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ヒプノヴェナトル

日本で発見された恐竜 ウィキペディアから

ヒプノヴェナトル
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ヒプノヴェナトルHypnovenator)は、2010年と2011年に日本兵庫県丹波篠山市化石が産出した、前期白亜紀に生息したトロオドン科に属する獣脚類恐竜[1]篠山層群大山下層から産出した2点の化石に基づき[2]、2024年にタイプ種ヒプノヴェナトル・マツバラエトオオエオルムHypnovenator matsubaraetoheorum)が新属新種として命名された[1][注 1]。属名は「眠る狩人」を意味しており、後肢の関節状態から見てホロタイプ標本が休眠姿勢と思しき姿勢を取っていたことに由来する[1]

概要 ヒプノヴェナトル, 地質時代 ...
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研究史

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Hypnovenatorのタイプ産地の位置と層序

ヒプノヴェナトルの化石は、兵庫県篠山市(現・丹波篠山市)で地元のアマチュア研究者により、兵庫県立丹波並木道中央公園の造成工事の残土から発見された[4]。当該地域には篠山層群に該当する約1億1,000万年前の地層が分布しており、公園内の石を利用した化石発掘体験会が開催されていた[5]。2010年9月[注 2]に発掘体験用の岩石を兵庫県立人と自然の博物館の連携活動グループ「篠山層群をしらべる会」が採集していたところ、同会所属の松原薫と大江孝治が恐竜化石を含む岩塊を発見した[5]

最初に発見された岩塊は、指先まで関節した左前肢と、大腿骨恥骨腓骨の関節した左後肢膝関節付近を含むものであった[4][5]。その後2011年7月[注 3]に同公園で行われた調査では左下腿遠位部と第IVおよび第V中足骨を保存した別の岩塊も発見された[4][6]。2点の化石は同一個体に由来すると推測され、その場合これらの化石はトロオドン科に属する可能性が高いデイノニコサウルス類のものと考えられた[4]

これら2点の化石はMNHAH D1033340という標本番号で管理された[2]。2点の化石は日本古生物学会において2012年の年会で発表され[4]、また2023年に開催された第172回例会において研究成果の進展が発表された[7]。2023年の講演予稿集によれば、2個の岩塊は淘汰の悪い灰褐色泥質砂岩であり、少量の中礫と炭質物を含む点が共通しており、骨の部位が重複していないことからも同一個体由来と判断されている[7]

その後2024年の記載時においてヒプノヴェナトル・マツバラエトオオエオルムのホロタイプ標本に指定された[2]。ホロタイプ標本に含まれる具体的な部位は、2個の尾椎、2本の肋骨、38本の腹肋骨、1本の血道弓、左上腕骨、左橈骨、左尺骨、左手根骨、左第I~III中手骨、右第I中手骨の遠位端、左指骨(I-1、I-2、II-1、II-3、III-1~4)、左大腿骨の遠位部、シャフト中央部を欠く左脛骨と左腓骨、右脛骨の遠位端、左距骨、右距骨の遠位端、左第II~V中足骨の近位部、右第IIおよび第IV中足骨の近位端、右趾骨(II-3、III-1~4、IV-1~5)である[2]

ヒプノヴェナトル・マツバラエトオオエオルムは日本本土から産出した有効な学名を持つ非鳥類型恐竜として12例目であり、また篠山層群から体化石が産出し命名された恐竜としてタンバティタニスに次ぐ2例目である[1]。属名は古代ギリシア語の“hypno”とラテン語の“venator”に由来し、「眠る狩人」を意味する[2]。タイプ種の種小名の“matsubaraetoheorum”はホロタイプ標本を含む岩塊を発見した松原薫と大江孝治に由来する[2]

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特徴

ヒプノヴェナトル・マツバラエトオオエオルムは複数の特徴の特異的な組み合わせにより他の属種から区別される。第I指の基節骨の近位背側面に近遠位方向に伸びる1対の窪みが存在し、また第III指の2番目の指骨の腹側と背側に第III基節骨との関節を強固にする近位方向のlipが存在する。内側顆の近位において大腿骨前側に近遠位方向に向いた長軸に沿う内側稜が存在し、第III指の3番目の指骨の遠位腹側縁が広く凸になっていて遠位顆が歪んでいる[2]。また、尺骨の遠位端の中央付近が肥厚していることと、脛骨体の前側縁と脛骨稜とのなす角が11°を下回ることの組み合わせも特徴的である[2]

ヒプノヴェナトルの前肢末節骨の側面形態の幾何学的形態計測分析では、第III末節骨の力の伝達率が高かったことが示唆されている。第I末節骨と第III末節骨のそれぞれに付着する筋肉量の推定を経て、指先で生じる正味の力を推定した結果、第I末節骨と第III末節骨はほぼ同程度の力をかけることが可能であったと推測されている[1]。後肢では、ヒプノヴェナトルの中足骨は派生的なトロオドン科と同じく完全なアークトメタターサル構造を有しており、トロオドン科が従来知られていたよりも約3,500万年早くアークトメタターサル構造を獲得したこととなる[注 4]。またアークトメタターサル構造が走行適応を示唆する一方で、深い滑車状である第III趾と第IV趾の関節は派生的なトロオドン科に見られる浅い滑車状の関節と異なっており、後肢に高い掌握能力を持つことが考えられている[1]

属名の由来ともなった休眠姿勢は、腹肋骨の外側に前肢が緩く折り畳まれていること、踵関節が固く折り畳まれていること、趾骨が曲がることなく腹肋骨の下に位置することから推測されている。非鳥類型恐竜の休眠姿勢は同じくトロオドン科のメイシノルニトイデスアルヴァレスサウルス科ヤキュリニクスシュヴウイアにも見られる[1]

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分類

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復元図

Kubota et al. (2024)は、Sellés et al. (2021)の系統マトリックス[8]にヒプノヴェナトルの化石要素をスコアリングした。Kubota et al. (2024)の解析結果でヒプノヴェナトルはトロオドン亜科の基盤的な属に位置付けられ、既知のトロオドン亜科のうち最古の属となるとともに、モンゴル国から産出したゴビヴェナトルとの姉妹群に配置された。結果を以下のクラドグラムに示す[2]

トロオドン科

ハルシュカラプトル亜科

Liaoningvenator

MPC-D 100/1128 (Ukhaa Tolgod troodontid)

MPC-D 100/44 ("EK troodontid")

シノヴェナトル亜科

Sinusonasus

Xixiasaurus

Daliansaurus

Philovenator

Tochisaurus

Almas ukhaa

MPC-D 100/972 + MPC-D 100/974 (Flaming Cliffs troodontid perinates)[9]

Geminiraptor

MPC-D 100/140 (Khamaryn Ar troodontid)[10]

Byronosaurus

Sinornithoides

トロオドン亜科

Hypnovenator

Gobivenator

Urbacodon

Saurornithoides

Borogovia

Talos sampsoni

Zanabazar junior

Linhevenator

Troodon

古生態

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同時代に生息したタンバティタニス尾椎

ヒプノヴェナトルの化石が産出した篠山層群大山下層下部白亜系の下部~中部アルビアン階にあたる[2]。これらの地層は砂岩泥岩礫岩を主体としており、堆積環境英語版温帯夏雨気候からステップ気候の河川系統が示唆される[11]

大山下層からは、丹波市ティラノサウルス上科ドロマエオサウルス科の側歯が、丹波篠山市でドロマエオサウルス科の側歯が産出している[12]。またHimeoolithus (en) Subtiliolithus (en) NipponoolithusPrismatoolithusといった卵化石タクソンも知られる[13]。体化石が産出した古脊椎動物ではモンスターサウリア類英語版トカゲであるモロハサウルス英語版ティタノサウルス形類竜脚類であるタンバティタニス新角竜類角竜類であるササヤマグノームスが本層から知られている[14][15][16]。またそれぞれの原記載において本層として特定こそされていないものの、篠山層群からは真獣類ササヤマミロス[17]スキンク下目パキゲニス[18]無尾目ヒョウゴバトラクスタンババトラクスが産出している[19]

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脚注

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