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京丹後長寿コホート研究

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京丹後長寿コホート研究
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京丹後長寿コホート研究(きょうたんごちょうじゅコホートけんきゅう)は、京都府北部の丹後地方が100歳以上の「百寿者」の割合が全国平均の数倍と健康な長寿者が多いことに関するコホート研究である[1]。2017年(平成29年)にスタートした丹後地方の高齢者を対象とする疫学研究であり、健康長寿の要因と考えられる食生活生活習慣などが調査対象となっている[1]

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丹後地方
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代表的な郷土食「ばらずし」

この研究によって、長寿地域であることが一般にも広く知られるようになり、2025年(令和7年)には、京丹後市で「第1回世界長寿サミット」が開催された[2]

概要

京都府立医科大学京丹後市立弥栄病院と共同で2017年(平成29年)に開始した研究で、京丹後市宮津市与謝野町伊根町に居住する65歳以上、800人以上の住民を対象とする[1][3]。職業、学歴、日常の食事や生活スタイル、睡眠時間、血液検査や血管年齢など600項目以上を対象に、15年間継続調査し観察する取り組みである[1]。データ分析内容は約2,000項目に及び、弘前大学等全国の13大学とも連携する[4]

研究チームの代表は、京都府立医科大学循環器内科学教授の的場聖明[1]

生活習慣

研究調査の結果、丹後地域の住民の生活習慣では次のような点が長寿との関連を指摘されている。

  • 冬でも運動にかける時間が長く、屋外で体を動かす人が多い[5]。日常的身体活動度が高い人の割合は調査対象者の55%にあたり、医療関係者でも未知の領域と述べる水準にある[6]
近年までコンビニもない土地柄、近所の家に出かけるにも距離があることから、必然的に歩く距離が長いと考えられる[5][7]
  • 歩行速度が遅い人は10パーセント以下であり、全体的に歩く速度が速いことにより、足腰が鍛えられている[5]
  • 寝つきがよく、布団に入ってから3分ほどで就寝する(弘前市は約15分)[8]
  • 社会活動など他者とコミュニケーションをとる活動をよくする[8]。個人的なことを話せる友人の数は京丹後市4.1人、弘前市3.3人と、定年退職後も人付き合いや社会活動にかける時間が多い[9]

食生活

2020年代初期、NHKの『ガッテン!』で京丹後市と京都市に居住する65歳以上の人々の食習慣の比較調査が行われた。その結果、週3回以上イモ類を食べる人が、京都市では54%であるのに対し、京丹後市では80%。海藻類を食べる人が京都市内では44%であるのに対し、京丹後市では66%などの差がみられた[10]。京丹後市で食用とされる海藻の代表的なものに「板ワカメ」があり、これは採取したワカメをそのまま水洗いして天日に干したもので、ミネラルが豊富に含まれている。水溶性食物繊維を多く含む海藻類を食する習慣が、長寿と関連する特徴と考えられている[11][10]。京丹後市健康長寿福祉部健康推進課の調査でも、板ワカメをおやつとして食してきた百寿者(100歳以上の人)が多いことが判明している[12]

また、丹後地域の高齢者は全粒穀類を主食とする人が多く、根菜類や豆類が日常的におかずとして食されてきたことから、その他の食物繊維の摂取も比較的多いとされる[10]。和え物や酢の物に胡麻を多用する習慣がある家庭が多い[12]

タンパク質では、上記のマメ類や根菜など植物由来のもののほか魚類の摂取が多く[12]、牛・豚・羊などの肉類はほとんど食べていない[6]。地元で採れるアジ、イワシ、カレイ、キス、サバ、トビウオなどを幼少期から日常的に食べている長寿者が多い[12]

研究の背景

京丹後市は、男性の長寿世界一としてギネス記録にも残る木村次郎右衛門などにより長寿地域として知られ、2016年(平成28年)頃には週刊誌などで特集記事が組まれ、日本海側屈指の長寿地域として注目されていた[13][14][15][1]。2018年(平成30年)の記録によれば、人口10万人あたりの百寿者の割合が、全国平均は55人、府全体では65.6人であるのに対し、京丹後市は159.8人と約2.5~3倍である[1][16]。2020年(令和2年)の記録では、全国平均が63.76人、京都府平均では74.56人、京丹後市では202.51人と、全国平均の3倍以上となった[3]

2017年(平成29年)、青森県が「短命県脱出」を目標に弘前市で「岩木健康増進プロジェクト」を立ち上げたことで注目され、弘前市岩木地区との比較研究と並行し、丹後地域独自項目により長寿因子探索プロジェクトとして本研究がスタートした[17]

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研究成果

2025年時点でまだコホート研究における追跡が完了していないため、以下に示した成果は横断研究や研究途上のものである。

丹後地域の65歳以上には、加齢による筋肉量の減少や筋力の低下を示す「サルコペニア」の人は5.7%、健康状態と要介護状態の中間段階を意味する「フレイル」の状態にある人が15.1%といずれも少なく、自立した生活を送れている高齢者が多い[18]。腰椎の骨密度が同年代の平均値より20%前後高く、歩行速度も高い水準にある[19]。血糖値や中性脂肪は全国平均と比較して低い[19]

血管年齢も全国平均より10歳以上若く、80~100歳代でも60~70歳代の若さを保っている人が多い[20]。血管年齢が若いと糖尿病などの生活習慣、大腸がん認知症の罹患率が低いということが明らかになっており、当地域住民の健康長寿の大きな要因と考えられている[19]。なかでも大腸がんの罹患率は、京都市内の住民と比較して2分の1と低い[8]。それらに影響する全身の臓器との密接に関係する腸内細菌の種類を解析した結果、長寿菌とも呼ばれる酪酸菌の量が多いことが判明した[21][22]。また、京丹後市の高齢者を対象とした分析では、寿命を縮める可能性が高いとされるプロテオバクテリア門の菌が少ないこともあわせて確認された[23]

京丹後市健康推進課保健係では、この研究成果と百寿者の食生活を調査した結果をベースに考案した料理レシピ集『「京丹後」百寿人生のレシピ』を刊行[24]。風土に根差した食生活を市民の健康づくりや食育施策の柱とするほか、長寿弁当の開発など観光振興につなげている[24]。また、フレイル予防医学を専門とする筑波大学教授・山田実や地元の理学療法士や健康運動指導士と協同で約40分間に及ぶ「丹後のびのび体操」を開発し、普及に務める[25]

2025年(令和7年)6月には、京丹後市で「第1回世界長寿サミット」が開催され、日本国内外の研究者らが最新の老化研究に関する知見を発表したほか、全国11の自治体で構成される「健康・美・長寿推進協議会」のシンポジウムなどが行われた[2]

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丹後地域の著名な長寿者

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木村次郎右衛門
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東世津子
  • 木村次郎右衛門(きむらじろうえもん) - 男性の世界最高齢者としてギネス世界記録に登録された。2013年(平成25年)に116歳で死去[26]
  • 東世津子(あずませつこ) - 1930年(昭和5年)生まれの郷土史家。4歳年上の夫・東理代吉と共に、丹後地域を代表する長寿者夫婦として知られた[27]
  • 東理代吉(あずまりよきち) - 第二次世界大戦後に丹後町に東書店を創業、1959年(昭和34年)から9期連続で丹後町議員として活動した[14]間人皇后に付き従い丹後の地に来た東一族の末裔で、一族の祭神を祀る立岩の水無月神社総代を務めた[14]
  • 志水富重(しみずとみしげ) - 1915年(大正4年)生まれ[13]。徴兵時代の名残で食事は6時・12時・18時の1日3回きっちり時間を決めて摂り、101歳を超えてなおバイクに乗り海釣りを日常の趣味とした[13]。3食の食事は足腰の弱った94歳の妻に代わり、すべて自ら調理していた[13]
  • 日下部修(くさかべおさむ)- 1914年(大正3年)生まれ。102歳だった2016年(平成28年)に雑誌の特集記事で特に取り上げられ、毎日必ず食べるのは漬物と牛乳1本(200ml)、焼き魚もよく食べると回答している[12]。2022年(令和4年)2月に108歳となり、その時点で京丹後市最高齢者だった[20]
  • 池井保 (いけいたもつ)- 1928年(昭和3年)生まれの詩人、教育者。 2022年(令和4年)に94歳で死去[28]
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脚注

参考文献

関連項目

外部リンク

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