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応用数学
数学的知識を他分野に適用することを主眼とした数学分野の総称 ウィキペディアから
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応用数学(おうようすうがく、英語: applied mathematics)とは、数学的知識を他分野に適用することを主眼とした数学の分野の総称である[1][2][3]。 数学のさまざまな分野のどれが応用数学であるかというはっきりした合意があるわけではなく、しばしば純粋数学と対置[4]されるものとして、大まかには他の科学や技術への応用に歴史的に密接に関連してきた分野がこう呼ばれている。
歴史的には、実践的応用が数学理論の発展を動機づけ、その理論がやがて抽象概念をそれ自体のために研究する純粋数学の対象となってきた。ゆえに、応用数学の営みは純粋数学の研究と密接に結びついている。
概説
歴史的にみれば、応用数学はニュートン力学と密接に関連して始まった。 実際、19世紀中頃まで応用数学者と物理学者の間に明確な区別は存在していなかった。 このときの応用数学は何より応用解析、とくに微分方程式論、近似理論 (approximation theory)、確率論の応用から成り立っていた。 ここで近似理論とは、広く解釈して表現論、漸近展開、変分法、数値解析を含んだ領域である[5][6][7]。
現在では、「応用数学」という用語はもっと広い意味で用いられ、上のような古典的領域とともに応用上重要な他の分野も含むものとなっている[2]。 逆に、数論のような分野でさえ現在では暗号理論などで応用上重要なものとなっているが[8][9][10][11]、それ自体が応用数学とは呼ばれない。 このため英語では、実世界の問題に応用可能であるが伝統的に応用数学と呼ばれる領域を越えたものを含む数学の分野を、従来の応用数学 (applied mathematics) と区別するために、しばしば applicable mathematics(応用可能な数学)と呼んでいる[12][13][14]。
数学の応用分野は自然科学や工学において重要なものであったが、近年では、例えば経済学的考察からゲーム理論の誕生と発展がもたらされ[15][16]、神経科学の研究からニューラル・ネットワークの理論が生まれたように、それらの外部から新たな数学の領域が生まれている。 またコンピュータの出現は、その理論的研究とその利用との双方において新しい応用分野を生み出してきている。 理論的研究分野である計算機科学 (computer science) においては、組合せ論、数理論理学、束論、圏論などの数学が応用される。 一方、コンピュータを利用して他の科学の領域の問題を研究する分野は計算科学 (computational science) と呼ばれ[17]、数値解析などの数学分野が利用される。
統計的手続きの確率論にもとづいた正当化を行う数学の分野は数理統計学と呼ばれる[18]。また社会科学や人文科学において、統計学が解析の手段として広く用いられているが[19]、統計学そのものは応用数学に含まれるとみなされることも、社会科学や人文科学の各分野と組み合わさった独立領域とみなされることもある。
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歴史

歴史的に、応用数学は主として応用解析(とりわけ微分方程式)、近似法(表現、漸近法(英語版)、変分法、数値解析を含む)、および確率から成っていた。これらの数学分野はニュートン力学の発展に直接結びついており、実際、19世紀半ば以前には数学者と物理学者の区別は明確でなかった。この歴史は米国に教育上の遺産を残し、20世紀初頭までは、古典力学のような科目が物理学科ではなく応用数学科で教えられることがしばしばあった。また、流体力学はいまでも応用数学の学科で教えられる場合がある。[20]工学系および計算機科学の学科は、伝統的に応用数学を活用してきた。
分野
要約
視点


今日では「応用数学」という語はより広い意味で用いられる。古典的領域に加え、応用上の重要性が増した他の分野も含まれる。数論のように純粋数学に属する分野であっても、暗号などの応用において重要性を持つようになった(ただし、それ自体は必ずしも応用数学の分野に含められない)。
応用数学の細分が何であるかについては合意がない。数学や科学の時代的変化、そして大学における学科・科目・学位の編成の仕方が、この種の分類を難しくしている。
多くの数学者は、「応用数学」(数学方法そのものに関心を向ける)と、科学・工学における数学の応用を区別する。既知の数学を用いて行列人口モデル(英語版)を適用する生物学者は、応用数学をしているのではなく数学を使用している、というわけである。しかし一方で、数理生物学は純粋数学の成長を刺激する問題を提出してきた。アンリ・ポアンカレやウラジーミル・アーノルドのような数学者は「応用数学」の存在自体を否定し、「数学の応用しかない」と主張する。非数学者の側では、応用数学と数学の応用を混同する傾向もある。産業上の課題を解くために数学を用い・発展させる営みは「産業数学」とも呼ばれる。[21]
現代の数値的手法とソフトウェアの成功は、計算数学(英語版)、計算科学、計算工学(英語版)の出現を促した。これらは高性能計算を用いて、科学や工学における現象のシミュレーションや問題の解法に取り組む分野であり、しばしば学際的と見なされる。
応用可能な(applicable)数学
ときに「応用可能な(applicable)数学」という語が用いられ、物理学と並走して発展した伝統的な応用数学と、今日の実世界の問題に適用可能な多数の数学領域とを区別しようとする(ただし厳密な定義についての合意はない)。[22]
数学者はしばしば、一方に応用数学、他方に科学・工学の内外での数学の応用あるいは応用可能な数学を区別する。[22]一部の数学者は応用可能な数学という語を強調し、従来の応用分野と、かつては純粋数学と見なされていた領域から新たに生じた応用とを切り分ける。[23]この見方では、たとえば生態学者や地理学者が人口モデル(英語版)に既知の数学を適用するのは応用数学ではなく応用可能な数学である。
純粋数学に属する数論のような分野であっても、いまや暗号などの応用で重要であるが、それ自体は必ずしも応用数学に含められない、とされることがある。こうした叙述では、実解析、線形代数、数理モデル、数理最適化、組合せ数学、確率・統計など、伝統的数学の外で有用で、しかも数理物理に特化しない手法群として応用可能な数学が捉えられうる。
他の著者は、「新しい数学の応用」と伝統的な応用数学分野の合併として応用可能な数学を記述することを好む。[23][24][25]この見取り図では、「応用数学」と「応用可能な数学」の語は互換的である。
有用性

歴史的に、数学は自然科学と工学において最も重要であった。しかし第二次世界大戦以後、物理科学の外側の領域からも、ゲーム理論や社会選択理論(経済学上の考察に由来)といった新しい数学分野が生まれた。さらに、数学的方法の利用と発展は他分野へと広がり、数理ファイナンスやデータサイエンスのような新領域が成立した。
計算機の出現は新たな応用を可能にした。すなわち、新しい計算機技術それ自体を研究・活用する計算機科学、他分野の問題に取り組む計算科学、および計算そのものの数学(例:理論計算機科学、コンピュータ代数(英語版)、[26][27][28][29]数値解析[30][31][32][33])である。統計学は、おそらく社会科学で最も広く用いられている数理科学であろう。
学術部局における位置づけ
学術機関は、応用数学に関する科目・プログラム・学位のまとめ方や名称について一貫していない。単一の数学科のみを置く大学もあれば、応用数学と(純粋)数学の別個の学科を設ける大学もある。大学院を有する学校では統計学科を分離するのがごく一般的だが、学部のみの機関では統計を数学科の配下に置くところが多い。
独立学科ではない応用数学プログラムの多くは、主としてクロスリスト(他学科横断の共通開講)科目と、応用分野側の学科に所属する兼任教員によって構成される。応用数学の博士課程でも、数学以外の履修をほとんど(あるいは全く)要しないものがある一方、特定の応用分野で相当量の履修を必須とするものもある。ある意味で、この違いは「数学の応用」と「応用数学」の区別を反映している。
英国の一部大学には応用数学および理論物理の学科が置かれているが[34][35][36]、純粋数学と応用数学を分けた学科編成は、現在では以前ほど一般的ではない。顕著な例外としては、ケンブリッジ大学の応用数学および理論物理学科があり、ここにはルーカス数学教授職が置かれ、その歴代の保持者にはアイザック・ニュートン、チャールズ・バベッジ、ジェームズ・ライトヒル(英語版)、ポール・ディラック、ステファン・ホーキングらが名を連ねる。
ブラウン大学の応用数学学科は、米国で最も古い応用数学プログラムである。応用数学の独立学科を持つ大学は、学士から博士までの学位を提供する大規模部門を持つブラウン大学から、応用数学の修士のみを提供する サンタクララ大学まで幅広い。[37]数学科を純粋と応用のセクションに分割している研究大学としてはマサチューセッツ工科大学などがあり、このプログラムの学生は、応用数学スキルを補完するために計算機科学・工学・物理・純粋数学など別領域の技能も学ぶ。
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関連する数理科学
要約
視点
応用数学は、次の数理科学分野と関連している。
工学
数学はあらゆる工学分野で用いられ、その結果として工学職の中で独自の専門領域に発展してきた。
例として、連続体力学は土木・機械・航空宇宙工学の基礎であり、固体力学と流体力学の科目は工学カリキュラムの重要要素である。連続体力学はそれ自体、数学の重要分野でもあり、偏微分方程式の解析、微分幾何、変分法に関わる多数の困難な研究課題にインスピレーションを与えてきた。おそらく最も有名な連続体力学起源の数学問題は、ナビエ–ストークス方程式の解の存在と滑らかさの問題である。連続体力学の数学に貢献した研究者として、クリフォード・トルーズデル、ウォルター・ノル(英語版)、アンドレイ・コルモゴロフ、ジョージ・バチェラー(英語版)など、工学者ではなく数学者としての著名人が挙げられる。
多くの工学分野に不可欠なのが制御工学であり、その基礎理論である制御理論は力学系の数学にもとづく応用数学の一分野である。制御理論は現代技術において電気・機械・航空宇宙工学の基盤的役割を果たしてきた。連続体力学と同様に、制御理論も独立した数学研究分野となっており、アレクサンドル・リャプノフ、ノーバート・ウィーナー、レフ・ポントリャーギン、ピエール=ルイ・リオン(フィールズ賞受賞)らがその基礎に貢献した。
科学計算
科学計算は、応用数学(とりわけ 数値解析[38][39][40][41][42])、計算機科学(とりわけ高性能計算[43][44])、そして各科学分野における数理モデリングを含む。
計算機科学
オペレーションズ・リサーチと経営科学
オペレーションズ・リサーチ(OR)[47]と経営科学は、多くの場合、工学・ビジネス・公共政策の各学部で教授されている。
統計学
応用数学は統計学と大きく重なり合う。統計理論家は数学を用いて統計手続きを研究・改良し、統計学の研究はしばしば数学的問題を喚起する。統計理論は確率論と意思決定理論に依拠し、科学計算・解析・最適化を広く用いる。実験計画の設計には、代数学や組合せデザインが用いられる。応用数学者と統計家は、(特にカレッジや小規模大学で)数理科学系の同一部局に所属することが多い。
保険数理
数理経済学
数理経済学は、経済学の理論を表現し問題を分析するために数学的方法を適用する。[49][50][51]ここでいう応用法とは、非自明な数学的手法やアプローチを指す。数理経済学は、統計・確率・数理計画法(およびその他の計算手法)、オペレーションズ・リサーチ、ゲーム理論、数理解析の一部に基づく。この点で、数理経済学は数理ファイナンス(応用数学の別分野)に似てはいるが同一ではない。[52]
数学科目分類(英語版)によれば、数理経済学はカテゴリー91:ゲーム理論・経済学・社会・行動科学の中の応用数学・その他に分類される。MSC2010では、ウェイバックマシンにおいてゲーム理論が91Axx、数理経済学が91Bxxである。
その他の分野
応用数学と個別応用分野の境界はしばしばあいまいである。多くの大学では、ビジネス、工学、物理、化学、心理学、生物学、計算機科学、科学計算、情報理論、数理物理など、本来の数学・統計の学科外で数学・統計の科目が教えられている。
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関連する分野の一覧
応用数学の研究対象は非常に幅が広く、様々な分野にまたがるため、関係のある分野のすべてを列挙すれば膨大になる。ここでは、応用数学との関わり合いが特に深い代表的な分野を挙げる[2]。
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主な研究者
日本
昔は日本の高等学校学習指導要領において、科目「応用数学」が存在した時期がある[106]。高等専門学校では「応用数学」は2019年現在も存在する[107]。
応用数学関連学会
SIAMは、国際的な応用数学の学会である。2024年時点で、同学会の個人会員は14,000人にのぼる。[108]また、アメリカ数学会には応用数学グループがある。[109]
関連項目
関連団体
関連分野
その他
脚注
外部リンク
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