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ベラルーシ共和国の公用語 ウィキペディアから
ベラルーシ語(ベラルーシご、беларуская мова)は、ベラルーシ共和国の公用語。白ロシア語(はくロシアご)と呼ばれていたこともある。話者は700万人から800万人で、ベラルーシやポーランド東部に分布している。系統的には、インド・ヨーロッパ語族スラヴ語派に属し、ロシア語、ウクライナ語とともに東スラヴ語群を形成する。
東スラヴ語群に属しロシア語やウクライナ語に非常に近いが、ポーランド・リトアニア共和国内の地域であったことから本来は現在に比べ西スラヴ語であるポーランド語寄りの特徴を持っていた[1]。
ベラルーシ語は現在キリル文字で表記される。キリル文字表記法としては1918年にブロニスラフ・タラシケヴィチによって規範化されたタラシケヴィツァと呼ばれる表記法と、1933年に制定されたロシア語風のナルコモフカ (наркамаўка ナルカマウカ)と呼ばれる表記法の2つが考案されており、現在の公式の正書法はナルコモフカをベースとしたものである。ベラルーシ語のキリル文字正書法は形態音韻論的なロシア語のものに比べて表音主義的なものとなっている。特に後述のアーカニエを表記上で区別するかどうかはロシア語とベラルーシ語の正書法において著しい違いとなっている。
また、キリル文字以外にもワチンカ (лацінка, Łacinka)と呼ばれるラテン文字表記が存在する[注釈 1]他、20世紀初頭まではタタール人によってアラビア文字で表記されていたこともある[2]。
現代ベラルーシ語の発音体系は、少なくとも44の音素(5つの母音と39の子音)を含むものである。子音は長子音化しうる。音素の総数については絶対的な合意のなされたものはなく、学者によっては稀にしか現れないような発音や条件異音を含むことがある[要出典]。
多くの子音は口蓋化の有無(硬母音と軟母音。後者は国際音声記号において記号 ⟨ʲ⟩ を用いて表現される)によって弁別される子音の対を形成しうる。そのような対の幾つかにおいては、調音点の変化が更に加わることがある(下記参照)。口蓋化が起こらず対をなさない子音も存在する。
ロシア語同様、[ɨ]は独立した音素という訳ではなく、非口蓋化音の直後に発生する/i/の異音である[4]。
ベラルーシ語の子音は以下の通り[5]。
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/ɡ/および/ɡʲ/の出現は/k/および/kʲ/の逆行同化による有声化(例:вакзал [vaɡˈzal]「駅」)を除くと、いくつかの借用語に現れるのみである(例:ганак [ˈɡanak], гузік [ˈɡuzik])。通常は借用語においても固有語の場合と同様に摩擦音で発音される(例:геаграфія [ɣʲeaˈɣrafʲija]「地理」)。
音節末の/v/は[w]あるいは[u̯]のように発音され、二重母音を形成し、⟨ў⟩と表記される[6]。[w]は時に語源的に/l/に由来して現れることもある(例:воўк [vɔwk]「オオカミ」、スラヴ祖語の*vьlkъに由来)。ウクライナ語と同様に、動詞の過去時制においては/w/と/l/は交替することがある(例:ду́маў /ˈdumaw/「(彼は)考えた」 - ду́мала /ˈdumala/「(彼女は)考えた」)[7]。これは歴史的に見ればポーランド語におけるŁ(例:dumał「彼はじっと考えた」)と同様に-лの母音化に起因するものである。
長子音の表記例としては、以下のようなものが挙げられる。
ベラルーシ語は表音主義的な正書法を採用しているため、しばしば表記上においても音韻交替が起こることがある。後述のアーカニエなどを除くと、次のような例が見られる。
ベラルーシ語の発音体系は、同じ東スラヴ語派に属するロシア語とウクライナ語の双方と非常に類似している。その中で顕著な違いとしては以下のようなものが挙げられる[9]。
リトアニア大公国で用いられていた[13]ルーシ語を、ベラルーシ語の祖語とみなすことができる。ルーシ語はスラヴ語派の諸言語のなかで、最初に聖書が印刷された言語でもある。しかし、1385年にリトアニア大公国がポーランド王国と「クレヴォの合同」と呼ばれる連合を形成した後、国家連合の進んだ15世紀後半になるとポーランド文化が本格的に流入。貴族(シュラフタ)階級の人々はポーランド語を話すようになり、ベラルーシ語は平民の言葉として残ったようだ。
ポーランド分割(1772年〜1796年)によって、ベラルーシの地域はロシア帝国に併合された。ウクライナと異なり、ベラルーシの人達に一体性のある民族的な意識はなかった。ポーランド・リトアニア共和国では、上流階級は自分たちのことをポーランド人と考えていた[14]ためである。近年でも、ベラルーシの人達はロシアとの区別を強くは意識しない。
これは、ベラルーシ語がもっぱら農村部で話され、文化的中心であった都市で話されることが比較的まれであったことによる。たとえば、1897年のロシア帝国の国勢調査では、人口が5万人を越えるベラルーシの諸都市の住民のわずか7.3%が、ベラルーシ語が母語であると答えていた[要出典]。このような状況のもとで、ベラルーシ語には田舎の教養のない人達の言葉というイメージが定着していった[注釈 2]。
19世紀から20世紀初めにかけては、ベラルーシ語の主な話者であった農民は文字を知らず、また、都市ではロシア語やポーランド語、イディッシュ語などが用いられていたので、ベラルーシ語が書かれることはきわめて稀であった。しかし、細々とながらベラルーシ語を普及させようとする運動もあった。
1918年3月25日、ベラルーシ共和国の独立が宣言されベラルーシ語はその公用語とされた。それからまもなく、1918年から1919年にかけて、ソヴィエト政府がベラルーシ地域を制圧しベラルーシ・ソヴィエト社会主義共和国を建設。1920年代には、全ソヴィエト連邦での「民族化」政策により、ベラルーシ化、民族文化の復興が進んだ。行政・司法がベラルーシ語で機能するようになり、多くのベラルーシ語の本が出版された。また、標準語の制定について活発な議論が行われ、正字法や文法面で整理しようとした(このときのベラルーシ語の体系は「タラシケヴィツァ(ベラルーシ語版)」と言う)[1]。
しかし、1930年代に入るとスターリンの言語政策により情勢は一変する。1933年の正書法改革では、ベラルーシ語の表記法が、明らかにロシア語を真似たものに換えられた。この新しい体系を、当時のベラルーシ共和国政府の呼称にちなんで「ナルコモフカ(ベラルーシ語版)」と言う[1]。現在に至るまで一般に用いられるベラルーシ語はこのナルコモフカをもとにしているため、本来のベラルーシ語に比べロシア語の影響を受けたものとなっている。
1938年、全ソヴィエト連邦の学校で、ロシア語が必須科目となる。1958年の教育制度改革では、親が子供の何語で教育を受けるのかを選ぶことができるようになった。それによって、多くの人達が子供をロシア語学校に入学させるようになり、ベラルーシ語学校の数は減少した。
1980年代後半のペレストロイカを機に、ベラルーシ語に対する関心が高まった。1990年には、ベラルーシ語がベラルーシ・ソヴィエト社会主義共和国の唯一の公用語とされ、再びベラルーシ化が進んだ。1990年1月26日に承認された「言語法」では、2000年までにあらゆる行政文書・公的文書をベラルーシ語で書くことが義務づけられた。ミンスクではベラルーシ語のみ、あるいは英語のみ併記されロシア語の併記がない案内板も少なくない[15]。
しかし1994年、ルカシェンコが大統領に選出されると、ベラルーシ語の普及運動は完全に停止した。そして1995年には国民投票が行われ、ロシア語にベラルーシ語と同じ地位が与えられることが決定された。2005年現在、これまでにない規模でロシア語化が推し進められており、ベラルーシ語に対する政府の支援はまったくない。
2019年の国勢調査では、総人口9530.8万人中ベラルーシ語の母語話者は53.2%、対してロシア語の母語話者は41.5%となっている。総人口の4分の3に当たる都市住民の間ではベラルーシ語の母語話者は44.1%、家庭内での使用割合は11.3%に過ぎず、ロシア語化が大きく進行していることが示されている。他方、総人口の4分の1を占める農村住民の間ではベラルーシ語の話者数は79.7%に上り、家庭内での使用割合も58.7%と過半数を保っている。ただし都市部への人口流出が続いている現状においては、ベラルーシ語の保持という面では不利な状況である[16]。その一方で、2013年2月の「モーヴァ・ツィ・カーヴァ(ベラルーシ語: Мова ці кава、ことばかコーヒーか)」を端緒にベラルーシ語の市民講座の活動も徐々に広がりつつある[17]。
また、ロシア語化政策の影響から、「トラシャンカ(ベラルーシ語版)」と呼ばれるロシア語とベラルーシ語が混ざった言葉が蔓延している[18]。
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