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宇宙機のドッキングおよび係留

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宇宙機のドッキングおよび係留
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宇宙機のドッキングおよび係留うちゅうきのドッキングおよびけいりゅうは、概して2機の宇宙機の結合のことを意味する。この結合とは一時的なものから、宇宙ステーションの区画の結合のように恒久的なものまである。

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ISSにドッキングするため慣性飛行して接近するプログレス補給船
カナダ製のロボットアームで係留されようとするドラゴン補給船

ドッキングとは、特に慣性飛行している2機の宇宙機の結合を意味する[1][2][3][4]。これに対し係留 (berthing) は、自ら動くことのない区画または機体を、ロボットアームを使用してもう1機の宇宙機の結合部に配置させる操作のことである[1][3][4]。一方で切り離す場合においては、ロボットアームによる作業は現在のところ手作業で困難が伴うものであるため、緊急時に乗員を迅速に退避させるような状況には適さないとされている[5]

ドッキングの状態

ドッキングおよび係留の結合状態には、「ソフト (暫定的)」なものと「ハード (確定的)」なものがある。一般的にドッキングの操作は、宇宙機が自らのドッキング装置を目標の機体のものと接触させ、留め金をかける「暫定的ドッキング」から開始される。暫定的接続状態が確保され双方の宇宙機が与圧されると、「確定的ドッキング」の段階に進むことができる。ドッキング装置が双方の気密を確保し「確定的」な状態になれば、内部ハッチを安全に開けて搭乗員や貨物が移動できるようになる。

有人宇宙船のドッキング

要約
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雌雄型

ドッキングおよび係留の機構は、機構のどの部分を使って結合するかによって、無性型と有性型に分かれる。初期の宇宙機の結合装置は、すべて有性型のものだった。有性型とは、結合する双方の機体がそれぞれ独特の形状 (『雄』型と『雌』型) を持ち、ドッキングの過程において特定の役割を果たすという設計のもので[2]、その役割は交代することはできない。さらに雄と雄、雌と雌など、同じ形のものは結合できない。

対照的に無性型のドッキング (また後には無性型の係留) では、双方の機体が同型の接合部を持つ。無性型の結合では接合部は単一の形状しかなく、それぞれは自身の複製と結合することになる。これによりすべての2機の宇宙機の間で救出作業や共同作業ができるようになるのはもちろんのこと、機構的な段階における冗長性 (役割の互換性) を持つことが可能になる。また柔軟な飛行計画を立てたり、特殊な飛行をする際の分析や訓練の手間を省くことが可能になる[2]

機構および系統のリスト

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接続器

ドッキングあるいは係留接続器は、ある形式のドッキングまたは係留のための接続部を、異なる形式の接続部と連結させることを容易にするための機械的または電気機械的装置である。この接続部は理論的には「ドッキング – ドッキング型」「ドッキング – 係留型」「係留 – 係留型」の3種類があり得るが、今日までに宇宙空間で配置されたのは最初の2種類のみである。これまでに打ち上げられたものあるいは今後打ち上げられる予定の接続器は、以下のとおりである:

  • ASTPドッキング区画:アメリカの探針誘導式装置 (アポロドッキング機構) をAPAS-75に結合させるもの。1975年のアポロ・ソユーズテスト飛行で製造された。
  • 与圧結合接続器 (Pressurized Mating Adapter, PMA):現行の共通結合機構をAPAS-95に結合させるもの。ISSには3機が接続されており、PMA-1およびPMA-2は1998年にスペースシャトルSTS-88で、PMA-3は2000年STS-92で打ち上げられた。
  • 国際ドッキング接続器 (International Docking Adapter, IDA)[22]:APAS-95をNASAドッキング機構に結合させるもの。ISSのハーモニー区画に設置された2カ所のPMAに、それぞれ1機のIDAが配置される予定である[23]。IDA-1はスペースX社のCRS-7で発射されハーモニーの前部PMAに取りつけられる予定だったが、発射は失敗に終わった[22][24]。IDA-2は同社のCRS-9で打ち上げられ、ハーモニーの上部PMAに接続される予定である[22][24]。この接続器は、ISSの国際共同委員会の試みで定められたドッキングのための基準である、国際ドッキング機構標準に適合するものになる[25]
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無人宇宙機のドッキング

要約
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2009年ハッブル宇宙望遠鏡に取りつけられた暫定的把持機構 (Soft-Capture Mechanism, SCM)。SCMにより、NASAドッキング機構を搭載する有人・無人機双方がハッブルとドッキングすることを可能になった。

宇宙飛行の歴史における最初の50年間において、ドッキングおよび係留の飛行計画の主な目的のほとんどは飛行士の移送、宇宙ステーションの建設および補給、そしてそれらの飛行のための試験であった (例:コスモス186号と188号のドッキング)。従って、一般的にその飛行計画に参加している宇宙機の少なくとも1機は「有人」であり、目標とされる機体は (たとえば宇宙ステーションや月着陸船のように) 与圧された居住可能空間を持っていた。例外は (たとえば無人のサリュート7号にドッキングしたコスモス1443号やプログレス23号、あるいは無人の宇宙ステーションミールにドッキングしたプログレスM1-5のような) ソ連の少数の完全無人飛行計画のみであった。他にはハッブル宇宙望遠鏡の5回にわたる補修計画において、有人のスペースシャトルがハッブルを係留した飛行などが例外として挙げられる。

しかしながら2015年以降、経費削減を重視する多くの無人商業衛星によるドッキング計画が始まることにより、この状況は大きく変わることになる。2011年初頭には商業軌道輸送サービスを行う2つの企業が、他の無人宇宙機に自動または遠隔操作で補給を行う、新型無人宇宙補給機を開発する計画を発表した。特筆すべきなのは、それらの補給機はどちらも、ドッキングあるいは宇宙空間で補給されることを前提で設計されたものではない衛星と結合することを目標にしているということである。

これらのビジネスモデルの運用は、初期段階では原則的に対地同期軌道に近い軌道を周回することになるが、大きなデルタV軌道変更をするような飛行も見込まれている[26]

2007年のオービタル・エキスプレス (Orbital Express) 計画では、2機の無人衛星とドッキングすることが要求される新型商業衛星補給飛行について、すでに2社が公表している。オービタル・エキスプレスはアメリカ政府により進められている計画で、軌道上で燃料を補給したり部分系統を補充するよう根本から設計されている2機の衛星を使用し、宇宙空間で衛星の補給作業を行うことを試験するものである。

  • 宇宙インフラサービス (Space Infrastructure Servicing, SIS) はカナダの航空宇宙企業マクドナルド社 (MacDonald, Dettwiler and Associates) によって開発された宇宙機で、対地同期軌道にある通信衛星のための小規模な宇宙燃料貯蔵庫として運用される。インテルサット社は最初の実証衛星の共同出資者であり、その衛星を目標にすることが契約の必要条件となっている。発射は2015年ごろを目標としている[27][28]
  • 飛行延長機 (Mission Extension Vehicle, MEV)[29]は、航空宇宙企業のUSスペース社とアライアント・テックシステムズ社が50対50の出資をしている合弁企業であるヴィヴィサット (ViviSat) 社によって開発された宇宙機で、宇宙空間における小規模な衛星再補給機として機能する[26]。MEVはドッキングはするが燃料の移し替えは行わず、それよりも目標の衛星に姿勢制御の能力を与えるため、自身の姿勢制御システムを使用する予定である[26]

SISとMEVはそれぞれ異なるドッキング技術を用いることになる。SISがアポジキックモーターの周囲にリング状のアタッチメントを付ける[30]一方で、MEV機はいくらか一般的な、キックモーターのノズルの中に探針を挿入する方式を用いる[26]

無人ドッキングのための装置を取りつけられた宇宙機で最も有名なものは、ハッブル宇宙望遠鏡である。2009年のシャトルSTS-125の飛行では、望遠鏡の本体後部に暫定的把持機構 (Soft-Capture Mechanism, SCM) が設置された。SCMは寿命を迎えたハッブルが軌道を離脱する際、無人の宇宙機と与圧なしのドッキングをするときに使用されることになっている。またSCMはオリオンとドッキングする可能性に備えるため、NASAドッキング機構の接続部と互換性を持つように設計されている[31]。 SCMはランデブーや把持の機構の複雑さを、ハッブルをシャトルで把持し補修した5回にわたる飛行で使用されたものと比較し、大幅に減少させることになる[要出典]。NDSはAPAS-95の機構と若干の類似性を帯びてはいるが、互換性は持っていない[32]

非協力的ドッキング

要約
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「非協力的」とは、一般的な意味における「協力的ではない」ということではなく、ある宇宙機がそれ自体による能動的な機体の制御を受けておらず、また他の宇宙機に捕獲されることに自ら積極的に協力する状態にないということを意味する。操作可能な姿勢制御装置を持たない宇宙機 (または宇宙を飛行する他の人工の物体) とのドッキングは、目的がその物体を回収するためであったり、あるいは制御された大気圏再突入を始めるためであるにしても、時として実行する価値を持つものである。非協力的な宇宙機とのドッキングの技術理論については、これまでにいくつかの提案が出されている[33]。しかしながら機能停止に陥った宇宙ステーション、サリュート7号を補修したソユーズT-13の飛行という唯一の例外を除き、宇宙飛行のこれまでの50年の歴史においてすべての宇宙機のドッキングは、2006年現在に至るまで関連する双方の宇宙機がどちらも操縦され、自動もしくは遠隔操作で制御されているという状況の中で達成されてきた[33]。だが2007年に行われたある試験飛行では、制御された宇宙機のロボットアームを使用し、非協力的な衛星を把持するという初の実験が行われた[34]。非協力的衛星を自律的に捕獲する付加的な飛行計画を維持するための研究および具体化の作業は、今後数年間続けられる[35][36]

宇宙ステーションサリュート7号回収計画

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1978年発行のソ連の郵便切手に描かれるウラジーミル・ジャニベコフ船長 (左) とオレグ・マカロフ飛行士 (右)

作家のデヴィッド・ポートリー (David S. F. Portree) は、史上10番目の宇宙ステーションであるサリュート7号ソユーズT-13のドッキングを「宇宙空間での修理の歴史において最も印象的な偉業のひとつ」として描いている[9]太陽電池と遠隔装置が故障したことにより、サリュートは管制センターに異常が発生したことを報告できないまま自動飛行を続けていた。1985年2月、通常電池の残量が尽きると、突如としてステーションからの通信がとだえた。これによりその後の飛行士のスケジュールが大きく支障をきたしたため、ロシアの軍人ウラジーミル・ジャニベコフ [37]工学航空機関士ヴィクトル・サヴィヌイフ [38]に応急修理に向かうことが命じられた。

ソ連時代を含むロシアのすべての宇宙ステーションは、自動のランデブーおよびドッキングシステムを採用している。これはIGLAを搭載していたサリュート1号から、クルスを搭載する現在のISSのロシア区画に至るまで継続している。T-13の飛行士らは、サリュート7号がランデブーに必要なレーダー電波や、遠隔測定のための情報を一切発信していないことを確認した。さらに接近して回転するサリュートを外部から観察した結果、携帯式のレーザー距離測定器を使用して接近することを決断した。

ジャニベコフは、サリュートの前部ドッキング装置に目標を定めた。機体を操作しサリュートの回転にソユーズを同期させ、暫定的なドッキングに成功する。その後確定的ドッキング状態を確保すると、彼らはステーションの電気系統がすべて停止していることを確認した。ハッチを開けるのに先立ち、ジャニベコフとサヴィヌイフが船内の空気をサンプリングすると、何も異常は確認されなかった。両名は毛皮の裏地のついた防寒着に身を包んで酷寒のサリュートに侵入し、修理を開始した。1週間以内にシステムは動作を回復し、無人の補給船がドッキングできるまでになった。ただし船内の空気が正常に戻るまでには、さらに2ヶ月近くかかった[9]

非協力的宇宙飛行体への無人ドッキング

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オービタル・エキスプレス:アストロ (ASTRO, 左) とネクストサット (NEXTSat, 右)。2007年

非協力的ランデブーと捕獲の技術はすでに理論化されており、オービタル・エキスプレス (Orbital Express) 衛星の実験では、軌道上で無人の宇宙機とドッキングすることに成功している[34]

この問題を解決するための代表的な方法には、2つの段階がある。第1段階では、目標とする宇宙機との相対速度がゼロになるまで、追跡するほうの宇宙機において姿勢制御と軌道変更が行われる。第2段階では、通常の協力的な宇宙機との間で行われるのと同じドッキング操作が開始される。この場合、双方の宇宙機が規格化されたドッキング装置を装備していることが前提となっている [39]

NASAはすでに、自動・自律ランデブーとドッキングとは何であるかということを定義している。それによれば、「人間によるコントロールから独立し、また他のバックアップもなく飛行している2機の宇宙機をランデブーおよびドッキングさせる能力」のことで、センサー、ソフトウェア、リアルタイムの軌道追跡や機体の制御などの技術的な進歩が、その他の課題の中でも特に要求されるものである。またそれは「軌道上での燃料の貯蔵や補給のような能力の最終的な到達目標」であり、飛行に必要な部品を組み立てたりする惑星間飛行のような複雑な任務を遂行する上でも必要不可欠な技術である[40]

自動・自律ランデブーおよびドッキング機 (The Automated/Autonomous Rendezvous & Docking Vehicle, ARDV) は、NASAが一般公募した宇宙開発研究課題センテニアル・チャレンジのひとつであり、早くも2014年か2015年には飛行する。この計画におけるNASAの重要な目標のひとつは、自動ランデブーおよびドッキングの技術を発達させ、それを実証することである。2010年の検討では、接近作業用レーザーセンサーの開発が計画の重要課題のひとつとして定められた。このセンサーは、非協力的機体に対して1キロメートルから1メートルまでの距離で使用される。また非協力的衛星に対するドッキング機構の開発も、そのような自律的飛行を成功させるためのきわめて重要な要素であるとされている[40]

非協力的宇宙飛行体の捕獲およびそれとの連結は、2010年に発表されたNASAの「遠隔操作ロボットおよび自律的システムに関するロードマップ」においても、最重要技術課題として定義されている [41]

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脚注

関連項目

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