トップQs
タイムライン
チャット
視点
スギカズラ
ウィキペディアから
Remove ads
スギカズラ(杉葛[1]、杉蔓[2][3]、Spinulum annotinum)は、ヒカゲノカズラ科の小葉植物の一種である。長く匍匐する主軸から大きく開出する線状披針形の葉を付けた側枝を立ち上げ、先端に胞子嚢穂を1個つける。
Remove ads
名称
和名は茎葉の様子が杉に似ている[1][2][3]、ヒカゲノカズラの仲間の意[1][注釈 1]。
学名の種形容語は「1年の」を意味する[3]、ラテン語の形容詞 annōtinus。
英名は stiff clubmoss[8][7], bristly clubmoss[8], interrupted club-moss[7]。中国語名は、多穂石松または杉葉蔓石松[7]。
特徴
ヒカゲノカズラのように地表を這うスギカズラの匍匐茎。
スギカズラの直立茎。胞子嚢穂を1個頂生する。
スギカズラの葉。上半分に不規則な鋸歯がある。
栄養シュート
小型の常緑性の多年生草本[2][6][7][9]。地上生で、しばしば群生する[7]。匍匐茎からなる主軸と直立茎からなる側枝の区別がある[10]。主軸は長く地上を匍匐する[6][7]。匍匐茎の先端付近は地中に潜ることもある[11]。匍匐茎の直径は 1.5–2.5 mm(ミリメートル)[6][7]。匍匐茎は太くて長く、ヒカゲノカズラに類似しているが、直立茎は異なる[9]。疎らに葉をつける[6]。
側枝の下部は斜上し、上部は完全に直立する[6]。直立茎は基部近くで1から数回、疎らに二又分枝する[6][7][10][12]。稀に単一のこともある[6]。側枝は長さ 6–20 cm(センチメートル)[7]、大きいものでは高さは 20 cm に達する[2][6][12]。葉を含む径は 10 mm 程度[6][7]。冬季には頂端の休眠により狭窄部(winter bud constriction)が形成される[13]。
葉(小葉)は深緑色で堅く[2][6][7]、革質[10]。茎に輪生する[6][7][9]。斜上ないし[9]開出または反曲する[6][7]。葉の長さは (3–)5–6(–11) mm、幅は 0.5–1 mm[2][6][7]。葉は線状披針形[6][7][9][14](定義上は狭披針形とされ[10]、倒披針形にもなる[6])。先端は鋭尖頭[6][7][10]。辺縁は全縁または微鋸歯縁[7][10]。普通、上方半分に不規則な鋸歯を持つ[9]。全縁のタイプも知られる(下記 #下位分類を参照)。
生殖器官
胞子嚢穂
胞子葉
胞子嚢穂は直立茎の先端に1つだけ頂生し、無柄[3][6][7][12]。円柱形で[6][7]、色は淡緑色[2]。夏に形成される[2]。胞子嚢穂の長さは (0.6–)2–4.5(–6) cm[6][7][注釈 2]。幅は (4.0–)4.7–5.6(–6.2) mm[10]。
胞子葉は広卵形、鋭尖頭[6][7]。胞子葉基部に胞子嚢を1個腋生する[2][3]。胞子の表面には網状の模様がある[7]。
配偶体
配偶体はアメリカ合衆国ミシガン州で1例のみ報告がある[15]。スギカズラの配偶体は地中生で大きく、複雑に入り組んだ円盤状である[15]。Bruchmann (1898) により Type I と呼ばれたタイプのもので、ヒカゲノカズラ Lycopodium clavatum のものと似ている[15]。
倍数性と染色体
Remove ads
分布と生育環境

北半球の温帯に広く分布する[6][7]。周北区系(circumboreal)要素である[8]。針葉樹の高木林にやや普通に見られる[6][7][12][8]。亜高山や高山の草原、特にハイマツの下によく見られる[7][9]。
分布する地域は、日本、ロシア、朝鮮、中国、モンゴル、台湾、南アジア(ヒマラヤ[14])、ヨーロッパ、北米[1]。タイプ産地はヨーロッパ[14]。
日本では福井県以東、岐阜県・静岡県以北の本州と北海道、南千島に分布する[1][7]。北海道は利尻島・礼文島を含む[16][12]。本州では、東北地方各県(青森県、岩手県、秋田県、宮城県、山形県、福島県)、新潟県、群馬県、長野県、岐阜県、石川県、福井県、南アルプス(山梨県、静岡県)から記録がある[16]。
下位分類

葉の形態により複数の型が区別されるが、広い分布域を網羅した形質の検討が十分でなく、それぞれの関係や種の構造は十分に解明されていない[17][7][8]。中間型も知られる[14]。以下のほかに「ホソバスギカズラ var. angustatum Takeda 」も知られる[14]。
Remove ads
上位分類と系統関係
要約
視点
かつてヒカゲノカズラ科にはヒカゲノカズラ属 Lycopodium とフィログロッスム属 Phylloglossum の2属のみが認識されており[19][20]、スギカズラはヒカゲノカズラ属の一種 Lycpodium annotinum L. とされていた[7][21][6][14]。しかし、かつてのヒカゲノカズラ属はあまりにも広義であり、ボディプランが多様な種を多く含んでおり[20][22]、分子系統解析においても旧ヒカゲノカズラ属は側系統群となっていた[23][24]。そのため様々な細分化の試みがなされてきたが[20]、日本では長らく統一的な分類体系は提唱されず、図鑑でも旧来の分類体系が用いられることが多かった[20][21]。また、秦仁昌の分類体系では、コスギラン属とヨウラクヒバ属だけでなく、アスヒカズラ属、ヒモヅル属、ヤチスギラン属、ミズスギ属などが区別されたが、スギカズラとマンネンスギはヒカゲノカズラ属に内包されたままであった[20]。
シダ植物の研究者コミュニティで広く認められるPPG I分類体系 (2016) では、ヒカゲノカズラ科は16属に分けられる[25]。そして、スギカズラはスギカズラ属[1] Spinulum に置かれる[26]。近年の研究では、基本的にこれと同じ属の扱いが行われている[8][24][27][22]。独立属を認めずヒカゲノカズラ属に内包する場合、スギカズラ節 Lycopodium sect. Annotina とすることもある[1]。
系統関係
Chen et al. (2021) による分子系統解析に基づく、ヒカゲノカズラ科現生属の内部系統関係を示す[24]。分子系統解析によりPPG I (2016) で認められた3亜科の単系統性は強く支持される[28]。このうち、スギカズラ属はヒカゲノカズラ亜科 Lycopodioideae に含まれる[26][24][22]。
スギカズラ属はヒカゲノカズラ属と姉妹群をなす[24][27][22]。そしてスギカズラ属とヒカゲノカズラ属からなるクレードは、アスヒカズラ属 Diphasiastrum と姉妹群を形成する[24][27][22]。
ヒカゲノカズラ科 |
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Lycopodiaceae |
スギカズラ属
スギカズラ属 Spinulum は、胞子嚢穂が単生し、匍匐茎を持つことで特徴づけられる[1]。2003年に Arthur Haines により、Spinulum annotinum をタイプとして設立された[29]。
同じヒカゲノカズラ亜科に属する狭義ヒカゲノカズラ属 Lycopodium L. s.s. およびマンネンスギ属 Dendrolycopodium とは、斜列は6列以上で、頂芽優勢を持ち単軸状二又分枝を行う、という形質を共有する[13]。一方、次のような特徴で区別される。一方総梗が長くなるヒカゲノカズラ属とは異なり、スギカズラ属では胞子嚢穂は無柄で、直立茎の上部に直接形成される[13]。また葉を含む直立茎の太さが 3–8 mm と細く、明確な主軸を持ち樹状や扇状に分枝するマンネンスギ属に対し、スギカズラ属では直立茎の太さが 10 mm 以上で1–4回ほぼ均等に二又分枝する[13]。マンネンスギ属の横走茎は地中性であるが、スギカズラ属では地表を匍匐する匍匐茎を持つ[13]。
PPG I (2016) などでは Haines (2003) に基づき3種が知られるとされたが[26][8]、Hassler (2025) では2種1亜種とされる[30]。
Hassler (2025) では以下の種が認められる[30]。
Remove ads
利用
フィンランドの民間療法ではくる病や発疹、炎症の治療薬として用いられてきた[31]。また、胞子は油分が多く燃えやすいという性質から "kärpäsruuti" と呼ばれる火薬としても使われてきた[31]。装丁の際の装飾品としても用いられた[31]。
注釈
参考文献
外部リンク
Wikiwand - on
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Remove ads