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渋沢篤二
日本の実業家、渋沢栄一の次男 ウィキペディアから
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渋沢 篤二（しぶさわ とくじ、正字体：澁澤 篤二[1]、1872年11月16日〈明治5年10月16日〉[1] - 1932年〈昭和7年〉10月6日[2]）は、日本の実業家[1]。子爵・渋沢栄一の次男。長男が夭逝し嫡男として育つが、後に廃嫡となる。
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生涯
要約
視点
幼少期・青年期
1872年11月16日、渋沢栄一と妻の千代の次男として神田裏神保町にて生まれる（1862年に誕生した栄一の長男の市太郎は夭逝していた）。1876年、渋沢家が深川福住町に転居。1882年、9歳の時に母千代が病没、姉穂積歌子に育てられる[3]。1886年、渋沢家を中心とする若手実業家の修養団体として龍門社が結成され、篤二が社長に就任。『龍門雑誌』の刊行が始まる[4]。
学習院を経て、熊本第五高等中学校に学ぶが、1892年に「大失策」により退学する[1]。家長である父の栄一より、栄一の郷里の血洗島で一定期間の謹慎を命じられた[4]。この大失策がなんであったかは、定かではないが、歌子日記を編纂した穂積重信は、篤ニの大失策は神経性ノイローゼによる遊所への耽溺流連ではなかったか、と推察している。[5]
帰京後は、歌子が招いた家庭教師より、英語、漢文、法律、経済などを学ぶ。[1]。
1895年公家華族の橋本伯爵家の敦子と結婚する。妻となる敦子の父は羽林家の公卿出身の元老院議官を務めた伯爵橋本実梁。
1896年、後に廃嫡となる篤二に代わりに渋沢家を継ぐことになる長男の敬三が誕生する。
1897年、栄一が邸宅内の土蔵群を用い、澁澤倉庫部を開始、篤二が倉庫部長に就任、実業家の世界に入る[6]。
1899年、義兄の穂積陳重に同行し欧米諸国を歴遊して、その制度文物を視察する[1]。帰朝後に第一銀行検査役に就く[7]。その後、東京毛織物株式会社取締役に挙げられる[1]。1909年、渋沢家直営事業の澁澤倉庫部が、渋沢家と第一銀行の出資により澁澤倉庫株式会社に改組されると、取締役会長となる。
廃嫡
1911年、篤二と芸者玉蝶のスキャンダルが表面化し家内で問題視された。ただし廃嫡の背景にはこの件以前から続いていた素行不良や金銭問題など、家督相続者としての不適格性が累積していたと指摘されている[4]。こうした状況を受け、1912年1月、篤二の廃嫡方針が渋沢同族会で正式に決定され[8]、澁澤倉庫取締役会長も退任する。『東京朝日新聞』は「澁澤男（爵）の廢嫡訴訟 篤二氏身體繊弱の故を以て」という見出しで「篤二氏は明治40年3月頃より脳神経を病み、暫く治療服薬する内腎臓炎を併発し、それよりやや異状を呈し時折暴言を吐くなどの事があった」などと伝えている。一方で、佐野眞一氏や鹿島茂氏などによる後年の研究では、女性問題や浪費などの素行上の問題が廃嫡決定に大きく影響したとする見解が示されている[4][9]
1913年の廃嫡後、妻の敦子は三人の子ども（敬三・信雄・智雄）を連れて渋沢家本邸を離れ、東京市内の借家を転々としながら生活をしたとされる。渋沢敬三はのちに、「大きな家に住むのを済まぬとして、母は東京都内の諸所を転々と移りながら、私たち兄弟三人の成長を見守っておりました」と回想している。この時期、敦子と子どもたちが経済的にも居住環境的にも不安定な生活を余儀なくされた[10]。
1915年、栄一は渋沢同族会を渋沢同族株式会社に改組し、篤二に代わり嫡孫・敬三を社長に就任させた。翌年の1916年には栄一自身も第一銀行頭取も退任し、実業界の第一線から身を引いた。
廃嫡後の生活
篤二本人は廃嫡により家督・財産管理権を完全に失ったものの、宗家（当主となった嫡孫・敬三）からは一定の経済的援助が続けられた。異母弟・渋沢秀雄は著書『父・渋沢栄一』の中で、「長男敬三は情理備わった人で、篤二は後顧の憂いはなかった。後年、宗家から立派な家屋敷と月々の仕送りをもらい、思う女と安穏に暮らしていた」と述べている。この証言から、廃嫡後も篤二との完全な断絶ではなく、宗家として最低限の扶助を行っていたことが窺える。[11]
白金三光町での生活と玉蝶との同居
複数の研究および当時の記録から、篤二は廃嫡前後の時期から白金三光町（現・東京都港区白金）に居を構え、1910年代初頭から芸者・玉蝶（たまちょう）と同居していたとされる。
義太夫・小唄・常磐津・謡曲などの芸能、乗馬、ハンティング、犬の飼育、写真撮影、記録映画など多趣味な生活を送った。
前述の秀雄は、篤二について「生活を楽しむことが商売のような、世にも気楽な一生を送った」とも評している。[11]
経営面での“限定的復帰”
家督相続に関する復権（＝廃嫡取り消し）は生涯一度も行われなかったが、企業経営上では一定の復帰が認められた。1922年、篤二は澁澤倉庫の専務取締役として再登用され、その後監査役を経て、1927年には再び取締役会長に就任している。
これは家督（家制度）と企業経営（法人運営）が制度的に別個であるためであり、家督相続に関して復権した記録は存在しない。[12]
晩年
1932年、父・栄一の死の翌年にあたる夏頃から体調を崩して療養生活に入り、同年10月6日に重態に。午後3時に玉蝶と20年間暮らした白金の自宅にて、死去。満59歳（享年61）[13]。墓所は谷中霊園の渋沢家墓所にある。
長男の敬三は、父が明治後期に撮影した多数の写真を整理し、私家版『瞬間の累積 渋沢篤二 明治後期撮影写真集』を、自身が没する直前の1963年秋に刊行した。[14]
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略歴
- 1872年、11月16日に渋沢栄一と妻・千代の次男として生まれる。父の栄一から「
篤二 （）」という名前を名づけられる。 - 1882年、母の千代と死別。
- 1895年、橋本敦子と結婚。妻となる敦子の父は羽林家の公卿出身の元老院議官を務めた伯爵橋本実梁。
- 1896年、長男・敬三（子爵、大蔵大臣）が誕生。
- 1898年、次男・信雄（実業家、商人）が誕生。
- 1901年、三男・智雄（実業家）が誕生。
- 1909年、澁澤倉庫会長となる。
- 1913年、廃嫡となる。これにより篤二の長男・敬三が嫡孫として渋沢家跡継ぎとなった。
- 1922年、澁澤倉庫専務取締役に復帰。
- 1925年、長男・敬三夫妻に篤二夫妻の初孫となる雅英誕生。
- 1927年、再度澁澤倉庫会長に就任。
- 1932年、10月6日に永眠。享年61（満59歳没）。墓所は渋沢子爵家代々の墓所がある谷中霊園にある。
人物
- 渋沢秀雄の娘 渋沢華子の証言「先妻の娘二人〔歌子と琴子〕はインテリで格式高い。おまけにその夫たちは華族である。いつも彼女たちは仇討ち寸前のような険しい表情をしていた。無言のまま一瞬じろりと睨む四つの眼が子供の私には恐ろしかった。栄一を父に持つ彼女たちの過剰なプライドは鉄の裃のように肩にのしかかっているように見えた。それに比して篤二はいつも笑顔で子供たちに接してくれた。理由もなくその温かさが伝わってくるような伯父だった。篤二は本来蒲柳の質で過保護に育ったうえ10歳の時に母に死なれたあと、厳格な姉の管理下で嫡男のプライドを持たされて育った。リベラルな彼にとって、父栄一の大きな存在はプレッシャーとなっていた。 篤二はますます家族の重圧から逃れようとするようになった。篤二の妻敦子は夫の道楽で苦労を背負いすぎて背が縮んでしまったのかと思うほど、小さな華奢な女性だった。私たち子供にも控え目な優しい伯母だった。しかし篤二は芸者に惚れてその賢夫人を離婚すると言い出した。二人の姉たちはお家の一大事と同族会の席上で号泣した。栄一もこの強い娘たちの手前、芸者を正妻にするのは人倫にもとると篤二の廃嫡を決めた。そのころ高校生だった私の父秀雄は次兄武之助と異母兄篤二の隠れ家を訪ねた。当の本人は大きな邸に猟犬を飼い、愛人と何不自由なく趣味人として暮らしている。秀雄は「廃嫡とは良いもの」と羨ましく思ったと言う。このあと篤二は写真・狩猟・猟犬など多趣味人となり、狂歌などにも興味を持って行った。後に彼の義太夫の語りはプロ級にまでなった。」[15]
- 渋沢正雄の娘 鮫島純子の証言「千代は惜しくも明治15年病没、栄一は翌年後妻の兼子と結婚しました。長女歌子はすでに穂積陳重と結婚していましたが、長男の篤二はまだ母恋しさの残る10歳でした。姉夫婦が養育を引き受け穂積家で育てられた篤二は栄一の嫡男として大きすぎる期待を背負い、父親の社会的威光を避けようとする気持ちがあったのかもしれません。跡継ぎとして不適格だと廃嫡の宣告を受けても、かえって気楽でなによりといった風情で抵抗なく栄一の意思に従ったと聞いております。 まだ若い息子の敬三に家督を譲った篤二は、写真・狩猟を好み、義太夫・常磐津・新内は玄人はだし、川柳などもたしなむ文化人であったそうです。飛鳥山で開かれる園遊会の時など当時珍しい舶来のカメラを首から下げて、チョロチョロ動き回る私たちをニコニコしながら撮影して「ヨシッ」と満足げにOKサインを出したりする人の好い穏やかな伯父様という印象がございます。 [16]
- 佐野眞一は篤二を「巨人栄一の重圧から逃げるため放蕩に走った悲劇の人物」と評している[4]。
- 鹿島茂は栄一による篤二廃嫡は、栄一嫡子系姻族（同母姉の婚家）の穂積家・阪谷家と篤二に親しい庶子系姻族（母方親族かつ異母姉妹の婚家）の尾高家・大川家との争い、あるいは篤二家・穂積家・阪谷家ら先妻千代の子の家族と武之助、正雄、秀雄ら後妻兼子の子の家族の間での将来の家督争いを懸念して、篤二長男の敬三を栄一存命中に一族の長の後継に指名し、親族内の争いの芽を未然に摘むための措置をとったのではなかったかと述べている[17]。
家族・親族
要約
視点
父母
妻子
- 妻・敦子（1880–1943） - 伯爵・橋本実梁の娘で、橋本実頴の妹[18] - 夫篤二の廃嫡が正式に決まった直後に敬三ら3人の子供を連れて三田綱町の屋敷を出て、数年間にわたり本郷西方町、高輪車町、駒込神明町などの小さな借家を転々とする[4]。
- 長男・敬三[19]（1896–1963） - 子爵、渋沢同族社長[20]、澁澤倉庫取締役、第一銀行副頭取、日本銀行総裁、大蔵大臣。東京市深川福住町生まれ[3]。
- 二男・信雄[19]（1898–1967） - 福本書院、独逸書輸入書籍商[20]、澁澤倉庫監査役。東京市深川福住町生まれ。
- 三男・智雄[19]（1901–1947） - 澁澤倉庫常務取締役。東京市深川福住町生まれ。
孫
曾孫
弟および姉妹の夫（従兄を含む）
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系図
→「渋沢氏 § 系図」を参照
登場作品
脚注
参考文献
関連項目
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