生は(いじめを)知っていたけど止めなかった[注釈 4]。」と語った[13]

葬式ごっこがきっかけとなり男子生徒は学校を休みがちになった。また、この頃から暴力が始まり[17]、のちに自殺することになった。

1月27日に被害者生徒は木に登って歌わされたことがあった。同級生はけっこう調子に乗って歌っていたと語った[18]。また、グループの一員も「歌うの喜んでやっていた[19]」と言い、教員も遊んでいるとしか見てとれなかった[20]

1月30日、いじめグループになじられていた被害者を教員の一人がかくまった。担任が母に迎えに来るように連絡し「グループと対決するか、訴えるか、転校するしかない」と言った[注釈 5][21]。この時、便器の中に捨てられていた被害者生徒の靴を担任が洗って手渡してくれた[21]。担任はこの時「ぼくにできるのはこれだけだから…」と言った[22]

1月31日、制服で下着、本、4万円を持ち盛岡へと向かった[23]。また、この日に被害者生徒は自殺した。

事件直後、子供らが「先生、悪かった。僕たちが悪かった。」と謝ると、担任は涙で「頑張ろうね」と答えた[24]。名指しされた生徒については事件後浮いていた[18]と意外にも暖かく迎えられた[24]と相反する内容が書かれている。

担任教師らは、自分の身を守るために担任を行っていた生徒らに対し、自殺した生徒について口止めするように言っていたことも発覚した。担任教師は5日のホームルームで、寄せ書きは無かったことにしてほしいと生徒に話した[25]。また、数回にわたって電話で葬式ごっこで使われた色紙を返してほしいと父親に頼み込んだ[25]。他にもいじめを知っていながら教育委員会などに対し報告も行わなかったり、自殺後に開かれた聞き取り調査では自殺した生徒に原因があるかのような発言まで行っていた。同年4月、保身に走っていた担任教師に対して事件後に発覚した学習塾でのアルバイト行為などにより諭旨免職懲戒処分が起こった[26]。寄せ書きにサインした4人の教員のうち、担任が諭旨退職、2人が依願退職(1人が減給、1人が戒告)、1人(後述の2月12日の事件の教諭)が減給と1年間の研修。また、校長が減給、依願退職、教頭を戒告、1年間の研修にし、計6人が懲戒処分を受けた[26]

この自殺事件で同校生徒の精神面も不安定となった。2月12日、葬式ごっこの寄せ書きにサインをした教員の一人がいじめをなくすために頑張るので協力してほしいと授業中に呼びかけた直後、生徒Aが「先生は口先だけでかっこよく見て見ぬふりはしていないが、どうか試してやる」と言い[27]、「お前は○○(自殺した生徒の名前)二世、自殺しろ[28]」と罵りながら生徒Bに暴行を加える事件が起きた。この際、教師はAが暴行を加える間は聞こえないふりをしていたが、暴行に堪りかねたBが激昂して反撃した途端止めに入った[29]。 Bは「今まで僕がやられていたのに助けてくれない。Aくんにも注意しないでやめろと言うのは許されない」といい、その教師の行動に更に激昂したBが「Aを殺して俺も死ぬ!」と言い残して教室を飛び出した[29]。コンビニエンスストアに刃物を買いに行く最中、学校の真向かいに交番があったことから、教師と揉み合っているところを逮捕される事態となった[29]。動機についてAは「先生を試したかった。」と語り、Bは「先生は強いものには怖くて手を出せない、だから、僕を止めた。」と語った[29][30]。2月13日、教育委員会が「殴ったのは1回だけであとは来ずいただけと発表[31]。」一方、Bは背中や顔を20分にわたって60~70回、激しくぶたれていた[29]

この事件はマスメディアにより大々的に報道され、初めていじめ自殺事件がクローズアップされた事件でもある。報道により学校や教師の自宅、いじめに加担していた生徒の自宅に嫌がらせが発生した。これ以外にも、被害者である生徒の遺族の自宅にまで嫌がらせが発生し遺族が二次被害を受けることとなった。また偽の情報が書かれた右翼のビラが撒かれた[32][33]

同年4月、警視庁はいじめに加担していた16人を傷害および暴行容疑で書類送検した[34]。6月、男子生徒の遺族が遺書で名指しされた生徒2名とその両親ら、および東京都と中野区に対し東京地方裁判所損害賠償訴訟を起こした[35]。争点はグループの「葬式ごっこ」などがいじめに当たるか、鹿川君の自殺がいじめを原因とするものか、学校側に鹿川君が自殺する予見可能性があったかの3点だった[36]。同年9月、東京地方裁判所は名指しされた生徒2名に保護観察処分を下した。1991年3月27日、東京地方裁判所は「葬式ごっこはいじめと認めないが、自殺直前に行われた暴行が自殺となった」としていじめそのものを否定した[37][38]。また、自殺することを予知するのも難しかったとした[37][38]。一方、遺書に記されていた内容について、遺族と生徒との間に問題があったことを示唆していると述べ、暴行した子供らに適切な措置をしなかったとして被告らに400万円の賠償命令を下した[37][38]。いじめを認めなかった判決に納得できない遺族は控訴し、1994年5月20日、東京高等裁判所は「葬式ごっこなど、普通の人なら苦痛に感じるはず。それが止められなかった学校にも責任がある。但し、いじめと自殺との因果は不明である[要出典]」と述べ、葬式ごっこといったいじめが原因だとした一方、自殺を予見することは困難だったとして、被告らに1,150万円の賠償命令を下した[39][40][41][42]。原告と被告のどちらも上告せず、判決が確定した[43][44][45]

その後、遺書で名指しされた生徒の親の一人は、学校から口令は敷かれなかった。と語った[46]。また、名指しされた生徒はいじめの主犯格であるというような報道もあるが[17][35]、遺書で名指しされたのいじめの主犯格ではなく主犯格となる者はいない流動的ないじめだったと語った[47][48]

いじめは転校することも解決策の一つで、昨年にも中野富士見中からイジメが原因で転校した生徒がいたが[49]、自殺した被害者は転校先となる中学校でもトラブルを起こしていた[50]

事件から35年後、2021年5月29日にNHK総合テレビジョンで放送された「ストーリーズ 事件の涙」では多くの関係者が口を閉ざす中、自殺した男子生徒の元同級生2人が「少しでもいじめが減らせれば」との思いからその当時の状況についてのインタビューに応じていた[51]

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脚注

参考文献

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