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トムソン問題

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トムソン問題(トムソンもんだい、: Thomson problem) は、静電エネルギーが最小になるよう単位球面上に N 個の電子を配置する問題である(電子間力はクーロンの法則に従うものとする)。1904年、物理学者J. J. トムソンが、後年ブドウパンモデルと呼ばれる原子模型の発表後、「(電気的な)中性原子中には、負に帯電した電子が存在している」という知見を基に提出した[1]

この問題に関連して、最小エネルギー配置の幾何の研究や、N を大きくしたときの最小エネルギーの研究がある。

数学的定式化

要約
視点

トムソン問題は、数学者スティーヴン・スメイルによる18個の未解決問題の1つ — "2次元球面上の点の分布" — の特別な場合である[2]。冒頭述べたように単位球面( )の場合だけ考えればよい。

電気量 電気素量)の電子ペアがもつ静電エネルギーは、クーロンの法則より

ここで クーロン定数 は位置ベクトル で表した電子間距離。

であるとしても一般性は失わない。このとき、

N-電子配置のエネルギーの総和は、ペアごとの値を合算して次のように書ける。

大局的な の最小化配置は、大体において数値計算で得られる。

電子2個の場合のトムソン問題の解は、電子が原点を挟んで最も遠ざかったときが解となる:

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既知の解

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N=5までのトムソン問題の解を図示したもの

最小エネルギー配置が厳密に分かっているのはほんの限られた場合だけである。

  • N =1のとき:解は自明であり、電子は球面上のどこにあってもよい。このときのエネルギーは、電子が別の電場源からの影響を一切受けないことからゼロと定義することにする。
  • N =2のとき:2電子が対蹠点に位置するときが解。
  • N =3のとき:3電子が大円上の正三角形の頂点になるときが解[3]
  • N =4のとき:4電子が正四面体の頂点になるときが解。
  • N =5のとき:コンピュータを用いた数学的厳密解が2010年に報告された。5電子が双三角錐の頂点になるときが解[4]
  • N =6のとき:6電子が正八面体の頂点になるときが解[5]
  • N =12のとき:12電子が正二十面体の頂点になるときが解[6]

注目すべきことに、 N =4,6,12のときのトムソン問題の解は、全ての面が合同な正三角形であるプラトンの立体を形作っている。 N =8,20のときの数値計算による解は残り2つのプラトンの立体(面が正方形、正五角形)にはなっていない。

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一般化

要約
視点

粒子間のポテンシャルが任意の形で与えられているときの基底状態を考えることもできる。数学的に正式に述べると、 f を実数値減少関数とし、全エネルギーを とする。

伝統的に (リースの -カーネル)を考えることが多い。可積分なリースカーネルについては文献[7]を参照のこと。また可積分でないリースカーネルについてはPoppy-seed bagel theorem英語版が成り立っている[8]

有名なケースは

  • α  ∞ としたとき:「球面上の2点間の距離の最大値が最小となる配置を求める問題」と解釈する。Tammes problem英語版として知られている。
  • α = 1のとき:トムソン問題。
  • α = 0のとき: と解釈する。Whyte's problemとして知られている。

高次元空間での N 個の点の配置を考えることもできる。球デザイン英語版を参照。

他の自然科学の問題との関係

トムソン問題は、トムソンのブドウパンモデルにおいて一様に広がる正電荷がないものとすれば自然に導かれる[9]

『自然哲学の大部分は原子の構造及び機構が生み出しているのだから、原子に関する発見に取るに足らないものはないし、物理学の進歩を加速させないものもない。』
—J. J.トムソン卿[10]

実験によってトムソンのブドウパンモデルは原子の完全なモデルにはなり得ないことがわかったが、数値計算によるトムソン問題の変則的な解の中には、周期表上の一連の元素における自然な殻内電子配置と対応が見つかっているものもある[11]

トムソン問題はまた、電子バブル英語版や、四重極イオントラップ内の金属液滴の表面配向といった他の物理モデルの研究でも有用である。

一般化されたトムソン問題は、例えばウイルスの球状殻を構成するタンパク質のサブユニット配置を決定するときに現れる。この場合の「粒子」とは殻上のサブユニットのことである。他の具体例として、コロイドソーム(colloidosome;薬物、栄養物、生細胞等、活性成分のカプセル封じとして提案されている)におけるコロイド粒子の均整な配置、炭素原子のフラーレン構造、原子価殻電子対反発則の理論等が挙げられる。低温状態で、巨大単極子を中心としたシェル構造超伝導金属が形成するとされるアブリコソフ-ボルテックスは、対数ポテンシャルによる長距離相互作用の例である。

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現在までに知られている最良の結果

下記の表で、 は点(電荷)の個数、 はエネルギー、対称性の記述はシェーンフリース記号三次元の点群を参照)によるもの、また は点電荷の位置を表す。ほとんどの対称性のタイプにおいてベクトルの総和はゼロになり、従って電気双極子モーメントもゼロになる。

点集合の凸包による多面体も併せて考えることが慣習となっている。ここで、 は添字に等しい辺が集まる頂点の数、 は辺の数、 は三角形の面の数、 は四角形の面の数、 は隣接する2辺が成す角の最小値である。辺の長さは一定とは限らないことに注意。このため( N =4, 6, 12, 24を除いて) 凸包は表の最終列に記した一様多面体またはジョンソンの立体とはグラフ同型であるにとどまる[12]

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脚注

参考文献

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