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医薬品等による健康被害 ウィキペディアから
薬害(やくがい)とは、明らかな投薬ミスを含まず[1]医薬品の「不適切な使用による医学的な有害事象のうち社会問題となるまでに規模が拡大したもの」と「不適切な医療行政の関与が疑われるものを指す」とする見解があるが、明確な定義は定まっていない[2]。
薬害(薬剤や医療用具による障害)の分類に関して、1970年代には以下の考え方があった[3]が、現在でも体系的な研究は不足していると指摘する専門家もいる[4]。
このほかにはウイルスや意図しない蛋白質など病原物質の混入などによるものがこれまで知られている。また発売時点では未知の病原体による感染が後に見つかることもある。
医薬品の開発に際して通常は治験が行われ、その有効性・安全性が検証される。治験では有効性・安全性がまだ充分に確立されていない治験薬(医薬品の候補)をボランティアに投与するため、必要以上に多くの人間に漫然と投与することは倫理的に問題となる。そのため、治験では有効性を検証するために最低限必要な患者数を事前に算出し、その限られた患者のみを対象に臨床成績を評価する。
その一方で、副作用は薬物の効能ほどには頻繁に現れないため、安全性を正確に評価するためには、有効性を評価するのとは比較にならないほど多くの患者数が必要となる。そのため、安全性が完全に確認された医薬品のみに製造販売承認を与えるシステムにしてしまうと、それだけ発売が遅れ(1万人に1人の割合で発生する副作用を検出できる治験を実施すると、終わるまでに90年間かかる計算になる[5])、治療を待ち望む患者の不利益となる(ドラッグ・ラグ)。また薬物相互作用の組合せは多岐にわたるため、モデル化したモンテカルロシミュレーション法により柔軟で高度な薬物相互作用の予測が行えるソフトウェアも開発されているが、予測限界があると指摘されている[6]。
これらのことから実際には、非臨床試験(動物実験など)および治験のデータの範囲内で有効性・安全性が認められれば製造販売承認が下り、より詳細な安全性情報は市販後調査(第IV相試験)と呼ばれる副作用データの蓄積によって評価されている。
このように医薬品が発売される時点では、その薬剤の安全性はいわば仮免許の状態であるため、実際の臨床現場での使用を経て、安全性情報を蓄積してゆくことが非常に重要となる。また、安全性の追求と患者の利便性は時に相反するため、患者の利便性を担保しつつ安全性を追求するためには、有害事象を確実に把握できる報告システムと、偶然を超えるレベルで有害事象が生じた場合に警告する体制の構築が必要である。
例えば、臨床試験で有効性は認められたものの、承認されたなかった使用法、日本医師会は、このようなケースに否定的な見解を示している[7][8]。
年代については、それが明らかに「薬害」として報じられ、和解などで決着された順に厚生労働省の資料[9]をもとに掲載。
国の責任については、クロロキン薬害訴訟における最高裁判決で「厚生大臣が特定の医薬品を日本薬局方に収載し、又はその製造の承認をした場合において、その時点における医学的、薬学的知見の下で、当該医薬品がその副作用を考慮してもなお有用性を肯定し得るときは、厚生大臣の薬局方収載等の行為は、国家賠償法一条一項の適用上違法の評価を受けることはないというべき」「医薬品の副作用による被害が発生した場合であっても、厚生大臣が当該医薬品の副作用による被害の発生を防止するために前記の各権限を行使しなかったことが直ちに国家賠償法一条一項の適用上違法と評価されるものではなく、副作用を含めた当該医薬品に関するその時点における医学的、薬学的知見の下において、前記のような薬事法(当時)の目的及び厚生大臣に付与された権限の性質等に照らし、右権限の不行使がその許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使は、副作用による被害を受けた者との関係において同項の適用上違法となるものと解するのが相当」としている[17]。
製造物責任法について、医療用漢方薬の副作用被害における名古屋地方裁判所判決で、その時点で予見可能な副作用を添付文書に記載するなどの方法により指示・警告すれば医師の配慮により副作用被害を避けることができたとして、輸入販売業者の製造物責任を認定している[18]。
医師の責任については、別の2件の最高裁判所判決で、添付文書に従わないことによって発生した医療事故は、従わなかった特段の合理的理由がない限り医師の過失が推定される、医師には必要に応じて文献を参照するなど最新情報を収集する義務があるとしている[19][20]。
ソリブジン薬害事件では、承認段階でソリブジンと5-FU系代謝拮抗薬との併用を避けるように添付文書に記載したにもかかわらず、発売1か月余りで15名が亡くなっている[21]。厚生労働省はこの事件を受けて、1994年10月から医薬品安全性確保対策検討会を開き、副作用対策を検討した。同検討会は「市販後調査は、副作用・有害事象等の情報を収集・評価し、迅速・的確に対応するとともに、その安全性等を再確認することに最大の意義がある」「製薬企業、医療機関、行政等による安全性情報の積極的な提供が望まれる」等の基本的な考え方に基づいて、市販後対策の強化等を提言した[22]。
これを受け、1996年に医薬品の臨床試験の実施基準(GCP)の遵守を義務化、市販後段階での情報収集や報告および基準に適合した資料提出の義務化等を含む薬事法改正が行われた[23][24]。1997年4月、厚生省薬務局長は『医療用医薬品添付文書の記載要領について』(平成9年4月25日薬発第606号)[25]にて「副作用や使用禁忌、相互作用等について一層の注意が必要となっている」として添付文書の記載要領を定めたと通知している。
具体的には『医療用医薬品の使用上の注意記載要領について』(平成9年4月25日薬発第607号)[26]にて「評価の確立していない副作用であっても重篤なものは必要に応じて記載すること」「内容からみて重要と考えられる事項については記載順序として前の方に配列すること」「発現頻度は、出来る限り具体的な数値を記載すること」「発現頻度については調査症例数が明確な調査結果に基づいて記載すること」などが定められている。
日本では医薬品医療機器等法が施行されており、同法は医薬品のみならず医療機器全般を規制対象としており、同法の目的の一つとして薬害発生を防ぐことも含まれている。医薬品の適正な使用にもかかわらず一定の健康被害を受けた場合に医療費等を給付する医薬品副作用被害救済制度があり、各種医薬品のパッケージ等にも相談窓口への連絡先が記載されている。
ビー・ブラウン(西ドイツ)などが製造発売した「ライオデュラ」などのヒト乾燥硬膜(死者の脳から硬膜を摘出し、製品化したもの)について、ドナーが異常プリオンに汚染された可能性(伝達性海綿状脳症の高リスク疑い)が有るにもかかわらず、適正な殺菌処理やドナーの選別を怠り、発売を続け、アメリカ合衆国や日本などで頭部外傷などによる脳外科手術の硬膜縫合時に、硬膜移植を受けた患者がクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)を発症し、その殆どが死亡した。
後に、乾燥硬膜の移植による医原性によるCJD発症であると結論づけられた。アメリカ食品医薬品局(FDA)では、1980年代後半に異変を察知してヒト乾燥硬膜を使用禁止としたが、日本の厚生省ではそれを考慮せず、世界保健機関が使用禁止措置を発する1997年春まで医療器具として輸入承認を続けた事や、1970年代の同製品の承認審査が杜撰であったとされる。
これを薬害として、1996年に滋賀県大津市の訴訟団を皮切りに各地で製造・販売側と厚生省を相手に損害賠償訴訟が提起され、2001年から2002年にかけて補償金を支払う和解が成立している。
医薬品医療機器等法の規制対象外で"健康食品"とされているサプリメントなどの一部が、副作用などで健康被害を引き起こしている事例もあり、それもまた問題となることがある。そもそも医薬品医療機器等法の起源は19世紀欧米でのインチキ薬による薬害の横行の教訓からであり、「○○病に効く」と謳って販売するからには臨床治験でそれを証明し行政に示さなければならず、それを怠れば刑事罰すら科されるほどの重罪である。
ただし、「効く」「効果がある」という表現を巧みに避けるなど、医薬品医療機器等法の規制対象外の商品についてはそもそも治験制度が無く(特定保健用食品は除く)、違法に医薬品成分が含まれる(医薬品医療機器等法違反)のでなければ、同法上の処分には該当しない。
医薬部外品(薬用化粧品)として製造・販売された化粧品において健康被害に至った事例として、2011年の悠香製加水分解コムギ配合石鹸「茶のしずく」による小麦アレルギー発症、2013年のカネボウ化粧品のロドデノール配合美白化粧品による白斑発症が起こっており、メーカーによる自主回収が行われたほか、被害者による集団訴訟に至る問題となった。
薬害エイズ事件の反省から、厚生労働省は正面玄関前に1999年(平成11年)8月24日、「誓いの碑」を建立[42]し、この日は「薬害根絶デー」となっている[43]。
厚労省は2020年3月、医薬品医療機器総合機構内に「薬害の歴史展示室」を設けた[43]。
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