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ナミアゲハ
アゲハチョウ属のチョウ ウィキペディアから
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ナミアゲハ(学名:Papilio xuthus)は、アゲハチョウ属に分類されるチョウの1種。日本では人家の周辺でよく見られるなじみ深いチョウである。
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名前
要約
視点
標準和名はやや揺れがあり、『日本産昆虫総目録 Ⅱ』(1989)[1]では「ナミアゲハ」を採用する一方、これを基にした『日本昆虫目録 第7巻鱗翅目』(2013)[2]では「アゲハ」を標準和名とし、「ナミアゲハ」と「アゲハチョウ」も有力な名称として併記する形としている。いずれの名前でもアゲハチョウ類の中でも普通種であるという意味での命名である。以下、本項では「ナミアゲハ」に統一する。
「アゲハ」などは少なくとも江戸時代には使われていた名前で、同時代の博物図鑑『大和本草』14巻には「鳳蝶」と書いて「アゲハ」という蝶が掲載されている。同書にはイラストは無いものの幼虫の形態の説明からして、本種か近縁種を指していたようである[3]。江戸時代後期の昆虫図鑑『千蟲譜』には2種類のイラスト入りで「アゲハ」として掲載されている。このイラストは一つは本種、もう一つはキアゲハのように描かれており、類似種がいることは既に知られていたことがうかがえる[4]。明治時代に西洋的な分類手法なども取り入れて発行された『日本昆虫学』内で黄色味が強い類似種には「キアゲハ」の名前が与えられて分離された[5]。
漢字表記は江戸時代の博物図鑑『大和本草』では「鳳蝶[3]」、『千蟲譜』では「鳳車」としている[4]。大和本草によればチョウやガの幼虫はまとめて「虫偏に蜀」の「蠋(ぎむし)」と呼ばれており、特にアゲハ類の幼虫は「イモムシ」という呼び名が当時からあったようである[3]。
チョウの中でも方言名は比較的多く知られている種類である。ナミアゲハ成虫を指すものとして、比較的広く用いられているのは「おこりちょお」・「おこれちょお」系で関東から九州まで広く見られる[6]。形態的な名前由来のものに「けんけん」・「けんけんちょお」(長野県)、「かみなりちょお」(西日本各地)「うまじゅちゅ」(宮崎県)などがある。「けんけん」は美しいという意味、「うまじゅちゅ」は大きい蝶という意味があるという。「かみなり」も恐らく色合いが由来とみられる。岩手県では「かじちょお」と呼び、長い尾状突起が舟の舵を思わせることからの命名とされる[6]。幼虫は「あまのじゃく」、「みそむし」、「ゆずぼう」などと呼ばれる。蛹は「おきくむし」、本種も含めアゲハ類の蛹に見られるこの名前は、怪談皿屋敷に出てくるお菊に由来し、蛹の糸の掛け方と背中を反らせる姿勢が木に縛り付けられたお菊を思わせるからとされている[6]。チョウ全般を指すものとしては「かかべ」・「てがら」系(東北に多い)、「ちょちょべこ」系(関東に多い)、「ちょっぱ」・「ちょこ」(西日本中心)、「はべる」・「はびる」系(南西諸島)などがあり、これらも適宜用いられる[6]。
種名(種小名) xuthusはギリシア神話に登場するクスートスに因み、初期のチョウ類の学名によくある神話由来の命名である。属名 Papilioもギリシア語で蝶を指す単語である。リンネが名付けた当時、鱗翅目昆虫の中でも蝶は全てPapilio属に入れらており、蛾もスズメガ類とそれ以外の2種類にしか分けられていない単純なものだったという[7]。
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形態
成虫の前翅長は4 - 6cmほどで、春に発生する個体(春型)は夏に発生する個体(夏型)よりも小さい。翅は黒地に黄白色の斑紋や線が多数入る。さらに後翅には水色や橙色の斑紋もあり、尾状突起の内側には橙色の円形の斑点がある。この橙色の斑点は目玉模様(眼状紋)としての役割をもち、鳥などから頭を守る役割があると考えられている。外見はキアゲハによく似ているが、ナミアゲハは翅の根もとまで黄白色の線が入り、全体的に黒い部分が太い。
ナミアゲハのオスメスは腹部先端の形で区別できるが、外見からはあまり判らない。ただしメスは産卵のためにミカン科植物に集まるので、それらの植物の周囲を飛び回っている個体はメスの確率が高い。
幼虫は一齢幼虫から四齢幼虫までは頭部が黒く、胸部と腹部に所々白い所が混じるという鳥の糞のような見た目をしているが、五齢幼虫はいわゆる青虫で緑色である[8]。
- 雄成虫表面。
- 雌成虫表面
- 雌成虫裏面
- 臭角を伸ばす終齢幼虫
- 蛹
類似種
キアゲハの成虫はナミアゲハとよく似るが、前翅中室のつけ根がナミアゲハの様に筋模様ではなく黒く塗りつぶされていて、翅の中ほどは黒い部分が少なく、和名どおり黄色みが強いので区別できる。幼虫は模様および食草がナミアゲハと大きく異なり見分けるのは容易である。
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生態
成虫の天敵は肉食性動物である鳥類、ハチ類、トンボ類、カマキリ類、クモ類など。幼虫の天敵は寄生蜂・寄生ハエ類、肉食カメムシ類などがいる。幼虫の天敵として寄生蜂の影響は大きく、チョウの卵・幼虫・蛹のいずれの段階でも寄生するものが知られており、成虫になれるものは極僅かであると言われている。
幼虫の食草はミカン科の樹木の葉である、卵は塊で産まず一つずつ産卵するタイプで、これらの樹木の葉の上に行われる。卵は直径1mmほどの球形をしている。最初は黄白色をしているが、中で発生が進むと黒ずんでくる。孵化した一齢幼虫は黒褐色で体表に多くの突起があり、ケムシのような形をしている。孵化した幼虫は一休みした後に自分が入っていた卵の殻を食べ、その後に食草を食べ始める。二齢幼虫になると、毛が少なくなりイモムシ形となる。また、黒褐色の地に白色の帯模様が入る独特の体色に変化する。目立つ体色のようだが、これは鳥の糞に似せた保護色で、敵の目をあざむいていると考えられる。以後四齢幼虫まではこの体色のままで成長する。なお、天敵に対抗するため、幼虫は頭部と胸部の間に悪臭を放つ黄色の臭角(肉角とも言う)をもち、刺激を受けると臭角を突き出す。
幼虫期は五齢まであるタイプで五齢幼虫は今までの鳥の糞模様から緑色のイモムシへ変わり、胸部に黒と白の目玉模様ができ、小さな緑色のヘビのような風貌となる。五齢幼虫になると一気に成長し大きくなる。充分成長した五齢幼虫は蛹になるための場所を探して歩き回る。さらに蛹になるために、緑色で水分を含んだフンをする。これは、蛹になるために、体内の余計な水分を放出するためである。適当な場所を見つけるとその面に糸の塊を吐き、向きを変えてそこに尾部をくっつける。そして頭部を反らせながら胸部を固定する糸の帯を吐き、体を固定し前蛹となる。前蛹の状態で一昼夜過ごした後に脱皮して蛹となる。蛹の期間は一週間ほど
地域にもよるが、成虫が見られるのは3 - 10月くらいまでで、その間に2 - 5回発生する。人家の周辺や草原、農耕地、伐採地など、日当たりの良い場所を速く羽ばたいてひらひらと飛び、さまざまな花から吸蜜したり、水たまりや湿地、海岸に飛来して吸水したりという姿が見かけられる。冬は蛹で越冬する。
- 卵
- 若齢幼虫
- ミカンの葉に留まる終齢幼虫
- 終齢幼虫の体に止まる寄生蜂
- 糸を張り蛹になり始める
- 羽化直前の蛹
分布
日本では北海道から南西諸島まで全国に分布し、日本以外にも台湾、中国、朝鮮半島、沿海地方まで分布する。また、ハワイ諸島で帰化し、柑橘類の害虫ともなっている。ハワイでは唯一のアゲハチョウである。
人間との関わり

農業害虫
ミカン科樹木はミカンやオレンジなどの柑橘類の果物、サンショウなどの香辛料など有用な農作物が多い。本種は幼虫がこれらの葉を食べるのでこれらを栽培する場合は害虫として扱われることがある。
種の保全状況
国際自然保護連合(IUCN)が作成するレッドリストでは、2025年現在絶滅の危険度に対する評価をまだ行っていない未評価(Not Evaluated, NE)とされている。日本の環境省が定める環境省レッドリストでも、2014年発表2020年最終改訂の第四次レッドリストには掲載されていない[9]。都道府県が作成するレッドリストでも2025年現在本種を掲載するところはない[10]。
象徴
並揚羽を図案化した揚羽紋は、日本の家紋のうちでもポピュラーなもので、古くから日本人に親しまれたチョウであることが窺える。これは平氏一門でよく用いられるとされる。
飛鳥時代に、駿河国の大生部多という人物が、橘等に発生するアゲハチョウの幼虫を、常世神として祀る信仰を広めた。日本最古の新興宗教といわれる[11]。橘は、常世に生える木として信仰されていたことに由来する。
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脚注
参考文献
関連項目
外部リンク
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