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哲学者の密室
笠井潔の探偵小説 ウィキペディアから
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『哲学者の密室』(てつがくしゃのみっしつ)副題ダッソー家殺人事件(ダッソーけさつじんじけん)は、笠井潔の探偵小説。
ミステリ総合誌『EQ』1991年3月号~9月号で連載され、加筆改稿後1992年8月に光文社から書籍化された[注釈 1]。1992年『週刊文春ミステリーベスト10』第二位(国内部門)[1]、同年『このミステリーがすごい! '93年版』第三位(国内編)[2]。
1970年代のパリを主要舞台に、謎の日本人青年矢吹駆(ヤブキカケル)と大学生ナディア・モガールの活躍を描いた、連作ミステリーの第4作である。今作ではナチス・ドイツの敗色濃厚となった1945年、東部戦線にある強制収容所と30年後にパリでその収容所の生還者邸で起きた、いずれも人が通れる個所は三重に囲われた密室殺人事件が扱われている。複数の哲学者や思想家をモデルにした人物が登場するが、カケルとの討論相手になるのは哲学者のマルティン・ハイデッガーをモデルにした人物で、その弟子のエマニュエル・レヴィナスをモデルにした人物が強制収容所の生還者で事件関係者として登場する。終盤でカケルの家族関係が明かされるが、祖父のモデルはドイツ留学時代にハイデッガーに師事していた三木清である。
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あらすじ
要約
視点
季節外れの寒気と連日の雨が降る、5月末の深夜のパリで事件は起こった。総監からの電話でモガール警視は財界の有力者フランソワ・ダッソー邸へ急行した。ブローニュの森に隣接する通称"森屋敷"は、二階建ての東西両翼に塔のような三階を備えた邸だった。その東塔で室外から閂と錠が下りた広間で発見された屍体は、商用で訪れたルイス・ロンカルというゲルマン系の60代の男で、石床に後頭部を強打して仰向けに倒れていた。事故死かと思われたが、背中に心臓への刺し傷が見つかり他殺が濃厚になった。室内に凶器らしき物はなく、落ちていたのは根本から刃が折れたナチス親衛隊の短剣だった。邸は毎晩施錠され、玄関から三階の間を移動する者は主人と客、使用人らの目に止まるはずであった。事件当日、邸に居たダッソーと三人の滞在客はユダヤ系で、自身か親がナチス・ドイツのコフカ収容所の生還者だった。
独ソ開戦から3年半が過ぎた1945年1月12日、クラクフ司令部所属の武装親衛隊少佐ハインリヒ・ヴェルナーは、雪が舞うポーランドからウクライナへ向かう舗装路を、クリューガー大将から貸与されたメルツェデスSでコフカ収容所へ疾走していた。今日ヴィスワ川の対岸に布陣していたソヴィエト軍が攻撃を開始した。絶滅収容所であるコフカ収容所を、3日以内に撤収せよと言う命令を伝えるためであった。
コフカ収容所長ヘルマン・フーデンベルグへの命令伝達と収容所構内の視察を終えて、所長官舎で七時の晩餐まで待機していたヴェルナーの部下パウル・シュミット軍曹は、車で周辺を廻ってくると言ってキイを手に官舎を出る上官から、七時に夕方の視察で窓に女の姿を見かけた丘の上の小屋で、自分の到着を待つよう依頼された。七時に着くようシュミットは官舎を出たが、途中にある兵器庫から小屋までの雪上に、ヴェルナーのあとに官舎を出たフーデンベルグの物らしい足跡が印されていた。小屋の扉は外から金属棒の閂がかかった状態で、手前の居間にはフーデンベルグが閉じ込められてた。奥の寝室は中から鍵がかかり、左手に拳銃を握った女が側頭部から血を流して死んでいた。フーデンベルグは女囚のハンナ・グーテンベルガーと居間で話をしていたが、女が寝室に閉じ込もったあと銃声がしたと言う。シュミットは情婦にしていたハンナをフーデンベルグが殺害したと推測したが、寝室の鍵はベッドの上に落ちていた物だけでフーデンベルグは持っておらず、居間からは見つからなかった。そして正面扉の閂をかけた方法と理由は不明だった。
ヴェルナーの到着を待つ間に官舎のほうから爆発音が起こり、収容所全体の爆発炎上から囚人の集団脱走へ発展した。シュミットが爆風で倒れて気絶していた隙に、フーデンベルグの姿は消えていた。翌日、少佐の肩章を着けヴェルナー愛用のライターを所持した、焼け焦げた屍体が発見される。司令部から来た工兵隊の作業で収容所は撤収されたが、事件の真相は判らぬまま30年の歳月が過ぎた。
コフカ収容所の生還者ガドナス教授宅へ、カケルとナディアが訪問した。コフカ事件の関係者を当たっている退職警官パウル・シュミットの来訪に合わせたもので、カケルの目的はニコライ・イリイチの出自がコフカ収容所へ繋がるためだった。シュミットからコフカ事件の顛末を聞いたナディアは、いつもの探偵遊戯が刺激される。ダッソー家事件の関係者がコフカの生還者なのと、三重密室の類似性からだった。
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主な登場人物
パリ (序章・前編・後編・終章)
- フランソワ・ダッソー ユダヤ系の富裕な実業家、パリ財界の有力者
- エミール・ダッソー 他界したフランソワの父親、ダッソー家先代当主
- アンリ・ジャコブ エミールと友人だった主治医、フランス中部ムラン出身
- エドガール・カッサン エミールの荒事担当だった自動車修理工場主、フランス北部アミアン出身
- ダニエル・デュボア エミールと友人だった他界したラビ
- クロディーヌ・デュボア パリ大学生のダニエルの娘、パリ出身
- ルイス・ロンカル リスボンを経由してパリに訪れたボリビア人
- イザベル・ロンカル ルイスの妻
- モーリス・ダランベール ダッソー邸の執事、フランス中部ブールジュ出身
- フランツ・グレゲローヴァ (グレ) ダッソー邸の下男、チェコ西部ヤーヒモフ出身
- モニカ・ダルティ ダッソー邸の料理女、パリ出身
- ジャン・コンスタン 常習的犯罪者の右翼ゴロ
- ギョーム・ピレリ ガソリンスタンド店員
- ツァイテル・カハン イスラエルの秘密機関員
- ダニエル・コーヘン カハンの部下
- マルティン・ハルバッハ ドイツ南部メスキルヒ出身の哲学者
- ルネ・モガール パリ警視庁司法警察局警視
- ナディア・モガール ルネの娘、パリ出身の大学生
- ジャン=ポール・バルべス ルネの部下、司法警察局警部
- 矢吹駆 謎の日本人青年
- ニコライ・イリイチ 秘密政治結社"ラモール・ルージュ"の中心人物
コフカ収容所 (中編)
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主な関連項目
要約
視点
- 前編 ノートゥングの魔剣
- 中編 ワルキューレの悲鳴
- 後編 ジークフリートの死
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書籍
脚注
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