兵馬俑
ウィキペディアから
ウィキペディアから
兵馬俑(へいばよう)は、古代中国で死者を埋葬する際に副葬された俑のうち、兵士及び馬をかたどったもの。狭義には陝西省西安市臨潼区の秦始皇帝陵兵馬俑坑出土のものを指す。同地は中国の5A級観光地(2007年認定)である[1]。
古代中国の俑は死者の墓に副葬される明器(冥器)の一種であり、被葬者の死後の霊魂の「生活」のために製作された。春秋戦国時代には殉葬の習慣が廃れて、人馬や家屋や生活用具をかたどった俑が埋納されるようになり、華北では主として陶俑が、湖北湖南の楚墓ではとくに木俑が作られた。兵馬俑は戦国期の陶俑から発展したものだが、秦代の始皇帝陵兵馬俑においてその造形と規模は極点に達する。漢代以降も兵馬俑は作られたが、その形状はより小型化し、意匠も単純化されたものとなった。
始皇帝陵(驪山陵)は『史記』や『漢書』などをはじめとする古代中国の歴史書に記録としてその存在が示唆され、古くからその所在地に関しての論争があった。
1962年に陝西省文物管理委員会によって始皇帝陵園の調査が行われ、78の遺跡を確認したのが始皇帝陵の考古調査の嚆矢であるが、兵馬俑の存在は知られていなかった。1974年3月29日、臨潼県の西揚村で井戸を掘っていた6人の住民によって欠損した兵馬俑が発見された[2]。
住民らの証言によれば、鍬で土を掘り返していたところ、何か硬いものに当たったという。彼らは最初、それを古い時代に残された壺などの類の土器ではないと予想していたが、さらに掘り進めるにつれて等身大の粘土の人形が出てきたという。その人形は左足を欠損していたが、胴体はほぼ無傷で、脇には青銅の矢が挟まれていたという[3]。歴史的教養に乏しい住民たちは当初、この発見の重要性を理解しておらず[4]、報告を受けた臨潼県文化館も現場の保護と陶俑の修復を命じたのみで上級部門への報告を怠っていた[5]。
しかしある時に事態は急転を迎える。新華社の記者を務めていた藺安穏氏は、他の取材の目的で県文化館に訪れていたところ、陶俑が尋常ならぬものであることを見抜き、それに関する記事を執筆することを決意した。藺氏の記事は最終的に中国共産党の内部報である『状況匯編』に掲載され、共産党指導部の目に止まる。記事の内容はたちまち指導部の関心を引き起こし、当時の国務院副総理である李先念氏は中国国家文物局に遺跡の保護を命じた[6]。
同年7月、陝西省政府により専門家の袁仲一氏を隊長とする考古隊を編成して、現地発掘を開始させた[7]。その後の1年間に及ぶ発掘で、東西200メートル以上、南北60メートル以上に及ぶ兵馬俑一号坑の全容が明らかとなった。発掘された陶俑は総数6000体に及んだ[8]。1975年7月21日、新華社通信が秦始皇帝陵兵馬俑坑の発見を報じた[9]。続いて1976年4月に一号坑の東端北側に二号坑が、同年5月にその西端北側に三号坑が発見され、兵馬俑の名は世界に轟かせた[10]。
始皇帝陵兵馬俑坑では、現在までに約8,000体の俑が確認されている。兵士の俑にはどれ一つとして同じ顔をしたものはない[11]。また、かつては兵士の俑のそれぞれに顔料で彩色がされていたこともその後の発掘調査で判明した[12]。指揮官・騎兵・歩兵と異なる階級や役割を反映させた造形は、始皇帝麾下の軍団を写したものである。兵馬俑の軍団は東方を向いており、旧六国を威圧したものとみなされている。21世紀に入った現在でも、兵馬俑の調査・研究は継続されており、近年の調査では、来世へと旅立った始皇帝の為に造設されたこの遺跡は、身を守る軍隊だけでなく宮殿のレプリカや、文官や芸人等の俑も発掘されている。そのため、生前の始皇帝の生活そのものを来世に持って行こうとしたと考えられている。
陝西省咸陽市(現在の渭城区)の楊家湾漢墓の陪葬坑からは、彩色された兵士俑や書記俑・執旗俑・舞踏俑などが出土している。いずれも身長は50センチメートル程度である。同じく咸陽市の長陵の陪葬墓からも、彩色された騎兵俑が出土している。また江蘇省徐州市の獅子山漢楚王墓でも、彩色された兵馬俑が出土している。
2022年、日中国交正常化50周年を記念し、36体の兵馬俑を展示する展覧会「兵馬俑と古代中国〜秦漢文明の遺産〜」が、東京(上野の森美術館)、京都(京都市京セラ美術館)、名古屋(名古屋市博物館)、静岡(静岡県立美術館)で開催された[13][14]。
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Every time you click a link to Wikipedia, Wiktionary or Wikiquote in your browser's search results, it will show the modern Wikiwand interface.
Wikiwand extension is a five stars, simple, with minimum permission required to keep your browsing private, safe and transparent.