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96式装輪装甲車等の後継車両に関する防衛省の事業
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96式装輪装甲車等の後継車両に関する防衛省の事業(きゅうろくしきそうりんそうこうしゃとうのこうけいしゃりょうにかんするぼうえいしょうのじぎょう)では、2000年代〜2020年代の期間に防衛省によって行われた、陸上自衛隊が運用する96式装輪装甲車等の装輪戦闘車両の後継に関する研究開発および選定事業について記述する。
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概要
要約
視点

陸上自衛隊が装備する96式装輪装甲車や87式偵察警戒車、82式指揮通信車といった装輪戦闘車両は、平成20年代(2008〜2017)に損耗を迎える時期となっていた。2000年代はじめ、防衛庁はこれを見据え、後継装備の開発にあたって必要な研究として研究事業「将来装輪戦闘車両」を行い、汎用装輪車両によるファミリー化の構想を検討した。それまでの装輪戦闘車両は、輸送や偵察など個々の用途に応じて開発されてきたため、他の用途の車両には転用しにくいという欠点があった。そのためファミリー化による基盤技術や車体構造の共有は、運用効率の向上とライフサイクルコストの抑制が期待できる。この事業に端を発して複数の研究開発事業が行われ、従来の装輪戦闘車両の用途だけでなく、一部の装軌車両の用途まで含めた戦闘車両を汎用装輪戦闘車両でファミリー化し、コストの低減、運用の効率化及び研究開発の効率化が目指された[1]。
装輪戦闘車両の後継の結果としては、機動戦闘車の開発および導入や装輪装甲車(改)の開発の失敗など複数の要因により、基盤の1本化には至らなかった。しかし一連のファミリー化の研究成果を生かし、複数ではあるがファミリーの導入を実現し、また従来は装軌車両のみが担っていた領域への装輪車両の進出も実現した。ファミリー化について「将来装輪戦闘車両」の研究構想図を参考にすると後継装備の対応は以下のようになる。

装備品の効率的かつ効果的な取得、運用をめざす防衛省の「統合取得改革推進プロジェクトチーム」の2008年(平成20年)の資料においては、「将来装輪戦闘車両」での検討結果を用いて、装輪車両のファミリー化構想について駆動装置を共通としたハッチタイプベース車体とキャビンタイプベース車体が示された[2]。ハッチタイプは装甲兵員輸送車の車体構造を基軸とした型、キャビンタイプは後部が平板状のトラック型である。榴弾砲搭載車もファミリー車両として検討されたが、結果としてはハッチタイプと駆動装置を共有するキャビンタイプの車両は開発されず、ドイツのMAN社製の車体を用いた19式装輪自走155mmりゅう弾砲が別個に研究開発され、採用された。キャビンタイプの車両としては、重装輪回収車の車体を基本とするファミリー化が実現しており、例として10tトラック(PLS付)や12式地対艦誘導弾の発射機、03式中距離地対空誘導弾システムを構成する各車両などがある。
なお、2010年(平成22年)度から2014年(平成26年)度にかけて行われた研究開発事業「軽量戦闘車両システム」については、インホイールモーターやハイブリッド駆動方式といった装輪戦闘車両の能力向上に関する要素技術の研究であり、「将来装輪戦闘車両」に端を発する一連のファミリー化構想への直接的な関係は明示されていない。
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テレスコープ弾機関砲の研究
テレスコープ弾機関砲の研究(テレスコープだんきかんほうのけんきゅう)は、防衛庁技術研究本部が行ったテレスコープ弾並びに外部駆動型機関砲に関する研究開発事業である。研究試作は1994年(平成6年)度から2001年(平成13年)度にかけて、試験は1996年(平成8年)から2002年(平成14年)度にかけて実施され、経費総額は約22億円であった[3]。
テレスコープ弾(Cased Telescoped Ammunition) は、従来型の弾薬とは構造が異なり、弾丸が薬莢内に埋め込まれた構造を有することから、従来型の弾薬と比較して2/3程度の体積にすることが可能なためコンパクト化が図れる。これにより装填・抽筒に要する時間を短縮でき、高発射速度化及び収納効率の向上を図ることが期待できる。当時、陸海空各自衛隊において装備されていた機関砲は、全て海外からの導入又はライセンス国産により取得されたものであり、機関砲関連の技術研究開発は行われてこなかった。このような背景から、諸外国において新型の弾薬であるテレスコープ弾およびそれに対応した機関砲と信管の研究開発が進められていることを受け、日本国内の防衛技術基盤に機関砲関連技術の新規育成を図り、諸外国との技術格差を縮小するためにもこの事業は行われた[3]。
主要研究項目
- 弾薬のテレスコープ化及び外部駆動方式による機関砲の高発射速度化
- 機関砲砲身の浸食機構の解明方法の考案とその解析および対策
- 砲口測合(遠隔測合)[注 1]式の小型高性能時限信管機能の開発
この事業で目標の弾丸初速(約1100m/s)、発射速度(300発/分以上)および最大腔圧を満たした外部駆動方式の50mm口径テレスコープ弾機関砲の研究試作に成功し、高発射速度による連発射撃を実現した。そのほかにも研究成果として、クロムメッキ処理による耐エロージョン性能向上の効果が確認された。また砲口測合コイルを用いて電源機能、測合機能及び時限機能に関するデータを取得し、信管の砲口測合技術を実現した[3]。
この研究開発事業の終了に際し、研究成果を活かして将来的にテレスコープ弾機関砲の車載化を目指すことが示された[3]。
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将来装輪戦闘車両
要約
視点
将来装輪戦闘車両(しょうらいそうりんせんとうしゃりょう)は、防衛庁技術研究本部が行った将来の装輪式装甲戦闘車両のファミリー化に必要な共通基盤技術に関する研究開発事業である。研究試作は2003年(平成15年)度から2007年(平成19年)度にかけて、試験は2005年(平成17年)から2007年(平成19年)度にかけて実施された。当初は「将来装輪戦闘車両(対空)」として対空戦闘車両を中心とした研究を検討し、2008年(平成20年)度までの研究を予定する事業計画が構想されていた。しかし、対空戦闘車両については今後の装備構想の検討状況を勘案しつつ考慮することが適切であると判断されたため[1]、事業名を「将来装輪戦闘車両」に変更して研究が行われ、2007年(平成19年)度に研究は完了した。経費総額は約41億円であった[4]。
概要
装輪車両は、長距離路上機動等の戦略機動性に優れており、比較的簡単な構造のため取得・維持経費も安価である一方で、従来は偵察警戒や人員輸送といった個々の用途に応じて開発されてきたため、他の用途の車両には転用しにくかった。また装軌車両と比較して一般的に路外機動力が低く、重量や耐射撃反動性の制約から比較的威力の小さい火器しか搭載できなかった。しかし関連技術の進展により、装輪戦闘車両において装軌車両に匹敵する路外機動性能と車載火力の大幅向上の実現可能性が高まった。これを踏まえ、この事業では多様な任務に適用できる汎用装輪車両でファミリー化するために必要な共通基盤技術の研究、技術資料を得るための試作および試験、試験データを基にした研究が行われた[4]。そのため、当時の保有車両の直接的な後継車両の開発を目指す事業ではない。
主要研究項目
- 各種目標に有効に対処できる火器を小型軽量化して装輪車両に車載化する砲・弾薬技術
- 車載火器の射撃や路外機動による車体動揺を抑制して車載火器の射撃精度や路外機動性能を向上させる振動抑制技術
- 砲・弾薬技術と振動抑制技術を連接させて研究することによるシステム構成技術の確立、将来の装輪戦闘車両のファミリー化に資する取得・維持経費等のコストの大幅な低減を図るための技術資料の獲得
- システム研究開発自体の効率化に関するソフトの開発と、複数の試作品の実製造が困難な将来の装輪戦闘車両について、モデリング&シミュレーション (M&S)を活用した性能とコストの比較検討
試作された機関砲や大口径発射装置、制振車体を用いて試験し得た射撃性能や車体動揺特性などのデータを用いてM&Sが行われた。その結果、将来的にファミリーとして検討すべき装輪戦闘車両の車種について示された。これらは、共通化された懸架装置や電気装置などの構成品によるハッチタイプベース車両とキャビンタイプベース車両の2種の車体構造、共通化された機関砲などの火砲や砲塔などの要素をもとに、11車種に落とし込まれた[5]。試作されたテレスコープ弾機関砲は、「テレスコープ弾機関砲の研究」で開発した50mmテレスコープ弾機関砲を口径40mmに小型軽量化したものであり、車載性に優れ高発射速度で遠隔測合が可能な砲及び弾薬を実現した。この事業の研究成果は、「近接戦闘車用機関砲システムの研究」において活用された[4]。
- 試作品の概要
- 試作品の試験の様子
- M&Sによるファミリー化検討の範囲(〇は共通化を図るもの)[5]
近接戦闘車用機関砲システムの研究
要約
視点

近接戦闘車用機関砲システムの研究(きんせつせんとうしゃようきかんほうシステムのけんきゅう)は、防衛省技術研究本部が行った将来の車載テレスコープ弾機関砲の給弾システムおよび弾薬等に関する研究開発事業である。研究試作は2006年(平成18年)度から2009年(平成21年)度にかけて、試験は2008年(平成20年)年度から2009年(平成21年)年度にかけて実施され、総経費は約38億円であった[6]。
防衛庁(当時)は、陸上自衛隊が装備する87式偵察警戒車(装輪)および89式装甲戦闘車(装軌)の後継として普通科部隊および偵察部隊へ装備することを想定した、多様な事態に対応することが可能な装輪車両である近接戦闘車を構想していた。運用構想図では偵察型と人員輸送型の2車種の検討が示された。これらは「将来装輪戦闘車両」において「対地機関砲搭載車」として検討されている。その用途から比較的近距離での戦闘が想定されるため、搭載される機関砲については、コンパクトかつ徹甲弾や調整破片弾[注 2]が発射可能で、目標に適した火力の発揮のための迅速な弾種切替が可能な給弾システムであることが求められた[7]。
そこでこの事業では、「将来装輪戦闘車両」で得られたテレスコープ弾機関砲の車載化や遠隔測合などの技術的成果を活かしながら、テレスコープ弾の機関砲と徹甲弾および調整破片弾を研究し試作と試験が行われた。これにより、迅速な弾種切換が可能であるとともに高い発射速度の機関砲と目標とする侵徹威力を持つ徹甲弾、調整破片弾の弾頭威力、調整破片弾の有効な効果領域形成のための弾頭の起爆タイミングについての技術を実現した。また偵察型に搭載するセンサ部を試作し、振動抑制に有効な画像処理技術を実現した[6]。
これら調整破片弾などの研究成果は、将来の装備品における機関砲システムの研究開発に反映することが示された[6]。
- 近接戦闘車用機関砲システムのイメージ図
- 偵察型センサ部に対する加振試験の様子
その後の研究開発事業

防衛省は2011年(平成23年)度に研究開発事業「高射機関砲システム構成要素の研究」を計画し、総経費約17億円で平成24年度概算要求を実施したが、要求は通らず事業の実現に至らなかった。この事業は無人機、精密誘導弾、巡航ミサイル等の各種経空脅威を迎撃可能な対空機関砲システムの構成要素として、調整破片弾の弾子、 時限信管及び着発信管の最適化等に資する研究が構想されていた[8]。運用構想図には装輪式の対空機関砲搭載車両も示された。

その後、防衛省技術研究本部により研究事業「火砲システムの動的威力の研究」が行われた。研究・試作は2013年(平成25年)度から2017年(平成29年)度にかけて、試験は2017年(平成29年)度に行われた[9]。この事業は、「高射機関砲システム構成要素の研究」で構想された目的および研究内容と相似した弾薬に関する研究である。各種経空目標を撃破するための調整破片弾を実現するために、弾頭の弾子数、質量、配置等をパラメータとした動的威力に関する最適設計および目標の種類と調整破片弾の口径・構造の組み合わせに基づいた火砲システムの検討が行われた。この研究においても「将来装輪戦闘車両」の火砲に関する研究成果が研究開発費の効率化のため活用された[9]。
「火砲システムの動的威力の研究」の研究成果については、研究事業「将来レールガン」において活用されることが示された[10]。
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機動戦闘車
要約
視点

機動戦闘車(きどうせんとうしゃ、英名:Mobile Combat Vehicle、略称:MCV)は、防衛省技術研究本部が行った装輪戦闘車両に関する研究開発事業である。研究試作は2008年(平成20年)度から2013年(平成25年)度にかけて、試験は2010年(平成22年)年度から2015年(平成27年)年度にかけて実施され、総経費は約314億円であった[11][12]。
前史

自衛隊は、日本における安全保障政策の基本的指針である「防衛計画の大綱」およびそれを基準とした「中期防衛力整備計画」によって防衛力が整備される。その大綱の中には、戦車や火砲の目標保有数を示す定数が記載される。2000年代のはじめ、冷戦の終結による高強度紛争の生起確率の低下や能登半島沖不審船事件などの北朝鮮工作員関連事案を通じたゲリラコマンドの脅威への認識拡大に伴い、戦車や火砲のような重装備の重要性が低下し、防衛力の整備において質的にはハイテク化・近代化、規模は小型化することが指向された。戦車定数が縮小するこのような情勢に対し、育成に長い年月のかかる戦車乗員の蓄積された技能が散失することや元来戦車は機甲戦だけでなくゲリラコマンドへの対応でも有用であることを意識した陸上自衛隊富士学校の機甲科部を中心として、「機甲科のDNAを残す」ために戦車の代替となるものが模索された。このような背景から、「機動戦闘車 (MCV)」が構想された[13]。
機動戦闘車の構想で検討された要素
- C-2(当時開発中)での空輸による戦略機動性と装輪式の採用による都市部での戦術機動性
- 手動装填式105mm戦車砲を採用し、多様な弾種による近接戦闘能力の確保と退役が進む74式戦車の砲弾との互換性による低廉性の確保、装填手人員の維持
- フロントエンジンを採用し、後部スペースへの普通科1個分隊程度の乗車
機動戦闘車は一般に戦闘車両の分類としては「装輪戦車」に該当するが、戦車と同一視され定数内に数えられることの回避や防衛予算削減の要請から、政治家や財務省、防衛省内局やマスコミに戦車ではないと認められる必要があった。そのため後部に普通科隊員を乗車させることを検討し、戦車との差別化を図った[13]。当時は10式戦車の開発時期であったため、機動戦闘車の構想はすぐには関係各所に受け入れられず、開発事業の予算化に繋がらなかった。しかし、機動戦闘車を推進する機甲科幹部が退職後に就職した三菱重工業において独自に検討が進められた。その後より詳細が定まった構想について、三菱重工業は約5年間にわたり陸上自衛隊研究本部や陸上幕僚監部、技術研究本部や方面総監部などの関係者へ説明活動を行った[13]。これにより、2008年(平成20年)度より開発が正式に始まった[11]。なお、2007年(平成19年)度の概算要求では機動戦闘車の開発事業計画が策定されたものの、要求が通らず予算落ちしている[14]。
通常、防衛力の整備において、重要な装備の開発は中期防衛力整備計画に記載されるが、以上のような経緯から機動戦闘車は記載されず開発に至っている。
概要

防衛省技術研究本部において2008年(平成20年)度より開始された研究開発事業「機動戦闘車」では、島嶼部に対する侵略事態やゲリラ・特殊部隊による攻撃などの多様な事態に対処する車両として機動戦闘車は構想された[11]。74式戦車や89式装甲戦闘車といった従来の装軌車両は、被空輸性の欠落や路上機動性の不足など戦闘地域への迅速な展開が困難である。また87式偵察警戒車や軽装甲機動車といった従来の装輪装甲車両は、軽戦車などの敵装甲戦闘車両[注 4]などを撃破するための火力が不足し、普通科部隊の火力支援が困難である。機動戦闘車はこれらの課題を克服する新たな戦闘車両として求められた[11][16]。国産の必要性については、諸外国において同様の戦闘車両を開発および装備しているが、いずれも要求性能(小型、保有弾薬の適合性、拡張性など)を満たすものがなかった。また前年に事業終了し、装輪戦闘車両のファミリー化において従来の装軌車両の用途も一部担うことを目標に掲げた「将来装輪戦闘車両」の研究成果を活用することを考慮すると諸外国からの導入は非効率であることから、国産開発が決定された[11]。機動戦闘車の位置づけの車両は「将来装輪戦闘車両」において「対戦車砲搭載車」として検討されている。
機動戦闘車の開発では、同時期に技術研究本部と三菱重工業により開発が行われていた10式戦車の技術・成果も活用された。装軌車両よりも軽く、軟体のタイヤで接地している装輪車両における105mm戦車砲の採用は、射撃反動が大きく命中精度に影響を及ぼす。この課題に対応するため機動戦闘車の射撃統制装置や反動抑制機構に10式戦車の技術が応用された[13]。また、機動戦闘車に求められる軽量小型でハイパワーのエンジンについても同様に応用し開発されている。なお実際に車体を試作する過程でエンジン配置について、フロントエンジン方式とリアーエンジン方式が検証された。結果としてフロントエンジン方式となったが車内配置の検討の末、当初構想されていた後部スペースへの普通科1個分隊程度の乗車という要素は実現しなかった[13]。
試作車両は合計で4両、実用試験車両は1両が製造された。2013年(平成25年)10月9日に防衛省技術研究本部陸上装備研究所(神奈川県相模原市)において、試作車(『機動戦闘車(その4) 機動戦闘車1号車』)が初めて報道陣向けに公開された[17]。また2016年(平成28年)1月10日に習志野演習場で行われた「平成28年第1空挺団降下初め」の装備品展示において試作車(『機動戦闘車(その4) 機動戦闘車4号車』)が初めて一般公開された。
2016年(平成28年)1月22日、防衛装備庁は「平成28年度『16式機動戦闘車』の契約希望者募集要領」を公表し、名称が「16式機動戦闘車」となったことが明らかにされた[18]。
→性能や運用については「16式機動戦闘車」を参照
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装輪装甲車(改)
要約
視点

装輪装甲車(改)(そうりんそうこうしゃ かい)は、防衛省防衛装備庁が行った96式装輪装甲車の後継車両に関する研究開発事業である。
研究試作は2014年(平成26年)度から2016年(平成28年)度にかけて、試験は2016年(平成28年)度から2018年(平成30年)度にかけて実施する計画であったが、2018年(平成30年)7月をもって開発が中止された。事業中止決定後に防衛省と主契約企業である小松製作所は試作研究請負契約を合意解除し、試作経費約20億円については契約金額全額が小松製作所より国庫に返納された[20]。
概要
陸上自衛隊が配備している96式装輪装甲車は、自衛隊が初めて本格採用した装輪装甲兵員輸送車であるが、国際平和協力活動 (PKO)や島嶼部侵攻対処等に伴う各種脅威からの安全確保・積載性・拡張性等に限界があった。そのため防御力向上には、車筐の大型化・機関出力の向上・懸架能力の向上等が必須であることから、96式装輪装甲車の損耗更新時期に合わせ、この研究開発事業は行われた[21]。2012年(平成24年)度に、防衛省技術研究本部は小松製作所および三菱重工業と、装輪装甲車(改)の開発および実施可能性についての調査の契約を行った。これにより、小松製作所は3種の計画案、三菱重工業は2種の計画案を提示し、その後の入札の結果として防衛省は小松製作所との主契約に至った[22][23]。
なお、海外からストライカー装甲車などの類似装備の購入について防衛省は「第18回防衛省政策評価に関する有識者会議」で、「各種脅威からの防護力等の要求性能に関して、総合的な観点から比較検討した結果、本事業の優位性が認められた」としている。これに対して有識者会議委員からは、その具体性や国産開発の妥当性について様々な質疑が行われた[24]。
国際平和協力活動や有事など任務に応じて、車体全周への付加装甲・ケージ装甲やRWSを装備することやIED対策として車両底部にはV字の付加装甲の取り付けが可能とされた。車体後部には切り欠きがあり、CM-32やボクサー装輪装甲車のように後部ユニットの載せ替えが可能なモジュール方式が採用された。これにより1種類の車体を基に、標準型(人員輸送ユニット)・通信支援型(通信ユニット)・施設支援型(施設ユニット)と多様な拡張性が確保される[25]。全備質量は20t以下とされた。また、開発に際しては既存装備やCOTSで、開発期間とコストの削減を行うとされた。
- 共通車体部(計画時)[25]
- 人員輸送ユニット(計画時)
- 通信ユニット(計画時)
- 施設ユニット(計画時)
2017年(平成29年)1月に試作車が納入され、その後各種試験が行われた。しかし同年12月26日、開発メーカーである小松製作所と防衛省は、試作車の防弾板等に不具合があるとして、開発完了時期を2021年(平成33(令和3)年)以降に延期することを発表した[26][27]。
2018年(平成30年)7月27日に、防衛省は開発事業の中止を発表した[28]。2019年(平成31年)4月26日に、その後の防衛省の対応として、96式装輪装甲車の後継車両(次期装輪装甲車)について複数の試験用車種を選定し、試験の上でその中から選定することが示された[29]。
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共通戦術装輪車
要約
視点
共通戦術装輪車(きょうつうせんじゅつそうりんしゃ)は、防衛省陸上幕僚監部が行った16式機動戦闘車等と連携して作戦行動することを目的とした装輪戦闘車両ファミリーに関する装備開発事業である[30]。防衛装備庁による技術研究・技術開発を伴わない、既存技術・装備を用いた陸上自衛隊自身による研究という枠組みで、陸上自衛隊富士学校などが関与しながら行われた[31]。構想されたファミリー車両は、歩兵戦闘型 (ICV)、偵察戦闘型 (RCV)、機動迫撃砲型 (MMCV)の3車種である。2014年(平成26年)度に構想され、2024年(令和6年)度に開発が完了した。総経費は約44億円であった。
概要
共通戦術装輪車は16式機動戦闘車等と連携して、敵の制圧・撃破や敵情の解明を行う車両として陸上幕僚監部防衛部防衛課開発室(当時)による主導で開発された[32]。2015年(平成27年)度装備開発(改善)要求書の発出を皮切りに、複数のベース車両を比較検討するために2018年(平成30年)1月に三菱重工業と「共通戦術装輪車システム設計A」[33]、2018年(平成30年)2月に小松製作所と「共通戦術装輪車システム設計B」[34]の契約が結ばれた。三菱案は16式機動戦闘車をベース車両とするもので、島嶼部等の展開先での整備性を考慮し、協働する同車との部品や整備機材が極力共通化を図られた[35]。小松案は「装輪装甲車(改)」をベース車両とする一方で、積載性に優れることからユニット方式から一体型構造車箱になった[36]。しかし「装輪装甲車(改)」の開発中止を受け、試作車両の契約は三菱重工業のみ行われた[37]。その後は各種試験が実施され、偵察戦闘型については衛星通信アンテナの変更により1年開発が延長したが、2024年(令和6年)度予算から「24式装輪装甲戦闘車」と「24式機動120mm迫撃砲」が、2025年(令和7年)度予算から「25式偵察警戒車」が調達を開始された[注 5][40][41]。
- 24式装輪装甲戦闘車
- 開発時の名称は「共通戦術装輪車(歩兵戦闘型)」。Mk.44 ブッシュマスター II 30mm機関砲とMk.52 7.62mmチェーンガンを備えた砲塔を車体上部に搭載し、車体後部に人員8名が乗車できる。砲塔バスケットを省略し車内容積を確保するために無人砲塔を採用しているが、砲塔上面には乗員が出入りできるハッチが存在する。開発時は「歩兵」という単語が用いられたが、89式装甲戦闘車と同様に陸上自衛隊では歩兵のことを普通科と呼ぶため、「装輪装甲戦闘車」という名称となった。車長、砲手、操縦手の3名によって運用される。
- 25式偵察警戒車
- 開発時の名称は「共通戦術装輪車(偵察戦闘型)」。歩兵戦闘型と同じ30mm機関砲と7.62mmチェーンガンを搭載する一方で、歩兵戦闘型と異なり偵察時の視界確保のため有人砲塔が採用されている。車体後部にはカメラを搭載した伸縮式の監視装置や衛星通信アンテナを装備している。車長、砲手、操縦手、監視員、斥候員の5名によって運用される。87式偵察警戒車の後継に位置付けられた。
- 24式機動120mm迫撃砲
- 開発時の名称は「共通戦術装輪車(機動迫撃砲型)」。車体後部に観音開き式のハッチとフランスの2R2M半自動120mm重迫撃砲(アメリカ海兵隊のドラゴンファイア迫撃砲の原型)を搭載している。2R2Mは陸上自衛隊でも運用している120mm迫撃砲RTが原型となっているが、半自動装填装置とコンピュータ制御式の射撃管制装置を備えており、従来の迫撃砲と比べて早い連射速度や高精度の射撃を可能とする高度なシステムとなっている。車長、操縦手、照準手、砲手、弾薬手の5名によって運用される。
調達
共通戦術装輪車は、96式装輪装甲車の後継として陸上自衛隊が調達する次期装輪装甲車(パトリアAMV)と並行して調達される。
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次期装輪装甲車
要約
視点
次期装輪装甲車(じきそうりんそうこうしゃ)は、防衛省防衛装備庁が行った96式装輪装甲車の後継車両の選定事業である。2019年(平成31年/令和元年)度に試験用車種の選定が行われ、2019年(平成31年/令和元年)度から2021年(令和3年)度にかけて試験用車両の試作および調達、2021年(令和3年)度から2022年(令和4年)度にかけて試験が行われた。総経費は約73億円であった[注 6][12]。
2019年(令和元年)9月10日に、防衛省は防衛装備庁が96式装輪装甲車の後継車両としていた「装輪装甲車(改)」の開発中止を受け、代替となる後継車両(次期装輪装甲車)の候補の選定を行ったことを発表した[29]。次期装輪装甲車の要件は「陸上自衛隊が取得を検討している装輪装甲車両であり、共通に使用される車体部分を有した人員輸送型車両、指揮通信型車両、患者輸送型車両、兵站支援型車両及び施設支援型車両」であると示された[42]。企業からの提案を受け試験用車種に選定されたのは、機動装甲車(英語:Mobile Armored Vehicle、略称:MAV)、AMV (Armored Modular Vehicle)、LAV6.0 (Light Armoured Vehicle)の3案であったが、後にLAV6.0は納期までに納入されなかったため除外された。そのため選定は機動装甲車とAMVで行われた[43][44]。
- 機動装甲車

- 三菱重工業製の国産試作車両である。防衛装備庁による事業「次期装輪装甲車(耐爆技術)の研究試作」として製造された車両である。16式機動戦闘車をベースとした8輪車両であり、部品や整備機材が極力共通化され、三菱重工業が自主開発したMAV (Mitsubishi Armored Vehicle)や「装輪装甲車(改)」での検討案などが活かされている。機関には4サイクル水冷ディーゼルエンジンが採用された。選択性能として車体にボルト止めして付ける増加装甲やネット装甲、耐衝撃座席などが存在する[42]。車体底部にも地雷・IEDなどの対策として増加装甲を付けることが可能であり、耐爆性能の知見を得るために関連試験が行われた。増加装甲等を除いた全備質量は23t以下である。車長、銃手、操縦手の3名によって運用され、車体後方の人員輸送部には8名の収容が可能である。2両の試験車両が調達された[42]。
- Patria AMVxp 8×8
- フィンランドのパトリア社製の既存車両であり、NTKインターナショナルによる提案になる。多様な派生型の実績が存在し、次期装輪装甲車の定義で求められた多用途性を確保できている。パトリアAMVのライセンス生産および運用の先例であるポーランドやアラブ首長国連邦などでは、独自の仕様変更について大きな裁量が与えられている。車長、銃手、操縦手の3名によって運用され、車体後方の人員輸送部には8〜12名の収容が可能である。2両の試験車両が調達された[45][46]。
2022年(令和4年)12月9日に、防衛省はAMVの採用を決定を発表した。2候補の比較の結果、後方支援・生産基盤の評価に関しては概ね同等であるが、基本性能や経費面でAMVがより優れると評価された。取得方法は国内防衛生産・技術基盤への裨益に鑑み、日本製鋼所によるライセンス生産であり、装輪装甲車の生産経験がない同社をパトリア社が技術供与や人員交流で協力する形である[43][47]。国内生産の初期は輸入部品によるノックダウン生産であり、順次部品の国内生産を進めていく[48]。
→性能や運用については「パトリアAMV」を参照
選定終了後の機動装甲車は廃棄・解体された[49]。
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脚注
注釈
参考文献
関連項目
外部リンク
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