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いのちのとりで裁判
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いのちのとりで裁判(いのちのとりでさいばん)とは、2013年(平成25年)8月から順次開始された生活保護生活扶助基準引下げに対して、国は取り消すよう被保護者が全国各地で起こした裁判群の通称である。
概要
元・朝日新聞記者でフリー記者の阿久沢悦子によると、2011年(平成23年)に生活保護の被保護者が過去最多になったとの報道が引き金になったという[1]。
2012年(平成24年)3月、当時野党だった自由民主党に「生活保護に関するプロジェクトチーム」(座長:世耕弘成)が設置され、生活保護基準の引き下げや不正受給対策の厳格化を提言した。同時期に芸能人の母が生活保護制度を利用していて、適正な利用だったが、あたかも不正受給であるかのようなバッシングが巻き起こった[2]。
→「芸能人親族生活保護受給騒動」も参照
同年12月16日の第46回衆議院議員総選挙で自由民主党が「生活保護基準の10%引き下げ」などを選挙公約に掲げて選挙戦を戦った結果、政権復帰を果たした[2]。
その後、2013年(平成25年)1月にとりまとめられた「社会保障審議会生活保護基準部会における検証結果や物価の動向を勘案する」という考え方に基づき、必要な適正化を図るため見直しが行われた。生活保護費のうち、主に生活扶助の食費・被服費等、光熱費・家具什器等に充てる生活扶助基準を減額することを決定した。2013年(平成25年)8月から順次開始され、約3年かけて、2012年度ベースに対して基準生活費の平均6.5%、最大10%を減額、削減を実施した[3][4]。
厚生労働省は与党・自由民主党の要求「10%」に対して「平均6.5%」と、引き下げ割合を縮小させることに成功した。しかし、フリーランスライターの、みわよしこは「低所得層にとっての『平均6.5%』は、まさしく生存を削る重みがある。厚労省に感謝はできない」と語る[4]。
生活保護法制定以来、生活扶助が引き下げられたのは、2003年度及び2004年度で、その率もそれぞれ0.9%、0.2%。今回は前例のない大幅引下げだった。2014年(平成26年)以降、全国各地の1,000名を超える被保護者が、日本国憲法第25条が保障する生存権の侵害ではないかと裁判を起こした[5][6][7]。
引き下げの原因は2012年(平成24年)12月26日に成立した第2次安倍内閣による同年の第46回衆議院議員総選挙における「生活保護費の1割カット」の公約の強行である。その引き下げの主な根拠とされたのは、2008年(平成20年)から2011年(平成23年)にかけて4.78%も物価が下落しているとする「デフレ調整」であったが、この「デフレ調整」は専門家部会の審議を経ずに、部会の報告書が発表された後に厚生労働省の事務方が独自に開発した物価指標を用いて実施したものだった[8]。
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訴訟
受給者は経済的に余裕がなく、弁護士の多くは持ち出しで請け負っている。原告側が、複雑で巧妙な統計操作のカラクリを解明し、裁判所に対し説得力を持って説明できるようになるまでには、膨大な時間と労力を要した[7]。訴訟中に次のような異常なことが起こった。
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判決
2025年(令和7年)6月27日、最高裁判所で「生活保護費の減額は違法」との判決が出された[10]。
- 要点
- 厚生労働省が「デフレ調整」と称して価格下落の激しい電化製品などを極端に重視し、生活保護受給世帯の物価下落率を4.78%と異常に高く算出した手法について
- 物価変動率のみを直接の指標として用いたことは従来なかった
- 専門的知見との整合性を欠く
- 基準生活費を一律4・78%も減ずるものであり、受給者の生活に大きな影響を及ぼす
- とし、厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があり、生活保護法第3条、同第8条2項に違反しているとした[11]。
判決は出たものの1,027人だった原告うち、およそ2割の232人が他界していた[12]。
訴訟意義
- 生活保護はナショナル・ミニマムとして各種の社会保障制度と連動していることから、最高裁判決が広く一般市民の生活を守るための重要な要素になった。
- 自由民主党の生活保護基準引き下げ公約と生活保護バッシングののちに、命の線引きを公然と主張し、生存権を否定する言動が日本社会で起きていたが、それらの動きに対する社会運動が組織された。
判決後
東京新聞によると、最高裁判所の判決から10日が過ぎても、政府は依然として生活保護の被保護者に謝罪せず、違法減額された分の保護費をどう支払うか明らかにしなかった。厚生労働大臣の福岡資麿は判決後に謝罪せず、専門家審議会を設置して今後の方針を検討すると表明した。本訴訟の原告たちは2025年(令和7年)7月7日、厚生労働省に「謝罪と専門家審議会の設置方針の撤回、違法と指摘された保護費の差額分をさかのぼって支払うこと」を求めたものの、対応したのは大臣や副大臣、政務官を務めている国会議員でなく省職員だった[14]。
同年7月20日に第27回参議院議員通常選挙が行われたが歴史的な判決が出た直後だというのに、7月8日時点の状況だが、自民、立憲、公明、維新、国民民主、共産、れいわ、社民、参政、保守各党は沈黙していた[15]。
同年8月13日、厚労省は東京大学名誉教授の岩村正彦を委員長とした専門委員会の初会合を開いた。9人のうち6人は、生活保護の金額の基準を定期的に評価、検証する厚労省の生活保護基準部会のメンバーが占めている[16]。当日厚労省がある中央合同庁舎第5号館(東京都千代田区霞が関)の前には原告や支援者らが集まり、「厚労省は最高裁での敗訴という現実に向き合うべき」と抗議の声が上がった。原告や支援者らでつくる「いのちのとりで裁判全国アクション」によると、単純に国が謝罪とともに、減額された保護費全額を遡及(そきゅう)して払うこと、ただそれだけなのに専門委の設置を表明したことも遺憾だという[17][18]。一方で、遡及支給が決定すれば、生活保護被保護者約200万人が対象となり、10年分に及ぶ支給作業で自治体の混乱も予想される[18]。
弁護士JPニュースによると専門委員会メンバーは以下とおりである[18]。
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減額規模
2025年(令和7年)6月1日、時事通信社の試算によると、2018年(平成30年)までの約5年間で総額計2,900億円規模の減額になることが判明している[19]。
脚注
関連項目
外部リンク
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