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アルタイ諸語

比較言語学で共通点があるとされる諸言語で、一般にはユーラシア大陸に分布するテュルク語族、モンゴル語族、ツングース語族、広義には日本語族、朝鮮語族を加える言語連合 ウィキペディアから

アルタイ諸語
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アルタイ諸語(アルタイしょご、: Altaic languages)は、ユーラシア大陸を横断する形で分布する諸言語の総称であり、一般には言語連合と考えられる。狭義には、歴史的にウラル・アルタイ語仮説に由来し、テュルク語族モンゴル語族ツングース語族からなりたつ。これらの諸言語が共通の祖先(祖語)を持ち、アルタイ語族をなすという仮説がながらく提唱されており、1960年代までは広く受け入れられていた[1]が、21世紀現在、言語学界においてチュルク語族モンゴル語族ツングース語族のすべてについて同系性を主張する立場は主流の地位を占めておらず、言語連合とされることが多い[注釈 1][注釈 2][注釈 3][注釈 4]

概要 アルタイ諸語, 話される地域 ...

広義にはこれらに日琉語族朝鮮語族(極めてまれにアイヌ語族)も加えられ[1]、拡大アルタイ語族(: Macro-Altaic languages)、また近年はマーティン・ロベーツらの造語で「トランスユーラシア語族: Transeurasian languages)」[6]と呼ばれる[7]が、これらに関しては懐疑論または否定論がつねに優勢であり、証明が受け入れられていた時期はない。「拡大アルタイ語族」からの逆成で、テュルク語族、モンゴル語族、ツングース語族を「縮小アルタイ語族(: Micro-Altaic languages)」と呼ぶことがある。[8]

「アルタイ諸語」の名は、中央アジアのアルタイ山脈(阿爾泰山脈)にちなみ命名されたものである[9]

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構成言語と共通の特徴

アルタイ諸語であることが広く認められている言語グループには以下の3つがある。 これらそれぞれの中での系統関係は実証されているが、これらの間の系統関係については決着を見てはいない。

これらの言語グループにはいくつかの重要な共通の特徴が見られる。

また広義には、日琉語族朝鮮語族朝鮮語済州語)もアルタイ諸語である。ただし、現在は、母音調和の特徴は欠いている。

  • 朝鮮語については過去に母音調和があった(中期朝鮮語)。
  • 日本語についても、過去に母音調和を行っていた痕跡が見られるとする仮説もある(有坂池上法則など)[11]
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アルタイ語族

要約
視点

アルタイ諸語を共通の祖語をもつアルタイ語族とする説は古くからある。しかし縮小アルタイ諸語においても十分な量の基礎語彙に音韻対応を与えることが難しい。拡大アルタイ諸語に至っては、アルタイ祖語を再建し、アルタイ語族の存在を証明することがより一層の困難を来たしている。

研究史

アルタイ諸語の研究は18世紀の北欧において開始され、のち20世紀前半にいたるまで北欧はアルタイ言語学の中心地のひとつであった。1730年スウェーデンの外交官であり地理学者であったフィリップ・ヨハン・フォン・シュトラーレンベルク英語版Philip Johan von Strahlenberg、16761747)が大北方戦争の際にロシア帝国の捕虜となりユーラシア大陸を移動した経験をもとに刊行した本で、ツングース諸語モンゴル諸語チュルク諸語に関する記述がある。それより一世紀経つと、フィンランドの語源学者・文献学者 マティアス・カストランMatthias Alexander Castrén, 18131853)は1854年の著作でアルタイ諸語にチュルク、モンゴル、満州・ツングースだけでなくフィン・ウゴル語派サモエード諸語などのウラル語族までを含めた。

19世紀から20世紀にかけてツングース諸語モンゴル諸語チュルク諸語を研究する学者の多くは、これらアルタイ語族をフィン・ウゴル語派サモエード諸語などのウラル語族とあわせて考えた(ウラル・アルタイ語族説)が、ロシアの歴史言語学者セルゲイ・スタロスティン(19532005)がそれを否定し、現在ではこれらの考え方は棄却されている。

1857年オーストリアAnton Boller が日本語をウラル-アルタイ語族に位置づけ、1920年代にはフィンランドの言語学者グスターフ・ラムステッドエフゲニー・ポリワーノフは、朝鮮語を同語族に分類した。ラムステッドのmagnum opus "Einführung in die altaische Sprachwissenschaft " (アルタイ諸語入門、'Introduction to Altaic Linguistics') が出版された。

以降、 ニコラス・ポッペ、Karl H. Menges、Vladislav Illich-Svitych、Vera Cincius のツングース研究などがある。ポッペは朝鮮語について、

  • アルタイ諸語のモンゴル語・テュルク諸語・ツングース語群との系統関係はないが、アルタイ系語族からの影響が見られる。
  • 朝鮮語は上記3語族と分岐する以前に文字体系の構築があったのではないか。

との仮説を提出している。

ロイ・アンドリュー・ミラーは、多くのアルタイ言語学者は日本語をアルタイ語族に帰属すると考えているし、またミラー自身も同様に考える、との見解を提出し[12]、以降、日本語もアルタイ語族にあらためて再分類された。

John C. Street はチュルク - モンゴル - ツングース語族から朝鮮 - 日本 - アイヌ語族集団と北東アジア語族集団が分岐したとする説を提起した。

ジョーゼフ・グリーンバーグユーラシア大語族 (Eurasiatic languages) を提唱したさいに、日本アイヌ ‐ 朝鮮言語集団と他のギリヤーク語エスキモー・アレウト語族シベリアチュクチ・カムチャツカ語族と区分した。

マルティン・ロベーツは、従来の広義のアルタイ語族(チュルク語族モンゴル語族ツングース語族日琉語族朝鮮語族)を「トランスユーラシア語族」 (Transeurasian) と呼称している。「トランスユーラシア祖語」は紀元前6千年紀の遼西興隆窪文化原郷とし、雑穀農耕とともに周辺に拡散していったとしている[13][14]ベイズ法による系統解析により、トランスユーラシア祖語から日本・朝鮮系統/アルタイ系統の分岐を紀元前4700年、アルタイ祖語からツングース/チュルク・モンゴル系統の分岐を紀元前3293年、チュルク・モンゴル祖語からチュルク語族/モンゴル語族の分岐を紀元前1552年、日琉・朝鮮祖語から日琉語族/朝鮮語族の分岐を紀元前1850年と算出した[15]

  • 下図:マルティン・ロベーツによる「トランスユーラシア語族」の系統
Transeurasian(トランスユーラシア)
JapanoKoreanic(日本・朝鮮)

Japonic(日本)

Koreanic(朝鮮)

Altaic(アルタイ)

Tungusic(ツングース)

TurkoMongolic(チュルク・モンゴル)

Mongolic(モンゴル)

Turkic(チュルク)

Uralic(ウラル語族)

Ugric(ウゴル)

Hungarian(ハンガリー語)


いずれにせよ、このアルタイ語族という分類の理論的な問題としてまず、それが語族なのか、言語連合(独: Sprachbund)なのか、という問題があり、これらの全ての語族の同系性を主張する立場には懐疑論や否定論が優勢である。

同根語による比較方法と内的再構

セルゲイ・スタロスティンは、それぞれの語族の間に潜在的な語源的関係を持つ同根語が15%から20%の割合で認められたと主張している。

  • チュルクとモンゴル語: 20%
  • チュルクとツングース語:18%
  • チュルクと朝鮮語:17%,
  • モンゴル語とツングース語:22%
  • モンゴル語と朝鮮語:16%
  • ツングース語と朝鮮語: 21%

スタロスティンは結論として、アルタイ諸語はインドーヨーロッパ語族やフィン・ウゴル語派といった他のユーラジア語族よりも古く、それが後世のアルタイ諸語同士における対応関係の少なさを説明する、と主張した。

2003年には Claus Schönig はアルタイ諸語は発生的・遺伝的 (genetic) 関係において共通する基礎語彙をもっていないとした。

スタロスティンを筆頭著者とする辞典 Etymological Dictionary of the Altaic Languages[16]の編纂過程でのAnna V. Dybo、Oleg A. Mudrak らの研究では2800個の同根語集団を抽出し、この同根語集団を基礎に音韻対応、文法的対応関係の比較、およびアルタイ祖語の内的再構を試みたが、学界の懐疑論や否定論を覆すことはできなかった。

子音対応表

Starostinらの研究(2003)における子音対応表は、同研究におけるアルタイ祖語の内的構成を踏まえて作られた[17]

さらに見る アルタイ祖語, チュルク祖語 ...

他、母音対応、韻律対応、形態論の対応、同根語、基礎語彙なども提示され、アルタイ語族が成立していると主張したが、それは学界の広い支持を得られる水準には至らなかった。

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アルタイ諸語の語彙対応

要約
視点
さらに見る 語義, 語彙対応比較表 ...
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アルタイ系民族

アルタイ諸語を話す民族はY染色体ハプログループC2が高頻度で観察され、とりわけC-M86との関連性が想定される[26]

脚注

関連項目

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