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T-38はアメリカ合衆国のノースロップ(現・ノースロップ・グラマン)社が開発した練習機。愛称はタロン(Talon:猛禽類の鉤爪の意)。
T-38 タロン
練習機ながらアフターバーナーを装備し、超音速を発揮できる。優秀な双発ジェットの高等練習機として高く評価され、総数1,000機以上が生産された。
1950年代後半に入ると、実用ジェット戦闘機の高性能化が進み、従来のジェット練習機として用いられてきたT-33では性能が陳腐化してきた。その頃、ノースロップでは自社資金でN-156計画という西側同盟国向けの軍用機開発計画を進めていた。この計画は軽量戦闘機型のN-156Fと練習機型のN-156Tを開発するものである。そのうち練習機型はアメリカ空軍の興味を引くこととなり、1956年にYT-38として開発契約が結ばれた。YT-38の初飛行は1959年3月10日である。なお、戦闘機型も1958年に同盟国供与用のF-5として開発されることになる。
T-38はスタジアムシーティング[1]を採用したタンデム複座、キャノピーは前後独立、主翼は低翼配置、エアインテークを胴体側面に持つという、当時の標準的な設計に纏められた。小型軽量の機体で飛行性能が安定しており、整備性が良いため稼働率が高く運用コストも少なく済み、また双発機であるためアクシデントにも強いという特徴を持つ。その反面、使用エンジンの燃費効率がやや悪く、また小型機ゆえに搭載力や航続距離に難があったものの、これは練習機用途としては大きな問題にはなりにくい。音速突破も可能な高速性能を持つが、これは当時は亜音速と超音速飛行には隔絶した差があると考えられ、超音速飛行に慣熟するためには特別な訓練が必須であるとされたからである(現在では超音速飛行の練習は実機の複座型を用いれば十分であると考えられ、超音速飛行能力を持つ純練習機は廃れる傾向にある)。このため安全性も考慮された設計になっており、センチュリーシリーズにさえ取り入れられていなかった当時の先進的な操縦システムも導入されていた。
F-16より小型軽量の機体に推力重量比の高いエンジンを搭載し、練習機であるためクセがなく扱いやすい操縦特性となっていることから、中高速域での運動性能は第4世代機と比較しても遜色がない。そのため、過去にアメリカ空軍のアグレッサー部隊で使用されたほか、戦闘機導入基礎課程(IFF)で基礎的な戦技の導入教育に使用されている。アメリカ空軍で行われた模擬格闘戦において最新鋭のF-22に撃墜判定を出したこともあるなど、技量次第では第5世代機にも対抗しうる能力を有する[2]。
部隊配備は1961年から開始され、アメリカ空軍の他、同空軍にパイロットを派遣して訓練を行なっている西ドイツ空軍も使用した(アメリカ国籍マークを付けて、同国内で使用)。しかし輸出は、純粋な練習機にとどまる本機よりも、ドッグファイトや対地攻撃もこなせる実用機として使用できる姉妹機・F-5戦闘機(の複座型)の方が圧倒的に多かったため、本機の輸入国はポルトガル、台湾、韓国(T-50が完成するまでのつなぎとしてアメリカ空軍からリース)、トルコに留まった。生産は1972年まで行われ、生産機数は1,187機。また1975年より130機程度が、武装可能で攻撃訓練にも対応したLIFT(戦闘機前段階練習機)型のAT-38Bに改造された。
2001年よりアメリカ空軍は既存のT-38Aを改良したT-38Cの導入を進めている。アビオニクスの改良によりグラスコックピット化された操縦席にはヘッドアップディスプレイも備わり、エンジンのメインモジュールが交換され、機体側のエアインテークも改良された。アメリカ空軍は主翼の交換も検討している。
アメリカ航空宇宙局ではテキサス州ヒューストンのエリントン・フィールドに配備しており、宇宙飛行士の飛行体験訓練や連絡機として使用されている。アメリカでは民間に払い下げられた機体が少数あり、例えばボーイング社ではチェイス機としてT-38を使用している。
姉妹機F-5Aの複座(練習機)型であるF-5Bは、T-38の機首を流用したため外見が非常に似ているが、固定機関砲がない点を除けばF-5Aと同様の武装が装備できる軽攻撃機兼用型で、エンジンも作戦用途向けにより強力なものが使用されている。
2000年代から老朽化と補修部品の払底により修理コストが上昇したため、アメリカ空軍では後継機の選定を開始した。候補機は数社の競作となったが、最終的には2018年9月27日にボーイングとスウェーデンSAABが共同提案したT-7 レッドホークに決定された[3]。導入され次第、2019年時点でアメリカ空軍で運用されている約500機の機体は減少していく見込み[4]。
日本の陸上、海上、航空、各自衛隊はT-38を導入していないが、航空自衛隊の操縦課程学生の一部はアメリカ空軍での操縦課程(SUPT)を履修しており、毎年数名の学生がアメリカ空軍の学生とともにT-38での操縦訓練を受けている。宇宙飛行士の油井亀美也は空自時代のSUPT卒業後に、AT-38Cによる2か月間の戦闘機操縦課程を試行例として履修して帰国している。これは日本人では初であったという[7]。後にはこの戦闘機操縦課程を含んだT-38による操縦課程(約32週)が留学者に対して行われるようになった他、国内のT-4でも同様の戦闘機操縦基礎課程(約8週)が行われるようになった[8]。2019年2月19日には、モンゴメリー空港で着陸進入中だったT-38Cが墜落し、飛行訓練中だった二等空尉(死後一等空尉に昇進)と米空軍の教官が殉職した[9]。
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