トップQs
タイムライン
チャット
視点
フォイエルバッハの定理
ウィキペディアから
Remove ads
幾何学において、フォイエルバッハの定理(フォイエルバッハのていり、英: Feuerbach's theorem、独: Satz von Feuerbach)は、三角形の九点円と内接円ないし傍接円とが接することを述べる定理である[1]。1822年に定理を示したカール・フォイエルバッハの名を冠する。

平面幾何学の中で最も美しい定理の一つと評価されている[2]。現在までに様々な証明や拡張が見つかっている。
なお、九点円と呼ばれる円の存在を単にフォイエルバッハの定理と呼ぶこともある[3]。
主張

三角形の辺の各中点、頂点と垂心の中点、三角形の頂点から対辺に降ろした垂線の足は共円である。この円を九点円という。半径は、外接円の半径の半分である。
三角形の3辺に、内接する円を内接円という。三角形の3辺の1つと内部で接し、2つと外部で接する円を傍接円という。
非正三角形の九点円と内接円は内接する。また九点円と傍接円は外接する[4]。これをフォイエルバッハの定理という。内接円と九点円の接点は、フォイエルバッハ点と呼ばれる。
正三角形の九点円と内接円は一致するため[5]、厳密にいえば、正三角形に対して内接円と九点円は接するということはない[6]。これは、正三角形の場合は例外として排除するか[7]、極限の場合として見る[8]ことで解決できる[注釈 1]。
証明
要約
視点
フォイエルバッハの定理の証明にはさまざまなものが知られ[9]、現代でも新たな証明が発見されている[10]。自動定理証明を用いるものも存在する[11]。フォイエルバッハの定理の証明を数学の一分野と見なす数学者がいるとも言われる[12]。
井上義夫は31の証明を直線・円の理論を用いた証明、中心の距離の計算による証明、方冪の理論を用いた証明、反転幾何学を用いた証明、その他初等幾何学的な証明に分類している[13]。
Remove ads
一般化・拡張
要約
視点
フォイエルバッハの定理の一般化・拡張もまた様々なものが知られている。
ロビンソン
1857年、ジョン・ジョシュア・ロビンソンは The Lady's and Gentleman's Diary で次の定理を示した[22]。
三角形の内接円及び傍接円の根心4つを取り、これら根心からなる三角形の内接円と傍接円の根心を取る。このような操作を繰り返して得られるすべての円は、最初の三角形の九点円に接する。
ハート
→詳細は「ハートの定理」を参照

1861年、アンドルー・サール・ハートは、六円定理を九円定理に拡張するように、3辺が直線でなくともよいことを示した[23]。ハートの定理は、ラーモアの示した定理の様に、非ユークリッド平面上の三角形の4つの外接円がある円に接するということに他ならない[24]。
フォントネー
→詳細は「フォントネーの定理」を参照

次の定理は、1867年にグリフィス[25]、1880年にヴェイユ[26]、1889年にW. S. マッケイ[27]、1905年にジョルジュ・フォントネー[28]が示したものである[29]。
Pを内心か傍心とすればフォイエルバッハの定理となる。P, P'が外心と共線になるようなPはマッケイ三次曲線上にある。
一般に、等角共役な2点P, P'の垂足円と九点円の2交点は、三角形の3頂点とそれぞれP, P'を通る直角双曲線の中心である[31]。
ロジャース

1930年、レナード・ジェームズ・ロジャースは、Mathematical Gazette において、円錐曲線の連合準円を用いて、一般化を行った[32]。1897年にV・ラマスワミ・エイヤールも、同様の結果を導出している[33]。
内接円錐曲線の2焦点が外心と共線であるとき、フォントネーの定理を得る[注釈 2]。
荻野修作は、フォントネーの定理やロジャースの定理の拡張を2つ示している[35]。次はその1つ目の定理である。
三角形の外心と九点円の中心をそれぞれO, Nとする。焦点をP, Qとする内接円錐曲線Γについて、∠POQにおける等角共役線l, l'を書く。ΓとΓに共焦点でl, l'に接する円錐曲線の連合準円と、九点円の交点X, Yはl, l'の直極点である。さらに、直線NX, NYの成す角はl, l'の成す角の2倍の角に等しい。
l, l'の成す角が、0, 180度ならば、ロジャースの定理を得る。l, l'がOP, OQに一致すれば、1907年にプレ[36]、1933年にフランク・モーリーが著書 Inversive Geometry で示した[37]、フォントネーの定理の拡張になる。プレによれば、このときX, Yは、それぞれ中点三角形に内接しOP, OQを準線とする放物線の焦点である。
ロジャースの定理において円錐曲線が外心を通る場合、その準円は九点円だけでなく外接円に接触する[38]。また、ナラヤナン(Narayanan)は、外心を通る場合のロジャースの定理について外心を任意の点に拡張している[39]。
等角共役点P, P'上の点Oにて内接円錐曲線Γが直線PP'に接するとき、Pの垂足円、Oの垂足円、Γの準円は共軸。
ラオ
次の定理はインド数学会の雑誌にて、M. Bhimasena Rao(ラオ)がW. S. マッケイらの垂足円への拡張から類推して[40]、"Contact circle"と呼ばれるものに拡張したものである[41]。
ある点Pを中心とする内接円錐曲線と各辺の接点からなる三角形の外接円をPの Contact circle と呼ぶ。点Pとその等角共役点P'と類似重心が共線ならば、Pの Contact circle は九点円と接する。
Pを内心か傍心とすれば、フォイエルバッハの定理を得る。P, P'が類似重心と共線になるようなPはグリーブ三次曲線K102上にある[42]。 逸見伝三郎、濱田隆資らは、この定理の拡張を示している[43]。ランガスワミは垂足円と Contact circle を統一的に扱うことを試みている[44]。また、ラオは自身でも更なる拡張を示している[40]。
Pを中心とする内接円錐曲線と各辺の交点をD,E,F、△DEFの内心または傍心と、内接円錐曲線と基準三角形の配景の中心Qを結ぶ直線とEFの交点をG、AGと基準三角形の中点三角形のBCに平行な辺の交点をVとすれば、PV上にある等角共役点の Contact circle はPの Contact circle と接する。
Pが類似重心ならば、Qが垂心となり、垂心は垂心三角形の内心であるから、元のラオの拡張となる。
ラオなど雑誌への寄稿者は、他にもフォイエルバッハの定理に関する定理を残している[45]。次の定理はその一例[46]。
点Pの垂足円が九点円に接するとき∠PAB + ∠PBC + ∠PCA = 90°[注釈 3]。
ハミルトン
ウィリアム・ローワン・ハミルトンは、2つの内接円錐曲線の第四共通接線(3辺と異なる接線)と三線極線を用いて拡張を行った[49]。
2つの内接円錐曲線U, Vについて、Uと三角形の配景の中心をOとする。Uと3辺とのそれぞれの接点と、Oの三線極線とVの2交点(虚でもよい)を通る円錐曲線Sは、UとVの第四共通接線とVの接点でVに接する。
Uをシュタイナーの内接楕円、Vを内接円としたとき、Oは重心、Oの三線極線は無限遠直線で、Sは2つの虚円点を通るため円になって、フォイエルバッハの定理が導かれる。
Oを重心、Vを放物線とすると、1939年にデ・チッコが得た定理[50]となる。
この性質から、フォイエルバッハ点は、シュタイナーの内接楕円と内接円の第四共通接線と内接円の接点であることが分かる[51]。
ブリカール
1907年、ラウル・ブリカールは、Nouvelles Annales de Mathématiques において、有向直線を用いた拡張を発表した[52]。
3対の平行な同じ向きの有向直線(A1, B1), (A2, B2), (A3, B3)について、(A1, A2, A3), (A1, B2, B3), (B1, A2, B3), (B1, B2, A3)に接する同じ向きの有向円は、ある一つの有向円に接する。
B1, B2, B3の成す三角形を中点三角形にすると、フォイエルバッハの定理を得る。
2024年には、それぞれA1, A2, A3の成す三角形TとB1, B2, B3の成す三角形が前者の三角形の重心で相似であるときの場合について Keita Miyamoto が再発見し、さらにこの場合に4つの円に接する円とTの内接円との接点はフォイエルバッハ点であることを示している[53]。
ヴォンドラチェク
1933年、ヴォンドラチェクは円錐曲線の交点を用いて一般化した[54]。
3つの直線に接するかつ共通の2点を通る4つの円錐曲線を用意する。この4つの円錐曲線に接するかつその2点を通る円錐曲線が存在する。
濱田
1943年、東北数学雑誌において濱田隆資は根円を用いて拡張を行った[55]。2021年には、Tran Quang HungとNguyen Thi Thuy Duongも同様の定理を得ている[56]。
任意の点Pの垂足三角形を△PaPbPcとする。BC, CA, ABの中点を中心とし、それぞれPa, Pb, Pcを通る円の根円は九点円に接する。
1925年、J. P. Gabbattは、一般に任意の点P, Qの辺に対する垂足を反転によって移すような、辺の中点を中心とする3円の根円と、九点円の2交点は、P, Qと外心を結ぶ直線の直極点であることを示した[57]。更に、3円の中心が、辺の中点以外(外心以外の垂足三角形の頂点)では成立しないことも示している。
プロタソフ
V. プロタソフ(Protasov)は segment theorem と称した定理の特殊な場合としてフォイエルバッハの定理を示している[58]。
点Oで交わる2直線に接する円Γの中心をIとする。今、2直線のそれぞれに点A, Bを線分ABがΓに接するように作る。A, Bを通る円Ωの弧ABとOA, OBに接する円が2つ存在し、2円のAOとの接点とIが直角三角形を作るように配置できる。
基準三角形ABCにおいて、AB, ACの中点をB', C'と置く。Γを△AB'C' の内接円、Ωを九点円とすれば元の定理を演繹できる。
グエンとレ
2023年、Nguyen Ngoc GiangとLe Viet Anは3つの一般化を示した[59]。次の定理はその一つである。
△ABCとその垂心でないかつ辺上・外接円上にない任意の点Pについて、PB, PCにおけるAの直交射影を結ぶ直線をlaとして、lb, lcも同様に定義する。la, lb, lcから成る三角形の外接円は、Pの垂足円に接する。
グエンとレの論文の Remark 12 ではArt of Problem Solvingにて Nguyen Van Lich と Telv Cohlの示した一般化[60]が紹介されている。
基準三角形ABCの垂心でない点Pにおいて、それぞれBC, CA, ABの中点を通るAP, BP, CPの垂線の成す三角形の九点円はPの垂足円に接する。
モーリー
1916年、フランク・モーリーは雑誌 Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America において、三級曲線(任意の点から実あるいは虚の接線を3本引くことができる代数曲線)への拡張を発表した[61]。
マルグーズー
1919年、マルグーズー(Malgouzou)は、三次曲線への拡張を示したが、複雑な手順を要しており、また、ハートの定理のように、直接的な拡張とはなっていない[62]。
三次曲線Cと点Oについて、Oを通る直線lがCと3点P, Q, Rで交わっているとする。今、
を満たす点Xが2つ存在する。lを動かしたとき、Xの軌跡は極円錐曲線と呼ばれる円錐曲線になる。さらにある定直線Lに極円錐曲線が接するようにOを動かしたとき、Oの軌跡はPoloconicと呼ばれる円錐曲線になる。Poloconicが円となるようなLは4つ存在するが、このときの4円は、一つの円に接する。
Cが3直線へ退化したとき、フォイエルバッハの定理を間接的に得る。Gabbattはマルグーズーの一般化をさらに空間へ一般化している[63]。
ユークリッド空間[64]や、双曲平面などの非ユークリッド平面[65]、ミンコフスキー平面[66]、ヒルベルト平面[6]、あるいは九点円錐曲線[67]や有限体[68]などへの拡張なども示されている。
Remove ads
応用
フォイエルバッハの定理は美しくはあるものの、定理を使用することはほとんどなく、役に立たないと評される[69]。 一方、初等幾何学において多くの応用に重要とされるとも言われる[70]。例えば、次のような応用例がある。
三角形の内心、九点円中心、重心をそれぞれI, N, Gとする。NG:GO = IG:GNa = 1:2(補点の関係)よりNaO = 2IN = 2(1/2R - r) =R - 2r。
4円の接触という点で派生した定理としてエメリャノフの円定理(Emelyanov's circle theorem)がある。△ABCの外心をOとする。AO, BO, COとBC, CA, ABの交点にてBC, CA, ABと接し、更に△ABCの外接円と接するような三角形の外側の円と、△ABCの内接円に接するような円が存在する。これをエメリャノフの円定理という[72]。4円に接する円と内接円の接点はフォイエルバッハ点となる。
特殊な場合から派生した定理もある。直角三角形の九点円は直角を持つ頂点を通る。チャン・クアン・フン(Tran Quang Hung)はこの場合の円の接触を任意の三角形に拡張した[73]。△ABCの∠Aの二等分線が外接円Oと再び交わる点を中心とする、△ABCの内接円IとAB, ACとの接点を通る円と、外接円との共通弦とAB, ACとのそれぞれの交点とAを通る円は円I, Oに接する。
Remove ads
歴史
要約
視点
→「九点円 § 歴史」も参照


フォイエルバッハの定理の歴史はジョン・スタージャン・マッケイの九点円に関する作品に詳しい[74][75]。マックス・シモンの書籍[76]にも、フォイエルバッハの定理の歴史や作品がまとめられている。
フォイエルバッハの定理は、1822年のドイツの数学者カール・フォイエルバッハのモノグラフ Eigenschaften einiger merkwiirdigen Punkte des geridlinigen Dreiecks の§57で初めて証明された[77]。フォイエルバッハによる証明は九点円の中心と内心の距離を三角法を用いて計算する方法による。この発見はフォイエルバッハの名声を構成する要素の一つとなっている[78]。1828年、ヤコブ・シュタイナーは Annales de Gergonne でフォイエルバッハの功績について知らぬまま定理について述べた[79]。その後シュタイナーは論文 Die geometrischen Con structionen, ausgefuhrt mittelst der geraden Linie und eines festen Kreises の最後の脚注でフォイエルバッハにこの定理を帰した[80]。
フォイエルバッハの論文は即座に広まらなかったため、再発見をする者も存在した[76]。1842年、フランスの数学者オルリー・テルケムが解析的な証明でフォイエルバッハの定理を再発見した[81]。初等幾何学的証明は、雑誌 Nouvelles Annales における1850年のJ. メンションの作品で示された[82]。1854年に、W. H. レヴィが The Lady's and Gentleman's Diary において、2つ目の初等的証明を示した[83]。同年同雑誌で、 T. T. ウィルキンソンは、垂心系を成す4つの三角形の内接円と傍接円の延べ16円が、九点円に接するという問題を投げかけた[84][注釈 4]。これは、1855年の同雑誌で解決された[85]。1860年頃[76]、イギリスの数学者ウィリアム・ローワン・ハミルトンによってフォイルバッハの定理が再発見された[86]。1860年6月17日、ジョージ・サーモンは、The Quarterly Journal of Pure and Applied Mathematics で、フォイエルバッハの定理について、次の様に述べた[87]。
" The following elementary theorems may interest some of the readers of the Quarterly Journal..."
1864年、ジョン・ケイシーは、Quarterly Journal で、現在ケイシーの定理と呼ばれる定理を用いてフォイエルバッハの定理を示した[88]。ケイシーの書籍 Sequel to Euclid にも、証明が示されている[89]。
ハインリヒ・シュレーターは1868年にその時点で定理を拡張できるような証明方法がないことを述べた[90]。1874年の論文ではフォイエルバッハやケイシー、バルツァー[91]の証明をあくまで代数的で明確さに欠けると指摘し、自身で純粋幾何学的な証明を行った[92][注釈 5]。
1882年、ヴィルヘルム・フィードラーは 円点投象法[注釈 6](Zyklographie)と呼ばれる空間的な手法によって証明を試みた[95]。フィードラーの証明は一部不足があった。この不足は1911年にミュラーによって修正され[96]、更に1922年、ヤン・ソボトカによって単純な解法が示された[97]。
他に、C. Leudesdorf(1884)[98]、サミュエル・ロバーツ(1887)[99]、ヴィクトル・テボー(1910)[100]など多くの数学者が、フォイエルバッハの定理を独自に証明している[101]。
日本では、和算の時代においてフォイエルバッハの定理に到達することはできなかった[102]。明治時代に入り、澤山勇三郎がフォイエルバッハの定理を約20通りの方法で証明した[103][注釈 7]。
Remove ads
脚注
参考文献
関連項目
外部リンク
Wikiwand - on
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Remove ads