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ドンガン語
中央アジアのキルギスなどでドンガン人と呼ばれる民族が使用する言語 ウィキペディアから
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ドンガン語(ドゥンガン語、中: 東干語、ドンガン語: Хуэйзў йүян Huejzw jyian〈回族語言〉、 ロシア語: дунганский язык)は、中央アジアのキルギスなどでドンガン人と呼ばれる民族が使用する言語であり、中国語官話方言に含まれる西北方言の地域変種のひとつ。ただし漢字でなくキリル文字で表記し、声調記号をつけない。
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概要
要約
視点
ドンガン人は、19世紀、清国で民族蜂起に失敗し、ロシア帝国領に逃れ住んだ中国系ムスリムである回民(現在の回族)や、新天地を求めて移住した回民の子孫である。名称の由来にはいくつか説があるが、ドンガン人が話す言葉をドンガン語と呼ぶ。20世紀前半の自称のひとつにジュンヤン(中原)があり、 ジュンヤン語(җунян хуа、中原話)という言い方も用いられた。
回民(回族)は中国語の方言を母語としており、隔絶された環境下でドンガン語は清代の中国語の語彙を今も保っている。このためドンガン語を官話方言(特に西北方言)に属する中国語の方言とする学者も多い。
方言は、元来の居住地域である甘粛方言と陝西方言に分けられている。
しかし、イスラームに関わる用語を中心に、アラビア語・ペルシア語を始め、移住先の言語であるキルギス語などのテュルク諸語やロシア語の語彙も、政治や科学用語を中心に数多く取り入れられている。大きな特徴として、表記は漢字ではなくキリル文字で行っているため、中国語から派生した別の言語という見方もある。
現在の正書法はソビエト連邦領内の少数民族が使う言語は基本的にはキリル文字を応用して書き表すという1950年代のソビエト連邦の方針に沿ったものである。キリル文字化以前には、漢字や「小児経」と呼ばれる漢語の口語をアラビア文字で音写したものも表記が用いられていた。1928年にはラテン文字の使用が開始され、その後1932年に修正したラテン文字による正書法が採用された。現在のキリル文字による正書法は1953年に制定されている。
ドンガン語は中国語と同じく声調の違いによって語の意味を区別する。声調は原調で4種をもつ方言もあるが、甘粛系の標準的なものは平声、上声、去声の3種である。しかし甘粛系の方言でも、声調変化のパターンでは4種が認められ、平声が2種に分かれる[1]。キリル文字による正書法は声調を反映していないため、同じ綴りで異なった発音、異なった意味になる語が多い。単語を見ただけではどういう声調で発音すべきか不明な場合があるため、辞書によってはI、II、IIIとローマ数字を書き加えて区別しているが、多音節語では4種を区別して記さないと正しい声調は分からない。
ドンガン語の出版物としては、ソビエト時代に当時のキルギス・ソビエト社会主義共和国で“Шийуәдичи”『十月の旗』(Shiyuedi chi)という新聞が1957年から1992年まで週刊で発行された。1993年からは『十月の旗』など4紙が統合され『回民報』(Hueimin Bo)になった。
カザフスタンでは『回族報』(Hueizu Bo)が発行されていた。『回族報』は2002年3月ごろに復刊された半年刊の新聞で、ドンガン語のほか中国語、ロシア語が用いられていた模様である。
ドンガン語による書籍は多くないが、詩集や民話集などの文学作品がキルギスを中心に発行されている。
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文字
1932年から1953年の間は、ローマ字を拡張した下記の文字が使用された。
A a | В в | C c | Ç ç | D d | E e | Ə ə | F f |
G g | Ƣ ƣ | I i | J j | K k | L l | M m | N n |
Ņ ņ | O o | P p | R r | S s | Ş ş | T t | U u |
V v | W w | X x | Y y | Z z | Ƶ ƶ | Z̧ z̧ | ƅ |
А а | Б б | В в | Г г | Д д | Е е | Ё ё | Ә ә |
Ж ж | Җ җ | З з | И и | Й й | К к | Л л | М м |
Н н | Ң ң | О о | П п | Р р | С с | Т т | У у |
Ў ў | Ү ү | Ф ф | Х х | Ц ц | Ч ч | Ш ш | Щ щ |
Ъ ъ | Ы ы | Ь ь | Э э | Ю ю | Я я |
発音
要約
視点
声母
現行表記、旧表記、漢語拼音、IPAの対応は下記の通り。 「漢語拼音」は相同する普通話の音韻を示したもの。ほかはドンガン語の表記および音声記号である。
韻母
漢語系音節に関する韻母の現行表記、旧表記、漢語拼音、IPAの対応は下記の通り。
現在のドンガン語表記単独で音節をも構成しうるものについては、対応する漢語拼音の表記、発音を括弧内に示した。 上記表の韻母以外に、児化音(母音+р [ɻ])とロシア語、キルギス語、アラビア語などからの借用語にのみ見られる音節がある。
声調
強勢
ドンガン語では、ロシア語からの借用語や、アラビア語由来の人名などに、強勢(ストレス)の違いで意味を区別する語が存在する。
- 例: йисар ≠ йисар (男の名前)
語彙
基本語彙は中国語の官話方言と共通しているものが多い。特に、出身地の甘粛省や陝西省の方言と近い語彙が基本となっており、北京語とは異なる語彙の場合もある。
中国では口語で使用しなくなった元代や清代の語彙が残っているものもある。
イスラームに関わる用語を中心にアラビア語・ペルシア語のほかテュルク諸語からの借用語を含んでいる。これは、中国の回族の中国語と共通している特徴である。移住先で優勢な言語であるロシア語の語彙も取り入れられている。
方言
清代に移住してきた際の出身地によって、大きく甘粛系と陝西系の2大方言に分かれる。甘粛系方言が標準的なドンガン語とされ、主にキルギスのビシュケク郊外を中心とするチュイ峡谷地域やカザフスタンのジャンブール周辺で話されている。甘粛系方言を話すグループをビシュケクグループと呼ぶ学者もいる。このグループには寧夏出身の人たちも含まれる。陝西系方言は、主にキルギスのトクマク周辺とカザフスタン、ウズベキスタンに分布しており、トクマクグループと呼ばれる。
両方言の違いは、主に発音面と語彙面にある。甘粛系方言は、声調において、平声の陰陽の区別がなくなり、3種となっているのに対して、陝西系方言は4種を維持していることが多い。声母に関しては甘粛系方言で、「書」「説」「猪」など、北京音の [ʂ] [tʂ] [tʂʰ] に [u] がつくと [f] [pf] [pfʰ] に変化しているのに対して、陝西系方言は [ʂ] [tʂ] [tʂʰ] を保っている場合がある。甘粛系方言の歯茎破裂音 [t] [tʰ] が陝西系方言では [i] の前で口蓋化して [tɕ] [tɕʰ] となるほか、甘粛系方言の [ɕ] が [tɕ] となる例がある。韻母については、北京音の [ou] が甘粛系方言で [u] となっているが、陝西系方言では北京音と同じである。
このほか異なる形態素を用いて表す語彙もある。以下に、発音または形態素が異なる語彙の例を示す。
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参考文献
- Jusup Janşansƅn Z̧wn-jan Xua Litudi Şƅnjin De Z̧wnjin. - Фрунзе: Киргизгосиздат, 1940
- 林涛编《中亚东干语研究》香港:香港教育出版社、2003年 - ISBN 962-7484-93-8
- 林涛编《东干语论稿》银川:宁夏人民出版社、2007年 - ISBN 978-7-227-03465-0
- 海峰《中亚东干语言研究》乌鲁木齐:新疆大学出版社、2003年 - ISBN 7-5631-1789-X
脚注
関連項目
外部リンク
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