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メギストテリウム

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メギストテリウム
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メギストテリウムあるいはメジストテリウム[1]学名Megistotherium)は、新第三紀中新世前期のアフリカ大陸に生息した[1]肉歯目ヒアイナイロウロス科英語版に属する絶滅した哺乳類[2]化石リビアエジプトケニアから産出している[2]

概要 メギストテリウム, 地質時代 ...

長さ約65センチメートルに達する頭蓋骨の化石が発見されている[1]。それに基づく推定体長が約3.5メートルに上り、最大級の陸棲肉食哺乳類であったとされるが、体骨格の既知の部位は乏しい[1]ヒアイナイロウロスと同属であるとする説も提唱されている[1]

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発見と命名

リビアのGebel Zelten産地では、1962年と1963年の調査で未知の大型捕食動物の化石が初めて発見された。1964年にはRobert Joseph Gay Savageによる最初の発掘調査遠征が行われ、大型捕食動物の散らばった体骨格断片が発見された。2年後にSavageは産地の南東に位置するサイト6412に指定された発掘サイトにて、ヒエノドン類に属する大型捕食動物の完全な頭骨を発見した。当該標本はM.26173の標本番号で管理され、大英自然史博物館(現ロンドン自然史博物館)に所蔵された。1973年に当該の頭骨と他の頭骨要素が記載され、ヒエノドン類の新属新種Megistotherium osteothlatesとして命名された。ここにおいてM.26173はホロタイプ標本に指定された。なおSavageはパキスタンのBugti Hillsから産出した当時アントラコテリウムのものとされた非常に大型の下顎M.12049といった他の標本がメギストテリウムのものである可能性を考えた[3]。その後、メギストテリウムに属するとされた体骨格の化石はアンフィキオン科のものと再解釈されている[4]。メギストテリウムに分類された化石はケニアエジプト[5]ナミビアウガンダから記載されている[6]。本属に分類された右の下顎DPC 6611はエジプトのMoghara層から産出したものであり、1989年に記載された[7]

属名Megistotheriumは「大きな」「卓越した」を意味するギリシア語μέγιστονと「獣」を意味するθήριονに由来する。種小名はosteothlastesはギリシア語で「」を意味するὀστέον(ostéon)と「潰れた」「傷ついた」を意味するθλᾰστός(thlastos)に由来する(-esが付されると行為者名詞となり、「骨を砕く者」となる)[3]

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特徴

要約
視点

メギストテリウムは最大のヒエノドン類の1つであるが、体骨格が発見されていないためその体重推定は多岐に亘る。Savage (1973)は本属に分類した上腕骨の遠位端とヒグマの上腕骨遠位端とを比較して760 - 1000キログラムの推定値を算出し、頭部が大型であるヒエノドン類の独特なボディプランを鑑み、その中間として880キログラムを採用した[3]。Sorkin (2008)はM. osteothlastesの体重を500キログラムと推定した[8]。Borth and Stevens (2010)は様々なヒエノドン類の体重推定に3つの異なる手法を採用した。1つは様々な中型 - 大型肉食動物の下顎の第3小臼歯の長さから導き出された方程式に基づくものであり、推定値は317キログラムとされた。2つ目と3つ目はヒエノドン目とネコ科の哺乳類の第3大臼歯を比較するものであり、推定値は1794 - 3002キログラムであった[9]。しかし、M. osteothlastesの化石が乏しく、また解剖学的な代理の動物を用意する必要があることから、これらの体重推定には課題があり[10]、上限の推定値は信頼できない可能性がある[8]。さらに、体サイズはエネルギー的な制約を受けたと考えられる。Carbone et al. (2007)は肉食哺乳類の最大サイズの上限として約1100キログラムを提唱した[11]

頭骨

メギストテリウムの頭骨は非常に大型であり、また重厚な構造をなす。前上顎骨の前端から後頭顆英語版の後端までの長さは66.4センチメートルに達し、左右の頬骨弓の先端で測定した幅は47.1センチメートルに達する。歯冠がほぼ保存されておらず、また骨に病変が認められることから、ホロタイプ標本は死亡した時点で高齢個体であったことが示唆される。上顎骨の前部は外側に拡大し、上顎に生えた非常に大型の犬歯に対応する。口蓋骨はV字型であり、上顎の最前位小臼歯に位置で非常に狭く、上顎の第3大臼歯の後側で非常に幅広である。鼻骨前頭骨後眼窩突起英語版まで後側に伸びる。鼻骨の開口部は非常に高く広い。頬骨は保存が良好であり、眼窩の下に大型の結節を伴う。頬骨は非常に大型の頬骨弓を形成した。矢状稜は長さ30センチメートル、高さ15センチメートルにおよぶほど発達している。これは脳頭蓋が小型であったことも一因とされる。幅広な頬骨弓と高い矢状稜は側頭筋が非常に大型であったことを示しており、Savageは左右それぞれの側頭筋が10キログラムに達した可能性を示唆した。頬骨弓はそれほど頑強な構造でないため、多くの肉食哺乳類と同様に、咬筋でなく側頭筋が顎を閉じる主要な筋肉であったことが示唆されている。後頭部領域は三つ葉形をなし、円形の大後頭孔の直径は3.5センチメートルであった。基蝶形骨は頑強であり、強固な楔型構造を形成して蝶形骨鱗状骨と関節していた。これにより強力なあごの筋肉により脳が損傷することが防がれていた。ヒエノドンと同様にalisphenoid canalが存在せず、頸動脈は翼状突起に沿って浅い溝を走っていたようである。他のヒエノドン類と同様に鼓室胞は存在しなかったと見られる[3]。下顎は右下顎枝の断片が知られており、歯骨は非常に背腹方向に深く、また弓状に湾曲していた[7]

脳のエンドキャスト

メギストテリウムのホロタイプ標本のエンドキャスト英語版からはの解剖学的構造の知見が得られている。全体的な構造はヒエノドンやプテロドンのものに類似しているが、より大型でかつ複雑化している。脳の容積は約280ミリリットルでるが、小脳の前部と嗅球とが欠損しているため、全体では400ミリリットルを超過した可能性がある。大脳には発達した一連の4本の溝が存在し、血管が横切ることで市松模様に類似する外見を呈する。小脳は非常に大型であり、脳全体の容積の約四分の一を占める。小脳は小脳虫部と2本の明瞭な外側の脳葉に分かれている[3]

歯列

メギストテリウムの歯列はほぼ保存されていないが、他のヒエノドン類と異なり、上顎の切歯は第3歯のみであったと判断されている。上顎の犬歯は失われているものの、関連する歯槽の大きさと、また対応する上顎骨の拡大から、非常に大型でかつ歯根が深かったと見られる。最前位の上顎の小臼歯は歯根が1本である。残りの頬歯英語版は多かれ少なかれ直線的に配列していたが、頭骨の構造上この直線を前方に延長した場合反対側の切歯を突き抜ける配置になっていた。上顎の第2小臼歯も歯根が1本であり、歯冠は左右幅を前後長が上回り、エナメル質が厚く、また後面に1個のキールが存在し、全体的に現生のハイエナのものに類似した。上顎の第2小臼歯は前後の歯との間に小さな歯隙英語版が存在したが、より後側の歯は歯隙を伴うことなく密に配列した。上顎の第3小臼歯は歯根だけが保存されており、歯1本につき3本の根が確認されている。大臼歯は第1大臼歯の歯根のみが知られている[3]

エジプトで産出したDPC 6611に由来する下顎は保存がより良好である。下顎の第4小臼歯は歯骨に対して斜めに配置する点で他のヒエノドン類と異なり、また小型の1個の次錐(ヒポコニド)を持つ点でヒアイナイロウロスと異なる。下顎の第1大臼歯はヒエノドンプテロドンのものと比較して非常に小型であり、分化した咬頭英語版とクレストを持たない。第2小臼歯と第3小臼歯は大半のヒエノドン類のものと類似していたが、刃状の旁錐(パラコニド)と小型の次錐を持つ点でApterodonと異なる。メギストテリウムの歯冠の形状は他の大型ヒエノドン類のものと同じく、少なくとも一部が肉を切り裂くことに適していた[7]

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分類

メギストテリウムはヒアイナイロウロス科英語版ヒアイナイロウロス亜科英語版に属する。ヒアイナイロウロス科は始新世に繁栄し漸新世食肉目に取って代わられたヒエノドン目英語版を構成する分類群である[9]。Sevageはメギストテリウムとヒアイナイロウロスとの類縁関係が非常に近接しているとし、この2属とプテロドンを第三紀の半ばに放散したヒエノドン類の例とした[3]

以下のクラドグラムはBorths and Stevens (2019)の結果に基づく[9]

ヒアイナイロウロス亜科英語版

Falcatodon schlosseri

Simbakubwa kutokaafrika

Hyainailouros sulzeri

Arrisdrift hyainailourine

Hyainailouros napakensis

Isohyaenodon andrewsi

Sivapterodon lahirii

Hyainailouros bugtiensis

Megistotherium osteothlastes

Leakitherium hiwegi

Mlanyama sugu

Megapterodon kaiseri

Isohyaenodon zadoki

Exiguodon pilgrimi

Megistotheriumという属名の有効性は複数の研究者によって疑問視されており、Hyainailouros sulzeriのジュニアシノニムと考えられた[12][13]。しかし、他の研究でM. osteothlastesは歯の特徴と体サイズに基づいて独立した分類群として扱われており[9][14]、また慎重を期すために依然として別属とする研究もある[7][15]。Rasmussen et al. (1989)は両者が共通祖先を持つ可能性を示唆し、それがP. africanusのようなプテロドン属の種であった可能性に言及した[7]。こうした問題は、特にM. osteothlastesの歯列の不足により複雑化している[9]

古生態

メギストテリウムの原記載において、Robert J. G. Savageは本属が自身よりも大型の獲物を狩ったと示唆した。メギストテリウムは吻部が比較的長いにもかかわらず高い咬合力を有しており、これが大型の獲物を狩る適応であったと提唱された。現生の大型捕食者、特にライオンとトラの顎の開く角度(約50°)を仮定した場合、M. osteothlastesの顎は約30センチメートルにわたって開くことができ、現生の長鼻目の哺乳類の四肢を噛み砕くのに十分であったと示唆された。切歯の本数の減少は効率的な獲物の殺傷に帰結した可能性がある。Savageは産地で化石が多く見られるゴンフォテリウムプロデイノテリウムといった長鼻目がM. osteothlastesの主な獲物になっていた可能性があるとした[3]。Rasmussen et al. (1989)はM. osteothlastesのような大型ヒエノドン類が長鼻目のような大型の分類群の捕食に特化していた可能性があると示唆した[7]

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古環境

メギストテリウムはMoghara産地とJebel Zelten産地の両方から知られており、複数の他の属と共存していた。それらの動物にはゴンフォテリウム属の2種(G. angustidensG. pygmaeus)、アントラコテリウム類BrachyodusHyoboopsマメジカ科Dorcatherium霊長類Prohylobatesがいた。このような動物相の共通性は地理的または時間的な近接性に起因する可能性がある[7]

メギストテリウムやその類縁属の絶滅はアフリカ大陸の乾燥化と相関すると考えられていたが[16]、大型植物食動物の消失とより深く関係する可能性がある[9]。大型哺乳類に獲物を依存している点は、特にそれらの動物が世代交代に長い時間を要する傾向があるという点で問題を抱えている。そのため、個体数がわずかに減少しただけであっても、より小型かつ社会性を持つ肉食哺乳類との種間競争に関してHyainailourinae亜科はより不利であったと推測されている。彼らは骨噛み英語版を含む腐肉食者としての行動も取れたものの[9][17] 群れで狩りを行う肉食動物が労働寄生も可能であったため、これらに影響を受け、絶滅に繋がった可能性がある[9]。メギストテリウムへ暫定的に分類された最も新しい時代の化石は約12.5 - 12 Ma に遡るNgorora層から産出したものである[18]

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脚注

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