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バラ科ナシ属の植物およびその果実 ウィキペディアから
セイヨウナシ(西洋梨、 学名:Pyrus communis)は、ヨーロッパ原産のバラ科ナシ属の植物およびその果実であり、洋なし(pear)ともいう。ヨーロッパ、北アメリカ、オーストラリアのほか、日本国内を含めて世界各地で広く食用に栽培されている。
形状は、和なしがほぼ球形であるのに対して、洋なしはやや縦に長く、いびつで独特な形(びん型)をしている。品種によっては、和なしほどではないが比較的球形に近いもの、逆に、縦に長いものなどがある。果皮は赤や黄色、緑など様々だが、日本において栽培されている品種の多くは緑色で、追熟(後述)させると黄色になる。また、果皮には「さび」と呼ばれる、傷のような褐色の斑が多数ある。
熟した果実の味は酒のように芳醇(ほうじゅん)で甘く、食感はまろやかであり、和なし独特のしゃりしゃりとした食感はなく、香りと甘みに優れている[3]。ただし、収穫直後は硬く、甘みは少ない。追熟させるために、一定期間置くと熟し、果皮は黄色になり、果肉も軟らかくなって強い芳香を発するようになる。また、追熟によって生じるエチレンの作用により果実に含まれるデンプンが分解されて果糖、ブドウ糖などの糖となるとともに、ペクチンのゲル化により、甘みと滑らかさが増加し、おいしく食べることができる。なお、冷蔵庫などで10℃程度に冷却することにより、追熟を遅延することができる。
日本では、バートレットなどの早生種は8月下旬から9月初めに収穫され、9月中には食べ頃となるが、ラ・フランスなど多くの品種は10月から11月初めにかけて収穫され、食べ頃となるのは11月 - 12月である。
セイヨウナシの原産地は、小アジアから南東ヨーロッパにかけての地域である[3]。和なしと同じく古い起源は中国だが、西(ヨーロッパ)に移動して分化したものが洋なしである[注 1]。古くは古代ギリシアから栽培されていた。共和政ローマの政治家大カトは6種類の栽培品種について記述しており、帝政期には歴史家大プリニウスの調査によれば40種類の栽培品種が存在したと言われている。当時の洋なしは生のまま、あるいは火を通して食べるか、品種によっては酢や酒に加工された。洋なしはローマ人の手によってヨーロッパ各地に普及し、栽培品種の数は60種に及んだ。ローマ帝国が滅亡し、中世ヨーロッパに残った品種は6種類となったが、徐々に盛り返し、16世紀には500種近い栽培種が作られた。現代では商業的に強力な品種を組織的に流通させるため、栽培品種は10種程度に絞られており、他の種は忘れ去られてゆく傾向にある[4]。
日本では明治時代初めに導入されたが、日本の気候があまり適していないために山形県などごく一部の地方にのみ定着し、現在では東北地方や信越地方などの寒冷地域で栽培されている。外見がデコボコしているため、本格的に食用にされるようになったのは昭和後期[5]。産地以外で生食でも食べられるようになったのは近年のことで、1970年代、80年代頃までは主に加工用として生産されていた。
品種数は非常に多く、ヘドリック著『The Pears of New York』(1921年)では2900品種が紹介されている。現在では4000品種ほど存在するとみられるが、日本で栽培されているものは、稀少なものも含め20品種程度である。
世界の総生産数の約半数がヨーロッパで生産されている。イタリアは世界一の生産国で、年平均で125万トンを生産している。2位はフランスの40万トンである[4] 。
前述の通り、日本の風土の多くは洋なしの生産に不向きであるため、収穫量第1位の山形県だけで6割、以下に続く長野県、青森県、新潟県、岩手県、福島県を合わせた上位6県で収穫量の9割以上を占める。
(出典:農林水産省統計情報、2005年<平成17年>)
(出典:農林水産省統計情報、2019年<令和元年>)
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西洋なしは品種にもよるが、実の表面に傷がなく、重みがありふっくらしたもの、甘い香りと全体に黄色くなって熟したものが、美味しく食べられる良品といわれている[10]。品種によっては形が歪なものもあるが、味については果実の形に影響されない[10]。主にリンゴと同様に切って生食され、缶詰のシロップ漬けなどにも加工される[10]。西洋なしは病害に弱く、その多くは栽培にある程度の農薬が使用されることから、果皮には残留農薬の懸念があるため、生食するときは皮をナイフでむいて食べることが勧められている[10]。収穫したての実の堅いものは、室温に置いて追熟することで美味しく食べられるようになる[10]。また冷蔵庫などの冷暗所に保存して置くことで、追熟を遅らせることができる[10]。
また、西洋なしの実を蒸留酒につけて果実酒(リキュール)をつくると、香りのよいものができあがる[3]。
成分・栄養価は和なしとほとんど同じである。和なしの成分を参照。 西洋なしの甘みの元はソルビトールという糖アルコールの一種で、一般的な砂糖と比べて血糖値の上昇が穏やかなのが特徴である[10]。また、ソルビトールには咳止めや解熱効果のほか、整腸作用としての効果が期待されている[10]。カリウムも多く含み、体内の余分な塩分を排出する作用があり、高血圧予防やむくみ防止の効果も期待されている[10]。このほか、疲労回復効果に優れるというアミノ酸の一種であるアスパラギン酸や、タンパク質分解酵素の一種であるプロテアーゼも含んでいる[10]。
英語圏でセイヨウナシの形に似たものを pear-shaped(ナシ型)と表現する[注 2]。人の体形の形容にも使われ、良い意味でビーナスのような豊穣な体、悪い意味で下ぶくれの体形を示す[11]。体型を分類する際にペアーシェイプトはウエストより下に体脂肪が多い場合を指し、対してウエストより上に体脂肪が多い場合をアップルシェイプトと呼ぶ[12]。また、宝石のカットで涙滴(ティアードロップ)の形のものをペアシェイプトと呼ぶ[13]。弦楽器のリュートやナポリ型マンドリンなどの胴部分は、その形状からセイヨウナシに喩えられることがある[14][15]。
また由来は明確ではないが、20世紀に入り、豊かで朗々と通る声をpear-shaped voice(声)と表現するようになった[16]。
ドイツでは昔セイヨウナシの木はリンゴの木と一対をなすとされた。後者が男性性を、前者が女性性を象徴した。クリスマスと新年の間、深夜に若い女性はセイヨウナシの木の下に行き、木靴を脱いでセイヨウナシの木に投げた。靴が木の枝にかかれば、翌年には素敵な男性が求婚するだろうと言われた[17]。
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