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ヒラタクワガタ

クワガタムシ科の昆虫 ウィキペディアから

ヒラタクワガタ
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ヒラタクワガタ(平鍬形、Dorcus titanus)は、コウチュウ目クワガタムシ科クワガタ属ヒラタクワガタ亜属の1で、クワガタ属の中で最大種である。

概要 ヒラタクワガタ, 分類 ...

ヒラタとは平べったい体型をしていることから名付けられたものだが、非常に幅広いことにより平たく見えるだけで、実際の体の厚みは全クワガタムシ中でも最も厚い部類に入る。種小名titanusはギリシア神話の巨人族であるティターンに由来している。25亜種に分類されているが、日本では外国産亜種などの放虫による遺伝子汚染が問題となっている。

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形態

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ヒラタクワガタ メス
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ヒラタクワガタ オスの大あご
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小型のヒラタクワガタ
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大型のヒラタクワガタ

成虫体長は、オスで40 - 115ミリメートル (mm) 、メスで20 - 55 mm。日本の本州に分布する個体群に限れば、オスは45 - 90 mm、メスは20 - 35 mmである。

生息地域(亜種)や個体差によって大きさに幅があるが、110 mmを越える野生のオス個体が見つかっているのはクワガタムシ科の中でも最大級の大きさである。 体型は平べったく幅広く、体色は黒から黒褐色である。 ♂の大アゴは太く平べったく根本にある大きな内歯が一対とノコギリ状の小歯を持つ。小型個体では小歯が消失していることもある。 足は短く、前足は幅広くやや内側に曲がっている。 ♀や小型♂では背面のが強く、上翅にはうっすらと点でできている弱い縦スジが見られる。 ♀の腹には細かい黄色の毛がある。 上翅(背中)がツルツルとした感じがする(ぼやけたスジがある)。 前腕が先端に向かって湾曲しながら広がって行く形をしている。 小さなサイズになると小さい突起が目立たなくなり、より光沢が増す。

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分布

日本インドネシアボルネオ島フィリピンマレー半島タイベトナムラオスミャンマーインド中国台湾朝鮮半島分布する。

本種はかつて氷期スンダランドと呼ばれる大陸で派生し、南と北の2方向に分布を拡大したと考えられている。 南へ向かった個体群はその後の地殻変動や氷河期後の海面上昇による島々の成立とともに分断され、東南アジアの島々で分化したと考えられている。北に向かった個体群はさらに東アジアを進み、朝鮮半島もしくは南西諸島を経由して日本列島にたどり着いたと考えられている。

日本における分布北限は山形県庄内平野に位置する酒田市であるが、1967年には酒田市十里塚の十坂小学校付近で複数個体が採取されていたものの、1979年ごろに生息地の林が伐採され、絶滅したと考えられる[2]。この庄内平野の個体群は、最も近接する分布域である新潟県北部の平野部から隔絶されており、新潟・山形の県境にまたがる葡萄山塊などからはヒラタクワガタの分布が確認されていないことから、流木に乗って漂流してきた個体が江戸時代中期までこの地に広がっていたカシワミズナラ主体の海岸林に定着したものの、後にクロマツの造林が盛んに行われるようになって広葉樹の海岸林が次第に分断されていき、最終的に絶滅に至ったものと考えられている[3]

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生態

以下、特記なき場合は主に日本の本州に分布するヒラタクワガタについてに解説する。

東北南部以南の低地から山地までの広葉樹照葉樹の森林に生息している。 生息数は、日本の東日本などではやや少ないが西日本ではやや多い傾向にある。 湿度の高い環境を好むようで、日本では河川敷や河川近くの林などで多く生息している。 成虫夜行性であり、広葉樹や一部の照葉樹の樹液としている。樹木のなどに隠れて生活している。 成虫での寿命は1 - 3年である。 南方に生息する大型亜種では、昼間であってもオスが縄張りやメスを争っている姿が見られるという。 気性は大変荒く、大顎で挟む力は強烈であり、この大顎が凶器となってオスがメスを殺すことも多い。 このため初心者がペットショップホームセンターから何の説明も受けずにペアで購入した場合、知らない間にメスが殺されているといったケースもあり、他の昆虫やクワガタと比べて飼育にはかなりの注意が必要である。 大型亜種はその気性の荒さと体格のため、他の甲虫との戦いでは優位に立ちやすい。但し、体表の硬さと力の強さの反面鈍重なため敏捷性には欠ける。全く飛べない訳ではないが飛翔性は低くめったに飛ばないので生息範囲を拡げにくい。

コクワガタよりも気配を感じて樹洞や樹皮の裏に隠れる逃げ足は速いが、コクワガタの様に落下することは少ない。また夕刻、発生場所から飛翔して樹液に移動する様子が頻繁に目撃されている。

繁殖

メスは広葉樹の立枯れの地中部や倒木の下部などに産卵し、は約1ヵ月ほどで孵化する。

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ホンドヒラタクワガタの幼虫

幼虫は基本的に白色腐朽菌で朽ちた立ち枯れの根や倒木の地中に埋もれた部分を最も好んで食べるが、南西諸島などの離島では林床の倒木でも普通に見られる[4]。このような食性はノコギリクワガタ[5]ミヤマクワガタ[6]にも共通する。

幼虫期間は約1年から2年で、3齢幼虫が終齢幼虫である[4]。幼虫は1年目の冬を2齢もしくは3齢で越冬し、翌年の夏に蛹化する[4]。羽化した新成虫はその年は活動せず、そのまま蛹室内で越冬し、翌年の初夏に活動を開始する[4]

近年外国原産の亜種や別地域の日本産亜種が自然に放虫、近代、木材等の流通の往来も盛んになり、別亜種どうしの交配種が数多く確認され日本元来のヒラタクワガタへの遺伝子汚染生態系への影響が懸念されている。

分類

要約
視点

25亜種分類され、日本では12亜種が特定されている。また、未特定の個体群も確認されていて今後も整理されると予想されている。

ヒラタクワガタ(原名亜種) Dorcus titanus titanus (Boisduval, 1835)
スラウェシ島北東部、ペレン島バンガイ島タリアブ島。♂60mm - 99.5mm(基準産地メナドでの最大96mm)、♀30mm - 52mm。体表は艶消し。身体はやや細いが頭部と大腮は太く、内歯下がり固定の産地が多い。スラウェシ島北東部では内歯下がり固定であり、内歯上がりを多く含む他の産地の個体群を原名亜種に含めるべきかどうか、再検討の余地がある。基準産地がスラウェシ北東部・メナド(Manado)のためメナドヒラタクワガタ、また単にオオヒラタクワガタとも呼ばれる。
パラワンオオヒラタクワガタ D. t. palawanicus (Lacroix, 1984)
パラワン島、バラバック島、ブグスク島。♂65mm - 115mm、♀30mm - 54.5mm。最長の亜種。またドルクス属では最大の種である。大腮は非常に長く、挟む力も非常に強い。純粋な馬力ではスマトラオオヒラタに劣るが、その高い機動力や旺盛な闘争心から世界最強のクワガタと称される事も多い。また、全長ではギラファノコギリクワガタマンディブラリスフタマタクワガタに劣るものの、横幅ではこちらが大きいため時折世界最大のクワガタと呼ばれる事もある。
インドヒラタクワガタ D. t. westermanni (Hope, 1842)
インド北東部、雲南省南部、ミャンマー南部、タイラオス西部 - 南部、カンボジアベトナム南部、バングラデシュ東部、ネパール東部。♂55mm - 89mm、♀30mm - 40mm。国内では一般的に亜種名から「ウエスターマンヒラタ」とも呼ばれている。
ベトナムヒラタクワガタ D. t. fafner (Kriesche, 1920)
中国海南島)、ベトナム北部、ラオス北部、ミャンマー北部。♂55mm - 90.1mm、♀25 mm - 38mm。インドヒラタとの生息の境界がはっきりしていないため(ラベルの信憑性が疑わしいことも一因)、両者を同一亜種とみなす意見もある。
ウンナンヒラタクワガタ D. t. typhoniformis (Nagel, 1924)
広西壮族自治区北西部、貴州省雲南省北部、四川省東部。♂50mm - 88mm、♀25mm - 35mm。
チュウゴクヒラタクワガタ D. t. platymelus (Saunders, 1854)
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D. t. platymelus
中国中部 - 東部。♂50mm - 82.4mm、♀30mm - 40mm。ホンドヒラタとツシマヒラタの中間的な体型で大腮もやや長い個体群が多いが地方によってかなりの変異がある。
タイワンヒラタクワガタ D. t. sika (Kriesche, 1920)
台湾本島、緑島。♂45mm - 73.7mm、♀30mm - 35mm。大腮は太短く先端は強く湾曲する。
マレーヒラタクワガタ D. t. nobuyukii (Fujita, 2010)
マレー半島ニアス島ボルネオ。♂60mm - 98mm、♀30mm - 46mm。体表の光沢はやや強いまたは普通。大腮はやや太い〜太い。内歯の位置は基部寄り(内歯下がり)で安定しており、内歯上がりの個体は確認されていない。この亜種内ではマレー半島産が最も幅広く大型でスマトラオオヒラタクワガタの内歯下がり個体に似る。ニアス島産は安定して細く、大型の個体は少ない。ボルネオ産は細い個体から非常に幅広い個体まで変化に富むが幅広い個体でも大腮は太くない。
スマトラオオヒラタクワガタ[7]D. t. yasuokai (Fujita, 2010)
スマトラ島。♂60mm - 108.8mm、♀25mm - 50mm。大型個体でも体表の光沢は強い。全亜種中で最も横幅が広く厚みがあり大腮も最も太い。また、全亜種の中でパラワンオオヒラタクワガタに次いで2番目に大きくなる種であり、パラワンと並び世界最強のクワガタと称されることが多い。個体差による内歯の上下が激しく、同じ産地で内歯上がりと内歯下がりの両個体が得られることが多い。
スラウェシオオヒラタクワガタ D. t. titanus (Boileau, 1905)
スラウェシ北部 - 東部、ブトン島カバエナ島。♂60mm - 106.4mm、♀30mm - 40mm。体表は艶消し。大腮はやや細長い。フィリピンオオヒラタの内歯上がりとよく似ているが頭楯の形状の違いで見分けられる。以前はスラウェシ、フィリピン、スマトラの内歯上がりの個体はssp.typhonと位置付けられていた。
ヒラタクワガタ原名亜種はかつては、スマトラオオヒラタだったが、現在は本種になっており、ssp.typhonは、後述するテイオウに移った。
フィリピンオオヒラタクワガタ D. t. imperialis (Fujita, 2010)
フィリピン北部(ルソン島マリンドッケ島シブヤン島サマール島レイテ島)。♂60mm - 106mm、♀30mm - 40mm。体表の光沢は弱い。現在はこれらの島の個体は全て同一亜種という位置づけだがマリンドッケ島、シブヤン島、ルソン島北部は内歯下がり固定、ルソン島南部は内歯上がり固定である。一方でサマール島、レイテ島の個体は内歯下がり〜中間内歯が現れ、ルソン島北部と南部の個体群の生息場所の境界に当たるのネバ・ビスカヤ州では内歯の位置は不安定な傾向にある。
ミンダナオオオヒラタクワガタ D. t. mindanaoensis (Fujita, 2010)
フィリピン南部(ミンダナオ島バシラン島ディナガット島、タウィタウィ島)。♂60mm - 103mm、♀30mm - 40mm。大腮はやや長い。体表の光沢は普通またはやや弱い。
テイオウヒラタクワガタ D. t. typhon (Fujita, 2010)
フィリピン北部(ルソン島カタンドゥアネス島)。♂60mm - 110mm、♀30mm - 40mm。
ルソン島東部と南部、カタンドゥアネス島に生息。体表光沢は普通で、内歯は中央よりやや上となる。以前はフィリピンオオヒラタと同一視されていたが、現在はテイオウの名で分けられており、体長ではパラワン、体幅ではスマトラに次ぐが、最大個体は110mm近くにもなり、ある意味その二種よりも巨大な印象を与える程となる。ヒラタの巨大亜種の中でも特に気性が非常に荒い個体が目立ち、全般に大型個体も多い。
新たにルソン島南部の種類は、キングテイオウ Dorucus titanus imperialis とも呼ばれて、亜種分けされる事もある。
ダイトウヒラタクワガタ D. t. daitoensis
大東諸島。♂40mm - 65mm、♀20mm - 33mm。日本最古の亜種。
ツシマヒラタクワガタ D. t. castanicolor
対馬中国北部(遼寧省)、朝鮮半島済州島珍島など。♂50mm - 87.4mm、♀25mm - 40mm。日本最長の亜種(野外)。朝鮮半島の個体はファソルトヒラタと呼ばれ別亜種にされており、ツシマヒラタより体や大腮が細長い事から新たに本亜種に分類されたが研究者によってツシマヒラタのシノニムまたは地方変異のカテゴリに入るという意見もある。[8]
イキヒラタクワガタ D. t. tatsutai Shiokawa, 2001
壱岐諸島(壱岐、長島、大島)。♂50mm - 81.4mm、♀30mm - 42mm。体や大腮はツシマヒラタよりやや太短い。
ゴトウヒラタクワガタ D. t. karasuyamai Baba, 1999
五島列島。♂50mm - 82mm、♀25mm - 38mm。体や大腮はツシマヒラタよりやや太短い。
タカラヒラタクワガタ D. t. takaraenis (Fujita et Ichikawa, 1985)
宝島小宝島。♂45mm - 75mm、♀20mm - 35mm。体は太く厚く大腮は太短い。
アマミヒラタクワガタ D. t. elegans (Boleau, 1899)
奄美群島の5島。♂50mm - 80.2mm、♀25mm - 43mm。
トクノシマヒラタクワガタ D. t. tokunoshimaensis (Fujita et Ichikawa, 1985)
徳之島(奄美群島)。♂50mm - 79.5mm、♀25mm - 40mm。
オキノエラブヒラタクワガタ D. t. okinoerabuensis (Fujita et Ichikawa, 1985)
沖永良部島(奄美群島)。♂45mm - 70.1mm、♀25mm - 35mm。
オキナワヒラタクワガタ D. t. okinawanus (Krieshe, 1922)
沖縄諸島の16島。♂45mm - 76.3mm、♀25mm - 35mm。
サキシマヒラタクワガタ D. t. sakishimanus
先島諸島。 ♂50mm - 84.2mm、♀25mm - 30mm。体は太く幅広く大腮も太い。
ヒラタクワガタ D. t. pilifer Vollenhoven, 1861
本州(山形県以南)、四国九州甑島列島、他14島。♂45mm - 90mm、♀20mm - 35mm。
ハチジョウヒラタクワガタ D. t. hachejoensis (Fujita et Okuda, 1989)
八丈島(伊豆諸島)。♂45mm - 73mm、♀22mm - 33mm。
本種に近縁な別種
ダイオウヒラタクワガタ
アルキデスオオヒラタクワガタ
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分岐図

ミトコンドリアDNAを解析した結果、分岐の順序が明らかとなっている。

ヒラタクワガタ(原名亜種)

スマトラヒラタクワガタ

パラワンオオヒラタクワガタ

ヒガシルソンヒラタクワガタ

ミンダナオヒラタクワガタ

インドヒラタクワガタ

ダイトウヒラタクワガタ

ツシマヒラタクワガタ

アマミヒラタクワガタ

タカラヒラタクワガタ

オキノエラブヒラタクワガタ

トクノシマヒラタクワガタ

オキナワヒラタクワガタ

サキシマヒラタクワガタ

タイワンヒラタクワガタ

ホンドヒラタクワガタ

ハチジョウヒラタクワガタ

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日本産ヒラタクワガタについて

要約
視点

「ヒラタクワガタ」という名称は、日本に広く分布する亜種Dorcus titanus pilifer和名としての印象が強いが分類学上では日本産亜種、外国産亜種を含めた「」の和名とされている。 現在でも、分類等については研究者によって意見が分かれるところである。

体長はオスの場合、大アゴを含めて24から75ミリメートルに達する。対馬、壱岐、先島諸島などの亜種ではさらに大きくなる。黒から黒褐色の頑強で平たい身体を持ち、大顎も他のクワガタに比べると薄く平たい。この体型がヒラタクワガタの語源と思われる。オオクワガタに次いで[要出典]飼育が容易であり、 日本だけも数多くの亜種が存在するため飼育でも標本でも愛好者が多い。

和名でヒラタクワガタと呼ばれる種群は、近年国立環境研究所の五箇公一と現代のクワガタ飼育技術の草分けである昆虫研究家の小島啓史が共同で行ったミトコンドリアDNAに基づく分子系統樹により現在ホンドヒラタなどと仮称[要出典]されている原名亜種群と、九州地方北部と山口県西部の一部に産する本土型のツシマヒラタ(ツシマ系ホンドヒラタと仮称)の混生群を指している事がわかってきた。 ホンドヒラタのオスの大アゴは湾曲が弱く基部から2/3は直線的で下方への湾曲も少ない。第一内歯は根元から1/3にあり、先端部分の小歯は弱く小さい。内歯から小歯の間に一連の鋸歯を備えるが小型個体では消失する。頭楯は幅が広く中央部が緩やかにくぼむ。ツシマ系ホンドヒラタのオスの大アゴは細長く、ほぼまっすぐで先端のみ湾入する。第一内歯は大アゴの基部1/4にあり、大アゴ先端の小歯は大型個体では良く発達する。第一内歯と小歯の間には一連の鋸歯があるが小型個体では消失する。頭楯はホンドヒラタより狭く両端がやや突出し、中央部はやや強くくぼむ。

褐色ホンドヒラタとツシマ系ホンドヒラタでは、内歯の位置は体長によって変化しない。近年70ミリメートルを大きく超え第一内歯が中央部付近にあるオスが本州各地で発見されているが、五箇と小島がミトコンドリアDNAをもとに調べた範囲では沖縄島嶼部に産するサキシマヒラタや外国産ヒラタクワガタの遺棄個体であることが確認された。従って従来の知見通り九州・本州四国と周辺島嶼に元々産するホンドヒラタは第一内歯の位置が体長によって上下しない点が特徴と思われる。

ホンドヒラタは本州・四国・九州・種子島屋久島伊豆諸島に産するが、伊豆諸島の内八丈島産はハチジョウヒラタとして別亜種とされる。この亜種には第一内歯が大アゴ先端に近づくオスが存在するため、ホンドヒラタとは別亜種とされるようになった。

また、遺伝的に識別できるツシマ系本土ヒラタの分布は九州の北部と山口県の北西部のみから知られる。ただし、形態的には山口県南部から福岡県北部にかけて生息しているヒラタクワガタの一部がツシマヒラタの様に第一内歯が大アゴの根本付近に位置し、体全体が細め。甑島列島の個体にもこの特徴が現れている。

通常、同所的に二群の昆虫が存在するとき、その二群は別種とすることが多い。ホペイオオクワガタはかつてクルビデンスオオクワガタの亜種とされたが、同所的に産することが確認され現在は別種扱いになっている。ホンドヒラタとツシマ系ホンドヒラタを東南アジア全域のヒラタクワガタ・オオヒラタクワガタ群の中に置いてミトコンドリアDNAを元に分子系統樹を描くと、どちらも中国本土のチュウゴクヒラタの子孫に当たることがわかっている。しかし分布経路は大きく異なり、ホンドヒラタがタイワンヒラタ・サキシマヒラタ・ハチジョウヒラタの子孫系でツシマ系ホンドヒラタはチュウゴクヒラタと朝鮮半島産ヒラタクワガタ・ツシマヒラタの子孫にあたる。

チュウゴクヒラタからわかれた点ではどちらもオオヒラタ群ではなく中型のヒラタクワガタ群と見なせるが、五箇と小島が行った東南アジア各地のオオヒラタ群との交雑試験ではツシマヒラタおよびツシマ系ホンドヒラタのみにオオヒラタ群との継続妊性が確認された。つまり妊性だけから見るとツシマヒラタとツシマ系ホンドヒラタはオオヒラタ群と近縁と見なせる。

この様にホンドヒラタとツシマ系ホンドヒラタは別種としてよいだけの分布経路・ミトコンドリアDNAの相違・妊性の違いなどがあるが、日本のヒラタクワガタのタイプ標本が紛失していることから敢えてこの二群を別種として再記載する試みは分類学者によってまだ行われていない。

こうしたヒラタクワガタ類の地域変異やその分布の成立要因に関して、小島啓史は野外での生態観察や累代飼育によって得られた情報によって次のような仮説を展開している。

日本周辺に存在するオオクワガタは一亜種だけだが、これはこの亜種が流木経由で分布を広げにくい「内陸型」のクワガタだからと考えられる。日本と朝鮮半島産オオクワガタは同じ亜種だが日本産のヒラタクワガタは沖縄では島嶼ごとに分化が進み、島ごとに数万年から10数万年の開きがある。これに関してヒラタクワガタ群の幼虫が過湿状態に強い地下生活者であったため流木経由で分布を拡大できる「低湿地型」のクワガタだったからと仮定している。

日本周辺のヒラタクワガタ群は氷河期の終わりごとに赤道周辺から北上してその時々に達した地域を足がかりに分布域を広げたが、熱帯地方出身のため幼虫が冬期零度以下の温度に耐える耐寒越冬状態になれないため分水嶺を超えて分布を広げた形跡はない。そのため氷河期がくると分布域を南下させる必要が生じ、日本周辺には波状に侵入を繰り返した結果と思われる細分化した群が見られる。日本周辺のヒラタクワガタ群は亜種間によっては10 - 100万年という分化が進んでおり、氷河期と間氷期を調べるのに最適な標本であると考えられている。

2008年には雌雄同体の個体が山口県萩市で見つかっている[9]

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脚注および参考文献

外部リンク

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