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渋谷ホームレス殺人事件

2020年に東京都渋谷区で発生した殺人事件 ウィキペディアから

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渋谷ホームレス殺人事件(しぶやホームレスさつじんじけん)[1][2]は、2020年11月16日東京都渋谷区幡ヶ谷ホームレスの女性が殺害された事件[1][2][3][4][5]。加害者の自殺により公訴棄却となった[1][2][4]

概要 渋谷ホームレス殺人事件, 場所 ...
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事件の経緯

要約
視点

事件発生

2020年11月16日午前4時頃、国道20号甲州街道)沿いの「幡ヶ谷原町」バス停留所[注釈 1]ベンチに女性Aが座っていたところ、男Bが女性Aを殴り死亡させた[1][4]。以前から男Bは女性Aの存在を気にしており、事件当日もレジ袋PETボトル飲料を入れて自宅から散歩に出かけ、バス停にいる女性Aを見つけた。散歩中に飲料を飲んでPETボトルが軽くなったため、大き目のを拾ってレジ袋に入れ、女性Aの頭部に振り下ろした[1]

同日午前5時頃、近隣住民から「いつも(バス停に)いる人が倒れている」と警視庁代々木警察署に通報があり、救急車が到着したときは女性Aに意識はなく、病院へ搬送された後に死亡が確認された[1]。死因は外傷性クモ膜下出血[1][4]

その後、同年11月21日未明、男Bは母親に連れられて最寄りの交番に出頭したが、交番に警察官が不在だったため、母親が代々木警察署に電話し「あの事件は息子が起こしました。息子は『あんな大事になるとは思わなかった。お母さんごめんなさい』と言っています」と伝え、男Bは傷害致死容疑で逮捕された(当時46歳)[1]。警察の調べに対し、男Bは「前日未明に(女性Aに)お金をあげるからどいてほしいと頼んだが、応じてもらえず腹が立った。痛い思いをさせればいなくなると思った。まさか死ぬとは思わなかった」などと供述した[1][2]

被害者

被害者の女性Aは、死亡当時64歳[1][3][4]。警察の捜査によれば広島県広島市出身で、未婚で子供もいなかった[1]運転免許証は持っていたが期限切れで、記載の住所に居住していないため、事件発生から身元特定に3日かかった[1]。10年ほど音信不通だった埼玉県在住の実弟に女性Aの顔を見せた上で、広島県内の介護施設に入所していた母親にDNA型鑑定の協力を得て本人確認を行った[1]。母と弟の所在を突き止める手がかりとなったのが、女性Aの所持品にあった名刺大のカードで、家族や親族の連絡先などがメモされていた[1]。また所持品には電源の入らない携帯電話もあった[1]

女性Aは、地元女子短期大学の学生時代は、市内の劇団に所属し演劇に打ち込んでいた[7][8]。また話すことが好きで、アナウンサーを目指し養成学校にも通っていた[7][9]

上京後、女性Aはコンピュータ関連の仕事に就いたが[4][8]、事件の3年ほど前に家賃滞納で杉並区のアパートを退去していた[4]首都圏スーパーマーケット試食販売員の仕事に従事していたが、コロナ禍の影響で試食販売ができなくなり、2020年2月には仕事も辞めて失業していた[1][3][9]

女性Aはその後、路上生活するようになり[4][9]、2020年春頃からほぼ毎日[9]、午後10時台の終バス後の深夜に新宿方面から徒歩で「幡ヶ谷原町」バス停に来て、毎晩バス停のベンチに座って眠り、始発バスの前にまた新宿方面へ立ち去る生活を続けていた[1][2][9]。バス停には雨露をしのげる上屋と小さなベンチがあり、手提げカバンとキャリーバッグを持って夜明かししていた[1]

事件前には、女性Aは家族とも連絡を取らなくなっており[9]、困窮を伝えていなかった[10]。近隣住民は、バス停にいつもいる女性Aを気遣い「大丈夫ですか」と声をかけ、食べ物毛布、上着や手袋マフラーなどの衣類を差し入れていたが、女性Aは常にそれを断っていた[4][10]。住民らや警察官も「身なりはきれいで路上生活者には見えなかった」と言うが、死亡時の所持金はわずか8円だった[1][5]生活保護は受けておらず、区役所に申請や相談もしていなかった[4][10]

加害者

男Bは、現場バス停から数百メートルほど離れた場所で商店を営む母親と2人暮らし[2][9]。実家は当地で代々商店を営む資産家で、店舗兼自宅の上層階を賃貸マンションとして家賃収入を得る裕福な家庭であった[2][9]。男Bは、中学生の頃から不登校引きこもりがちとなり[2][9]、20歳頃に就職したが仕事が続かず、すぐ退職してまた引きこもるようになっていた[9]

近隣住民に対してもたびたびクレーマー的行動を起こしていたことから、男Bは地元では「有名人」扱いであった[1][2][9][10]。特に町の景観が変わることに強いこだわりを持ち、近隣住民が自宅のシャッターを変えたり、パラボラアンテナを設置すると苦情を言いに来ていた[1][9][10]。そのため、事件直後より警察に目星を付けられており、現場近くのコンビニエンスストア防犯カメラに袋を持ち歩く姿が映されていたため特定されていた[1][2]。警察は21日からの3連休明けに逮捕しようとしていたところ[1][2]、その前に男Bが母親に連れられ、自首したことからその場で逮捕された[1][2]

男Bは、事件の数年前に父親が死去した後、引きこもりがちながら店を手伝ったり、地域の清掃ボランティアに参加するようになった[1][9]。事件の数年前には、事件現場から甲州街道を渡った先の幡ヶ谷第一公園へ抜ける首都高速4号の高架下に、ホームレスが住み着いてごみトラブルが発生しており、ホームレスらが拾い集めたごみの買取業者も集まるようになって警察官に注意され、事件当時も片側の歩道が封鎖されていた[2]。しかし女性Aはそうしたことには一切関与しておらず、男Bとの直接のトラブルもなかったが[2]、地域の清掃ボランティアに参加していた男Bが、歪んだ正義感からホームレスに排他的な感情を抱き、犯行に及んだのではないか[2]、また「町の景観への強いこだわり」から、ホームレスを異物視して犯行に及んだのではないか[1][9][10]、との指摘もある。

男Bは、2022年3月頃に保釈された直後、同年4月8日に自宅近くで飛び降り自殺した[3][10]被告人の自殺を受け、同年5月17日に予定されていた公判は中止された[8]。これにより、事件の真相が解明されないままに終結を迎えることとなった[3][8]。埼玉県在住の女性Aの実弟は、取材に対し「なぜこの事件を起こしたか知りたかった。気持ちを持って行く場がなくなってしまった」と語った[3]

報道被害

男Bが逮捕されると事件は大きく報じられ、現場バス停は献花であふれ、パンなどの食品や飲料を供える人、立ち止まって手を合わせる人も絶えず、バス停はさながら墓場のようになった[1][3]。事件2年後の2022年になってもバス停の献花が絶えることはなく[3]、同年に加害者の自殺が報道された日には、そのことを女性Aに「報告」しに訪れた人の献花もあった[3]

そして事件後は、現場バス停周辺に連日マスコミ取材に詰めかけたため、報道被害を訴える住民らもいた[3]。ある住民は取材に対し「幡ヶ谷は昔からいい町なので、もう騒がないでほしい」と風評被害を訴えた[3]。近隣住民らは女性Aを気にかけ、声をかけて差し入れなどしていたにもかかわらず、NHKをはじめマスコミに「都会の無関心と冷たさ」などと連日報道されたことで[11]、地域には「そっとしておいてほしい」という気持ちが広がっていった[3]

また、現場バス停のベンチは、2人掛けで狭く仕切りがあったことから「排除ベンチ」と揶揄され[11][12]バス会社には何の落ち度もないにもかかわらず、コロナ禍の中で懸命に公共交通を支える路線バス車両とともに「事件のシンボル」とばかりに執拗に映された[11]

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追悼集会・デモ

2020年12月6日夕方、渋谷区内に拠点を置くNGOやホームレス当事者組織など4団体の主催により、女性Aを追悼する集会とデモが開催され、約170人が参加した[3][5]。参加者らは「彼女は私だ」「路上生活者に暴力をふるうな」などと書かれたプラカードを持ち、代々木公園から渋谷駅周辺をデモ行進した[3][5]。なお、集会場となった代々木公園は、事件現場のバス停から徒歩約15分ほどの場所にある[5]

また、事件1年後の2021年11月にも新宿で追悼集会が行われ、再び女性たちを中心に参加者が集まった[3]

その他

当事件はSNS上やネットメディア上で、ホームレスの記事を発端としたホームレスのコンテンツ化の是非の論争[13]の真っただ中に起こった事件であり、追悼したNGOやホームレス当事者組織の関係者などが記事に対して批判的な警鐘を鳴らしていた最中に起こった。一方で、そういった批判の声を冷笑し嘲笑う出演者を肯定的に配信していたAbema PrimeなどのネットメディアやSNS上のインフルエンサーたちは事件後にはだんまりを決め込む結末となった。

脚注

関連項目

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