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日本の小説家 ウィキペディアから
田中 慎弥(たなか しんや、1972年(昭和47年)11月29日 - )は、日本の小説家。2005年(平成17年)に『冷たい水の羊』で第37回新潮新人賞を受賞後、いくつかの文学賞受賞を経て、2012年(平成24年)に『共喰い』で第146回(平成23年/2011年下半期)芥川賞を受賞した。
山口県下関市出身。4歳の頃に父を亡くし、母親と二人暮らしで育つ。中学生頃から、父の遺した蔵書に親しみ、司馬遼太郎や松本清張の作品を愛読する[1]。また、母に買ってもらった文学全集も好んで読み、特に川端康成、谷崎潤一郎、三島由紀夫の作品を愛読した[1]。その後、山口県立下関中央工業高等学校に進学した。高等学校を卒業後、大学を受験するも不合格となる[1]。それ以来、アルバイトも含め一切の職業を経験せずに過ごした。有り余る時間の中で本を読んで過ごし、特に『源氏物語』は原文を2回、現代語訳を3回の計5回にわたって通読した[1]。
20歳の頃より小説を書き始め、執筆に10年をかけた『冷たい水の羊』で2005年(平成17年)、第37回新潮新人賞を受賞し、デビューを果たした(応募時のペンネームは田中厚)。2007年(平成19年)、『図書準備室』で第136回芥川龍之介賞候補となった。2008年(平成20年)にも『切れた鎖』で第138回芥川賞候補となった。
2008年(平成20年)、『蛹』により第34回川端康成文学賞を、当時としては史上最年少で受賞し、同年に同作品を収録した作品集『切れた鎖』で第21回三島由紀夫賞を受賞した。2009年(平成21年)『神様のいない日本シリーズ』で第140回芥川賞候補に、同年『犬と鴉』で第31回野間文芸新人賞候補に、2010年『実験』で第32回野間文芸新人賞候補に、2011年(平成23年)『第三紀層の魚』で第144回芥川賞候補になった。2012年(平成24年)、『共喰い』で第146回(平成23年/2011年下半期)芥川賞を受賞した[2]。2019年(令和元年)、『ひよこ太陽』で第47回泉鏡花文学賞受賞[3]。
川端康成、谷崎潤一郎、三島由紀夫の作品を高く評価している。この3名の作品を初めて読んだ際の衝撃について、田中は「開眼させられました」[1] と表現している。現在でも、田中は自分にとっての「特別な存在」[1] として、川端、谷崎、三島の3名の名を挙げている。
自身の作風については、2012年の阿川佐和子との対談[4] において、「テーマがあり、それに小説がぶら下がっているのではなく、ただ小説がそこにある」「自分で一行一行生み出すのではなく、どこかに次の一行があるはずだから探そう、という心境(で書いている)」と語っている。
パソコンや携帯電話を持たず(プリペイド式携帯電話を持たされたことがあったが「自分には合わない」とのこと)、執筆の際には無地の紙に2Bの鉛筆で何度も推敲しながら書くという「昭和の文豪」的スタイルで執筆を行っている[5]。
2007年(平成19年)に初めて芥川龍之介賞候補となり、その後も複数回にわたって候補となったが受賞にいたらず、2012年(平成24年)に受賞した。
受賞会見時の言動(特に発言内容)については賛否両論ある。受賞時の記者会見では、何度もアカデミー賞にノミネートされながらなかなか受賞できなかったシャーリー・マクレーンになぞらえて「シャーリー・マクレーンが『私がもらって当然だと思う』と言ったそうですが、だいたいそんな感じ」と心境を語った[6]。また、賞をもらったことについて「断ったりして気の弱い委員の方が倒れたりしたら、都政が混乱するので。都知事閣下と東京都民各位のために、もらっといてやる」などと選考委員の一人であった石原慎太郎を挑発するような発言を行い[6]、さらに「とっとと終わりましょう」と記者会見を早く終わらせようと促した[6]。こうした田中の様子はマスコミの注目を集め、朝日新聞は「不機嫌な様子で何度も首をひねりながら、冗談とも本気ともつかない『田中節』を展開」と評し[7]、毎日新聞は「緊張のあまりか、椅子に身を沈め、不機嫌そうな様子」と伝えた[8]。
その後、文藝春秋からのインタビューに対して、田中は「ふだん考えていることを言っただけなのですが、予想以上に騒がれてしまって。正直戸惑いました」[9] と述懐したうえで「関係ないことで騒がれてしまって、(同時に芥川賞・直木賞を受賞し、同じ席で記者会見を開いた)円城塔さんと葉室麟さんには申し訳ないと思っています。他の人に対してはさして申し訳ないと思いませんが」[9] と述べている。
これについて、コラムニストの小田嶋隆は田中の発言について、石原が知事定例会見で発した「苦労して(芥川賞候補作を)読んでますけど、バカみたいな作品ばっかりだよ」との発言が根底にあるのではないかと推察している[10]。その一方で田中は、「石原さんが事前に候補作について言っていたことは知らなかった」[9] としており、石原の選評に影響を受けたわけではなく、あくまで日常的に考えていたことを発言しただけだとしている[9]。なお、石原は芥川龍之介賞の選評において、田中の作品をお化け屋敷に喩えて「次から次安手でえげつない出し物が続く作品」[11] と評している。しかし、それと同時に石原は、他の候補作と比較して「読み物としては一番読みやすかった」[11] とも述べており、「田中氏の資質は長編にまとめた方が重みがますと思われる」[11]と指摘している。
また、芥川龍之介賞の受賞に際して、田中が発表したコメントは「全選考委員に心から感謝します、本当に。」[12] との一文で締め括られている。
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