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中国海警局
中華人民共和国の海上法執行機関 ウィキペディアから
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中国海警局(ちゅうごくかいけいきょく、英語: China Coast Guard)は、中華人民共和国を代表する海上法執行機関(沿岸警備隊)である[1]。
もともと、2013年の決定に基づいて、国家海洋局が法執行任務を行う場合の対外的な名義として使われるようになったのち[2][3]、2018年の再編成により、一括して武装警察部隊に編入された[4]。同年7月1日以降は、武装警察部隊である海警総隊が「中国海警局」の名義で法執行任務を実施するようになっており[1]、武装警察部隊の他の部隊と同様に党中央と中央軍事委員会の集中統一指導を受ける[5][6]。
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前史 (「五龍」の時代)
中華人民共和国の海上保安機関としては、従来、それぞれ専門的な所掌をもつ複数の機関が併存していた。下記の5つの海上保安機関について、それぞれの職域が錯綜している様を比喩して、米海軍大学校 (NAVWARCOL) は五龍(英: Five Dragons)との総称を提唱していた[7][8]。
これは中国国内でも問題視されており、例えば2007年には、中国公安海警学院の何忠竜(He Zhonglong)教授が『中国海警局の編制に関する研究』を発表し、一元化された海上法執行の方針と能力の必要性を主張した。2012年11月の中国共産党第十八回全国代表大会において、胡錦濤党総書記は中国が海洋強国になることを目指すと宣言し、これらの組織的欠陥を是正するための取り組みが開始された[3]。
2013年3月、第12期全国人民代表大会第1回会議において「国務院機構改革および職能転変方案」が承認されたのを皮切りに、上記の「五龍」のうち、海監・海警・漁政・海関の4機関の法執行要員・船艇と職責を取り込むかたちで国家海洋局が改編され、中国海警局の名のもとに、海上における権益保全のための法執行が一元化されることになった。同年7月9日には「国家海洋局主要職責内設機構及び人員編制規定」(三定方案)が示されて、同局の職責、組織および人員編制規定が明らかになった[2]。
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国家海洋局時代
要約
視点
2013年7月22日、国家海洋局の庁舎に掲げられていた「中国海監総隊」の看板が外されて、新たに「中国海警局」の看板が掲げられた。また同日を境に、船艇の外観標識も「中国海警(CHINA COAST GUARD)」で統一された[2]。
2013年3月の全人代での発表では、公安部の「運用指揮」のもとで、国家海洋局が海洋権益と法執行に責任を持つことが規定され[3]、国土資源部が組織管理、公安部が業務遂行の主導権を握る体制となった。この結果、国家海洋局と中国海警局は実体としては同一組織であるにもかかわらず、例えば国家海洋局局長は前局長が留任しつつ中国海警局の政治委員を兼任し、公安部副部長が中国海警局局長となりつつ国家海洋局の副局長を兼任するなど、幹部人事が交錯する複雑な体制となった[1]。
2014年12月12日には「国家海洋局工作規則」が制定され、国家海洋局と中国海警局の職責分担が明確化された。国家海洋局の主要職責は「海洋総合管理の強化、海洋発展計画の立案、海上における権益保全のための法執行の展開、海域及び島嶼使用の監督、海洋環境保護の実施等」としたうえで、国家海洋局と中国海警局の職責分担について「国家海洋局の海上における権益保全のための法執行業務は、局党指導のもと、中国海警局の名義をもって展開し、具体的には中国海警局長が指揮し、重大な問題は局党組織に報告の上決定する」とされた[9]。
船艇の外観標識が統一されたあとも、実施部隊の組織としては従来のものが存続しており、海警局としての統一化は順次に進められていった。従来の海監海区総隊の各支隊と漁政海区総隊を統合して海警局の海区分局が、また海警支隊と海関海上密輸取締処を統合して沿海省・自治区・直轄市の海警総隊が編成されていった[2]。
従来、要員の採用・試験および訓練は各機関がそれぞれ行ってきたが、再編後は、これらの機能は中国海警局として統合して行われるようになった。中国海警局で新しく幹部になる唯一の方法は人民武装警察の任命を受けることであり、2015年新卒より、幹部候補生としての採用が開始された[9]。採用された新入幹部は、学歴に基づく等級・階級で人民武装警察の任命を受ける[3]。しかし各機関には独自の文化・船艇・訓練技術および武器使用ドクトリンがあり、これらを統一することは困難だった[3]。
また上記のように組織系統が統一化されていったとはいっても、それぞれの海区分局では、依然として海警現役部隊と旧海監海区総隊とは別々の部隊として組織されていた[9]。既存の要員が有する経験は出身機関ごとに著しく異なっており、例えば辺防海警は12海里の領海の哨戒を主任務としていたために、東シナ海や南シナ海の海上係争海域を哨戒した経験はほとんどなかった[3]。
組織
海警総部
- 海警司令部、中国海警指揮センター(国家海洋局海警司)
- 海警政治部(国家海洋局人事司)
- 海警後勤装備部(国家海洋局財務装備司)
部隊編制
以上、定員1万6,296人
主要職責
- 領海線の管護(管理と保護)。領海警備を指す。
- 海上密輸、密航、麻薬売買などの海上犯罪活動の取締り。
- 国家海上安全と治安秩序の維持擁護。(自国の領海、接続水域、排他的経済水域、大陸棚、および公海における「中国旗国船舶の安全と治安の維持擁護」と推察される。海上交通安全業務については交通運輸部海事局が、海上捜索救助、海上消防業務については、交通運輸部救助打撈局が担当のため、それらは中国海警局の国家海上安全・治安業務には含まれないものと推察される。)
- 海上重要目標物の安全警備。(自国の排他的経済水域、大陸棚、公海における「自国海上重要目標物の安全警備」と推察される。海上重要目標物とは、国連海洋法条約第56条の「人工島、施設及び構築物」と推察される。海上重要目標物周辺の海上交通安全業務は交通運輸部海事局が、捜索救助、消防活動については、交通運輸部救助打撈局が担当のため、それらは中国海警局の海上重要目標物安全警備業務には含まれないものと推察される。)
- 海上突発事件への対処。(「対海上テロ・海賊対策・自然災害や人為災害対策」など)
- エンジン付漁船によるトロール網漁の禁漁区境界線(中国では領海線外側に近接して設置されている。)の外側と特定漁業資源漁場(領海外に設置される漁場)における「漁業法」等の法執行管理。漁業資源管理のための監視・検査活動、漁業紛争の調査・処理。
- 「海域使用管理法」、「海域使用権管理規定」等の法執行管理。海域使用管理のための監視、検査活動。
- 「海島保護法」等の法執行管理。重要島嶼保護、無人島利用管理のための監視、検査活動。
- 「海洋環境保護法」等の法執行管理。海洋生態環境保護のための監視、検査活動。
- 「鉱産資源法」等の法執行管理。海洋鉱物資源の探査、開発の適法性についての監視、検査活動。
- 「渉外海洋科学研究管理規定」等の法執行管理。海洋調査測量、外国船舶による海洋科学研究活動の適法性についての監視、検査活動。
- 「海底電纜管敷設管理/保護規定」等の法執行管理。海底ケーブル敷設の適法性についての監視、検査活動。
1から2は旧辺防海警部隊の職責であった。港湾内の密輸取締りは海上緝私警察の職責であった。3の内、領海内についてのみ旧辺防海警部隊の職責であった。新しい中国海警局では、海上の安全と治安のための活動水域が領海外まで拡張されているものと推察される。6は旧漁政の、7から12は旧海監の職責であった。中国海警局はそれらの職責を継承したこととなる。
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武警系列時代
要約
視点
上記のように、「国家海洋局が法執行任務を行う場合の名義としての中国海警局」という状態は、組織管理の複雑さや権限の曖昧さなど、多くの弊害があった[1]。そしてまた、習近平党総書記は、安定性と抑制を犠牲にして、中国の海洋権益主張を擁護する能力の構築と行使を優先してきたこともあって、海洋石油981を巡る事案の際に(中国海警局のなかでも)辺防海警が主導的な役割を果たしたように[注 1]、対外的な海洋権益確保の際には、文民組織よりは、軍人による法執行機関のほうが有利であると考えられるようになっていった[4]。
2018年3月に開催された中国共産党第19期中央委員会第3回全体会議において「党と国家機構の改革深化方案」が採択されて、武装警察部隊の再編制が行われることになった[11]。そしてその一環として、中国海警局は、国務院組織の管理下から離れて武警系列に組み込まれることになった。同年6月22日には、第13期全人代常務委員会第3回会議において「中国海警局の海上法執行権限行使に関する決定」が採択されて、武警系列下での中国海警局の任務や職責の概要が提示された[12]。またこれと前後して、武警部隊が中央軍事委員会の一元的指揮下に置かれることも決定された[1]。
なおこの改革に伴って、国家海洋局そのものも発展的に解体され、国土資源部や国家測量地理情報局などと統合されて自然資源部が設置され、「国家海洋局」の名義はこちらが引き継ぐことになった[1]。
2021年1月22日、「中国の管轄下にある」海域において特定状況下で外国船舶に対する海警局の火力使用を認めた「中国海警法」が成立、2月1日から施行された[13][14]。日本国防衛省は、この法律について「曖昧な適用海域や武器使用権限等、国際法との整合性の観点から問題がある規定を含んでいる。」と指摘している[14]。
組織
機関
- 参謀部
- 政治業務部
- 執行部
- 保障部
- 規律検査委員会
部隊
※括弧内は対外呼称です。また各支隊の正式な名称は「中国人民武装警察部隊海警総隊○○支隊」です。
- 中国人民武装警察部隊海警総隊東海海区指揮部(中国海警局東海分局)
- 江蘇支隊(江蘇海警局)
- 上海支隊(上海海警局)
- 浙江支隊(浙江海警局)
- 福建支隊(福建海警局)
- 第一支隊(直属第一局)、上海
- 第二支隊(直属第二局)、寧波
- 第一航空大隊
- 中国人民武装警察部隊海警総隊南海海区指揮部(中国海警局南海分局)
- 広東支隊(広東海警局)
- 広西支隊(広西海警局)
- 海南支隊(海南海警局)
- 第三支隊(直属第三局)、広州
- 第四支隊(直属第四局)、文昌
- 第五支隊(直属第五局)、三亜
- 第二航空大隊
- 中国人民武装警察部隊海警総隊北海海区指揮部(中国海警局北海分局)
- 遼寧支隊(遼寧海警局)
- 天津支隊(天津海警局)
- 河北支隊(河北海警局)
- 山東支隊(山東海警局)
- 第六支隊(直属第六局)、青島
- 第三航空大隊
病院
- 中国人民武装警察部隊海警総隊病院
役職
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中国海警局船艇
要約
視点
舷番号の付与規則
- 海区海警船艇番号編成:四桁(例:海警3411)
- 上一桁目:海区を示す[10]。
- 1 - 北海分局(遼寧、河北、天津、山東)
- 2 - 東海分局(江蘇、上海、浙江、福建)
- 3 - 南海分局(広東、広西、海南)
- 上二桁目:トン数を示す[10]。
- 9 - 10,000トン級
- 4 - 4,000トン級
- 3 - 3,000トン級
- 2 - 2,000トン級
- 1 - 1,000トン級
- 0 - 1,000トン以下
- 下二桁:旧所属組織での船艇の通し番号を示す。新造船は01が多い[10]。
- 地方海警部隊船艇番号編成:五桁(例:海警37102)
- 上二桁:所属省を示す[10]。
12は天津、13は河北、21は遼寧、31は上海、32は江蘇、33は浙江、35は福建、37は山東、44は広東、45は広西、46は海南。 - 上三桁目:トン数を示す。500トン以下は0、500トン以上は1と表示される。原則1,000トンまでの模様だが、旧中国軍フリゲートで満載排水量2,250トンの海警31239のような例もある[10]。
- 下二桁:所属先の船艇の通し番号を示す。01から始まる。
運用船艇および船型一覧
下記の船艇の一覧は、アメリカ海軍情報局の公開資料[15]とSaunders 2015, pp. 167–170の情報に基づく。
執法船
海洋調査船
集計(2016年7月末現在)
- ヘリ搭載哨戒船
- 12,000トン級、2隻
- 5,000トン級、4隻
- 3,000トン級、26隻
- 2,000トン級、4隻
- ヘリ運用哨戒船(ヘリ発着甲板のみ)
- 5,000トン級、1隻
- 4,000トン級、4隻
- 1,500トン級、11隻
- 沖合哨戒船(上記を除く満載排水量1,500t以上)
- 4,000トン級、3隻
- 3,000トン級、4隻
- 2,000トン級、2隻
- 1,500トン級、18隻
- 沖合哨戒艇(満載排水量500t以上1,500t未満)
- 1,000トン級、35隻
- 600トン級、49隻
- 500トン級、11隻
- 沿岸哨戒艇(満載排水量250t以上500t未満)
- 300トン級、53隻
- 哨戒ボート(満載排水量250t未満)
- 200トン級、26隻
- 180トン級、29隻
- 160トン級、1隻
- 130トン級、59隻
- 35メートル級、3隻
- 30メートル級、12隻
- 26メートル級、4隻
- 20メートル級、62隻
- 海洋調査船
- 4,000トン級、3隻
- 2,000トン級、1隻
- 1,000トン級、5隻
- 600トン級、5隻
- 300トン級、1隻
- 航洋曳船
- 500トン級、2隻
"Military Balance 2016"では、哨戒艦艇について満載排水量の大小で区分し、1,500t以上を沖合哨戒艦(PSO)、1,500t以上のヘリ用ハンガー付きの艦をヘリコプター搭載沖合哨戒艦(PSOH)、500t以上1,500t未満を沖合哨戒艇(PCO)、250t以上500t未満を沿岸哨戒艇(PCC)、250t未満を哨戒ボート(PB/PBH)としている。PBHは35ノット以上の速力を持つ高速哨戒ボートを意味する。それに倣い区分し集計すると以下となった。
- 1,500t以上のヘリコプター搭載哨戒船(PSOH)、計36隻
- 1,500t以上の沖合哨戒船(PSO)、計43隻
- 500t以上1,500t未満の沖合哨戒艇(PCO)、計95隻
- 250t以上500t未満の沿岸哨戒艇(PCC)、計53隻
- 250t未満の哨戒ボート(PB/PBH)、計196隻
- 海洋調査船(AGOR)、計15隻
- 航洋曳船(ATF/ATA)、計2隻
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尖閣諸島における諸問題
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「日本固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らか」[16]な尖閣諸島において、2008年12月、当時の国家海洋局所属の船2隻が領海侵犯を行った[17]。 平成24年9月以降の接続水域入域及び領海侵入の日毎データは海上保安庁[17]、それを受けての海上保安庁の対応については産経デジタル[18]それぞれのHPで公開されている。
脚注
参考文献
関連項目
外部リンク
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