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ヒツジグサ

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ヒツジグサ
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ヒツジグサ(未草、学名: Nymphaea tetragona)は、スイレン科スイレン属に属する多年生水草の1種である。水底にを張った地下茎から長い葉柄を伸ばし、水面に円形の葉を浮かべる (図1)。花期は6月から9月、長い花柄の先についた1個の花が水面上で咲く (図1)。花の大きさは直径3–7センチメートル (cm)、萼片が4枚、多数の白い花弁と黄色い雄しべがらせん状についている。

概要 ヒツジグサ, 保全状況評価 ...

ヒツジグサの名の由来は、未の刻 (午後2時) 頃にが咲くためとされることが多いが[7]、この頃に花が閉じ始めるためともされる[8][9]。中国名は睡蓮または子午蓮であるが、日本語での睡蓮 (スイレン) はスイレン属の総称として用いられる[10]

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特徴

ヒツジグサは多年生浮葉植物 (水底にを張り、を水面に浮かべる植物) である[7][11]地下茎は太く短い塊状で直立し、無分枝、ここから葉が生じる[7][11][12][13][14]。地下茎で栄養繁殖することはない[13]。沈水葉 (葉身が水中にある葉) の葉身は矢じり形から楕円形、長さ15センチメートル (cm) 以下であり、薄い[11]。浮水葉の葉柄は長く、葉身が水面に浮かぶ[7]。浮水葉の葉身は卵円形から楕円形、8–19 × 5–12 cm、基部は深く切れ込み (切れ込みの幅はさまざま)、全体は無毛、裏面は赤紫色を帯びる[7][11][12][13][14] (上図1、下図2a, b)。

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2a. ヒツジグサの浮水葉 (左) と (右)
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2b. ヒツジグサの浮水葉と花
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2c. ヒツジグサの花

花期は6–9月、地下茎から長い花柄を生じ、水面上で直径 3–7 cmが単生する[7][11][14] (上図2a, c)。萼片は4枚、長さ 2–3.5 cm、外側 (背軸側) は緑色、内側 (向軸側) は緑白色、宿存性で果時にも残る[7][13][14] (上図2c)。萼片基部の花托は上から見て正方形[11][14]花弁は8–17枚、長さ 2–2.5 cm、白色、らせん状につく[7][11][14] (上図2c)。雄蕊 (雄しべ) は多数、花弁から連続的にらせん状につき、外側の雄しべの花糸は扁平で花弁と中間的[11][13][14] (上図2c)。花の中央では多数の心皮が輪生し、合着して1個の雌蕊 (雌しべ) となり、柱頭盤には5–8条の柱頭が放射状に配列している[11][14]。柱頭盤の外側には、偽柱頭とよばれる突起が存在する[7][13][14]。花は2〜3日開閉を繰り返し、1日目は雌しべが成熟 (雌性期)、2日目に雄しべが成熟 (雄性期) する雌性先熟である[11][12][13]。雄性期には偽柱頭が内曲し、柱頭盤を覆う[7][13]。花後、花柄がらせん状に収縮して花は水中に没し、果実は水中で熟する[7][11][12]。果実は漿果、直径 2–2.5 cm、熟すと果皮が崩壊し、種子を放出する[12][13][14]。種子は仮種皮で覆われており、しばらく水面を浮遊するが、やがて水底に沈む[12][13]。種子は卵形で長さ2–3.5ミリメートル (mm)、暗黄褐色、細点紋が縦列している[13][14]染色体数は 2n = 112[7][14]

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分布・生態

北米北西部、ヨーロッパ東北部、シベリア東アジアインド北部にかけて分布し、海抜0メートル (m) の地域から標高 4,000 m の高地まで報告されている[3][14]。日本では北海道から九州にかけて生育している[7][11][12]

中性から弱酸性貧栄養から中栄養、または腐植栄養 (植物遺骸など有機物が蓄積している) のため池や湖沼、水路などに生育する[11][12][13][15][16]

コイアメリカザリガニの食害に弱い[13]

保全状況評価

ヒツジグサは日本全体としては絶滅危惧等に指定されていないが、下記のように地域によっては絶滅危惧種に指定され、また既に絶滅した地域もある[17]。また変種とされるエゾベニヒツジグサ (下記) は絶滅危惧II類に指定されている[17]。絶滅・減少の要因としては、池沼の開発や水質の悪化等があげられる。以下は2020年現在の各都道府県におけるレッドデータブックの統一カテゴリ名での危急度を示している[17] (※埼玉県東京都では、季節や地域によって指定カテゴリが異なるが、下表では埼玉県は全県のカテゴリ、東京都では最も危惧度の高いカテゴリを示している)。

人間との関わり

ヒツジグサは観賞用に栽培されることがある[18][19][20]。一般的な観賞用スイレンにくらべると葉や花が小さく、花弁数が少ない[18]。またヒツジグサをもとに、さまざまな園芸品種が作出されている[20] (下図3)。

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3. Nymphaea tetragona 'Joanne Pring'[21]

地下茎葉柄を食用とする地域もある[19]。また生薬とし (生薬名は睡蓮)、暑気あたりや酒酔いに対して用いられる[22]

系統と分類

北日本へ行くほど葉や花弁が大きい傾向があり、またの基部の湾入が比較的浅いものはエゾノヒツジグサ (エゾヒツジグサ)[23][24] として分けられることがあるが、変異は連続的で明確には分けられない[7]。また北海道北部・東部には、柱頭とその周辺の雄しべが黒紫色で浮水葉がやや大きい (15–30 × 10–22 cm) ものがおり、変種エゾベニヒツジグサ (Nymphaea tetragona var. erythrostigmatica Koji Ito) とされる[7][11]

ヒツジグサは北半球に広く分布するが、の特徴に変異が大きい。北米ヨーロッパの個体は北緯40°以北の亜寒帯域に生育し、背軸側 (裏側) に隆起した葉脈をもつ薄い葉、明瞭に四角形の花托、花の中央部が紫色という特徴をもつ[14]。このような特徴はロシア韓国北海道の個体にも見られる (上記のエゾベニヒツジグサに相当する)[14]。一方、中国南部、日本(大部分)、ベトナムの個体は葉脈部が陥没した厚い葉、四角形があまり明瞭ではない花托、花の中央部が黄色いという特徴をもつ[14]。北米やヨーロッパでは、このような個体は Nymphaea tetragona var. angusta とよばれ栽培されている[14]。しかしこのような個体は、1805年に William Kerr によって中国広東省から送られたものに由来しており、Castalia pygmaea (= Nymphaea pygmaea) とされていたものに相当する[14]。そのため、東アジア温帯域以南に生育するもの (北海道北東部を除く日本のヒツジグサを含む) は、Nymphaea pygmaea として分けるべきであることが示唆されている[14]。また予備的な分子系統学的研究からも、カナダフィンランドの"ヒツジグサ" (Nymphaea tetragona) と東アジアのヒツジグサ ("Nymphaea pygmaea") が系統的に区別できることが示唆されている[25]

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脚注

関連項目

外部リンク

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