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MLH1
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MLH1(MutL homolog 1)は、ヒトでは3番染色体に位置するMLH1遺伝子によってコードされるタンパク質である。一般的に、遺伝性非ポリポーシス大腸がんと関係している。MLH1はマウスや出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeなど、他の生物でも研究が行われている。
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機能
MLH1遺伝子は、遺伝性非ポリポーシス大腸がんにおいて高頻度で変異がみられる遺伝子座として同定された[4]。大腸菌Escherichia coliのDNAミスマッチ修復遺伝子であるmutLのヒトホモログである。MutLはミスマッチの認識、鎖の識別、鎖の除去の際のタンパク質間相互作用を媒介する。MLH1の欠陥は、遺伝性非ポリポーシス大腸がんでみられるマイクロサテライト不安定性と関係している[5]。
DNAミスマッチ修復における役割
MLH1タンパク質は、DNAのミスマッチの修復を開始する一連の段階において協調的に機能する、ヒトでは7つのDNAミスマッチ修復タンパク質の1つである[6]。ミスマッチ修復の欠陥は大腸がんの約13%でみられるが、他のDNAミスマッチ修復タンパク質の欠乏よりもMLH1の欠乏によるものがはるかに高頻度でみられる[7]。ヒトの7つのミスマッチ修復タンパク質は、MLH1、MLH3、MSH2、MSH3、MSH6、PMS1、PMS2である[6]。さらに、EXO1依存的、EXO1非依存的なDNAミスマッチ修復のサブ経路が存在する[8]。
DNAのミスマッチは、ある塩基が他の塩基と不適切に対合した部位、または一方の鎖への短い付加や欠失のために他方の鎖とマッチしない部位で生じる。ミスマッチは多くの場合、DNA複製時のエラーまたは遺伝的組換えの結果生じたものである。こうしたミスマッチの認識と修復は重要であり、正しく行われない場合はマイクロサテライト不安定性や自発的な変異率の上昇(mutator phenotype)が生じる。
MSH2とMSH6のヘテロ二量体がまずミスマッチを認識するが、MSH2とMSH3のヘテロ二量体もこの過程を開始することができる。MSH2-MSH6ヘテロ二量体にMLH1とPMS2からなるヘテロ二量体が結合するが、MLH1とPMS3またはMLH3からなるヘテロ二量体もこれに置き換わることができる。この2組のヘテロ二量体からなるタンパク質複合体がミスマッチの修復の開始を可能にする[6]。
DNAミスマッチ修復タンパク質による開始過程に続いて、DNAポリメラーゼδ、PCNA、RPA、HMGB1、RFC、DNAリガーゼI、さらにはヒストンやクロマチン修飾因子がミスマッチ修復に関与する[9][10]。
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がんにおける発現の欠乏
要約
視点
エピジェネティックな抑制
DNA修復不全がみられる散発性がんのうち、DNA修復遺伝子に変異が存在するものはわずかである。DNA修復不全がみられる散発性がんの大部分では、DNA修復遺伝子の発現の低下やサイレンシングを引き起こすエピジェネティックな変化が存在している[19]。上の表に記したようなMLH1の欠乏の大部分は、MLH1遺伝子のプロモーター領域のメチル化によるものである。MLH1の発現を低下させる他のエピジェネティックな機構としては、miR-155の過剰発現によるものである[20]。miR-155の標的はMLH1とMSH2であり、ヒトの大腸がんではmiR-155の発現とMLH1やMSH2の発現との間には逆相関がみられる[20]。
発がん素地における欠乏
発がん素地(field defect)とは、エピジェネティックな変化または変異によってがんが発生しやすい状態となっている領域のことである。Rubinによって指摘されている通り、がん研究の大部分はin vivoでの明確な腫瘍またはin vitroで分離された腫瘍性病巣に対して行われている[21]。しかし、mutator phenotypeを有するヒト大腸がんでみられる体細胞変異の80%以上は、最終的なクローン増殖の開始以前に生じたものである証拠が存在する[22]。同様に、Vogelsteinらは腫瘍で同定された体細胞変異の半数以上は、前腫瘍段階(発がん素地)において、外観上は正常な細胞の増殖時に生じたものであることを指摘している[23]。
上の表に記されているように、MLH1の欠乏は腫瘍の周囲の発がん素地(組織学的には正常な組織)でもみられる。MLH1のエピジェネティックな発現低下やサイレンシングが行われていても、幹細胞に選択的な利点が生じる可能性は低い。しかし、MLH1の発現の低下や欠如は変異発生率の増加を引き起こし、変異した遺伝子によって選択的利点がもたらされる可能性がある。変異した幹細胞のクローン増殖が引き起こされた際、MLH1遺伝子は選択的に中立またはわずかに有害なパッセンジャー(ヒッチハイカー)変異として保持される。エピジェネティックに抑制されたMLH1遺伝子を持つクローンが存在し続けることでさらなる変異が生み出され続け、その一部から腫瘍が形成される可能性がある。
他のDNA修復遺伝子との協調的な抑制
がんでは、複数のDNA修復遺伝子が同時に抑制されていることが多い[19]。一例として、40の星細胞腫と非患者の正常な脳組織で27のDNA修復遺伝子のmRNAの発現の比較では、評価された27のDNA修復遺伝子のうち13の遺伝子、MLH1、MLH3、MGMT、NTHL1、OGG1、SMUG1、ERCC1、ERCC2、ERCC3、ERCC4、RAD50、XRCC4、XRCC5はすべて、星細胞腫の3つのグレード(II、III、IV)のすべてで大きくダウンレギュレーションされていた[24]。これら13の遺伝子が低いグレードでも高いグレードでも同様に抑制されていることは、これらの抑制が星細胞腫の初期でも後期でも重要である可能性を示唆している。他の研究では、135の胃がん試料においてMLH1とMGMTの発現は密接に相関しており、MLH1とMGMTの喪失は腫瘍の進行時に同調的に加速しているようである[25]。
減数分裂
要約
視点
DNAミスマッチ修復に加えて、MLH1タンパク質は減数分裂時の乗換えにも関与している[26]。MLH1はMLH3とヘテロ二量体を形成し、この複合体は卵母細胞の減数第二分裂中期の進行に必要であるようである[27]。メスとオスのMLH1(-/-)変異体マウスは不妊であり、不妊はキアズマのレベルの低下と関係している[26][28]。MLH1(-/-)変異体マウスの精子形成過程では染色体は通常より早く分離することが多く、減数第一分裂での停止が頻繁にみられる[26]。ヒトでは、MLH1遺伝子の一般的な変異は精子の損傷と男性不妊のリスクの上昇と関係している[29]。

MLH1タンパク質は、減数分裂中の染色体の乗換え部位に局在するようである[26]。減数分裂時の組換えはDNAの二本鎖切断によって開始されることが多い。組換え時には、切断部のDNAの5'末端はresectionと呼ばれる過程で除去される。その後のstrand invasionの過程では、オーバーハングした3'末端は相同染色体のDNAに「侵入」し、Dループが形成される。その後2つの主要な過程のいずれかが起こり、乗換え型または非乗換え型の組換えが行われる(相同組換えを参照)。乗換え型の組換えはダブルホリデイジャンクション中間体の形成を伴う。乗換え型の組換えの完了にはホリデイジャンクションの解消が必要である。
出芽酵母では、マウスと同様、MLH1はMLH3とヘテロ二量体を形成する。減数分裂時の乗換えは、MLH1-MLH3ヘテロ二量体の作用によるホリデイジャンクションの解消が必要である。MLH1-MLH3ヘテロ二量体はエンドヌクレアーゼであり、スーパーコイルを形成した二本鎖DNAに一本鎖切断を形成する[30][31]。MLH1-MLH3はホリデイジャンクションに特異的に結合し、減数分裂時にホリデイジャンクションのプロセシングを行う巨大複合体の一部として作用している可能性がある[30]。MLH1-MLH3ヘテロ二量体(MutLγ)はEXO1、Sgs1(BLMのオルソログ)とともに解消過程を構成し、出芽酵母で乗換えの大部分を形成しする。哺乳類でも同様に機能すると考えられている[32]。
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臨床的意義
ターコット症候群とも関係している可能性がある[33]。
相互作用
MLH1は次に挙げる因子と相互作用することが示されている。
出典
関連文献
外部リンク
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