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シャムワニ
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シャムワニ[4](暹羅鰐、Crocodylus siamensis)はクロコダイル属に分類されるワニの一種。タイワニとも呼ばれる[4]。主に東南アジアに分布する中型のクロコダイルで、近絶滅種とされており、すでに多くの地域から絶滅している。英名では、Siamese freshwater crocodile、Singapore small-grain、soft-bellyなど[5]。
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分類
種小名siamensisは「シャム産の」の意で、タイの旧名に由来する[4]。以下は2018年の年代測定に基づく系統樹である。形態学的、分子学的、地層学的データが同時に使用されている[6]。また2021年のヴォアイから抽出したDNAを使用したゲノム研究も参考とした[7]。
クロコダイル亜科 |
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分布と生息地
インドネシア(ジャワ島、ボルネオ島)、タイ、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー南部、ラオス南部に分布する[4]。流れの緩やかな河川、湖、三日月湖、沼地や湿地など、淡水生息地に幅広く生息する[4][8]。汽水域での発見例もある[4]。
形態

口吻は基部の1.5-1.9倍と比較的幅広く滑らかで、眼の後方の骨は隆起する。眼の内側に左右に1つずつ三日月状の隆起がある。後頭鱗板は4-6枚で、横一列に並ぶ。頸鱗板は4列で、背鱗板とは接しない。水掻きは前肢では指の基部のみに、後肢では趾全体に発達しているが切れ込みが深い。体色はオリーブ色だが、暗い緑色の個体もいる[9]。成体では暗褐色から灰褐色の個体もいる。幼体には暗色の横帯が入るが、成長とともに薄れる[4]。若い個体は全長1.2-1.5m、体重6-12kgであり、成体は全長2.1-3m、体重40-120kgとなる[10][11]。全長2.12-2.63m、体重40-87kgの3個体の咬合力は2,073-4,577ニュートンであった[12]。大型雄は最大全長4m、体重350kgに達する[13]。
生態と行動
野生下では絶滅の危機に瀕しており、繁殖などその生態については不明な点も多い[4][8]。成体は主に魚類やヘビ、その他にも両生類や小型哺乳類、無脊椎動物を捕食する[4][5]。雌はイネ科などの草や枯れ枝と泥を混ぜて塚状の巣を作る[9]。飼育下では4-5月の雨季に15-50個の卵を産み、雌は卵を保護する[14]。卵は長径7.5-8cm、短径5cm。孵化期間は約80日で[4]、雌は幼体の鳴き声を聞いて孵化を助け、口にくわえて水辺まで運ぶ[15]。10-15年で性成熟し、寿命は50年と推定されている[4]。
人間との関係
要約
視点
性質は比較的温和である[16]。一般的に人間を襲うことは無く[17]、確認されている攻撃は4件のみで、いずれも致命的ではない。1件は幼体を守ろうとしたもの[18]、もう一件はおそらく自分自身を守ったもの[19]、1件は人間に挑発された結果のもの[20]、最後の1件の理由は不明である[21]。1928年にはおそらく本種と思われるワニによって子供が死亡している[22]。
脅威
人間による生息地の攪乱が脅威となっており、残存個体群はかつての分布域の端に追いやられている[14]。本来の分布域の99%で絶滅しており、世界で最も研究が進んでおらず、絶滅の危機に瀕しているワニの1つと考えられている[8]。野生個体群はほとんど残っていないが、東南アジアの養殖場では70万頭以上が飼育されている[8]。
1992年には野生絶滅した可能性があると考えられていたが、2000年に動植物相インターナショナルとカンボジア森林局の科学者らが、カンボジア南西部のカルダモン山脈で野生個体を確認した[23][24]。それ以来、調査によってカンボジアでは野生個体の生息地が約30か所、控えめに見積もっても合計200-400頭が発見され、タイには最近の再導入を除けばおそらく2頭程度というわずかな個体群が、ベトナムにはおそらく100頭未満の小さな個体群、カッティエン国立公園に約200頭、ラオスにはさらに大きな個体群が確認されている[25]。2005年3月、自然保護活動家らがラオス南部のサワンナケート県で幼体の巣を発見した[26]。マレーシア、ビルマ、ブルネイからの最近の記録はない。インドネシアの東カリマンタンにも、少数だが重要な個体群が生息している[27][28]。
生息地の破壊
生息地の喪失を引き起こす要因としては、湿地の農地への転換、化学肥料の使用、水田における農薬の使用、ウシの増加などが挙げられる[29]。ベトナム戦争やカンボジア内戦などの紛争に起因する地雷から空爆の影響を受けた可能性もある[30]。
保護地域内のものも含め、多くの水系では水力発電のためのダムの建設が承認または提案されており、今後10年以内に繁殖個体群の半数が失われる可能性がある[8]。メコン川上流とその主要な支流へのダムの建設は、生息地の喪失を生み出す可能性がある[31]。その他にもダム建設は湿地の喪失や、洪水サイクルの変化を引き起こす可能性がある[32]。
利用

養殖場への供給を目的とした野生個体の違法な捕獲は、漁網や罠による混獲と同様に、継続的な脅威となっている[8]。現在野生での繁殖はほとんど証明されておらず、残存個体数は極めて少なく、その生息地は断片化している[33]。歴史的に、革や養殖のために捕獲されてきた。1945年、カンボジアのフランス植民地政権は商業用の皮狩りを禁止した[34]。1940年代後半、住民は養殖場の開発を行い、養殖の為に野生のワニを捕獲するようになった[35]。ワニの保護はクメール・ルージュによって廃止されたが、後に1987年の漁業法に基づいて復活し、野生のワニの捕獲、販売、輸送の禁止が規定された[34]。
ワニ養殖は現在、トンレサップ周辺の州に大きな経済的影響を与えており、1998年には396の養殖場で2万頭以上のワニが飼育されていた[34]。1980年代半ば以降、多くのワニがカンボジアから輸出され、タイ、ベトナム、中国の養殖場に供給された[36]。法的な保護があるものの、1980年代初頭から野生個体を捕獲して養殖場に販売する市場が存在している[36]。慢性的な狩猟により、野生個体が減少している[25][33]。飼育下では皮採集効率化の為にイリエワニと人為的に交雑させた種間雑種も見られるが、雑種には成長不全が起こりやすく、気性も荒いため、逸脱した場合の生態系への影響や遺伝子汚染が懸念されている[4]。
保全
IUCNのレッドリストでは近絶滅種に分類されており、CITESの付属書Iにも掲載されている[2]。飼育下では広く繁殖されているが、野生では最も絶滅の危機に瀕しているワニの1つである[14]。東カリマンタン地域の重要な湿地生息地を保護するための小規模プロジェクトが運営されている[37]。動植物相インターナショナルとカンボジア森林局の科学者らは、シャムワニの保護と回復を目的とした保護プログラムを設立した。このプログラムは湿地や河川など、重要な生息地の保護に協力している先住民の村のネットワークと連携している。アレーン川はシャムワニの個体数が世界で2番目に多いと考えられているが、巨大なダムの建設計画によって脅かされている。6月から11月にかけてのモンスーンが激しい時期には、シャムワニは水位の上昇を利用して川から大きな湖やその他の水域に移動し、水位が戻り始めると元の生息地に戻る[38]。2009年にはカンボジアの野生生物保護センターで69頭のDNA分析が行われ、そのうち35頭が純血のシャムワニであることが判明した。その後活動家らが保護繁殖プログラムを立ち上げた。2012年以来、減少した野生個体群を補充するため、約50頭の純血のシャムワニが保護地域に放たれてきた[39]。
密猟は深刻な脅威となっており、野生のシャムワニは闇市場で数百ドルの値が付けられ、違法に養殖場に持ち込まれ、他の大型種と交配されている[40]。ほとんどの群れはアクセスが困難な隔離された地域に生息しているため、正確な野生個体の数は不明である。飼育されている個体の多くはイリエワニとの交雑種だが、数千頭の純系個体が存在し、特にタイでは定期的に繁殖が行われている。カンボジア近郊のパーンシーダー国立公園では、シャムワニの野生復帰が実施されており、観光客が立ち入ることができない小川に幼体を放っている[25]。
野生生物保全協会はラオス政府と協力し、絶滅の危機に瀕しているシャムワニとその湿地生息地を救うための新しいプログラムに取り組んでいる。2011年8月、20頭の孵化に成功したことが発表された。これらの卵はその後ラオス動物園で孵化された。このプロジェクトは、ラオスのサワンナケート県の生物多様性と生息地を保護するための取り組みであり、地域全体の生物多様性の保全を促進し、地元住民のコミュニティ参加に依存している[41]。2021年9月には、カンボジア東部の野生動物保護区で8頭の孵化したばかりの幼体が発見された[42]。カンボジアの南カルダモン国立公園では、2024年7月に5つの巣から60頭が孵化に成功した。これは今世紀最大の野生繁殖記録であり、絶滅が危惧されている本種の生存の見通しを大幅に高めるものである[43][44]。
保護プロジェクト
優先度の高いプロジェクトには以下のものがある[45]。
- カンボジアとラオスは残存する主要な個体群が存在しており、現状調査と管理および保護プログラムの開発が必要である。保護プログラムを開始する前に、重要な地域と個体群を特定し、個体群規模を推定することが必要である。
- タイには最もよく組織された保護区、再放流用の養殖個体の最大の供給源、地域で最も発達した管理プログラムが存在する。野生から事実上姿を消しているが、生息地の保護と再放流の実施により、保護区内で生存可能な個体群を再び確立することは可能である。
- ベトナムでは生息地の保護と飼育下繁殖により、絶滅を防ぐことができる。カッティエン国立公園では繁殖個体群が復活した。さらなる調査、適切な生息地の特定、飼育下繁殖活動と連携した保全プログラムの実施が必要である。
- マレーシアとインドネシアのクロコダイルの分類学的な関係は十分に理解されておらず、これらの関係を明らかにすることは科学的に興味深く、保全にとって重要である。
その他のプロジェクトとしては以下のものが挙げられる[38]。
- 東南アジア地域では、商業利用を目的とした飼育下繁殖プログラムにすでに深く関わっている国がいくつかある。この活動を保護のための資金提供を含む野生個体群に必要な保護活動と統合することで、保護活動の強力な推進力となる可能性がある。長期的な目標としては、生存可能な野生個体群を再構築し、飼育下個体を持続的に利用することが挙げられる。
- 飼育下個体の大半は、タイのいくつかの養殖場で飼育されており、多くはイリエワニとの雑種である。雑種は商業的に優れた品質を持つため好まれているが、遺伝子汚染の懸念がある。養殖場では皮革生産のための雑種に加えて、純粋なシャムワニを保全のために隔離して飼育すべきである。
- カリマンタン島とジャワ島における本種の確認は、インドネシアで進められている管理戦略において、この種の保護を推進するための第一歩となっている。
文化
海域東南アジアの民話には、ワニがマメジカと水牛に出し抜かれる話がある[46]。タイ中部に伝わるクライトーンや[47]、テレビや映画にも何度か登場している[48]。1282年にベトナムの紅河に厄介なワニが住み着いたとき、学者のNguyễn Thuyênはワニへ詩を書いて川に投げ込んだところ、ワニは去っていき、学者は王から褒美を受け取った。この詩はチュノムで書かれた最初の作品の一つとして記録されている。これはベトナム文学の転換点となり、チュノムは文学作品の媒体として大きな注目を集めた[49]。1978年のタイ映画『チョラケー』では、シャムワニが主役の怪物として登場する[50]。
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出典
参考文献
外部リンク
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