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マガモ
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マガモ(真鴨、学名:Anas platyrhynchos)は、カモ目カモ科に分類される鳥類の一種。
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形態
要約
視点
カモ類ではしばしば見られることであるが、本種も雄と雌、雄は夏と冬でも色が大きく異なり、特に冬の雄は色鮮やかになる。
冬に泳いでいる時の雄は大きく緑、茶、灰の3色がよく目立つ。以下、清棲(1979)による[3] 。冬羽の場合、頭部は全体的に金属光沢があり緑色だが、頭上は黒色に近く光線具合によっては藍紫色の光沢を放つ。頸部も同色で下部に白い輪状の模様が入る。胸は栗色、背と肩羽は灰褐色で腹や腋もほぼ同色だが背に比べるとやや淡い。腰および上尾筒は黒色、下尾筒は前半が黒色だが後は白い。羽を広げると風切羽に紫色の金属光沢を持つ部分がよく目立つ。これは次列風切で個々の羽根は軸を境に内弁が灰褐色、外弁が光沢のある紫色である。三列風切は内弁が灰色で外弁が暗褐色、他の羽根は全体に灰褐色から白色である。尾羽は通常20枚稀に18枚で構成され、中央のものが光沢のある黒色であるほかは基本的に灰色で斑点がある。嘴の色は全体的に黄色だが先端は黒色。夏羽は地味で全体的に雌に似るが、頭部は全体的に光沢のある黒色、喉は赤みを帯びる。虹彩は褐色、脚の色はオレンジ色、嘴峰(嘴の長さ)は40-65mm、翼長250mm-300mm、尾長75mmm-100mm、体重900g-1500g[3]。
冬の雌は雄に比べると地味で全体的に茶色の鴨である。頭部は全体的に褐色であるが、額から後頸にかけては色が濃く、頭側、耳羽、頬、頸などは色が淡い。眼先から眼の後ろまで黒い過眼線が目立つ。背および肩羽は赤みを帯びた褐色で、個々の羽根の中央部には濃く褐色の斑がある。胸、腹、脇は背よりもやや淡い褐色で、各羽根には軸班がある。腰と上下の尾筒および尾は黒褐色、尾の各羽根には馬蹄形の斑がある。尾羽は普通18枚だがまれに19-21枚。雌も紫色で光沢のある風切羽が目立つ。翼長240mm-270mm、体重700g-1300g、その他虹彩、脚色、嘴峰、尾長などは雄に準ずる[3]。雌は夏羽でも冬とは殆ど変わらない。
雄と雌は上述のように形態が大きく異なるが、まれに雌に雄タイプの羽が部分的に生える事例が報告されている[4]。
- 雄・冬羽 頭部は光沢のある緑、胸は栗色、腹部は灰色(カナダ、4月)
- 雄・冬羽 風切羽の紫光沢がよく目立つ
- 雄・夏羽(手前) 雌とよく似るが頭上が黒い(ロシア・8月)
- 雌 首を伸ばして飛ぶ
類似種
雄の頭部が緑色になるカモはコガモ、ヨシガモ、トモエガモなど幾つか知られるが、いずれも耳羽など部分的に緑色が見えるに留まる。ハシビロガモは頸まで緑色になるが、腹や嘴の色が異なる。雌はカルガモに若干似るが、カルガモが白っぽい褐色に黒く太い過眼線を持ちはっきりした顔立ちなのに対しマガモは全体的に褐色である。また、嘴の色が異なり、カルガモは嘴の先端が黄色で基部が黒色なのに対して、マガモは基部が黄色である。
後述のようにアヒルは本種が家畜化されたものであり、大抵は全身が白いのだが、沢山ある品種の中には本種に似るものがある。'アオクビアヒル'と呼ばれる品種は雄が本種によく似るが、腹部は全体的に白っぽい。また、体型は全体的に本種よりも大きい。
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生態
食性は主に陸上の植物質のものを食べる雑食性である。マガモはどちらかというと水中のものよりも陸地で採食を行う種類だとされており、潜水は下手である。カモ類も種によって、藻や湖底の貝を好むもの、魚ばかり食べる肉食性が強いものなど様々な種がおり、潜水の得手不得手はもちろん好む水質が違う。長野県での観察によればマガモのような陸地採食型のカモは水質を選ばないこと、潜水が上手い貝食や魚食のカモは富栄養の湖を好むために、貧栄養の湖ほど陸地採食型のカモの割合が増えるという[5]。
潜水採食型のカモは昼行性、陸地採食型のカモは夜行性のものが多い。マガモも基本的に夜行性の性質が強いとされるが[6][7]、これは人間の行動や湖の水位にも影響を受けるという[8]。
日本よりもさらに寒冷地で夏季に繁殖することを基本とするが、北海道や本州の高原地帯では少数の繁殖事例が観察されている[9][10][11][12]。江戸時代末期から大正中期くらいまでは山中湖や河口湖でも繁殖が見られたという[13]。東京近郊では繁殖を行わないので、繁殖期となる夏にマガモを見た場合は、アヒル系の雑種を疑うべきとされている[14]
寒冷地の個体群は繁殖期を北方で過ごし、冬季に南方に渡りを行う。日本で見られるものの大半はこの際に飛来するため、日本では一般に冬鳥扱いされる。日本に飛来するのは場所にもよるが9月ごろ、去るのは4月ごろである[15]。『大和本草』にはカモが渡ってくるのはガン(雁)に比べて遅く、去るのも遅いという記述が見られるが[16]、これは年によっても異なるようである。
越冬中の10月末-12月につがいを形成し、春には雄雌が連れ立って繁殖地へ渡る。繁殖期は湖沼、池、湿地の周辺の草地などに生息する。
繁殖期は春から夏で、枯枝や草をかき集め皿型の巣を作り、産卵数は平均10個前後[17]卵は白色で平均サイズは57×41mm。他のカモ類と同様、抱卵・育雛はメスのみで行う。卵は抱卵開始から28~29日で孵化し、雛は42~60日で飛べるようになる。
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分布
北半球の広い地域に分布する鳥で、ユーラシア大陸、アメリカ大陸のいずれでも見られる。
分類
以下の亜種に分類される。
- Anas platyrhynchos platyrhynchos マガモ
- Anas platyrhynchos conboschus グリーンランドマガモ - 大型で淡色。グリーンランドに分布。
- Anas platyrhynchos maculosa マダラマガモ - 北アメリカのメキシコ湾の沿岸に分布。
- Anas platyrhynchos diazi メキシコマガモ - 雌雄とも褐色。北アメリカのニューメキシコからメキシコ高地まで分布。
- Anas platyrhynchos diazi フロリダマガモ - メキシコマガモと似るが、体色に赤みがある。フロリダ半島からメキシコ国境まで分布。
- Anas platyrhynchos wyvilliana ハワイマガモ - ハワイ諸島に分布。独立種Anas wyvillianaとして扱う説も有力である。
- Anas platyrhynchos laysanensis レイサンマガモ - レイサン島に分布。独立種Anas laysanensisとして扱う説も有力である。
カルガモやヨシガモとの雑種が報告されている[18]。マガモとカルガモとの雑種は通称「マルガモ」などと呼ばれることもある。
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人間との関係
要約
視点
食用・薬用
肉は食用になる。本種はカモ類の中でも食味が良いとして名前が挙がることが多い鴨である。江戸時代の博物図鑑『大和本草』では美味な鴨としてコガモ、オナガガモと本種の3種を挙げている[16]。養鶏が盛んになるまでは世界的にも野鳥を採って食べる文化が残っていた。養鶏の浸透と野鳥の捕獲の禁止により消えていった野鳥の食文化も多い中で、マガモを含めカモ類は長く食べられ続けており、各地に食文化が比較的残っている方である[19]。江戸時代、江戸の街へとカモなどの水鳥を供給する地域としては、江戸に近く印旛沼・手賀沼を抱える千葉県北西部が重要であった。この地域には現在でも獲物の数え方や分配方法、鳥の商習慣に独特なものが残っているという[20]。江戸へ卸すばかりでなく地元での食用利用も盛んで、この地域では野鳥を食べると言えば冬の鴨だったようである[21]。千葉に限らず、大きな湖や潟があるような地域では鴨の食文化がある地域が多い[22]。
江戸時代には冬に限らず食べられており、鴨は一年中いつ食べても美味であるとされていた。一部では捕獲した鴨を屠る時まで生かしておく畜養も行われていたようである[20]。。日本における調理法としては全国的に汁物が多く、蕎麦やうどんを加えた麺料理にする地域もしばしば見られる[19][22]。大和本草ではマガモの肉は塩漬けにした旨が書かれており、生食に近い食べ方も行われていたようである[16]。
卵も食用にできるが、江戸時代の日本では「鳥の卵」と言った場合にはほぼほぼ「鶏卵」だけを指しており、野鳥の卵利用は稀であったようである[23]。
カラスなどに比べると少ないが薬用用途もあり、江戸時代には鳥獣の加工の定番である「霜」と呼ばれる黒焼きにされることが多かったようである[24]。
世界的に重要な狩猟鳥獣の一つで、日本でも「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」(平成十四年法律第八十八号、通称:鳥獣保護法)[25]で狩猟鳥獣に一つと定められている(リスト一覧は同法の施行規則第三条にあり[26])。狩猟を希望する場合は同法に従って狩猟免許を取得し都道府県の名簿に登載されれば、亜種も含めて冬季に決められた区域内と手法で狩猟ができる。なお、卵の採取は同法の第八条により、鳥もち・釣り針・かすみ網などによる狩猟は同法の第十条により禁止されている[25]。
カモ類は群れることの他にも後述のように世界的に重要な穀物である麦類を食害する害鳥として知られており、これが世界的な狩猟の習慣などに影響を与えている。
家畜化

肉および卵を目的として世界各地で家畜化されてきた。マガモが家畜化されたのがアヒルであり、温度耐性の向上、肉の量や産卵数も増えるように改良されている。反面運動能力は野生のものより劣り、アヒルはあまり飛ぶことができない。アヒルは野生のマガモと戻し交配を行うこともでき、交配を行うことで退化していた運動能力などが野生とそん色ないほどに回復する[14]。
日本で飼育化されたアヒルのうちよく鳴きアヒルにしては小型のものを「ナキアヒル」ないし「アイガモ(合鴨)」と呼ぶが、最近は「アイガモ」と呼ぶ方が一般的になっている。ナキアヒル(アイガモ)は一見して野生型マガモと分かりにくいものもあるが、雄の場合は嘴の幅、雌の場合は翼の長さにマガモとの差が現れる[14]。
ナキアヒル(アイガモ)はアヒルにマガモを戻し交配したものとよく言われているが[14]、固定種とされるナキアヒルの遺伝子検査の結果は単にマガモが飼育化されただけということを示し、東アジアのアヒル品種に近いが他のアヒルの影響は見られなかった[27]。
近年になって、アイガモ農法などでアイガモが野飼いされるようになり、それに伴ってアイガモとも本種とも見分けのつかない個体が出現するようになった。そういった兆候を捉えて、アイガモやアヒルと野生の本種の間で遺伝子汚染がかなり進んでいるといった懸念をする研究者もいる。
感染症媒介
日本脳炎やロシア春夏脳炎は原因のウイルスをカやダニが媒介することが知られているが、長距離伝搬は保毒した渡り鳥が行うのではないのかと疑われ、マガモなど幾つかの種が研究された事例がある[28]。マガモはウイルス接種によりウイルス血症および脳炎を発症し、比較的感受性が高い。ウイルス感染により死亡した場合、死亡後数日間は中枢神経にウイルスが残存していることなどがわかっている[29]。
農業被害
草食性が強いタイプのカモ類は農業害鳥として知られるものが多い。マガモも食性としてはこのタイプであるが日本においては農繁期となる春夏の時期にはいないこと、主要な加害作物である麦類の生産が近年の日本では低調なこともあって、留鳥のカルガモやヒドリガモの被害の方がよく知られる。
イネ科穀物の害鳥としては有名な鳥で、日本では麦は晩秋から翌年初夏にかけて栽培するが、特に冬季の幼苗の葉と根を食われる。凹地で水がたまった部分の被害が大きい[30]。近年被害が増えており注目されているのはハスの地下茎、いわゆるレンコンである。茨城県における観察ではオオバン(Fulica atra、クイナ科)とマガモの2種が主要な加害者であり、レンコンが水面から30㎝程度にある場合は掘り起こして食べてしまうという[31]。加害されたレンコンは変色や腐敗が発生し商品価値を失う。どちらの種が加害したのかは傷を見てある程度判別できる[32]。
農林水産省のデータによれば令和5年度のカモ類による農業被害額は、3億8千万円となっている。これは鳥類の中ではカラス類に次ぐ第2位であり、3位はヒヨドリが続く。この顔ぶれは近年はほぼ変わらない[33]。カモ類による被害は麦類と稲および野菜の被害の多さが特徴で、特に麦はカモ類に特徴的である。カラス、ヒヨドリ、ムクドリは果樹の被害が多いがカモ類では少ない。[34]
種の保全状況評価
国際自然保護連合(IUCN)により、軽度懸念(LC)の指定を受けている[1]。
2025年現在マガモを絶滅危惧種等に指定する都道府県はない[35]。
象徴
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名称
標準和名は「マガモ」とされ、『日本鳥類目録』(1974)[36]、『世界鳥類和名辞典』(1986)[37]などではこの名前で掲載されている。由来は「真の鴨」という意味で食味の良さと大きさを代表した命名と見られる。比較的古い名前で、江戸時代の『大和本草』には「緑頸(ルビは"アヲクヒ"となっている)」と呼ばれる鴨の別名として「マガモ」が書かれており、少なくともこの頃には使われていた[16]。現在この関係は逆転しているものの、「アヲクヒ」は後述のように有力な地方名となっている。
漢字表記は「甲の鳥」で「鴨」の字が一般的だが、江戸時代の文献などでは「鳬」の方が一般的で「鴨」は殆ど見ない。
地方名は系統としてはそれほど多くない。本種で特徴的なのは「アオクビ」「アヲクビ」「アオ」「アホクヒ」などの「アオクビ」系の名前で東北から九州まで全国的に知られる[38]。これは特徴的な冬羽の雄の頸部の色に因む命名で、逆に雌を呼んだと見られるものは知られていない。形態的な命名では大きさに由来する「オホカモ」という名前も幾つか知られるが、「アオクビ」系に比べるとだいぶ少ない。「ホンガモ」「ホンチョウ」「マカ」「マトリ」などの標準和名に近い「真の、本当の」という名前も幾つか知られる。単に「カモ」、分布地からか「タガモ」「セガモ」などの名前もみられる。このレベルになるとマガモだけを指すとは限らず、カルガモを指す名前としても使われる地域もある[38]。
北半球には広く分布する種で、各地で様々な名前を持つ。英語名は「mallard」、フランス語名は「malard」、ドイツ語名は「stockente」、ロシア語名は「кряква」、中国語名「緑頭鴨」。「アオクビ」のように雄しか指さない場合が世界的にもしばしば見られる。中国語名はもちろん、英仏のmallard系も元々は雄の方だけを指していたとされる。
種小名 platyhynchosは「広い嘴」という意味がある。属名の Anasはラテン語でカモ類を指す単語である[39]。
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出典
参考文献
関連項目
外部リンク
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