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ABC殺人事件

アガサ・クリスティの小説 ウィキペディアから

ABC殺人事件
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ABC殺人事件』(エービーシーさつじんじけん、原題:The ABC Murders)は、1936年に発表されたアガサ・クリスティの長編推理小説である。クリスティ18作目の長編で、エルキュール・ポアロシリーズの長編第11作にあたる。ミッシング・リンクをテーマとしたミステリ作品の中で最高峰と評される作品で[1]、知名度・評価ともに高い著者の代表作の一つである(後述、#作品の評価を参照)。

概要 ABC殺人事件 The ABC Murders, 著者 ...

日本語初訳は『ABC殺人事件』(日本公論社刊、伴大矩訳、1935年[2])。

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あらすじ

要約
視点

ロンドンに新しくアパートを構えたポアロの元に、「6月21日、アンドーヴァーを警戒せよ」と文末に「ABC」と署名された挑戦状が届いた。そして挑戦状の通り、Aで始まるアンドーヴァー(Andover)の町で、イニシャルがAのタバコ屋の老女アリス・アッシャー(Alice Ascher)の死体が発見され、傍らには『ABC鉄道案内[注 1]が添えられていた。

警察は当初、彼女が夫と不仲であったため、夫を疑う。間もなくABC氏からポアロの元に第2・第3の犯行を予告する手紙が届き、Bで始まるベクスヒルBexhill)でイニシャルがBの女性、「C」で始まるチャーストン(Churston)でイニシャルがCの富豪が殺害され、やはり死体のそばには『ABC鉄道案内』が置かれていた。犯人は、地名とイニシャルが一致する人物をアルファベット順に選び殺害していると推測されたが、被害者達それぞれに動機がある者はいても、被害者たちにABC以外の関連性はなく、犯人の正体と動機はわからない。

やがてセントレジャー競馬が行われる日に犯行を予告する手紙が届く。ポアロらは第4の殺人を防止すべく、競馬の開催地ドンカスターDoncaster)へ向かうが、町の映画館で殺害されたのはイニシャルがDの人物ではなくEの理髪師の男であった。ポアロも警察も首をひねるが、近くにイニシャルがDの男性が座っていたため犯人に間違えられたものと思われた。

アルファベット順に選んだ対象を無作為に殺害していく愉快犯の仕業と警察が捜査方針を固める中、てんかん持ちのアレクサンダー・ボナパート・カスト(Alexander Bonaparte Cust, A. B. Cust)は新聞報道を読んで自分が犯人なのではないかと思い悩み自首してくる。彼の家からは『ABC鉄道案内』が多数発見され、事件は解決したかと思われた。だが、ポアロは真犯人が別にいると推理する。彼はいかに理性を失したように見える人間の犯行であっても、そこには犯人なりの論理性や理由があるはずであり、何の理由もないのにアルファベット順に人を殺害していくというのは殺害動機としてあり得ないと考えていた。

ポアロは一連の事件の被害者を調べ上げ、一連の犯行予告や連続殺人事件は警察を攪乱するためのもので、真犯人は明確な目的をもって殺害した一件の殺人を、明確な殺害理由のない連続殺人事件の中に紛れ込ませようとしていたことを見抜く。

ポアロの推理どおり、A・B・C・Dの一連の殺人事件のすべてはイニシャル「C」ことカーマイケル・クラーク卿の弟であるフランクリン・クラークの犯行であった。兄のカーマイケルを殺害し、その妻であるシャーロットは存命とはいえ病気で余命いくばくもない状態であることから、財産を独り占めしようと画策しての犯行だった。「C」の人物以外の殺害はあくまでも「C」に到達するためだけのものであり、またイニシャル「D」まで殺害したのは「C」がラストではあまりにも露骨に映ることを避けるためであった[注 2]

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登場人物

エルキュール・ポアロ
私立探偵。
アーサー・ヘイスティングズ
ポアロの協力者。
アリス・アッシャー
Alice Ascher
1人目の犠牲者。
アンドーヴァーで小さな商店を切盛りしていた老女。
フランツ・アッシャー
Franz Ascher
アリスの夫。
大酒飲みで、たびたび妻のアリスに金をせびっていた。ドイツ系で、第一次大戦中は差別と偏見に苦しんでいたらしい。
メアリ・ドローワー
Mary Drower
アリスの姪。
アンドーヴァー近郊のある屋敷でメイドとして働いている。
エリザベス(ベティ)・バーナード
Elizabeth (Betty) Barnard
2人目の犠牲者。
ファーストネームはエリザベス(Elizabeth)だが、周囲からはベティ(Betty)と呼ばれていた。
ベクスヒルのとあるカフェでウェイトレスとして働いていた。異性関係が少々だらしなく、彼女の父親に言わせると「いまどきの娘」らしい。
ドナルド・フレーザー
Donald Fraser
ベティの婚約者。
不動産関係の仕事をしている。激しやすく、ベティの異性関係でたびたび彼女と言い争いをしていた。
ミーガン・バーナード
Megan Barnard
ベティの姉。
ロンドンでタイピストとして働いている。ドナルドとの喧嘩についてベティから相談を受けていた。
カーマイケル・クラーク卿
Sir Carmichael Clarke
3人目の犠牲者。
かつて医師として成功した富豪。
引退後は保養地の近くのチャーストンにある屋敷に住み、趣味の骨董品収拾に熱中していた。
フランクリン・クラーク
Franklin Clarke
カーマイケル卿の弟。
兄の右腕として世界中を飛び回って骨董品を買い集めている。
シャーロット・クラーク
Charlotte Clarke
カーマイケル卿の妻。
末期ガンを患っており、先が長くない。夫のカーマイケルと秘書のグレイの関係を疑っている。
ソーラ・グレイ
Thora Grey
カーマイケル卿の秘書。
彼女は事件当日に怪しい人物を見かけていないと証言しているが、当日玄関先の階段で見知らぬ男と話している姿をシャーロットに目撃されている。
ジョージ・アールスフィールド
George Earlsfield
4人目の犠牲者なのだが、姓名ともにイニシャル「D」ではない理髪師の男性。
ロジャー・ダウンズ
Roger Downes
ドンカスターでの殺人の第一発見者であり、被害者の近くに座っていた教師。
姓のイニシャルが「D」なので、警察は背格好の似ていた彼とアールスフィールドが間違えられたのだと考える。
アレグザンダー・ボナパート・カスト
Alexander Bonaparte Cust
ストッキングのセールスマン。
自身の名前が2人の偉大な英雄(アレクサンダー大王ナポレオン・ボナパルト)に由来することに対してコンプレックスを感じている。
原作での途中の数章はヘイスティングズ大尉ではなく彼の視点から描かれている。第一次大戦に従軍したことがあり、復員後はその後遺症に悩まされている。
真犯人の策略によって、一連の事件の犯人であるという濡れ衣を着せられる。
最終的にポアロから警察への助言もあり、無罪として釈放される。
ジェームス・ジャップ
ロンドン警視庁首席警部。
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作品の評価

日本語訳版

  • 本作の出版は、イギリスでは1936年1月だが、アメリカでは簡略版が1935年11月に『COSMOPOLITAN』に掲載されている[7]。そのため、ハヤカワ文庫(ハヤカワ・ミステリ文庫、クリスティー文庫)ではイギリスでの出版による著作権の発生年を元に1936年の発表、創元推理文庫ではアメリカでの簡略版の発表を元に発表年を1935年としている。なお、前述の伴大矩による日本語初訳はアメリカで発表された簡略版の翻訳のため、発行年は1935年となっている。
  • 1952年10月『別冊宝石』23号「世界探偵小説全集1 アガサ・クリスティ篇」 に「ABC殺人事件」(伴大矩=訳)、「スタイルズ事件」(宇野利泰、桂英二=訳)、「そして誰れもいなくなつた」(清水俊二=訳)を収録。他に江戸川乱歩の序文「アガサ・クリスティ」、表紙・目次は水田力。
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一般書
脚注(一般書)
  1. 著者名は「アガサ・クリスチィ」表記、アクロイド殺害事件大久保康雄訳同時収録)。
  2. 著者名は「クリスチー」表記、「アクロイド殺害事件」(原百代=訳)、「ポアロ捜査ノート(『西洋の星』の事件、マースドン荘の悲劇、エジプト墓地の冒険、首相誘拐事件)」(堀内英子=訳)同時収録。
  3. 現在、グーテンベルク21が電子書籍化している。
  4. 伊藤整等=編、著者名は「クリスティ」表記、他にアンブラー「あるスパイの墓碑銘」(田村隆一=訳)、ジェームズ・M・ケイン郵便配達は二度ベルをならす」(中田耕治=訳)、同「スープのなかの蠅」(中村真一郎=訳)同時収録。
  5. 数藤康雄=編、従来講談社文庫で発行されていたものの合本。「スタイルズ荘の怪事件」、「ゴルフ場殺人事件」、「アクロイド殺害事件」、「青列車の謎」、「オリエント急行殺人事件」、「ABC殺人事件」(アクロイドのみ原百代、それ以外は久万嘉寿恵の翻訳)を収録。
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児童書
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コミック
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翻案作品

要約
視点

映画

TV作品

ラジオドラマ

2008年BBC Radio 7で放送されている。

漫画

  • 『ABC殺人事件 名探偵・英玖保嘉門の推理手帖』(星野泰視、『ビッグコミックオリジナル』2014年24号から2016年10号まで連載、単行本全4巻)
    舞台を昭和11年(1936年、原作出版当時)の日本に移し、英玖保嘉門(=ポアロ)以下、登場人物のほとんどを日本人にしている。また、"ABC殺人事件"に先立つ事件として、最初の3話に『厩舎街の殺人』を原作としたエピソードを置いている。
    • 登場人物 ※右は原作で該当する人物
      • 英玖保嘉門(えいくぼかもん):エルキュール・ポアロ
      • 朝倉平助(あさくらへいすけ):アーサー・ヘイスティングス
      • 日之元(ひのもと)警部:ジェイムズ・ジャップ警部
      • 芦屋安(あしややす):アリス・アッシャー
      • 芦屋留三(あしやとめぞう):フランツ・アッシャー
      • 土浦まり子(つちうらまりこ):メアリ・ドローワー
      • 板東美代(ばんどうみよ):ベティ・バーナード
      • 鳴戸降三(なるとこうぞう):ドナルド・フレイザー
      • 板東たま(ばんどうたま):ミーガン・バーナード
      • 千代田千寿郎(ちよだせんじゅろう):カーマイケル・クラーク卿
      • 千代田祐司郎(ちよだゆうじろう):フランクリン・クラーク
      • ソーラ・グレコワ:ソーラ・グレイ
      • 有野穣二(ありのじょうじ):ジョージ・アールスフィールド
      • 阿部力(あべちから):アレキサンダー・ボナパルト・カスト
      • 黒武(くろたけ)警部補:クローム警部
      • 阿部定(あべさだ):(実在人物)
      • 石田吉蔵(いしだきちぞう):(実在人物)
      ※『南京街の殺人』
      • バーバラ・アレン:バーバラ・アレン
      • ミス・ブレンダーリース:ジェ―ン・プレンダーリース
      • ユースタス:ユースタス少佐
      • 西喜一郎(にしきいちろう):レイヴァートン・ウエスト
      • 加藤(かとう)警部:ジェイムスン警部
      • 馬老大人(マー・ラオターレン)
    • 星野泰視、アガサ・クリスティー(原作)『ABC殺人事件』、小学館ビッグコミックス)、全4巻
      1. 2015年9月30日発売 ISBN 978-4-09-187289-0
      2. 2015年10月30日発売 ISBN 978-4-09-187386-6
      3. 2016年4月28日発売 ISBN 978-4-09-187677-5
      4. 2016年5月30日発売 ISBN 978-4-09-187695-9

ゲーム

2009年12月12日、カナダのゲーム会社DreamCatcher Interactive英語版より、ニンテンドーDS向けアドベンチャーゲームAgatha Christie: The ABC Murders英語版』が発売された(日本では未発売)。プレイヤーはヘイスティングズ大尉を操作し、犯罪現場を調査し、被疑者への聞き込みを行って事件を解決する。原作をよく知っているユーザーのために、原作とは異なる犯人でプレイできるオプションも用意されており、ゲームを通して異なる手掛かりや証言が得られる[10]。このゲームは平凡なレビューを受けたが、原作の素材を忠実に再現したことは評価された[10][11]

2016年フランスのゲーム会社Microïds英語版より『Agatha Christie: The ABC Murders』が発売された(2009年発売の同名作品とは別)。プレイヤーはエルキュール・ポアロとなり、人物観察、尋問、考察を進め、事件を解決に導く。日本語字幕に対応したものとして、クロスファンクションより『アガサ・クリスティ - ABC殺人事件英語版』のタイトルでPlayStation 4版が2017年4月28日[12]、Microïdsより『アガサ・クリスティ作 『ABC殺人事件』』のタイトルでNintendo Switch版が2020年12月17日に発売されている。

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脚注

関連項目

外部リンク

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