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スギカズラ

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スギカズラ
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スギカズラ(杉葛[1]、杉蔓[2][3]Spinulum annotinum)は、ヒカゲノカズラ科小葉植物の一種である。長く匍匐する主軸から大きく開出する線状披針形の葉を付けた側枝を立ち上げ、先端に胞子嚢穂を1個つける。

概要 スギカズラ, 分類(PPG I 2016) ...
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名称

和名は茎葉の様子がに似ている[1][2][3]、ヒカゲノカズラの仲間の意[1][注釈 1]

学名の種形容語は「1年の」を意味する[3]、ラテン語の形容詞 annōtinus

英名は stiff clubmoss[8][7], bristly clubmoss[8], interrupted club-moss[7]。中国語名は、多穂石松または杉葉蔓石松[7]

特徴

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ヒカゲノカズラのように地表を這うスギカズラの匍匐茎。
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スギカズラの直立茎。胞子嚢穂を1個頂生する。
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スギカズラの葉。上半分に不規則な鋸歯がある。

栄養シュート

小型の常緑性多年生草本[2][6][7][9]。地上生で、しばしば群生する[7]。匍匐茎からなる主軸と直立茎からなる側枝の区別がある[10]。主軸は長く地上を匍匐する[6][7]。匍匐茎の先端付近は地中に潜ることもある[11]。匍匐茎の直径は 1.5–2.5 mmミリメートル[6][7]。匍匐茎は太くて長く、ヒカゲノカズラに類似しているが、直立茎は異なる[9]。疎らに葉をつける[6]

側枝の下部は斜上し、上部は完全に直立する[6]。直立茎は基部近くで1から数回、疎らに二又分枝する[6][7][10][12]。稀に単一のこともある[6]。側枝は長さ 6–20 cmセンチメートル[7]、大きいものでは高さは 20 cm に達する[2][6][12]。葉を含む径は 10 mm 程度[6][7]。冬季には頂端の休眠により狭窄部(winter bud constriction)が形成される[13]

葉(小葉)は深緑色で堅く[2][6][7]、革質[10]。茎に輪生する[6][7][9]。斜上ないし[9]開出または反曲する[6][7]。葉の長さは (3–)5–6(–11) mm、幅は 0.5–1 mm[2][6][7]。葉は線状披針形[6][7][9][14](定義上は狭披針形とされ[10]、倒披針形にもなる[6])。先端は鋭尖頭[6][7][10]辺縁全縁または微鋸歯縁[7][10]。普通、上方半分に不規則な鋸歯を持つ[9]。全縁のタイプも知られる(下記 #下位分類を参照)。

生殖器官

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胞子嚢穂
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胞子葉

胞子嚢穂は直立茎の先端に1つだけ頂生し、無柄[3][6][7][12]。円柱形で[6][7]、色は淡緑色[2]。夏に形成される[2]。胞子嚢穂の長さは (0.6–)2–4.5(–6) cm[6][7][注釈 2]。幅は (4.0–)4.7–5.6(–6.2) mm[10]

胞子葉は広卵形、鋭尖頭[6][7]。胞子葉基部に胞子嚢を1個腋生する[2][3]胞子の表面には網状の模様がある[7]

配偶体

配偶体アメリカ合衆国ミシガン州で1例のみ報告がある[15]。スギカズラの配偶体は地中生で大きく、複雑に入り組んだ円盤状である[15]。Bruchmann (1898) により Type I と呼ばれたタイプのもので、ヒカゲノカズラ Lycopodium clavatum のものと似ている[15]

倍数性と染色体

n = 342n = 68[14])の2倍体[7]。外国産では2倍体有性生殖の報告がある[1]

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分布と生育環境

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針葉樹林の林床に群生するスギカズラ。直立茎を多数立ち上げている。

北半球温帯に広く分布する[6][7]。周北区系(circumboreal)要素である[8]針葉樹高木林にやや普通に見られる[6][7][12][8]亜高山高山の草原、特にハイマツの下によく見られる[7][9]

分布する地域は、日本ロシア朝鮮中国モンゴル台湾南アジアヒマラヤ[14])、ヨーロッパ北米[1]。タイプ産地はヨーロッパ[14]

日本では福井県以東、岐阜県静岡県以北の本州北海道南千島に分布する[1][7]。北海道は利尻島礼文島を含む[16][12]。本州では、東北地方各県(青森県岩手県秋田県宮城県山形県福島県)、新潟県群馬県長野県岐阜県石川県福井県南アルプス山梨県静岡県)から記録がある[16]

下位分類

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「タカネスギカズラ」型の個体。葉はほぼ全縁で斜上し、winter bud constriction が形成されている。

葉の形態により複数の型が区別されるが、広い分布域を網羅した形質の検討が十分でなく、それぞれの関係や種の構造は十分に解明されていない[17][7][8]。中間型も知られる[14]。以下のほかに「ホソバスギカズラ var. angustatum Takeda 」も知られる[14]

  • 基準変種(品種) シンノスギカズラ[1][14](または単にスギカズラ[6]
var. annotinum
葉が90°以上の広い角度につく[1]葉縁には細鋸歯(微鋸歯[6])がある[1]
  • ヒロハノスギカズラ[6][7][1](ヒロハスギカズラ[14]
f. latifolium (Takeda) Tagawa[6][1][14]
(=var. latifolium Takeda[7])
葉は開出またはやや斜上し、反曲することはない[6]。開出の度合いは90°より小さい[18]。葉の上方は内曲し、披針形で幅 1 mm を超えることもある[6]。辺縁は鋸歯縁[18]。基準変種スギカズラとの間には中間型が見られる[6]。分布域はスギカズラと同じであるが、それよりは稀[6]
var. acrifolium Fernald[2][6][18][7][14]
(=subsp. alpestre (Hartm.) Á. Löve & D. Löve[18])
葉のつき方は開出または反曲し、陽地のものは内曲する[6]。開出の度合いは90°より小さい[18]。葉が全縁[2][6][9][12]、稀に不明瞭な歯牙を持つ[6]。葉の先端は長く伸びて堅い棘状をなす[2][6]。葉質は厚い[18]。分布域はスギカズラと同じであるが、ごく稀[6]。高山に生える[12]
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上位分類と系統関係

要約
視点

かつてヒカゲノカズラ科にはヒカゲノカズラ属 Lycopodiumフィログロッスム属 Phylloglossum の2属のみが認識されており[19][20]、スギカズラはヒカゲノカズラ属の一種 Lycpodium annotinum L. とされていた[7][21][6][14]。しかし、かつてのヒカゲノカズラ属はあまりにも広義であり、ボディプランが多様な種を多く含んでおり[20][22]、分子系統解析においても旧ヒカゲノカズラ属は側系統群となっていた[23][24]。そのため様々な細分化の試みがなされてきたが[20]、日本では長らく統一的な分類体系は提唱されず、図鑑でも旧来の分類体系が用いられることが多かった[20][21]。また、秦仁昌の分類体系では、コスギラン属ヨウラクヒバ属だけでなく、アスヒカズラ属ヒモヅル属ヤチスギラン属ミズスギ属などが区別されたが、スギカズラとマンネンスギはヒカゲノカズラ属に内包されたままであった[20]

シダ植物の研究者コミュニティで広く認められるPPG I分類体系 (2016) では、ヒカゲノカズラ科は16属に分けられる[25]。そして、スギカズラはスギカズラ属[1] Spinulum に置かれる[26]。近年の研究では、基本的にこれと同じ属の扱いが行われている[8][24][27][22]。独立属を認めずヒカゲノカズラ属に内包する場合、スギカズラ節 Lycopodium sect. Annotina とすることもある[1]

系統関係

Chen et al. (2021) による分子系統解析に基づく、ヒカゲノカズラ科現生属の内部系統関係を示す[24]。分子系統解析によりPPG I (2016) で認められた3亜科の単系統性は強く支持される[28]。このうち、スギカズラ属はヒカゲノカズラ亜科 Lycopodioideae に含まれる[26][24][22]

スギカズラ属はヒカゲノカズラ属と姉妹群をなす[24][27][22]。そしてスギカズラ属とヒカゲノカズラ属からなるクレードは、アスヒカズラ属 Diphasiastrum と姉妹群を形成する[24][27][22]

ヒカゲノカズラ科
コスギラン亜科

フィログロッスム属 Phylloglossum

ヨウラクヒバ属 Phlegmariurus

コスギラン属 Huperzia

Huperzioideae

イヌヤチスギラン属 Pseudolycopodiella

ヤチスギラン属 Lycopodiella

ミズスギ属 Palhinhaea

Brownseya

Lateristachys

Lycopodielloideae
ヒカゲノカズラ亜科

ヒモヅル属 Lycopodiastrum

Pseudolycopodium

Pseudodiphasium

Austrolycopodium

マンネンスギ属 Dendrolycopodium

Diphasium

アスヒカズラ属 Diphasiastrum

ヒカゲノカズラ属 Lycopodium

スギカズラ属 Spinulum

Lycopodioideae
Lycopodiaceae

スギカズラ属

スギカズラ属 Spinulum は、胞子嚢穂が単生し、匍匐茎を持つことで特徴づけられる[1]。2003年に Arthur Haines により、Spinulum annotinum をタイプとして設立された[29]

同じヒカゲノカズラ亜科に属する狭義ヒカゲノカズラ属 Lycopodium L. s.s. およびマンネンスギ属 Dendrolycopodium とは、斜列は6列以上で、頂芽優勢を持ち単軸状二又分枝を行う、という形質を共有する[13]。一方、次のような特徴で区別される。一方総梗が長くなるヒカゲノカズラ属とは異なり、スギカズラ属では胞子嚢穂は無柄で、直立茎の上部に直接形成される[13]。また葉を含む直立茎の太さが 3–8 mm と細く、明確な主軸を持ち樹状や扇状に分枝するマンネンスギ属に対し、スギカズラ属では直立茎の太さが 10 mm 以上で1–4回ほぼ均等に二又分枝する[13]。マンネンスギ属の横走茎は地中性であるが、スギカズラ属では地表を匍匐する匍匐茎を持つ[13]

PPG I (2016) などでは Haines (2003) に基づき3種が知られるとされたが[26][8]Hassler (2025) では2種1亜種とされる[30]

Hassler (2025) では以下の種が認められる[30]

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利用

フィンランド民間療法ではくる病や発疹、炎症の治療薬として用いられてきた[31]。また、胞子は油分が多く燃えやすいという性質から "kärpäsruuti" と呼ばれる火薬としても使われてきた[31]装丁の際の装飾品としても用いられた[31]

注釈

参考文献

外部リンク

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