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広告を扱う会社の総称 ウィキペディアから
広告代理店(こうこくだいりてん、英: Advertising agency)とは、広告を取り扱う会社の総称である。
近年、インターネット広告専業代理店の存在感が強まってきた中、この状況変化を踏まえてこれまで広告代理店と呼ばれていた会社は、総合広告代理店と呼ばれ始めている。
米国では1841年にボルニー・パルマーがフィラデルフィアに広告代理店を設立したのが最初といわれている[1]。しかし、初期の広告代理店は広告主と新聞社などとの純粋な代理・仲介業で、広告主ではなくメディア側の代理人という性格が強く、広告の制作はあくまでも広告主が行うもので広告代理店は一切関与しなかった[1]。1880年代以降、広告業界にジョン・E・パワーズやチャールズ・オースチン・ベイツといった先駆的なコピーライターが登場し広告代理店が広告制作も扱うようになった[1]。
日本では、明治期から第二次世界大戦の戦前までは「広告取次」や「広告ブローカー」と呼ばれていた。時代が下り、事業内容の変化もあり広告代理店と呼ばれるようになったが、現代では「店」が一般向けに開かれているといった業態ではなく、その多くが企業間取引をとる企業形態のため「広告会社」と呼称する方が現代的で適切である。くわえて、その多くが双方代理による企業間取引である[注 1]。業界団体である一般社団法人日本広告業協会も広告代理店という呼称を使用せず"「広告会社」の同業団体"と名乗っている。代理・仲介業、代理人の古い慣行や英語の "advertising agency" からの直訳的な翻訳で、このページのように「広告代理店」の呼称を今でも使う場合があるが適切とはいえない。このことはちょうど「旅行代理店」と「旅行会社」の関係とも似ている。
メディアの広告枠を広告主(クライアント、顧客)に売り、手数料(コミッション)を得るというのが基本的企業形態である。従来は純粋にそれだけを行っていたが、時代とともにその役割は広がっており、メディアをまたがるメディア・ミックス、マス・メディア以外も統一してキャンペーンを組み立てる統合的マーケティング・コミュニケーション[注 2]、インターネット登場後の相乗効果の追求(クロスメディア)や、その枠に載せる広告を効果的・効率的に制作指示するのも広告代理店の業務となっている。制作部門を持つ広告代理店の場合は、制作部門が広告制作会社と共に行う。また顧客企業のマーケティングの一環としての広告計画、その立案のためのマーケティング・リサーチ、商品開発、広告計画・実施の一環としての販売促進、商業印刷、プレミアム景品類の制作などのほか、顧客企業や取り扱う製品のイメージの構築(CIなど)、イベントのプロデュースあるいは運営を行う。大型博覧会でのパビリオン企画・設計・建設・運営、国際的なスポーツイベントへのスポンサード、映画製作への出資・参画、シンポジュウムの企画・運営、PRなど業容は広い。今世紀に入って以降、デジタル関連のサービスも増加した。
広告代理店は、報道番組やバラエティ番組からテレビドラマやアニメ、映画等の制作に至るまで、テレビ局に対して、放送枠のスポンサーへの商社金融的な与信機能を背景に強大な影響力を持つ。
特にキー局(テレビ局)の制作費に頼らず出資者(スポンサー)を募る製作委員会方式が主流になり、放送枠の買い取り方式が中心となっている現在のアニメ産業では重要な地位を占めている。しかし、一部では製作費の一部を広告代理店が確保し、番組や映画の制作費が十分に確保できないとの批判もある[2]。広告代理店が「手数料」などの名目で中間搾取をしている、と呼ばれる一つの例である。
極めて少数の反対意見でも、広告掲載中止などの大がかりな事態になる場合があるため、比較広告も日本ではこういった理由から、あまり制作されない[3]。
近年、スマホの普及と同時に、インターネット広告へのシフトがめまぐるしく、ネット専業広告代理店の追い上げにより、価格競争が激化するとともに、総合広告代理店のシェアは年々下降している。2019年インターネット広告費がテレビ広告費を逆転し、従来の総合広告代理店は、急激な変革を迫られている。
同時にネット専業広告代理店でもテレビCMなどのマス広告を扱うケースも増えてきている[4]など垣根があいまいになっていることから、従来の(総合)広告代理店とネット専業広告代理店と種類分けをすることに対して、意味があるのかと疑問の声も上がっている。
上位から順に
日本の広告代理業の第1号は1880(明治13)年創業の「空気堂組」とされ、1983年に福沢諭吉が「広告(廣告)」という言葉を発案、1884年に「弘報堂」、1888年に「廣告社」「三成社」「広目社」「時事通信社」「東京通信社」「東京急報社」、1889年に「広益社」「金蘭社」「豊国通信社」「日本通信社」、1890年に「新聞用達会社」「萬年社」「弘業社」「正路喜社」などが創業した[5]。その後、1895年に瀬木博尚が博報堂を、1901年に光永星郎が日本広告(のちの電通)を創業した。バブル期の1980年代後半に数多くの広告代理業が始まった[5]。
広告代理店はいくつかのタイプに分けることができる。主な該当企業は以下に挙げる。
クライアントが国内系企業の場合、1ブランドに対しては1つの総合広告代理店が川上から川下まで担当するのがほとんどだが、クライアントが外資系の場合、ブランディング、広告制作、メディアプランニング(バイイング)、イベントなどが各専門の広告代理店に分化され複数の代理店がチームを組んでブランドの広告を考えることもある。
また日本で活動する外資系企業は、世界的規模で活動する日本の広告代理店が皆無であることから、担当する広告代理店もグローバルで契約した外資系広告代理店が多く、外資対外資の場合では契約形態はコミッション制ではなく、フィー制度のとなるのがほとんどである。
外資系広告代理店は役割に応じて、以下のように区別される。
(なお、ブランドエージェンシーがクリエイティブエージェンシーを兼務する場合がほとんどである)
主な外資系広告代理店で、日本国内に拠点がある会社に、以下の会社がある(世界の売上高順2009年-2010年)
などがある。
日本国内の広告代理店売上ランキング
順位 | 企業名 | 売上 | 種類 | 年度 |
1位 | 電通グループ | 5兆8,195億円 | 総合広告代理店 | 2022 |
2位 | 博報堂DYホールディングス | 1兆5,189億円 | 総合広告代理店 | 2022 |
3位 | サイバーエージェント | 7,105億円 | インターネット広告代理店 | 2022 |
4位 | ADKホールディングス | 3,528億円 | 総合広告代理店 | 2017 |
5位 | 東急エージェンシー | 1,043億円 | ハウスエージェンシー | 2021 |
6位 | デジタルホールディングス | 694億円 | インターネット広告代理店 | 2022 |
7位 | アドウェイズ | 596億円 | インターネット広告代理店 | 2022 |
8位 | ジェイアール東日本企画 | 431億円 | ハウスエージェンシー | 2022 |
日本と海外の広告代理店を比較してよく批判されるのは、海外のほとんどの先進国で見られる「一業種一社制」の原則が日本には見られないことである[6]。「一業種一社制」とは1つの広告代理店が同時に2つ以上の競合(同業種他社)会社の広告を担当しないという、社会的モラルも含んだ制度であり、これは「同広告代理店が競合他社の製品の購買も促進する」という矛盾の防止が目的である。
例えば日本の自動車会社の広告を見ると、電通は本田技研工業、SUBARU、完全子会社のダイハツ工業を含むトヨタ自動車を始めとする大半の競合自動車メーカー、博報堂は日産自動車、マツダ、スズキ、ADKは三菱自動車工業など、というように競合する他社同士の広告を同時に担当している。その結果、顧客企業が開発を進める新製品の機密情報の保守や、競合関係に当たるメーカーの商品購買も促進し、あえて顧客同士を互いに競わせる形にして自らは儲けている、などの観点からしばしば問題に上がる。
その結果、同業他社のいかんを問わず、様々な業種の大企業を一手に顧客に収める電通や博報堂、ADKなどの主要な広告代理店が強大な媒体力を保持してしまい[注 3]、自由競争が損なわれているため、広告代理店の売上げ順位どころか売上げの比率もほとんど変化しないこと。媒体露出量に依存し、「一業種一社制」の元で競争が激しい海外市場に目が向かなくなることが、日本の広告代理店の国際競争力が低い原因の一つに挙げられる。例えば電通は、単体で世界最大の広告代理店にもかかわらず、世界的な認知度はほとんどない[要出典]。
ネット広告の取引が拡大することを機会として捉え、主としてアメリカではコンサルティング業界からの参入が相次ぎ、もはやアメリカのネット広告の取引額の上位会社の大部分は、従来からの広告会社ではない。それらコンサルティング業界では、もともと「一業種一社」の伝統がなく、コンサルティング業界ではそれが当然である、とする論理で広告取引も行う。したがって、21世紀には一業種一社制を巡る議論は、日本の特殊性批判とは違う次元に突入している。
また、一部の広告代理店は、過労自殺した社員の親族が「社員の安全配慮義務を怠った」「残業手当が支払われていない」などで会社を相手に損害賠償を請求し裁判を起こしたことに象徴される、過酷な勤務状況でよく知られている[7][8]。現在は大手代理店は過大残業を見直し、アウトソーシングによって大幅に減らしていこうと努力しているが、これにより制作プロダクションは一層の激務を要求されることになり、本質的な問題の解決には至っていない[9]。
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